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海賊の若様 前編

幸せな時は瞬く間に過ぎてゆく。

そろそろ約束の2時間になろうとしていた。ルーは部屋に戻り、ローラの前に座った。

「ローラ、時間だよ。御両親にお別れの挨拶はすませたかい?」

ローラは両親の手をもう一度ギュッと握りしめ

「身体を大切にしてね。それから、あんまり淋しがらないで。私はいつも父さん母さんを天国から見ているわ」と言うと、ルーに向きなおり

「ありがとうございました。安心してまた天国に帰れます」

と礼を述べた。

「じゃあ目を閉じて」ルーはローラの手をとり、そっと引っ張った。

するとローラの霊はするりとテレサの体から抜け出てきた。

テレサはドサリと横倒しになり、リンは慌てて駆け寄った。

「ルーさんテレサは大丈夫なんですか?」


「霊が憑依するとえらく体力が奪われる。心配するな、疲れて眠っているだけだ」


リンはそれを聞きホッとした表情を浮かべた。

「ルーさん、僕らはそろそろ失礼します。明日の朝にはこの街を出発しなければならないので」

「そうか…気をつけてな!おまえ達と逢えて楽しかったぞ。またどこかであえるかもしれん、それまで達者でな」

セオドアはヨイショッとテレサをおぶってルーの小屋をあとにした。

「なんだかセオドアさん、最近いつもテレサおんぶしてません?」セオドアはゲラゲラ笑い

「まったくだ、このお転婆娘に振り回されてるよ。俺もおまえもさ」とリンにウインクした。

「ほんとにそうですね」

セオドアは真面目な顔でたちどまった。

「どうしたんですか?」


「こいつの事だが…俺は妹みたいに思ってる。恋とかそんなのじゃなく…家族みたいな存在なんだ。だからおまえ、俺に変な遠慮はするなよ」

リンはセオドアの心づかいにちょっとジンときてしまった。

「どうした?なんか言えよ」


「セオドアさん…」


「ん?なんだ?」



「セオドアさんっていい人ですよね。なんだか兄さんみたいだ」


セオドアは顔を赤くして

「バ、バカヤロー今頃わかったのか?」と照れまくっている。

「きっとロイが心配してますよ。さ、急いで歩いて下さいね!」

「お、おう!よし宿屋まで競争だ!」

セオドアはテレサをおぶったまま駆け出した。

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ〜!」

リンは温かい気持ちになってセオドアを追いかけて行った。


「こら!こらおまえ達!もう朝だぞ。早く支度せんと生者の街に着くまえに夜になっちまう。ほら!早く起きろ」

ロイは3人の布団をガバッと剥いでニヤリと笑った。

「ほら!飯だぞ、早くしないと俺が全部食っちまうならな〜」

するとセオドアがさっと起きてきた。

「飯!飯!」

リンもむっくり起き上がってきた。

テレサは死んだように眠ったまま起きてくる気配はなかった。

「やれやれ、また夜更かししたな!仕方ないギリギリまで寝かせてやるか」

ロイは諦めて朝食を食べはじめた。


朝食が終わると、皆旅支度を整え出発の準備をすませた。

リンはやっと起きてきたテレサにパンを渡し、ラクダの上で食べるよう言い聞かせた。

「そろそろ出発するぞ!準備はいいか?」とロイは声をかけた。

「大丈夫です。セオドアさんもOKですか?」

セオドアは腰に水袋をくくりつけていた。

「俺も準備出来てるぜ!」

「よし、では出発だ!」ロイのかけ声で一斉にラクダが立ち上がり、ゆっくりと歩き始めた。

霊おろしの祭りが終わり、生者の街に帰る人々がたくさんいて道は混み合っている。

ロイは振り返り一番後ろにいるセオドアに、しっかり二人を誘導するよう声をかけた。

「大丈夫だ!しっかり見張ってるよ」

セオドアはロイに手を振って答えた。

その時、後ろのほうからざわめきが広がってきた。

セオドアは何事だろうと振り返ると、そこには豪華な装飾を施した象に乗った一団がこちらに向かって歩いているのが見えた。

「なんだありゃあ?王様の行進か?」

セオドアが驚いているうちに象の一団はロイの一行の真横に並んだ。

先頭の一番きらびやかな象の上には、グレン・リンデンハイムが乗っておりテレサに向かって声をかけた。

「やあ、昨日のお嬢さん!」

テレサはいっぺんに眠気が覚めた。

「グレンさん!あなた一体何者なの?」

グレンはフフフと笑い

「あなたが美しく成長したら迎えに行きます。それまで私の事忘れないでいてください」と言い残して行ってしまった。

「おいテレサ、おまえアイツと知り合いなのか?」

セオドアは厳しい顔でたずねた。

「ええ、この帽子を買ってくれた人よ。あの人の事知ってるの?」セオドアは渋い顔で

「アイツはな有名な海賊団の頭領グレン・リンデンハイムだ!おまえ、


凄いやつと知り合いになったな」

そんな人だったなんて…さっきあの人言ってたわ。私を迎えに来るって。どういう事かしら?それにしても変な人!

テレサはフフフと笑い、この事について深く考える事はなかった。

日が西に傾き、風が涼しく感じられる頃に一行はやっと生者の街にたどり着いた。

街灯が幾つも灯り、街は買い物客でごった返している。

海が近いのか波の音と共に磯の香りがリンの鼻腔を刺激した。

「ここは港街なんですか?海の匂いがしてきますね」

ロイは振り返り

「うむ、この港は西と東の交易の場でな。ここではなんでも手に入る。旨い物も沢山あるぞ!久しぶりに新鮮な魚でも食おうじゃないか」と言って皆を喜ばせた。

「じゃあまずは宿探しだな。こんな大きな街なら案内所があるはずだ。セオドア、ちょっと行って探してきてくれ」

セオドアは

「了解!」と叫ぶと人混みの中に消えて行った。

「ええと、すいません!宿屋の案内所はどこにありますか?」

セオドアは八百屋の店主にたずねてみた。

「港の入り口のところにあるよ。あんた早く行った方がいいよ〜。明日は武術大会があるから今日は特に混んでるんだ」


「武術大会?」

セオドアは目を輝かせた。

「ああ、なんでもリンデンハイムが婚約祝いの余興として武術大会を開くらしいんだ。優勝賞金が半端じゃないらしいよ。だから近隣の武術家や剣士が沢山集まってきてるんだ。兄ちゃんもいい体してるし、いっちょ力試しに出てみちゃどうだい?」

セオドアはすっかりその気になってしまった。

「面白そうだな!親父、ありがとよ」

セオドアは港の案内所に向かって走りだした。

「波の音が近いぜ、こっちか?」

セオドアはその場に立ち竦んだ。

目の前にはおびただしい数の巨大な船がまるで街のように並んでいるではないか。

「す、すっげぇ!」

よく見ると船にはすべて竜のマークが入っている。

「あれは全部リンデンハイムの船なのか?俺が放浪してるあいだにずいぶんと力を蓄えたようだ。こりゃあ海賊なんて言われるわけだよ」

セオドアはしばしその光景に見とれていたが、本来の役目を思い出し港の隅にある案内所に入って行った。

案内所の中は結構広いようだったが、すでに行列が出来ていてギュウギュウ詰めだった。

「ああもう、これじゃあラチがあかねぇな」その時、係の者らしい若い女が整理券を配りにセオドアのところまできた。

セオドアはすかさずその女に銀貨を一枚渡し、耳許で囁いた。

「美しいお嬢さん、俺に特別穴場の宿を教えてくれない?明日の武術大会に出場するんだけど、これじゃあ闘う前に疲れちまうよ」

女はハンサムなセオドアにそう言われて、まんざらでもない様子で

「あら、あなた大会に出るの?じゃあもってこいの宿屋があるわ。そこはね、リンデンハイムのホテルだから出場者とその関係者だけが泊まれるの。一般客は泊まれないからまだ空いてるはずよ。選手登録カードを見せれば大丈夫!」


「その登録とやらはどこでするんだい?」


「ホテルでも出来るから大丈夫よ。直接行ってごらんなさいな」

セオドアは一石二鳥だな。とほくそ笑み、早速ロイ達のところに戻って行った。

その頃テレサはすっかり待ちくたびれてリンに愚痴をこぼしていた。

「セオドアったらどこまで行ったのかしら?もうすっかり夜になっちゃったわ。ああお腹空いた!お風呂も入りたい〜!」

リンは困った顔でテレサを慰めた。

「きっとセオドアさんはいい宿を探してるんだよ。こんな都会は久々だしね」テレサは

「そうかしら〜。変なとこだったら赦さないから!」とふて腐れている。

その時

「オ〜イみんな待たせたな!」とセオドアが息せき切って駆けつけた。


「もう、遅かったじゃないの!」


「すまんすまん!だが安くていいホテル見付けてきたぞ」

ロイはホテルと聞いて目の色を変えた。

「ホテルだと?ダメだダメだ!そんな贅沢したら次の街では野宿になっちまうよ」


セオドアはそんなロイには構わずに

「大丈夫だよ。安心してオレについてきな!」とみんなを先導して歩き出した。

商店街を抜けると街の景色はガラリと変わり、由緒ある建物が幾つもそびえたっていた。

「ほら、ここだよ」

セオドアが指し示したのはレンガ造りの5階建ての立派なホテルであった。竜の紋章がついている門の両側にはベルボーイが立っており、リンの一行に近付いてきた。

ロイはすっかり緊張して顔を強張らせている。

「いらっしゃいませ。武術大会の出場者の方々ですか?」

セオドアは悠然とうなずいて

「そうだ!」と答えた。

「ではこちらで手続きをお願い致します。関係者の方々はそちらでお待ちを」

ロイはキツネにつままれたような気分でホテルの分厚い絨毯を踏みしめた。

「素敵なホテルね〜!シャンデリアが耀いて光のシャワーみたいよ」

テレサはすっかりご機嫌だ。

手続きを済ませ戻ってきたセオドアにリンはたずねた。

「武術大会って、なんのことですか?」

ロイもハラハラしながらセオドアの返事を待っている。

「明日、リンデンハイムの婚約祝いがあるらしい。そこで武術大会が開かれるんだ。ここはリンデンハイムのホテルで選手はただってわけさ」

ロイはそれを聞いてすっかり慌てている。

「じゃあなにか?俺たちは料金とられるの?」

セオドアはロイの背中をバシンと叩いて

「大丈夫だよ。関係者は格安で泊まれるし、なんせ明日は賞金がガッポリ手に入る。だから心配なし!」

と言ってベルボーイの後について行った。

「ほらみんな、早く来いよ!」

ロイ達はまだポウッとしたままセオドアのあとに続いた。

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