奴隷商人のロイ
リンは夢の中で鈴の音を聞いた。
チリリリ…チリリリ…その音は段々大きくなっていく。
「おい!おい小僧、起きろ!なんだぁ…死んでるのか?」その男はリンを足で仰向けに転がした。
「アチャ〜こりゃあ売り物にはならねぇな。死にっぱぐれのしかも男のガキじゃなぁ。ウワッこいつ目玉がねぇよ。一体どうしたってんだ。酷いことしやがるぜ…せめてものなさけだ、テレサ水を飲ませてやれ」
テレサと呼ばれた女の子は見事な金髪でスミレ色の瞳をもつ美少女であった。
「さあ、これを…」
テレサはリンの頭を膝に乗せ水筒の水を飲ませた。
「ゴホッ…ゴフッ…ゴクゴク」
リンはその柔らかく温かい感触に安らぎを感じ声をかけた。
「ありがとうございます…」
テレサは嬉しそうに声をあげた。
「ロイさん!気がつきましたわ」
ロイはリンの頬に血の気が戻ってきたのを確認し、うなずいた。
「傷は深いがなんとかなりそうだ。テレサ、薬を塗ってやれ。ああその前に酒だ!消毒せんとな」
ロイは酒を口に含むと、リンの顔に向かってプップッと勢いよく吹きかけた。
「これでよし!少し痛むが我慢しろよ」
テレサは手際よく薬を塗り込み、リンの目を布で覆った。
「これで大丈夫ですわ」
リンはテレサの手を握り感謝の意を示した。テレサはその手をポンポン叩き、にっこりと微笑んだ。
「さて、こいつをどうするか…お前さん名前は?」
「リンです…」
「なんか特技はあるかい?」
「精霊使いです…とはいってもまだ駆け出しで精霊と話をすることくらいしかできませんが…」
ロイはその話を聞いて目の色が変わった。
「な、なんだって!?精霊使いだと?そりゃあ本当かい…だとしたらえらいめっけもんだぞこりゃあ。しかし…なんでお前さんこんな目にあったんだ?精霊使いならきっとみんなから崇め奉られて大事にされてたんだろうに」
リンは苦し気に横を向いた。
「なんだか色々と訳がありそうだな…そういやあここを通ってくる途中で焼き討ちにあった村を見たぞ…あんたそこの村人かい?」
リンは口を閉ざしたまま何も喋らなかった。
「まぁいいさ…誰にでも喋りたくないことはあらぁな。どうする、俺たちゃあ旅の途中だがあんたもくるかい?俺は奴隷商人のロイってもんだ。俺は確かに奴隷商人だが、悪いヤツじゃねぇよ。変なとこには絶対売ったりしねぇ。身元のしっかりしたとこにちゃんと世話してやる。あんたが精霊使いなら欲しい国や街はいくらでもあるだろう。きっとどこでも重宝されるさ。どうする?一緒にくるか?」
リンはうなずいた。
もう帰るところも失ってしまった…僕はここを離れたい。そして母さんや弟を探そう。きっと敵に連れ去られたに決まってる…
「お願いします。僕を買ってくれる国を探して下さい!」
ロイはドンと胸を叩いた。
「おおよ、そうこなくっちゃあ!このロイ様に任せておけ。立派な大国に売り付けてやるからなハッハッハ」
ロイはリンをラクダに乗せてやり、テレサに手綱を引かせると早速旅支度にとりかかった。
「この森を抜けると街がある。そこで休憩するとしよう。さあ出発だ!」
一行は薄暗い森の中をゆっくりと進んでいった。
「アリャ!あの小僧はどこだ?せっかく俺が水の精霊を呼んできたっというのによぅ…」水の精霊は機嫌悪そうに死神を睨んだ。
「ちょっと!イケメンの精霊使いなんていないじゃないのよ。まったく忙しいのにからかうのはやめてちょうだい!このツケは大きいわよ。覚えておいてね!」
死神は困った顔で
「おっかしいなぁ〜。さっきまでここにいたんですけどねぇ。どこに行ったのやら…スンマセンあねさん!」
水の精霊はぷりぷり怒りながら消えてしまった。
「まったくあの坊主どこいったんだ?でもここに居ないってことはなんとか助かったようだ。もう死にたいなんて言うなよ!精霊使いとして生まれたからには使命を果たさなくちゃ。がんばれよ小僧…」
その頃リン達は街の入り口で役人に通行手形を見せていた。「私は奴隷商人のロイと申すもの、奴隷はこの二人です」
役人は通行手形に目を通すと、テレサを見て
「ほう…美しい娘だな。もう買い手は決まっておるのか?」と聞いてきた。
「はい、月の城のルイザ様のところでございます」
役人は成る程と納得したようで
「そっちの少年は?」とリンを指さした。
「リンと申しまして精霊使いです。どこか大国に世話してやろうと思っております」
役人は驚いた表情でリンを見た。
「なんと!精霊使いとは…こんな小さな少年が?噂には聞いていたがこの目で見たのは初めてだ!さぁどうぞお通りください」
リンはロイの言っていた月の城が気になっていた。
テレサ…もう買い手が決まっていたのか。
リンは複雑な気持ちでラクダに揺られていた。




