一夜の夢 その4
ダンス曲が鳴りやんで踊っていた人々は一斉にお辞儀をしているところだった。
「どこだ〜。あっいたいた!クラレンスこっちこっち」
クラレンスはレオの呼び声に気付いたらしく、ローザンヌの手を引きこちらに歩いてきた。
「レオ!さっきからうろちょろして、一体何やってるんだ?またあの連中と一緒なのか?」
「ああ、実はなローザンヌさんにリンが会いたがってるんだ」
「リンが…一体なぜ?」「テレサがさっきローザンヌさんを見かけてさ。リンとローザンヌさんが似てるっていうんだ。それで、もしかしたらローザンヌさんはリンの生き別れたお母さんじゃないかって言うんだよ」
クラレンスはそれを聞いてハハハと笑いとばした。
「レオ、お前だって知ってるだろう?ローザンヌは身寄りはいない。子供はいたが死んだんだ。ローザンヌはそれが受け入れられず精神が病んでしまった。哀れなひとだよ…僕を息子だと思いこむことでやっと平穏な日々を取り戻した。それなのにまた波風たてて彼女の気持ちを揺らそうっていうのか!?」
レオはクラレンスの剣幕に驚いて引き下がるほかなかった。
「ご、ごめん!俺そんなつもりじゃあ…」
クラレンスは表情を緩ませレオの肩をトンと叩いた。
「お前なら解ってくれると思っていたよ。悪いがリン達にはお前からちゃんと断っておいてくれ。それから…もし僕に無断でまたローザンヌと会おうとしたら、ただじゃおかないよ」
レオは底光りするクラレンスの瞳に、もはや抵抗する気持ちはすっかりなくしていた。
「分かったよ。リン達には俺からちゃんと話しておく」
クラレンスはニッコリとレオに笑いかけ、ローザンヌに手招きした。
「ローザンヌ疲れただろう。僕達は先に失礼する事にしよう。レオはゆっくりと楽しんでおいで。父上は今日はお帰りにならないだろう。どうせ何処かの愛人のところに行くつもりだろうから、レオには別に馬車を差し向けるようにするよ。じゃあお先に失礼」
「あ…ああ、気をつけてな」
レオは二人を出口まで見送った。
「何もそんなに慌てて帰らなくてもいいじゃんか!なんだかますます怪しいぜ。とにかくリン達に報告しておくか」
レオは大きくため息をつくと
「リンのやつ…がっかりするだろうなぁ。ああ、俺も辛い役回りだなぁ」
その時、ふいに背後からニュッと太い腕が伸びてきてギュッとレオを抱き締めた。
「よう!何をたそがれちゃってんの?」
レオは鋼鉄みたいな腕の中であがきながらうめいている。
「ギャア、痛いんだよオッサン!手加減しろってんだ!」
「オ〜オ〜なんだ元気じゃねぇか。どうしたんだよずいぶんシケタ面して、何か悩み事か?」
セオドアは腕の力を弛ませるとレオと向かいあい、じっとその目を覗きこんだ。
「悩みっていうか…ちょっと相談が…」
「おう、どうした?」
「実は……」
レオはここまでの経緯をセオドアにすべて話した。
「なるほどな、で?お前はどう思ってるわけ?そのローザンヌさんがリンの母親だと思うのか?」
「わからないよ。証拠もないしな。だけど可能性はゼロじゃないだろ?もし、俺がリンならやっぱり確かめたいと思うよ」
「ならなぜ悩む?あの小僧が言うようにローザンヌさんが傷つくのが怖いか?それともクラレンスを怒らせるのが怖いか?」
レオは首を横にふって腕組みした。
「クラレンスのあの態度…。もしリンがローザンヌさんの息子だったらクラレンスはきっと傷付くよ。クラレンスはローザンヌさんを実の母さんみたいに大事にしてるもの。誰にも渡さないっていう態度だったよあれは」
「なるほどね。まだ子供だからな〜あいつも。もう少し大人になって気持ちに余裕が出来ればみんな丸くおさまるんだけど」
そう言ってからセオドアはクスリと笑ってレオの肩に手を置いた。
「お前もあいつらと同じ位の歳だろ?しっかりしてるな。良く解ってるよ人の気持ちの機微をよ。苦労してきたんだなお前…」
レオは照れくさそうに鼻の下をゴシゴシこすると
「これも生きていくための知恵ってやつよ」と呟いた。
「で?どうするか決まったか?」
「うん。俺、なんとか調べてみるわ。結果はどうあれやっぱりハッキリさせてやらないとリンが可哀想だからな」
「もし、結果がわかったら俺に先に知らせてくれ」
「わかった!そうするよ。じゃあ俺リンのとこに行ってくるわ。ありがとよ」
「おい、待てよ!俺も行くぜ」
レオは顔をしかめた。
「ダメだよついてきちゃあ。今日の主役と一緒じゃ目立ってしょうがねぇや。これから俺達はちょっくらやる事があるんだ。兄ちゃんはあっちで美人とダンスでも踊ってこいよ!」
レオはそう言い残して走り去ってしまった。
「ハハアンあいつら何か企んでるな。暇だしちょっと探ってみるか」
セオドアはそっとレオの跡をつけて行った。




