没ネタ 宍原のナイトスコール
目を覚ますと青空が広がっていた。頬や手先からくすぐりを感じさせる草と硬く冷たい地面の感触。
体を起こして辺りを軽く見回すと生い茂った草木が囲む森の中、俺のすぐ近くに相棒の吟遊詩吟ことヨルがうつ伏せに倒れていた。
おい、大丈夫か? と俺は相棒に声をかける。うぅ、と小さな呻きを漏らしてヨルは目を覚ました。
「……おはよう」
「お、おう。無事だな。怪我とかは?」
「ない。僕のその辺のことはね。……君の方は?」
「ああ、大丈夫だ」
互いに自分達の具合を確認し合うが特に問題はなかった。体調に問題がないとなると次は状況整理だ。ヨルが俺と同じく周囲の様子を疑うように首を右往左往させる。
「で、アメ君ここはどこだい?」
「いや、分からねえ」
訊ねてくるヨルに俺は首を振って答えた。
冒険者にして修行中の剣士である俺ことアメと、街で仲間になったヨルはギルドの依頼でとある遺跡の調査に向かった。
遺跡の中を探索していると隠し部屋が見つかり、奥へと進んで行くと何かの祭壇らしき場所を発見。そこを重点的に調べていくと、「あ」と明らかに何かをやらかしたような声を呟いたヨルの声がして……。すると突然、遺跡の中が大きく震動して地面に浮かび上がってきた魔法陣が眩い光が発して、気が付いたらこの場所に倒れていた。
「確か………お前、何か触らなかったか? 『あ』って言ったよな?」
「……別に」
「おい、ちゃんと目を合わせて喋れ」
「触ってはいないよ。ただ、ちょっと見つけ……あれ?」
言いかけてやめると、突然何かに気づいたように自分の身体をあちらこちらパンパンと叩いては何かを探す素振りをみせる。
「どうした? 本当は何か持ち出してきた物を無くしたのか?」
「そんなことはしていない。じゃなくて……君も自分の身辺もう少し見つめ直した方がいいよ」
「はあ? 何を言って……あり?」
立ち上がって足下に落ちていないか調べ始めるヨルの言葉に対し、何を言っているんだと甘く考えていたら、立ち上がろうとした時に妙な腰の軽さを覚えつつ、いつもの感覚でそれへと手を伸ばしたのだが……それはどこにもなかった。
「ない、…ない? ない! ないないないない、ない!? 俺の剣が!? 洲粋丸がない!?」
遅れて俺はヨルと同じように自分の身体をパタパタと叩いて、足元に落ちていないかと周囲を探ってみるがそれはどこにもない。
洲粋丸。俺の愛剣にして、俺が故郷を出る時にじいちゃんから渡された自慢の一品。冒険者になって苦楽を共にしてきたいわば俺の分身ともいえる存在が。……ないのだ。
「不味ったねこれは」
いつも無表情なヨルが珍しく眉を顰めて難しい顔をして呟いた。
「僕の魔本もない」
「マジかよ」
ヨルの持つ魔本。いわば魔導書なのだが、これは極めて特殊な品で、魔法使いでもないヨルが魔法を使用できる品物だ。本来ならば魔導書といって一回きりだけ魔法をしようできる魔道具類なのだが、コイツ所有している魔本はそれの上位互換のものであり、同時に魔法使い以外でも魔法を駆使でき、しかも使用者にしか扱えない高価なもの。
なんで吟遊詩吟のコイツがそんな高価なものを持っているのか、と最初思っていたが話を聞いたら、実家からの掘り出し物、と一言だけ。俺の洲粋丸と同じで餞別品なのか、と思ったがそれにしたら物が高価過ぎる。実家はそれなりに金持ちの家系なのか?
少しばかりミステリアスなところを売りにしているのが俺の相棒だ。
そんなミステリアスな相棒は、参ったね、これは、と首の後ろに手を回して軽く揉む。
「魔本がなければ僕は魔法も使えない。剣が無ければ君は戦えない。この状態でモンスターと鉢合わせてしたら不味いね」
「ああ。ったく誰だ俺達の得物持っていた奴! 盗賊か?」
「盗賊とはホント縁があるね、僕たち」
怒りを覚える俺に対して、相棒は冷静さと呆れの混じった調子で嘆息する。
「とりあえず、この場から離れようか。ここがどこだが分からないけど、遺跡の外みたいだし、あの魔法陣は転移魔法で僕らはどこかに飛ばされたって考えるのが妥当みたいだ。遺跡のキャンプ地で近くにであればいいけど、もしそうじゃあない場合、最悪全く知らない場所に転移された場合は色々と身の振り方を考えなくちゃあね」
「ま、そうだな」
相棒は冷静に状況を見極めて軽い方針を決めてくれる。こういう時慌てずに適切な判断ができるのがコイツの強みだ。
俺は相棒の判断に特に反対はなかったため同意するが一つだけ意見を出した。
「でも、何かしらの武器がないと色々と不安だよな」
「そうだね、僕も魔笛あるけど、君が剣を持ってないと基本《セイレーンの招き》で眠らせるくらいしかできないね」
吟遊詩吟が本職の相棒が使う、武器は基本二つ。先ほど紹介した《魔本》による魔法攻撃と、魔笛を使った演奏による支援だ。
俺が使う水の剣とコイツの使う海の歌シリーズの相性がよく、相乗効果による火力ぶっぱを攻撃を基本に、敵との相性次第で魔本を使った魔法攻撃を使い分けることにしているのだ。
しかし、剣がない今その基本スタイルができず、できることは眠らせるデバフだけ。
「眠らない系ができたら詰みだな」
「だから慎重に行こうか。先行してくれ。怪しいものが見つかったらすぐに教えてくれ」
「了解」
ひとまず話はまとまり俺らは知らぬ森の中を進んで行く。鬱蒼と生えた草木だったが進行にそれほど困らず、途中蜘蛛の巣に顔が引っかかることなどなく進んで行く。
武器を持たない俺が先行するのも如何なものかと思われるかもしれないが、基本は俺が前衛とヨルが後衛というのが俺達の陣形だ。それは片方が武器を失っても変わらない。
別に昔から決まった陣形という訳ではないが、というかコイツと組んだのは結構最近のこと数か月にもまだ満たない浅い付き合い。そうでなくともお互いに駆け出し冒険者で、連携とかコンビとしてもまだまだだ。
それでも付き合っていけば互いに何となく分かることや幾つか見えてくるものがある。
俺が前衛やって、コイツは後衛というのが俺達の決め事である。
先に進みながら後ろに続く相棒に言う。
「ぶっちゃっけ、俺の剣やお前の本ってどうなったと思う?」
「たぶん、盗賊に取られたっていうよりも、遺跡の転移の時に武器だけが転移されなかった、って説が強いと思う」
「その心は?」
「単純に今こうして生きているし、あと持ち金類は無事だってこと」
相棒の考えに頷いた。
盗賊が持っていったならば剣や本だけではなく、持ち金や他の品も、あるいは気絶して動けないでいる俺達を殺して、全部奪っていけばいいのだ。
でもそうはなっていない。ならば、俺達の武器が今手元にないのは転移時に武器だけが転移されなかった可能性が高い、か。
「最悪、武器だけ転移する場所が違ったって可能性もあるけど。……なにせ大昔の遺跡の転移魔法が発動したんだ。不具合があってもおかしくない」
そう言われればそんな気もするが……あれ?
「そういえば、さっきのは何だったんだ?」
先ほどの会話を思い出して聞いてみるが、聞き方がだいぶ雑だったから何に訊ねられたのか分からず、ん? と首を傾げる相棒。
遺跡の転移魔法が発動する前、何かしらヨルはアクシデントを起こしていた。すると転移が発動したのだ。ヨル自身は何も振れていないと言っていたが何かしらの気づきがあったようなことを先ほど言いかけていた。
それが何かと訊くと、ああ、と思い出したように答える。
「別に、ただ人形を見つけたんだ」
「人形だ?」
確認するように繰り返すと、ああ、人形だと頷いた。人形ねえ~……。
「それがどうしたんだ? お前は人形好きだったってことか?」
「正確に言うと、人形というよりも石像だね。精霊の石像」
「精霊の石像だって!?」
ヨルの言い放った事実に少し荒げた声で驚く。
精霊とは本来姿形は見えない存在だ。大昔に実体は保っていたらしいが、現在は自然の魔力濃度が全盛期の時代よりか低下したために形が崩れて、概念思念体としての存在になってしまったらしい。
そもそも、精霊とは何かというと簡単にいうと大昔に人間に魔法を授けた存在、いや正確には魔力の存在を感じさせるようにさせ、その使い方を教えたという存在だ。
魔力で回っているこの世界。社会生活には事欠かせない魔力を授けてくれた精霊は神に等しい存在だ。
しかし、姿を失ったことで精霊の恩恵が大幅に削られた現在は精霊の子である妖精の存在のおかげで魔力が回り、人間達の魔法などの力が扱えているのだ。
そんな精霊の石像が発見されたということは。
「つまりあの遺跡は精霊に関わりのある、結構な凄い場所だったわけか。これは俺達名を上げるチャンスか!?」
「石像があっただけじゃあまだ何も分からないし、僕らみたいなシロウトがあれやこれや言っても意味がない。それより本格的に調査班を駆り出して調べて貰った方がいいね」
興奮気味の俺に対照に相棒はあくまでも冷静に意見を述べる。人がテンションを上げているのに水を差すとは無粋なヤツだ。しかし、相棒の言葉はもっともなので、石像が見つかったくらいで他に調べても何も出てきませんでした、ってぬか喜びの可能性だってありえる。
遺跡の調査が今回の俺達の依頼であるが、遺跡にある骨董品の回収などではなく、どちらかというと遺跡の中やその周辺にいるモンスターを調べることや、遺跡内のマッピングが目的だ。もちろん遺跡の内で発見したお宝は回収(ギルドに報告の義務もあるが)していい。けれど遺跡そのものの方、つまり壁画や石像などがどれだけ価値があるものなのかの調査、鑑定はできない。
「でも結構な文化的価値はあるだろうね。精霊の石像に転移魔法、これだけのものがあるんだ。だいぶ古い時代の遺跡なんだろうね」
「だよな! 遺跡をもっと調べれば古代の道具って貴重なものが見つかるかもな!」
ああ、頷く相棒に、ニッと笑う俺。
そんな会話をそこそこに道を進んで行くと森の出口らしき広っぱが前方に見えて俺たちは森を抜ける。
「え?」
「ん?」
広っぱに出るとそこで見た景色にそれぞれ俺達は目を疑った。
広っぱだと思っていた場所は見晴らしのいい丘の上だった。
それくらいなら特に問題ない。むしろ見渡すことができる丘の上だということで自分達のどこにいるのか把握できると意味ではここに出られたのは大当りなくらいだ。
俺達は早速見下ろしてみる。予想では遺跡の付近の森のどこかに飛ばされたくらいの考えだった。
「どこだここ?」
「遺跡ではないね」
「というか、森の中じゃあねえ。街? というか都市?」
だが、実際は異なる場所、丘から見下ろした景色は全く見慣れない雰囲気のある街がそこに広がっていた。
「なんというか、変わった街だな」
俺が知っている街並みとは違う、少なくとも俺達が拠点としている街のハイジンや故郷の東源とは全く違うもの。
「そうだね。あまり見慣れない感じの造り? だいぶ文化圏が違うっぽい。昔行ったことがある、ヤトミトっていう街に近い感じがするけど……」
「機械魔学だとかの街だっけか? そこって」
機械魔学都市ヤトミト。なんでも魔法とは違ったアプローチをかけている都市だったか。そこで開発されている魔道具が珍しい品が数々存在して、例えば魔電球か、今まで蝋燭などで明かりを灯していたが、魔電球それよりも遥かに明るい光を灯してはしかも蝋燭のように火で溶けて道具そのものが消耗せず、魔力石を使うことで長く使えるという仕組みだ。そんな道具らのおかげで日常生活に潤いが現れ始めた。
魔道具の発展はこれから先の未来に必要なのだろう、とも言われている。
「まあ、何にしろ人里の近くなら上々だね。降りてこの辺について色々と情報集めてみようか」
「そうだな」
それこそ、樹海の中や孤島なぞといった人の気配がない場所に転移されていたら終わっていた。武器も地図もない、モンスターと遭遇したら戦う術もなく死に。ここがどこだか分からず遭難して死んでいたか
もしれない。
とりあえず、相棒の言う通り一度丘を降りて街で情報収集するかと思い直し、街まで行ける道はどこかと周囲を探していると、丁度それらしき道を発見して、同時に誰かがこちらに歩いてくるのをみえた。
第一村人じゃなくて街人発見! とすぐさま俺達は駆け寄る。
どうやらやってくる相手は女性長い黒髪に黒い服といった、落ち着いていて黒なのに清楚を感じさせる恰好をしていた。
接近すると年齢自体は俺達とさほど変わらないくらいか。大人じみているだがまだ少しだけ幼さ……少女の名残を残しているような綺麗な顔立ち。十分美人と呼ぶにふさわしい少女だった。
『あの、すいません』
「え、コスプレ……あ、外国の方?」
『ここってどこだか分かりますか? ノディックの森の周辺ですか?』
「えーと、……英語かしら? One more please」
『? ここってどこですか?』
「あー、……(……参ったわね。全然分からない。私の発音の問題というよりも英語じゃあないみたい。英語なら教室通っていたから何とか……最悪翻訳アプリでも起動させれば何とかなったのだけど)」
俺の質問に理解していないのか、困った顔を浮かばせる。俺も俺で彼女の言葉がちゃんと理解できていない。なんだ今の言葉、なんて言った?
『駄目だ、言葉が通じていないみたいだ。ちょっと変わってくる』
互いにどうするか困っていると、普段は交渉などの対話は俺任せの相棒が珍しく、俺と切り替わって彼女に訊ね直してみる。
『ここはどこですか?』
「?」
『ここはどこですか?』
「?」
「高校どこですか?」
「え? 高校ですか? 高校はこの丘の下に……」
彼女は自分がやってきた道を差して、身振り手振りのジェスチャーで道なりを教えてくれる。彼女の真摯な姿勢に感謝して相棒共々頭を下げてから、そして、俺を連れて彼女から少し離れた所で俺たちは小声で話す。
「伝わらないみたいだね」
「最後のはなんか伝わったっぽいけど」
最後のだけ反応が違った。ちゃんと言葉を理解してそれで示してくれたようにみえたが……俺達の質問じたいにちゃんと答えてくれなかった。
「というか、お前って他の国の言葉話せてたんだな」
「ああ、家の手伝いで必要だったから。簡単な会話くらいなら」
「十分だよ。何か国話せるんだ?」
「一応四か国ほど。今みたいに道を聞いたり答えたりの質問くらいのが殆どだけど」
と、実は四か国語話せる驚きの事実を知った。四か国も喋れるとか一体どんな教育されていたんだよ。やっぱどこぞの貴族か、あるいは商人の子供だったのか? 貴族と言われるとそんな風格はない、商人と言われると愛想がない。……どっちも似合わねえな。
そんなどうでもいいこと思っていたが、相棒は不味いなって呟く。
「言語が通じないとなると、色々と問題が出てくるね。情報を集めるのも一苦労だし、何だったら買い物だったり宿だったりも支障が、言葉というよりお金の方がちゃんと通貨として使えるかどうか」
「あ」
言われてみればそうだ。今の彼女と接してみて分かったことだが俺達の言語と彼女の言語はかち合ってなかった。この地に住む彼女の言葉はこの地の言語となるために他の人間に訊ねてみても会話が成立しない。つまりは情報が集まらない。
それに言語が大きく異なれば通貨も異なってくるだろう。俺達が持っている金はユーリン大陸で発行されている硬貨類。街の様子も文化圏がだいぶ違うように見えたが、果たして使えるかどうか。
金が使えなければ拠点すると宿を取ったり、飯を食べたり、他にも道具類、筆頭として代わりとなる俺の剣が買えなければ冒険者として仕事ができずに金を稼ぐこともできない。なす術がないのだ。
「これは考えが甘かったな。遺跡の周辺の転移って話じゃあねえな。マジでどこだここ」
想像していた以上の事の重大に気づいて二人して頭を抱える。
「とりあえず、これから街へと出向く前に彼女に金が使えるかどうかくらいは確認してみよう」
「そうだな。お前のさっきの最後言語のやつ。アレが近いっぽいからアレで言ってみろ」
「正直、一番苦手な言語なんだけど……それしかないか」
言葉通り苦手なのか嫌そうな顔をしながらも彼女の方へと出直す。彼女は俺達の様子を気まずそうに見守っていた。たぶん、立ち去っていいのかどうか迷っていた様子。
相棒は持っていた硬貨を取り出して彼女に訊ねてみる。
「炊飯器、この高額過ぎませんか?(すいません、この硬貨って使えますか?)」
「え、炊飯器? 高額かどうかは……私電気屋とかじゃないからよく分からないです。すいません」
質問に対して両手をブンブン振って違うというような動作の彼女。……一見して使えない、と表しているようにみえるが質問がちゃんと伝わっているのかどうか。
「なんて言っている? 使えないのか?」
「たぶん、……『私は硬貨では買えません』って買収か何かだと間違われたっぽい」
ちょっとショックを受けたような声で答えてくれる。女を金で買う人間だと思われたのが相当ショックだったようだ。……耐えてくれ! 折れないでくれ! お前が通訳してくれないと俺たちは終わるんだ!
「頑張って誤解といて硬貨は使えるのかを聞いてくれ」
切にそう相棒の心が折れないことを祈りながら会話続けるように言うと、分かっていると眉間をますます皺を寄せる相棒。
「こ、う、か、み、て」
「……硬貨を見ればいいですか?」
口とハッキリとした発音と硬貨を指差して強調して、硬貨そのものに質問があると理解させることに成功させる。
「オレオ買える?(これ使える?)」
「オレオは買えませんね。オレオ以外も……どこの国か分かりませんが少なくとも日本では」
彼女は誤魔化すような笑みでやんわり断っているように見えた。
「なんだって?」
「やっぱ、使えないって」
俺から見た彼女の仕草通りの結果だった。
察していたことであることだけど、改めて確認できてしまうと気持ちが重くなる。この時点で金が使えないとなるとますます俺達のここから先の道のりが困難になること意味する。
「これから文無しでどうするよ。俺は剣ないし、お前は魔法も使えない。戦えないぞ」
「一晩くらいならここでキャンプするけど、数日となるとねえ。食べ物もないし」
現実的問題として衣食住という基本的なことが出てきた。金が使えれば、ある程度工面できたが使えないとなると真剣に考えなければならない問題だ。
一晩くらいならと相棒は言うが、もし雨(俺のことではない。天気の方だ)など降ってしまい風邪を引いたりしてますます最悪の事態になりかねない。
どうするかと考えているとあること思い出した。そう言えば、今よりか少し前今が『駆け出し冒険者』ならばあの時は『成り立て冒険者』。つまり、相棒まだ正式にはコンビとして活動していなかった頃は。金が稼げていない頃にギルドの近くの馬小屋に住まわせてもらったことがある
あの時同じように馬小屋泊まりでもできるならば、と考えて相棒に相談する。というか、ギルド自体に足を向けることを言ってみると、相棒も「あ、その手があったか」と関心したように頷いた。
「冒険者ギルドの場所について聞いてみろよ」
「えーと、確か……『薬草は鍋ですか?(役所はどこですか?)』」
「薬草鍋? 七草粥ってことかしら? 日本のグルメ旅行に来たのかしら?」
相変わらずイマイチ伝わっていないような会話の噛み具合に悩まされつつ、根気よく相棒は説明して、彼女も彼女で相棒の言葉に必死に聞き入れようとする。
人間同士の会話が、コミュニケーション発展していく、最初はかち合わなかった歯車が交換に交換を重ねていき、やがて会話という名の意思疎通ができあがるという感動を覚える。
人間同士が理解し合おうという姿勢は凄く大事なことだと傍から見ていて気付かされる。
「あ、役所ですね。役所はこの道を降りていって学校をって……あ、ちょっと口で説明するのは……(伝わりづらいんだろうな。会話もちょくちょく噛み合ってないし。……なら私が直接連れて行った方いいのかもしれない)私が案内します」
場所について言いかけてはやめて、何か考える彼女。俺達に向き直り、笑顔で何かを告げてきた。
「なんだって?」
「案内してくれるっぽい」
それは助かる。説明されてもどこをどう行けばいいのか俺には伝わらないし、相棒も会話で凄く疲れたのか、額に汗を浮かんでいた。馴れていない言語って言っていたし、道の説明だけでは聞き間違いがあったのかもしれない。
一先ず、彼女が案内してくれることに安堵する。
―――そして、それは不穏な風が剣戟と交えたものを運んできた。
「「「!?」」」
俺達三人は反応した。急な刃と刃がぶつかり合うような過激な響き。それが徐々にこちらへと近づいてきていることに。
迫ってくる音は森の中、俺達が出てきた方向とはまた別の方向。すぐさま俺は前へと出て、構えを取り、相棒は彼女を守るようにして前へ、俺の後ろの位置に着く。その手には魔笛を持っており、俺は剣無し、相棒は魔本無しの状態でのいつもの迎撃態勢が整う。
普段とは違う緊張感を走らせながらも、俺達はそれが来るのを静かに待つ。
そして、それらは森の木々を飛び越えながら姿を現した。
上空に目をやる。現れたのは二体。一人は武道着姿をした老人か、薙刀らしき武器を手に持っている。もう一方と戦っている。
そして、もう一方は見たことのない黒い生き物だった。一言で表すなら鳥人といえばいいのか。体型としては人間の姿をしているが頭は鳥の頭、手腕ではなく翼のような腕のように扱い、足も鳥特有の三前趾足の身体付き。
黒い鳥人は羽腕といっても、両手を老人へと向けるとそこから羽根を飛ばしていく。まるで大粒の雨が降るかのような獰猛な攻撃。
空中で身動きが取れない老人だったが、ハッ、と気合の一声とともに薙刀を前へと出して回転させて飛んでくる羽根の攻撃を防ぐ。
ドン、と二体が地面へと着地する。相手の出方を窺うかのように睨み合う二人。老人が薙刀を走らせれば、カウンターの蹴りを貰い。鳥人が飛びかかってくれば薙刀を引いて首を撥ねるだろう。
互いに必殺の一撃を持っていること予感させて、どうやって相手を出し抜いてその一撃を当てるか、達人の経験と野生の直感が裏では密かにぶつかり合っている。
そんな真剣勝負との最中割って入るかのような一声が響いた。
「お、おじいちゃん!!」
声の主は彼女だった。彼女と老人は面識があった様子。ただの知り合いか、それとも祖父と孫娘か。可能性としては後者の方が高いと俺は思った。
「設楽か、今すぐ帰りなさい。いや、この場から離れなさい! すぐに!!」
老人の言葉は理解できずとも言っていること自体は察することはできた。逃走しろと、お前がいても邪魔になるだけだと。
だが、彼女の方は言葉の意味がすぐには恐怖と緊張で理解できなかったのか、息を呑んだような言葉を漏らしただけだった。
瞬間、黒い鳥人は動いた。先ほどの羽根を飛ばす攻撃を俺達目掛けて飛ばしてきたのだ。
「設楽!」
老人が叫ぶ。
飛んでくる羽根の弾丸。相棒と目を合わして瞬時に意思疎通を果たして、俺はその身一つを、相棒は近くにいた彼女を抱き着くように強引に横へと飛んでその攻撃を躱した。
「よくも儂の孫を!!」
ターゲットを自分から孫へと変えて攻撃したことに怒りを覚えた老人は一瞬の隙を狙い、背後へと回って黒い鳥人の首を撥ねるための一閃を奔らせた。
「♪」
嗤った。黒い鳥人は老人を見て嗤ったのだ。まるで予想通りというような策に引っかかった哀れな獲物を見るかのように。
首への一撃をよりも速かった、空気が裂いたというよりもブチ破ったという表現が正しいと思えるような、ブブン!! 豪快な響き。と同時に遅れてやってくるバキと不穏を漂わせる嫌な音。
その音らの正体を俺の目には捉えていた。
―――鳥人の回し蹴り。
光速といってもいい身体の切り回しと脅威の脚力。一撃を以って薙刀をへし折ったのだ。
驚きで目を大きく開いた老人は一瞬思考が止まったような感覚に陥っていたのだろう。すぐに次の一撃がくることを想定しておらず、次の行動がわずかに出遅れた。
鳥人の羽腕の手刀のような突きの一撃が老人の胸へと入ったのだ。




