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武術大会 中編

テレサはリンとはぐれないようにしっかりと手を握りしめながらセオドアを探した。

「テレサ、どうだい?そこから見える?」

リンは暑さでハァハァ息を切らしながら声をかけた。

「ええ、しっかり見えてるわ!もう少しなんだけど凄い人ごみで中々近づけないのよ」テレサはそれでもなんとかリンを庇いつつセオドアのところにたどり着いた。


テレサはしばしの間、声をかけずにセオドアの姿にみとれていた。戦いが終わってもまだ興奮が冷めないのかセオドアの顔は厳しさを残しており、凛々しい横顔はまるで彫刻のように美しい。

少しだけ…少しだけこうしてあなたを見詰めていたい。


どうしよう…私本気でセオドアのこと…。

「テレサ?どうしたの?」

リンの声でテレサはやっと我に帰った。

「ご、ごめんねリン。ちょっと暑さでボ〜ッとしちゃった!」

テレサはセオドアの隣にレオの姿も見つけた。

「セオドア!それにレオもいたのね。二人とも勝って二回戦進出ね。おめでとう」

セオドアは驚いた顔でテレサを見た。「おまえ達、知り合いだったのか?」

「あら、セオドアだってレオのに会うのは初めてじゃないはずよ」

「…?」


「セオドアがロイに買われた日、あの競りにレオも出ていたのよ」

レオはうなずいて、後ろに隠れていたクラレンスを引っ張り出した。

「そう、そんでこれが俺のご主人様ってわけ」

クラレンスはもじもじとレオの後ろにまた隠れてしまった。


「レオ、向こうで少し休もうよ。次の試合までに体を休めておかなくちゃ!」

クラレンスはどうもこの場の雰囲気に馴染めず、レオを連れ出したいようだ。

「ちょっと待って!聞きたいことがあるんだ」リンのよびかけに、クラレンスは動きを止めた。

「あ、あの…どうして君はレオを選んだの?最初から戦士にするつもりで選んだのかい?」

クラレンスはみるみるうちに不機嫌な顔つきになった。

「一体何が言いたいのかな?」

そこにセオドアが割って入った。

「リン、止めておけ!みんな事情があるのさ。それがいいことか悪いことか判断するのは自分自身なんだからな。周りがあれこれ言うことじゃない!」

「………」

リンはそう言われて黙りこんでしまった。

「ふん、よくわかってるじゃないか。僕だって無理やりレオを試合にだしてる訳じゃないさ!レオ、行こう」

「あ…ああ!じゃあな。兄ちゃん、決勝で会おうぜ…またな」


レオは仕方なさそうにクラレンスに引きずられて行ってしまった。

まだ言いたいことはいっぱいあったのに…。リンは唇を噛みしめて首をうなだれた。

セオドアはリンの肩をポンポン叩き、慰めた。


「すみませんセオドアさん。僕余計なこと言っちゃいましたね…次の試合もまた頑張って下さい。じゃあ僕達、席に戻ります」

テレサはまだセオドアのそばに居たかったが、リンの元気のない顔を見てやはりその場を退散することにした。

「じゃあ私達行くわ、セオドア…あの、あの私!」

セオドアはテレサの方をじっとみた。

「ん?なんだ?」

その時、透明だったセオドアの指輪が真っ赤に輝きだした。

すると人混みからすっと赤いドレスを着た美女が現れた。

観客達の視線は一斉にその女に吸い寄せられている。

女は美しい脚をドレスの裾から覗かせてゆっくりとこちらに歩いてくる。

「お、おまえ!どうしてここに?」ウンディーネはニッコリと微笑みセオドアの左手をとって指輪を撫でた。


「これがね、危険を知らせたのよ」

ウンディーネは赤く輝く指輪にキスをした。すると指輪はみるみるうちに元の透明な指輪に戻っていった。

セオドアは不思議そうに指輪を眺めて

「別に何も変わったことは無かったがなぁ」とブツブツ文句を言っている。

「ダーリンは鈍感だからな、まぁよい!こうして会えたのは嬉しい限りじゃ。今日はゆっくりと試合見物でもしてゆくとしよう」

ウンディーネは席に座り、二階の観覧席に目を止めた。

「フフ、凄い殺気じゃな。犯人はあやつか?だとしたら少し牽制しておく必要がありそうじゃ!」

ウンディーネはおもむろにセオドアのあごに手をかけると、思い切り唇を重ねた。「ん…んんん…!お、おい急になんだよ」ウンディーネはチラリと観覧席に目をやり、セオドアに抱きついた。

「しばらくぶりなのでつい…な」


セオドアはすっかり先ほどまでの尖った気持ちは吹き飛んでいた。

「ダーリン、次の相手はどんなやつなのだ?セオドアは対戦表を開いた。

「ネブル族、武器はマリオネット…ってなんだ?」

「マリオネット…操り人形じゃな。なんだか面白そうではないか」

ああ、まためんどくさそうな相手だな。

レオの相手は…クリスティーナ?女かよ!

「どうした?ダーリン」

「いや、なんでもねぇよ。世の中広い!どんなヤツが出てくるか楽しみだぜ!」

ウンディーネが観覧席を振り替えると、すでに殺気を放っていた女は消えていた。

あの女、何を企んでいる?

ウンディーネはセオドアの腕にしっかりとしがみついた。

テレサはウンディーネの登場にびっくりして、ただその場に立ち尽くしていた。

私ったら…私ったら何を言う気だったの?

バカみたい!見てよセオドアのあの顔!鼻の下伸ばしちゃって。

大嫌い!大嫌いよ…。

「行きましょうリン!邪魔しちゃ悪いわ」

テレサは拳をギュッと握りしめ、怒りで肩を震わせながらそう叫んだ。

ウンディーネはやっとテレサ達に気付いてニコッと笑いかけた。

「おやまぁ、おちびちゃん達も来てたのかい。ダーリンの応援してくれてるんだね。ありがとう」

テレサは女房気取りのウンディーネにとうとうキレた。

「おばさん、私達レオの応援に来たんですよ。セオドアなんかレオにコテンパンにやられちゃえばいいのよ!アッカンベ〜」

キョトンとしている二人を残して、テレサはリンの手をとり駆け出した。


悔しい、悔しいけど今の私じゃあの女には勝てないわ!決めた、私絶対魅力的な女になる。セオドアが振り向かずにはいられない女に!


テレサは泣きながら走り続けた。

「待って…待ってよテレサ!ああっ…!」

リンはテレサの足に追い付かず転んでしまった。


テレサは慌ててリンを助け起こした。

リンの膝は少し皮が剥けて血が付いていた。

「ごめんね、痛い?何か被う物はないかしら…」

テレサが周りをキョロキョロ見回していると、すっと白い手が伸びてきて薔薇の刺繍のあるハンカチを渡してくれた。

「これをどうぞ」


「すみません助かります。でも…いいんですか?こんなに素敵なハンカチ」


女は微笑み

「いいのよ。気にしないで使って頂戴」


「ではありがたく使わせて頂きます。後で洗濯して返しますね。あの…お名前は?」

「クリスティーナよ。ハンカチはあなたにあげる。ではまたね!」

テレサはポ〜ッとしてクリスティーナを見送った。

「優しい人ね。顔は仮面を着けてて見えなかったけどスタイルいいし、きっと美人よ」

膝に結んだハンカチからは薔薇の香りが微かに感じられた。

「なんだか洗練された感じの人だね」


「見えなくても分かるのね。ええ、なんだか高貴な感じの人だったわ」

テレサはリンの手をギュッと握りしめ、ゆっくりと歩き始めた。

二階の観覧席ではグレンがやれやれといった顔で下の様子を眺めている。

全くユーリときたら相変わらずのじゃじゃ馬だな。ライバル登場でさすがに焦ったとみえる。しかし…あれは一体誰なんだ?今まで見た中でも最高の美女だ!ルシン…ますます君を倒したくなったよ。

ユーリは戦闘服に着替えて、鳳凰の文様が入った剣を背負い試合の準備をしていた。

「待ってろよルシン!今こそあの約束を果たして貰うぞ」前の試合が終わり、審判が右手を上げた。

レオは鋭い目つきで相手を睨んだ。「ふん、お前がクリスティーナか、女のくせに生意気だな!仕方ない、なるべく早く片をつけてやる。おら、かかってきな!」


ユーリはプッと吹き出して

「お前こそなんでこんなところにいる?ここは子供の遊び場じゃないんだぞ。早くお母さんのところに帰れ」と言い返した。


レオは顔を真っ赤にして怒り出した。

「俺を本気で怒らせたな!もう手加減なんかしてやらねぇぞ!」


レオは片手を天にかざして叫んだ。

「雨を司る北の聖獣玄武、出でよ!」

すると、高く掲げた手がキラキラと金色に輝き玄武が現れた。

ユーリは一瞬驚いたが、現れたのが小さな亀だったので拍子ぬけしてしまった。「さあ、かかってきな!」

ユーリは小さな亀をつきだして構えているレオを見て途方に暮れた。

会場からはクスクスと笑い声が聞こえてくる。

仕方なくユーリは剣を構えた。

その時、舞台のそでから声がかかった。

「ユーリ!その亀は電流を出すぞ、油断するな!」ユーリはハッとして声のする方を振り返った。

そこには恋焦がれたルシンの姿があり、ユーリは思わず心が躍った。それにひきかえセオドアは憮然とした目でユーリを見ていた。

相変わらずの跳ねっ返りだな!

婚約者もなんで止めないんだ?こんなことバレたらおおごとだぞ!とにかくここは無事に収めないと…

ユーリの態度に業を煮やしたのか、レオの方から攻撃を開始した。玄武はみるみるうちに大きくなって宙に浮き、ユーリを押し潰そうとドタン!と落下してきた。ユーリは間髪で避け、玄武の背中に乗ってその剣を突き刺そうと剣を構えたが、すぐにレオが飛び乗ってユーリと揉み合いになっている。


その様子を見ていたウンディーネが、突然大声で叫んだ。

「玄武!玄武じゃないの!?」

セオドアはウンディーネを不思議そうに眺めた。

「お前なんであの亀のこと知ってるんだ?」ウンディーネはプリプリ怒って答えた。

「知ってるも何も、あの子は私のペットなのよ!ずっと行方不明で心配してたんだからぁ!玄武、私よ。さぁ帰っていらっしゃい」

玄武はウンディーネに気付くと、あっというまにもとの小さな体になりピィピィ鳴いてウンディーネのところに這っていってしまった。

振り落とされたレオとユーリは呆然としている。

レオは思わず舞台を降りてウンディーネの胸に抱かれている玄武のもとに走り寄ったその時、審判の笛がピリリと鳴った。

「反則によりクリスティーナの勝ちとします」

「な、ななんだと!?」

レオは審判にくってかかった。

「試合中に舞台を降りたら負けですよ!」

ショックでしゃがみこむレオをクラレンスが助け起こした。

見兼ねたユーリも舞台から降りてきた。

「残念だったわね坊や。その亀なかなかやるじゃないの!あんたが育ててるの?」

レオはこっくりとうなずいた。

ユーリはウンディーネを睨み付け

「その亀はこの子のよ、返しなさい!」と言い放った。

「な、なんですって!?この子は私のペットなのよ!」

睨み合う二人の女を前にセオドアはおろおろするばかりであった。

玄武はそんなことはお構い無しにすっかりウンディーネの胸でくつろいでいる。

「玄武!どうしたんだ。俺の事忘れちまったのかよ?」

レオは目に涙を貯めてその光景を見ていた。

その時、一人の老人が姿を現した。

「ウンディーネ様、玄武をその子に返してやって下さいませ」

ウンディーネはその老人をギロリと睨んだ。

「バルト、お前の仕業だったのね?」

セオドアはアッと声をあげた。「さっき俺と対戦したじっちゃんじゃないか。ウンディーネの知り合いなのか?」

ウンディーネは仕方なさそうにうなずいた。

「ええまぁね。それより、なんでそっちのかたを持つのよ!私がどんなに玄武を可愛がっていたか知らないわけじゃないわよね?」

バルトは目を見開いて答えた。

「だからこそ!でございます。このところの玄武ときたら、あなた様が甘やかしてばかりいるのですっかり霊力が弱まってしまっていました。これではとても聖獣とは呼べません!ですから私ども玄武に仕える神官達はあえてあなた様から玄武を引き離し、修行させることにしたのですよ」

ウンディーネは苛立たしげに地団駄を踏んだ。

「勝手なことを!見ろ、玄武のこのやつれぶりを。可哀想にとんでもないヤツに拾われてしまって…」

ウンディーネは玄武の甲羅を優しく撫で擦った。

バルトは深いため息をついて玄武に尋ねた。

「玄武よ、レオはお前が選んだ相手だ。レオを放ってウンディーネ様のもとに帰りまた惰眠を貪るつもりか?本当にそれでいいんだな?」

玄武は短い首を精一杯伸ばしてウンディーネの顔をのぞきこんだ。

ウンディーネはウンウンうなずき

「もう充分修行したでしょ?帰っておいで私のところに」と玄武のつぶらな瞳をじっと見返した。

玄武はおもむろに後ろを振り返った。

そこには今にも泣き出しそうなレオが独り寂しげにたたずんでいる。玄武はフワリと浮かんでウンディーネに何事か訴えると、くるりと踵をかえしてレオのもとにプカプカ飛んで行き、その頭にドッカリと座りこんだ。

「玄武ったら…!本当にそれでいいの?」

玄武はすでにスヤスヤと眠ってしまっている。

「玄武…!やっぱりお前は俺の最高の相棒だぜ」レオは涙をゴシゴシ腕で拭った。

バルトはレオの肩に手を置いて、頭の上の玄武に目をやった。

「レオ、玄武に仕える我々神官はずっとお前を見守ってきた。玄武がえらんだ主ならば我々にとっても主なのだ。玄武共々修行を積んで、立派な聖獣使いになりなさい。朱雀、白虎、青龍それぞれの聖獣使いも皆、修行に明け暮れておる。いずれ会う機会も訪れよう。その時を楽しみに励むがよい」

ウンディーネはレオに

「そうよ!私に恥をかかさないようにね。あの生意気なサラマンダーやシルフ、ノームには負けられないわ!10年に一度、四神は互いの力を確認するために試合する事になってるのよ。前回の屈辱は晴らさないと…」ブツブツ言っているウンディーネは放っておいてセオドアはレオに話しかけた。

「とりあえず良かったな坊主、次に会う時は楽しみにしてるぜ!マッドコロシアムにも出るんだろう?」

「もちろん出るよ。その時は絶対兄ちゃんに負けないぜ!なぁ玄武?」

玄武は大きなあくびをしている。

「兄ちゃんはこれから試合だろ?頑張れよな!」


「フフッありがとよ!」

レオはユーリにも礼を言った。

「姉ちゃんもありがとう。試合には負けちまったけどおかげで玄武は戻ってきたぜ。姉ちゃんも試合頑張ってくれよ」

ユーリはニッコリと笑い

「もちろんよ!お姉ちゃんはね、このお兄ちゃんには絶対負けたくないの」と、セオドアの顔を見ながら言った。

セオドアはニヤリと笑い

「ユーリ、久しぶりだな。しばらく見ないうちにスゲェ美人になっちまって驚いたぜ!婚約者の男は果報者だな。おっと、まだ祝いも言ってなかったな。婚約おめでとう!」

ユーリはぐっと唇を噛んだ。

ウンディーネはセオドアに尋ねた。

「ダーリン、知り合いなのか?」

「ああ、昔からの…な」

ウンディーネは胡散臭げに二人を見ながら口をひらいた。

「では話しておかねば!実は私達も先日婚約したばかりでな」

ユーリはエッと息をのんだ。

よく見ると、セオドアの指には婚約指輪がはまっていた。

「そ…そうだったの。おめでとう…」

セオドアは複雑な表情でユーリの歪んだ頬を見ていた。

「おや?そろそろダーリンの試合ではないか?」

セオドアはうなずいてその場を離れようとしたその時、ユーリが叫んだ

「ルシン!あの約束覚えてる?」

セオドアは一瞬立ち止まったが、そのまま振り返らずに歩み去った。

「ダーリン、約束とはなんじゃ?」

セオドアは不機嫌そうに

「なんでもねぇよ。それよりお前はそろそろ帰れ、神様がサボッてばかりじゃあ困るだろ」

と諭した。

「ウム、そうするとしよう……どうやら心配は無くなったようだしな」


「ん?何か言ったか?」

ウンディーネは首を振り

「いいや、なんでもない。ダーリンに会えて嬉しかったと言ったのじゃ!それではまたな」

セオドアはウンディーネがキラキラと光を放ちながら消えてゆくのをみながら、ユーリの哀しげな顔を思い出していた。

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