人でなしの国Ⅱ
ホロン?一体何の事だろう…
リンは訳もわからずテレサに手を引かれるまま迷路のような裏路地を突っ走っていた。
「ハァッ…ハァッ…痛っ!」
テレサがガムシャラに走るのでリンの体はあちこちに打ち付けていた。
いつの間にか二人は街を抜け、里のほうにまで降りてきてしまったようだった。
景色は一面の麦畑で収穫間近の金色の穂が風にそよがれザザッザザッと音を立てている。
二人はその中にスッポリとしゃがみ込んで息を整えていた。
「な…なんとか巻いたわ!リン大丈夫?なんせ夢中で走ったから…どっか怪我してない?」
テレサはリンのズボンをめくりあげた。
「うわっ!やっぱりアザ出来てる。早く船に戻ったほうが良さそうね。セオドア達もなんとか逃げ切ったかしら?」
「…ねぇテレサ、ホロンって何だろう?あのおじさんそう叫んだよね?何か…声が凄く怯えてた」
テレサはなんとなく察しがついていた。
生まれてこのかたテレサはずっと旅ばかりしてきた。その中には疫病にやられて動けない人達を一ヶ所に集めて隔離しておく村や街が幾つもあったのだ。
きっとさっきのオヤジもリンの姿を見て誤解したのだろう。
「…さ、さあね。きっとあんたと誰かを見間違ったんじゃないかしら?」
「そうかなぁ…それにしてもなんで捕まえようとするの?別に何も悪い事してないのに…変だよ」
「…そ、それは…私だって分かんないわよ!」
その時、テレサの大声に驚いた鳥達が一斉に飛び立っていった。
「そこにいるのは誰だ!俺の畑で何してやがる?隠れてないで出てこい!」
パーン!パーン!と乾いた銃声が鋭く耳に突き刺さる。
二人は小さく固まって震えていた。
「どうするテレサ?」
「どうするったって…相手は銃を持ってるのよ。ここは大人しく言う通りにするしかないわ」
テレサは両手を上げてゆっくりと立ち上がった。
「撃たないで!ちょっと道に迷ってただけよ」
農夫は銃を構えたまま「こっちに出てこい!手は上げたままでな」と怒鳴った。
リンもゆっくり立ち上がってテレサのあとに続いた。
農夫の前まで来ると、やっと銃をおろしジロジロと二人を眺め回した。
「ここらじゃ見かけない顔だな。ん?お…お前ホロンだな!なんだってこんなところに居るんだ?さては脱走してきたな!」
農夫は慌てて銃を構え、引き金に指をかけた。
「ちょっと待ってください!ホロンってなんですか?僕達、船で旅してるんでこの国のことは全く知らないんです」
「ホロンを知らんだと?お前…その腕はどうした?目もだ!ホロンにかかって腐っちまったのと違うのか」
「違うわ!リンは精霊使いなのよ。腕はラシードにやられたの。目は…目は戦争で無くしたのよ!」
農夫は胡散臭げにリンの周りを一回りした。
「この坊主が精霊使いだっていう証拠でもあるのかい?」
テレサはリンの上着をはだけた。
「これがラシードの契約印、こっちの額のはウンディーネの契約印よ!」
農夫の表情はそれでも厳しいままだった。
「そんなの何の証拠にもならねぇよ。ヘッ!本当に精霊使い様なら試しにそのラシードとやらを呼んでみてくれねぇか?実際見て見なくちゃ信じられん!」
「仕方ないわね!リンこうなったら目にもの見せてやりなさい!」
「そんなことのために呼べないよ…」
テレサは怖い顔でリンを睨んだ。
「どうして!?このままじゃあ二人とも監獄入りよ!じゃあ…そうね。この麦を砂嵐で吹き飛ばしちゃえば?」
「そんな!可哀想だよ」
「じゃあどうするっていうの!?」
リンは困り切って農夫に聞いた。
「どうしたら信じてくれますか?」
「そうだなぁ。じゃああっちの椰子の木並木の椰子を全部下に落としてくれ!そしたら信じてやる」
リンはホッとして胸の契約印に手を置いた。




