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死者の街 後編

ルーは頭をポリポリ掻きながら

「さぁな。ルーはルーだ。おまえがリンであるように…だ」とめんどくさそうにそう言った。

「それじゃあ答えになっていませんよ。あなたは人間ですか?と聞いたんです」

リンは一歩も譲る気はない。

「自分でもよくわからん。だがちゃんと母がいたから人間だろう。ま、あんまり深く考えるな。人生答えのないことのほうがずっと多いぞ。おまえはすぐ白黒つけたがる性格のようだが、曖昧なままにしておいたほうがよいこともあるんじゃ。まだ若いから私のいうことはまだわからんかのぅ」

リンはルーにうまく逃げられたなと感じたが、それ以上追及するのは止めた。

ルーの言うことも一理あるかもしれないな…僕は答えを急ぎすぎているのかもしれない。

「さて、本題に入るか。おまえ達に来てもらったのは例のヒトガタの件だ。用品店の娘、ローラのヒトガタにヒビが入って霊を呼び戻すことが出来ない。明日が彼岸だというのにそれじゃあ困るのだ。そこで、テレサにヒトガタの代わりをしてもらいたいのだ」

セオドアは隣で酔いつぶれているテレサを見た。

「こいつに霊をおろすのか?」

ルーはうなずいた。

「ああ、そういうことだ。もとはといえばおまえたちが原因だからな。ケリはつけて貰うぞ。用品店の親父もえらく怒っていて、そうでもせねばことが治まらん。セオドア、おまえからテレサに話しておいてくれ。明日の夕方5時にまたここに来い。いいな?」

「わかったよ。ロイにもう1日滞在を延ばして貰うしかないな…そうそう一つ確認しておかなくちゃな。霊おろしで何かテレサに危険なことはないんだろうな?無理矢理連れていこうとしたところをみると何かあるのかと疑っちまうぜ。どうなんだ?」

男たちは顔を見合せ何も言おうとしない。

「なんだよ、何かあるのか?」

ルーはセオドアの背中でスヤスヤ眠っているテレサの髪を撫でながら答えた。


「テレサがローラの意識にのみ込まれなければ大丈夫だ。ローラは昨年亡くなったばかりでな。まだ霊となって日が浅い。力は弱いはずだからもし駄々をこねたとしても私がなんとかするから大丈夫だ」

セオドアはうなずいて

「ルーを信じて任せるしかないな。リン、どう思う?」

リンもうなずいて

「ええ、ここはルーさんに任せましょう」と同意した。

宿屋への帰り道、リンはセオドアにテレサのことを話した。

「セオドアさん、テレサはどうやら本気であなたが好きみたいです。僕…そばにいたのに気づかなくて。セオドアさんに婚約者がいるのはわかってますが旅の間はテレサに優しくしてやってもらえませんか?お願いします」

「……リン、おまえそれでいいのかよ?」

「…え?」


「おまえ…テレサのことが好きなんじゃないのか?」

「僕には誰かに恋する資格なんてないですから…」

セオドアはリンを睨んだ。

「資格?資格ってなんだよ。それをいうなら俺だって、テレサだってないだろう?自由な身じゃないのは同じじゃないのか?ハン!優しくしてやれだと?カッコつけんなよリン!」


「カッコつけてなんか…。カッコつけてなんかないですよ…」

セオドアは深く息を吸うと満天の星空を見上げた。

「なぁリン。俺たちがこうしているのって奇跡だと思わねぇか?世の中こ〜んなに広いのになんの縁か出逢い、そして一緒に旅してる。俺思うんだ、人が出逢うのって偶然なんかじゃない。きっと出逢うべくして出逢ってるんだって思うよ。だからみんな大切にしたいんだ。おまえもテレサもさ」

僕だって…僕だってそう思ってますよ。

リンは心の中でそうつぶやいた。

宿屋についた3人は疲れ切ってすぐに床についた。

リンは両目を覆う包帯をハラハラとほどくと、指で空洞化した両目を触った。

「両目を失って良かったことは自分の醜い姿を見なくて済むってことだな…」

リンはセオドアの言葉を思い出しながら新しい包帯を巻き付けていった。


次の日…

セオドアはロイに滞在を延ばしてもらいたいと頼みこんだ。

「なに?あと1日ここにとどまるのか?」

ロイは渋い顔で黙ったままだ。

「すまねぇな。だがちゃんと責任とらないと次の生者の街でも居心地悪い思いをするぜ。なんせここはやつらの墓場なんだ」


セオドアの言い分はその通りなのでロイも仕方なく了承した。

「わかったよ。しかしな、先ほど番屋で聞いてきたんだがどうやらコロシアムのエントリーが早まるらしいんだ。だからこの後の旅程はスピードをあげていくぞ!いいな?」

3人はとりあえずほっとして朝食を食べ始めた。

「うう…気持ち悪い!」

テレサは二日酔いで苦しそうだ。

「馬鹿だな!子供のくせにハブ酒一気呑みすりゃあ当たり前だ」

セオドアはニヤリと笑いサッサと食事を済ませ出ていってしまった。

リンはそんなテレサの背中を優しくさすってやっている。

「リンは優しいわね。セオドアがリンの10ぶんの1でも優しければいいのに」

リンはその言葉に苦笑いを浮かべた。

「テレサ…君、昨日のこと覚えてるかい?」テレサはえへへと照れくさそうに

「それが全然なの…ハブ酒呑んでからの記憶がないのよねぇ。リン!私何か変なこと言った?」


リンは仕方なさそうに

「いいや…直ぐに酔いつぶれちゃっていたよ。それより今夜、ローラのヒトガタの代わりに君がその役をやることになったんだ。ルーは心配いらないっていうけど…少し身体を休めておいた方がいいよ。夕方起こしてあげるから少しおやすみ」

リンはテレサに布団を被せ、ベランダに出た。

宿屋の庭ではセオドアが剣の手入れをしていた。

「これも縁…か」

リンは最近とみに敏感になってきた聴覚と嗅覚で外の気配を読み取っていた。

今日は彼岸で霊おろしがあるため生者の街からやってきた人々が溢れ、昨日までの様子が嘘のように活気に満ちている。

露店商が立ち並び、甘いお菓子の匂いや子供達の楽しげな声が宿屋の二階まで聞こえてきていた。

テレサはすっかり浮き足だってしまい、リンが目を離したすきに

布団の中にクッションを押し込み、うまく形を整えると

「リン、ごめん。直ぐに戻ってくるからね!」と宿屋を脱け出してしまった。

テレサはあちこちの露店をのぞいてあるいた。

「うわ〜。素敵な帽子!」

その店には色とりどりの美しい帽子が沢山並べてあった。

テレサは真っ白い羽飾りがついた赤い帽子を手にとり被ってみた。

店にある鏡の前でポーズをとっていると、いつの間にか後ろに錫杖を持った男が立っていた。片目に眼帯を着け、残された目を細めテレサをじっと見ている。

テレサは男に気付いて振り返った。「私に何かご用ですか?」

男はニッコリと笑いかけ

「あんまり美しいのでつい見とれてしまった。申し訳ない」と謝罪してきた。

「あなたは誰?」

「私はグレン・リンデンハイムだ。君は?」

「私はテレサよ。旅の途中でここに寄ったの」

グレンは興味深げにテレサに尋ねた。

「どこに行くのかね?」

「月の城よ」

グレンはなるほど、と納得した様子で店主に帽子の代金を払った。

「その帽子はわたしからのプレゼントだ」

テレサは驚いて

「こんな高価なものは頂けないわ!」と帽子をグレンに突き返した。

「この帽子を君以上に素敵に被れるひとはいないさ」


「でも〜…」


「では取り引きしよう。もしまた逢えたらその時は私と一曲踊ってもらいたい。それでどうだい?」

テレサはうなずいた。

「お安いごようよ!」グレンは嬉しそうに微笑み

「じゃあ約束だよ」とテレサに言って去って行った。

「あの人いったい何者かしら。ずいぶん身分が高そうだったけど…」

その時、霊おろしが始まる鐘がなった。

「大変!宿屋にもどらなくちゃ」

テレサはスカートの裾をたくしあげ走りだした。

その頃宿屋では、リンが大慌てでテレサを探していた。

「ごめんねリン!」


「テレサ、あれほど言っておいたのに仕方ないなぁ!」

セオドアも気がついて近付いてきた。

「さあ行くぞ、ルーに怒られないようにさっさと支度しろ!」セオドアはテレサが見慣れない豪華な帽子を手にしているのに気付いた。

「それは?」


「ああこれ?知らない人が買ってくれたの」

セオドアはやれやれといった表情でテレサをたしなめた。

「そんなこともうするんじゃないぞ!ただほど怖いものはないっていうぜ。ちょっとは他人を警戒しろ。いいな!」

「ハ〜イわかったわよ!」

テレサはまさかこの男が自分の人生に深く関わってくる事になろうとは、まだしるよしもなかった。

「さあ、日が暮れる前に出発しましょう」

リンはテレサの手をギュッと握りしめ部屋を出た。

「どうしたの?リン痛いわよ」

リンはなにも言わず黙ったまま歩き出した。


リンは急に不安になったのだった。

なんだかテレサが僕の手の届かないところに行ってしまう…そんな予感がするんだ。

リンは不安を振り払うように足早に歩いていった。

バラック小屋の周りには沢山の死神がフワフワと浮かび、ルーの号令を待っているところであった。

「ルーさん遅くなってすみません」

今日のルーは黒髪を高く結い上げて黒いシンプルなドレスをスッキリと着こなしていた。

「遅いではないか!死神達が待ちくたびれているぞ。そろったところで早速始めるとするか…さあ!死神達よ。あの世から霊達を連れてきておくれ」

死神達は一斉に天高く舞い上がっていった。ルーは死神を一人呼びつけ、ローラの霊を自分のところに直接連れてくるよう指示した。

「悪いがそうしておくれ、頼んだよ」

頼まれた死神は

「わかった!急いで連れてくるから待ってろよ」と言い残し仲間の後から天に昇って行った。

リンは感心してその様子を見ていた。

「凄いな。あんなに沢山の死神がルーさんの言いなりだ」

セオドアは

「ふ〜ん。俺には全然見えねぇ!まぁ見たい光景でもないがな。お前もそう思うだろ?」とテレサに声をかけた。


「私は見てみたいわ!リンは目がみえなくても心の目で見てるのね。そう考えると私達よりリンは沢山のものが見えてるんじゃないかしら」と言ってリンをハッとさせた。

テレサの考え方はいつも僕を驚かせる…そんなところに惹かれたのかもしれない。


ルーは3人を部屋によんだ。

部屋の中は整然と片付けられて、この前とはまるで違う部屋のようだ。

部屋の一番奥の椅子にローラのヒトガタが置かれており、それをはさんで初老の夫婦が座っていた。

「こちらはローラの御両親だ」


テレサは両親に自分の過ちを謝罪した。

「申し訳ありません。大事な娘さんのヒトガタを壊してしまいました。どう謝ったらいいか…」

ローラの母親はテレサに優しい目を向け

「いいんですよ。ヒトガタはしょせん物なんです。壊れることもありますよ。わざとではないことルー様から聞いています」

と許してくれた。

父親は哀しそうに目をふせて

「ローラに会いたい。この日をどんなに待ち望んでいたか…」と言葉を漏らした。

テレサは二人の手をとり

「今日は私の体にローラさんをお呼びします。どうかローラさんの霊を慰めてあげてください」と励ました。

「おや?どうやら死神が戻ったようだ。テレサ、心を落ち着けて目を閉じていなさい」

ルーの言葉どおりテレサは静かに目をつむった。

セオドアは緊張した面持ちでテレサをじっと見つめた。

「ルー様〜!ローラをお連れしましたぜ」

死神はローラの手をとりルーに預けた。

「ごくろうだったな。さぁローラ、こっちへ!この少女の身体にそっと乗りなさい」

ローラはうなずいてルーの言葉に従った。

目を閉じていたテレサはパッチリと両目を開いた。

「お…父さん、お母さん!」

テレサの身体を借りてローラは両親に抱きついていった。

「さぁ、我らは退散するとしよう。家族水入らずでな!ローラ、分かっていると思うがこの肉体にいられるのはせいぜい2時間くらいだ。それまでの間、両親とゆっくり過ごすがよいぞ」


ローラは涙ながらにお礼を述べた。「ありがとうございますルー様」

ルー達はそっとバラック小屋を出て行った。

リンはローラ親子の姿が脳裏に焼き付いた。

「なんだか羨ましいな。僕も父親と会ってみたいですよ」


「なんだ、リンも父親がいないのか?」

セオドアは初めて聞くリンの過去に身を乗り出した。

「ええ…村が焼き討ちにあってその時に…」その時、リン達の頭上でフワフワ浮いていた死神が声を上げた。

「ああっ!あんたどっかで見たと思ったらあの時の子供か!覚えてるか?あんたが森に捨てられたときに会った死神だよ〜!」

リンも驚いて

「ええっ!あの時の?」と聞き返した。

「そうだよ。俺はあの時助けを呼びに行ったんだ。戻ったらすでにあんたは居なくて…心配してたんだぜ〜。無事でよかった。本当によかったよ」

ルーは面白そうに死神に話しかけた。

「死神のあんたが人を助けるなんて…よっぽどリンが気にいったんだね」

死神は当時をおもいだしたのかグッと胸がつまった様子で

「あの時この子は俺に殺してくれって頼んだんです…絶望しきった顔で…でも安心しました。あの時の顔とは全然違う!生気がみなぎってる。しかもなんだか精霊の匂いがします。おまえ、しっかり励んでるようだな」

リンは力強くうなずいた。

「死神さん、僕は生まれ変わったんです。もう逃げません!」

死神はウンウンとうなずいている。

「リンよ。おまえ生きていて良かっただろ?」とルーが聞いてきた。

「はい!」

リンは今とても幸せだった。

この幸せがなるべく長く続きますように…

リンは夜空に瞬くたくさんの星に祈りをささげた。

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