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死者の街 中編

カシーン!カシーン!と剣がぶつかる音がしてテレサは目を覚ました。

「キャア!こいつら何者なの?」

リンはベッドの隅でテレサに覆い被さるようにして成り行きを見守った。

「さぁ、わからないな。でもセオドアさんに任せておけば大丈夫だよ」

リンの言葉通りセオドアはあっという間に二人の曲者に当て身を食らわせ気絶させてしまった。

「テレサ何してる?早くロープを持って来い!」

テレサは一階からロープを持ってくるとセオドアに渡した。

セオドアは二人を後ろ手に縛りあげフゥとため息をついた。


「この人達は何者でしょう?やはりこの街の人間でしょうか?」

リンはセオドアにたずねた。

「さあな…おまえらまた何かやらかしたんじゃないのか?」


「なんにもしてないわよぅ。ねぇリン?」

リンはふとあの用品店での出来事を思いだした。

「テレサ…もしかしてあれかな?」

テレサはギョッとして

「ええ?まさかぁ」と言葉をもらした。

セオドアは二人を見下ろし

「どうやらこころあたりがあるらしいな」とにらみつけた。

「ウ…ウウ…」


「どうやら目を覚ましたらしいな」

捕らわれた二人組は憎々しげにリンとテレサを睨んでいる。

セオドアは二人の前にしゃがみこみ

「おまえら何者だ?なんで子供達を狙った?」とたずねた。

男はどうやら観念したらしく重い口を開いた。

「こいつらがヒトガタにいたずらしたからだ」

「ヒトガタってあの等身大の人形のことですか?」

男はうなずき

「彼岸の夜、霊はヒトガタに帰ってくる。おまえらのせいでローラのヒトガタにひびが入ってしまった。あれでは霊が帰れない!」

リンはなるほど…と膝を叩いた。

「そのヒトガタの代わりにテレサを身代わりにしようとしたわけですか」

「そうだ…ルー様にその子を連れてくるよう言われたんだ」


「ルー様?それは誰だ!」

セオドアは男の襟首をギュッと掴んだ。

「ル…ルー様は霊おろしが出来る聖女だ。死神とも話が出来る凄いお方だ」

セオドアはニヤニヤして男にたずねた。

「で、そのルー様とやらは美人か?」


「セオドア!あんた何考えてるのよ」

今まで黙っていたテレサがキーキー騒ぎだした。

「いいじゃん!なんだかそのルー様とやらに興味がわいてきたぜ。おい、その女のところに案内しろ!」

「!?何言っちゃってんのあんた、正気なの?私達の命を狙った相手なのよ」


テレサは断固反対の姿勢だ。

リンもルーが死神と話が出来るという事に興味を持った。

僕もルーさんにぜひ会ってみたい…

「テレサ、命を狙ったわけじゃないよ。身代わりにしようとしたんだ。それにもとはといえば悪いのは僕達じゃないか。会って謝って来ようよ」

テレサはハァと深くため息をつき

「まったくリンまでそんな事言うなんて…わかったわよ!行けばいいんでしょ?行けば!その代わり何があっても私は知らないからね」

セオドアは嬉しそうに

「よし!そうと決まれば出発だ。おまえら、ちゃんと案内しないと承知しないぜ」

と脅して二人の男を歩かせた。

男達は人気のない閑散とした街を突き抜けボロボロで今にも崩れおちそうなバラック小屋の前で立ち止まった。小屋の前にあるドラム缶からは湯気がモウモウとたちのぼっている。


「おいおい、こんなところで立ち止まるなよ!さっさとルーのところに案内しろ」

セオドアはしびれを切らして男たちを急き立てた。

「ここですよ。着きました」


「え?ここ?」


セオドアはあんぐりと口をあけたままそのバラック小屋を見上げた。

「なんじゃ?騒々しいのう」

ドラム缶の影からしゃがれた声がして、小さな老婆がのそのそ這い出てきた。

「ルー様、犯人を連れて参りました」

ルーはグフフと笑い

「連れてきたというより連れて来られた、というほうが正しいようじゃが…」

ルーは目を細めて男達の手首のロープをじっと見た。

「あんたがルーか?」ルーはセオドアを見上げ

「ホホッこりゃあまたイイオトコじゃな。いかにも、わたしがルーじゃ。そなた名はなんという?その指輪…ウンディーネにとりつかれておるの」

とサラリと言ってのけ、セオドアの度胆をぬいた。

「そっちのボウズは精霊使いか…といってもまだまだじゃがな」

リンはドキリとして息をのんだ。

「そっちのお嬢ちゃんは…フフフ…こりゃあまた面白い運命を背負ってるようだね」

テレサは目をみひらいて、その小さな老婆に問いただした。

「わたしの未来が見えるの?教えてお婆ちゃん、私これからどうなるの?」

ルーはからかうように

「わたしゃあもう疲れたよ。これから風呂に入ろうと思ってたのにとんだ邪魔が入ったもんだ」と言うと、服を脱ぎ出した。

「ル、ルー様!我らはどうすれば…?」

ルーは下着姿で一瞥すると

「仕方ないねぇ。うちでお茶でものんで待っててよ」というと手でシッシッと皆を追い払った。

セオドア達は仕方なくバラック小屋の中に入って行った。

「なんだこりゃあ!」

部屋の中はまるでオモチャ箱をひっくり返したように色とりどりの液体が入った瓶や壺、まじないの札や謎の道具が散乱していて座る場所もない有り様だった。

二人組の男は慣れた様子でガラクタを足でよけると、その場に座りこんだ。

「あんたたちもその辺適当に座ってなよ。ルー様は長風呂だからな。しばらく待たされるぞ」

テレサは気味悪そうに瓶をつまんでは横に寄せている。

リンは器用に近くにあった棒を使い、場所を作って座ろうとした瞬間セオドアが隣で悲鳴をあげた。

「ちょっと!びっくりするじゃないの、どうしたの?」

セオドアはその場にしゃがみこんでガタガタ震えている。

「そ…それ、それ!」セオドアが指差した瓶をテレサがもちあげた。

「なによ、これ?」

「キャアア!イヤアア!」

なんとその瓶の底には蛇がとぐろを巻いてぐったりと沈んでいた。それをみた男はガハハと大笑いしている。

「それはハブ酒だよ。この街にはハブがたくさんいるんだ。これは若返りの効果があってルー様が毎日飲んでおられる」


「気色悪いもん飲んでるんだな。しかし、なんの効果もみられんね。ルーもあんだけしわくちゃなんだから今更若返りもないだろうよ」

セオドアがそう言うと、扉がガラリと開いてルーが入ってきた。

「なんだと?ハブ酒の効き目は最高だぞ」

セオドアが振り返るとそこには黒髪の美しい女がしどけない姿で立っていた。

「待たせたな。どうだおまえもいっぱいやるか?」

その女はハブ酒を近くのコップにあけるとぐびぐびと飲み干した。セオドアが呆気にとられていると、男達が女にハブ酒をついでやっている。

「ルー様、ローラのヒトガタはどうですか?」


「う〜ん、やはり修理に2、3日はかかりそうだ」


セオドアは女の顔をじっと見つめ、信じられないとばかりに絶叫した。

「お、おまえルーなのか?」

ルーはウフフと微笑み

「そうじゃ。どうだハブ酒は効くだろう?」とからかって楽しんでいる。

「やっっぱり化け物だ」

ルーは

「今なんか言ったか?」とセオドアを軽く睨んだ。

「な、なんでもねぇよ」

テレサは突然立ち上がりルーのハブ酒を取り返すとごくごく飲んだ。

「テ、テレサ!おまえ子供のくせに酒のんでんじゃねぇよ」


テレサはみるみるうちに真っ赤になりフラフラと尻餅をついた。

「なによぅ!この浮気者、美人を見ればあっちにフラフラ可愛い娘がいればこっちにフラフラ。私はあんたみたいな軟派なヤツ大嫌いなんだからね!」

セオドアはテレサの様子に呆れ

「まったく酒癖の悪いガキだぜ」と自分の上着をすっかり寝ぼけているテレサにかけてやった。

「フフフ可愛いではないかすっかりそなたに夢中な様子。優しくしてやったがいいぞ。その娘は自分の好きな相手とは結ばれぬ定め、それは自分もわかっておろう。せめて自由でいる間は幸せでいさせてやるがいい」

リンはルーの言葉にハッとした。

テレサやっぱり君はセオドアが好きだったんだね…でもセオドアにはウンディーネが…。可哀想にテレサ、辛かったろう。

リンはテレサの酔いつぶれた姿が憐れでならなかった。

「まだテレサは子供だ。恋に憧れてるだけだろう」

セオドアはそう言いながらも複雑な表情を浮かべている。

「そなたには怖〜い女神様がついておるしな」

セオドアはルーをいぶかしげに見つめた。

「なぜウンディーネの指輪とわかった?」

ルーは楽しそうに

「わたしもウンディーネからプロポーズされたことがあるからな」

と言うではないか。

「な、なに〜!?アイツ女にまで手を出してるのか?」

男達はセオドアの言葉にゲラゲラ笑い

「ルー様は男にも化けなさるからなぁ。しかも絶世の美男子に!」


セオドアはすっかり毒気にあてられクラクラしてきた。

リンはその間にも冷静に話を頭で整理していた。

ある時は老婆、そして美女、男にまで化けるとは…一体このルーの正体は何なのだ?

「ルーさん、あなたは死神とも交信できるとか?」

ルーの表情が一瞬固まったのをリンは見逃さなかった。

「誰からそれを?」


リンは男の一人を指差した。

「チッ!仕方ないな。まぁそうだ。仕事がら死神とは切っても切れぬ付き合いでね」

リンは思いきってルーにたずねた。

「ルーさん、あなた何者ですか?精霊使いとはまた違うようだ。だが死神と交信出来るという。死神と交信できるのは精霊使いだけのはずです。あなたは人間ですか?」

みな固唾をのんでルーの答えを待った。

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