水の精霊ウンディーネ中編
セオドアはライラにリンの話をした。
「とにかくアイツは凄い奴だ。砂の精霊もリンを1の主と認めている。リンにウンディーネと話をして貰おう。そして元のラグマダーンに戻ったら、お前は晴れて自由の身だ!」ライラは興味深げにリンについて質問してきた。
「兄様がそんなに信頼していらっしゃるリン様とはどんな方ですの?」
「リンは精霊使いだ。歳は…そうだな。お前と同じくらいだ。可哀想に目が不自由でな。先日砂の精霊に左腕も食われてしまった。憐れな姿だがその心はまっすぐで澄んでいる。この泉のように…。リンをここに連れてこよう。ウンディーネもリンにならきっと従ってくれるはずだ」
セオドアはライラに今夜ここに来るよう言い残し、もと来た道を急いで戻っていった。
その頃リンは風呂に浸かり、身体中の砂を洗い落としサッパリした姿で宿のテラスで寛いでいた。
「こんなに贅沢させてくれるなんてロイもリンに感謝してるのね」テレサはリンの胸に刻まれたラシードの契約印をしみじみと眺めた。
いいや…テレサ僕はそんな立派な人間じゃないんだ!
僕は臆病で卑怯者なだけさ。リンはフゥとため息を漏らした。
その時、テラスのそばの椰子の木がガサガサと揺れセオドアが姿を現した。
「リン……」
「セオドアさん!どうしたんですか?そんなところから」
セオドアは息を切らしながら
「リン…頼みがあるんだ!」
と叫んだ。
「どうしたっていうの?リンが驚いてるじゃないの。とにかく上に上がって来なさいよ!」
セオドアはリンの隣の椅子に腰掛けた。
眩しいくらいの夕日に照らされ、セオドアは目を細めたが眼球を失ったリンは只静かに涼しい風だけを感じていた。
「ずいぶん長い時間出掛けていましたね、なかなか帰られないので心配しましたよ」
「ああ…すまなかったな。ロイは?いないのか?」
「ええ、馴染みの商人と呑みに出掛けたわ。多分今夜は帰らないんじゃないかしら?ところでリンに頼みってなんなの?」
セオドアはどこから話したものか迷ったが、包み隠さず全てを話した。
「…というわけなんだ。リン、ウンディーネに聞いてくれ!なぜラグマダーンの水が少なくなったのか?まさかとは思うが……もうあの泉にウンディーネはいないんじゃないかと俺は心配なんだ。頼むリン!今夜一緒に泉に来てくれ」
テレサは身を乗り出した。
「なんですって!?あんたアズバン家の息子なの?ビックリだわ。ねぇリンどうする?」
「………」
返事をしないリンを見てテレサはセオドアにたずねた。
「私、これ以上リンを危険な目にあわせるのは嫌よ」
セオドアはその場にひざまずいた。
「大丈夫だ!決して危ない目にはあわせない。ただウンディーネに聞いて欲しいだけなんだ。一体何が原因なのか…頼むよリン!ラグマダーンを助けてくれ」
リンは途方にくれていた。
だんだんみんなの僕への期待が大きくなっていく…僕はその期待にこたえられるだろうか?
「どこまでお役にたてるかわかりませんよ?」
セオドアはホッとした表情を浮かべた。
「ありがとう。一緒に来てくれるんだな」
リンはコクリとうなずいた。
「じゃあ悪いが早速出発の用意をしてくれ。今夜ライラと泉でおちあう約束になってる」
「ちょっと待って!私も支度するわ」
セオドアは仕方なさそうにテレサに声をかけた。
「ついてくるのはいいが足手まといになるなよ」
「フン!あんたなんかにリンを任せられないわ。私も行くから安心してねリン」
リンは深いため息をついて
「いい加減に仲直りしないと僕、本気で怒りますよ!」と釘を刺した。
リンの厳しい表情に二人は
「ハ〜イ」と返事をしてショボンと首をうなだれた。
「さぁ、そうと決まれば出発しましょう。セオドアさん案内を頼みます」
「おお、任せてくれ!」
3人はすっかり暗くなった夜のジャングルを抜け、アズバン家の屋敷に向かって出発した。
「どうやら動きだしたようだ」
3人の後ろにはピッタリと2つの影がついてきていた。
「お前は先に戻ってアルマ様に伝えよ!」
「ハッ!承知いたしました」
影は疾風のように走り去った。
もう一つの影は短剣を握りしめ、3人の背後に忍び寄る。
「ん?なんだか女の匂いがする」
テレサがふいに立止まった。
「なんだよいきなり!」
セオドアがイラついた声を発すると、テレサはセオドアの身体をクンクンと嗅ぎまわった。
「おかしいわね〜?」
「おい!急いでるんだ。余計な事は気にするな」
テレサはムッとした顔をしたが、すぐに
「うん、きっと気のせいね」と思い直した。
3人の目の前には広大なアズバン家の城壁が立ち塞がっていた。
城の周りには武装した警備兵が何人も立っている。
「これじゃあ忍び込めないわ!どうするつもり?」
セオドアは手招きして二人を呼んだ。
「こっちだ!」
3人は城の裏手に回り込み、秘密の通路の入り口までたどり着いた。
「ここはアズバン家の後継者だけに知らされている秘密の通路だ。ここから潜入するぞ!」
セオドアが入り口の扉を開けようと手をかけた途端、辺りは松明の火で明々と照らされた。
「そこまでだルシン!」
松明を持つ大勢の兵を掻き分け、側室アルマが姿を現した。




