一夜の夢 その6
リン達を乗せた玄武はぐんぐん波を掻き分けて行き、あっという間に最後尾の船までたどり着いた。
「ヒュ〜すげぇなぁ52隻もあったぜ!」
「レオ、数えてたの?」テレサが呆れ顔で聞くのにヘヘっと得意気に笑って、船の帆の先にはためく旗を指差した。
「ほらあそこに52って書いてあるじゃん!前の船の旗は51だからな順番に並んでるんだろ。しかしこれじゃあちょっとした国がそのまま海上にあるようなもんだぞ」
テレサはブルッと身震いした。
「いつでも戦が出来るわね。なんだか恐いわ」
レオは船の横に開いているずらりと並んだ穴をじっと見た。
これが全部大砲の穴だとすると武器も相当搭載してるはずだ。
リンデンハイムめ、この婚約披露で周りの諸国に力を見せつけておくつもりだな。
「ねぇ、どうしたの?黙っちゃって。早く船に上がりましょうよ」レオはハッと我にかえった。
「そうだったな。玄武!そのままゆっくり浮上してくれ」
玄武は船縁まで上がったところで一旦停止した。
レオは、甲板の上に誰もいないのを確認してみんなを玄武から降ろした。
レオはみるみるうちに小さくなった玄武を掴むとまた頭の上に置いた。
玄武はすっかり疲れたのか、レオの髪の中に潜りこんでしまった。
「リン、これから船の内部に入るぞ!俺の手を離すなよ」
「わかりました」
「テレサもはぐれないようにしっかりついて来てくれ」
「ラジャー隊長!」
レオはあたりの様子を伺いながら船内に通じる階段から中の様子を覗き見た。
広い甲板とは違って意外と中への入り口は狭くなっている。薄暗い船内はあまりよく見えなかった。
「どうですか中の様子は?」
リンはヒソヒソ声でレオに囁いた。
「あんまりよく見えないけど人の気配はないな。よし!入るか」
3人は恐る恐る、階段を降りて行った。「ギィ…ギィィ」
階段の軋む音がやけに大きく響いて、リンの額からは冷たい汗が流れた。
「どう、レオ何か見える?」
テレサは特に怖がる様子もなく、かえってこの状態を楽しんでいるようにさえ見える。
「いや、まだ何も変わった様子はないよ。しかし広い船だなぁ。下手したら中で迷っちゃいそうだよ」
「ちょっと冗談止めてよね。これくらいで迷ったりしないわよ。もしかしてレオは方向音痴なの?」
「ハハハ…実はそうなんだ。テレサ頼りにしてるぜ」
リンはそれを聞いてますます不安になってきた。
「よくそれで探険しようなんて言えますね。無責任ですよ」
「大丈夫だよ。みんな得意なこともあれば苦手なこともあるさ。3人それぞれの力を出しあえばなんとかなるもんだよ」
その時、テレサは更に下にのびる階段を見つけた。
「ねぇ、これを見て!もっと下に降りて行けるみたいよ」
「へぇ凄いな、この船は3層に別れてるんだな。よし!行ってみようぜ」
下に行くにつれてどんどん暗闇は深くなって行く。足元もおぼつかない位の闇の中を手探りで進んでいくうちに、奥のほうから何やら声が聞こえてきた。
「海の覇者たるリンデンハイム!世界の脅威となるために、今日も我の命捧げん」
レオは二人を待たせておいて、一人様子を見に声のするほうに歩いていった。
ガチャ…ジャラ…
金属を引き摺るような鈍い音が聞こえてきた。
松明の灯りがポツリポツリと並んでいて、大勢の男達が薄灯りの中パンを頬張っていた。
その足首はまるで奴隷の証のように鉄輪がはめられ、鎖で繋がれていた。
「一体何人でこの船を漕いでるんだ!?この人数が52隻…想像もつかねぇ数だな。どれだけ他国を侵略してきたんだか…」
レオは二人の元に戻り、先ほどの様子を話してきかせた。
「とにかく、ただの貿易商だったリンデンハイムが短期間で国家にまで発展したのは影で何かやってるに違いないな。俺はただの遊びのつもりで忍びこんだけど、こりゃあ凄い秘密が掴めるチャンスかもしれないぜ」
「秘密を掴んでどうするつもりですか?」
リンは厳しい顔でレオにたずねた。
「そりゃあ…この国をのっ盗るのさ!」
それをきいたリンとテレサは思わず
「ええっ!?」と叫びそうになり、慌てて口を手で塞いだ。




