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砂の精霊ラシード


リンはその鳴き声がこの神殿の主であることを感じとった。

「テレサ、いいかい僕の言うことをよく聞いて。これからここにこの神殿の主がやってくる。君は僕がいいと言うまでそこでじっとしていてくれ…いいかい?絶対騒いだりしちゃダメだ」


「わかったわ!じっとしてればいいのね」


「うん。絶対に声をあげないこと!相手を刺激したくないんだ。頼むよ!」

テレサはうなずいて膝頭をギュッと手で握りしめた。鳴き声はどんどん大きくなり、ロイとセオドアも急いでリンのもとに駆けつけた。

「リン!一体なんなんだあの鳴き声は?獣なのか?」

ロイはゼイゼイ息をつきながらリンにたずねた。

「いいえ、この神殿の主です。僕たちが神聖な場所を汚したと怒っているのでしょう」

ロイは真っ青な顔であたふたしている。

「どうすりゃいいんだ!リン、なんとかならんか?」

セオドアはロイの慌てようを鼻で笑い

「そんなの俺のこの剣で八つ裂きにしてやるぜ!」と、わめいている。

「みんな、落ちついて!早くどこかに隠れて下さい。いいですか、何があっても絶対に声をださずじっと隠れていて下さいよ」

セオドアは心配そうにリンの肩に手を置いた。

「リン、お前は隠れないのか?」

リンは微笑みセオドアの手をギュッと握った。

「大丈夫です!僕は精霊使いなんです。逃げちゃいけないんだ。さぁ早く隠れて!」

ロイとセオドアは竜の水桶の後ろに身を隠した。

気配がどんどん近付いてくる。


リンは思わず身構えた。

バサバサと羽ばたく音がしたかと思うと、とうとうその主が姿を現した。

その姿を見たロイとセオドアは思わず叫び声をあげそうになり、口を両手でふさいだ。


なんと姿を表したのは真っ白い翼を生やした巨大なライオンであった。

血走った目でギロリとリンを睨むと、テレサの落ちた穴に前脚を突っ込みテレサを掻き出そうとしている。

「止めてください!この神殿に勝手に入ってしまったのは謝ります。だからどうかその子に手を出さないでくれませんか?お願いします!」

ライオンは再びリンに視線を戻した。

「お前か?神殿を荒らしたのは?」


リンは緊張で身体が震えたがはっきりと答えた。

「僕は旅人です。どうか一晩ここで過ごさせて貰えませんか?」


「我は砂を司る精霊ラシードだ。お前は?」

「精霊使いのリンといいます」

ラシードはリンの周りをノシノシと歩きながらリンを値踏みするように観察した。

「精霊使いとな?」

リンはうなずいた。

「では精霊使いの少年よ。よく聞け!ここはその昔、大変栄えた街だった。皆、力を合わせ仲良く暮らしていた。ところがそこに精霊使いと名乗る女がやってきて人々を巧みに騙し、砂嵐を止める為と称してその穴に毎年人身御供の子供を放り投げて殺してきた…憐れなことだ。

よいか、自然界に起こることで無駄なことはひとつもない!全て意味があるのじゃ。ワシは愚かな人間に愛想が尽きた。だから大きな砂嵐を起こし、ここにはだれも寄せ付けなかったのだ。リンとやら、これからワシは再び大きな砂嵐を起こす。この付近の街全てをのみ込むほどの嵐じゃ…だが、この穴の少女を人身御供によこすなら助けてやろう。さぁどうする少年よ!」


リンはぐっと言葉に詰まった。

テレサを助けたいなら砂漠の周りの街の人々は全て砂嵐に巻き込まれ死ぬことになる。

逆に街の人々を助けたければテレサが犠牲になる。

どうすればいいんだ!

「………」


「どうした?精霊使いの少年よ!」

テレサは震えながら暗い穴の中でじっと成り行きを伺っていた。

リンは意を決してラシードに向き合った。

「わかりました…僕が人身御供になりましょう」

ラシードはその言葉に一瞬目を見開き、またすぐ疑り深い目でリンを見た。


「そなたが生け贄になるというのか?」

リンは深くうなずいた。

「フハハハハ!よくぞ言ったな少年よ。では遠慮なくそなたの命、貰い受けるぞ!」

ラシードは白い翼を羽ばたかせ、リンの小さな身体にのしかかった。

リンの両腕はラシードの鋭い爪が食い込み、夥しい血が流れ落ちている。

セオドアは背負っていた剣を抜いて身構えた。

ロイは慌ててセオドアを止めた。

「バカ野郎!お前がかなう相手じゃないぞ、出て行っても死ぬだけだ」

セオドアはロイを突き飛ばした。

「黙って見てるなんて俺には出来ねぇ!どいてくれオッサン」

ロイはセオドアの脚にしがみつき、絶対離そうとはしなかった。


ラシードはリンの左腕を食いちぎり、その骨をバリバリと音をたてて噛み砕いた。

「ギャアアー!」

リンは断末魔の叫び声をあげ、そのまま意識を無くしてしまった。

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