お泊りしちゃいました
ギンが回復してくれたとは言っても、精神的にとても疲れちゃったからギンの家に泊まることにした。
泊まることをミラにどうやって伝えようか悩んでたら、マスターがまだ仕事が残っててギルドに戻るって言うから、マスターに伝言を頼んだ。
……で。
私達は今、ギンの家の温泉に浸かっている。
ギン曰く、「親睦を深めるには裸の付き合いをするのが一番」とのこと。
「ふぅー」
温泉が心地良くて、変な声が出ちゃった。
屋内にあるはずなのに、周囲は絶景に囲まれてる。
ギンに聞いたら、壁に幻覚魔法の魔法陣を刻んでて、好きな景色を見れるようにしてるらしい。
『リリア、おばあちゃんみたい』
「コウも浸かればこの気持ちよさ分かるよ」
コウは私の頭の上に乗っかってるだけで、温泉に浸かってない。
コウは風属性の精霊だから属性相性的に熱いのは苦手らしい。
この世界の物質は大まかに四つの属性に分けられると言われてる。
属性には水・火・風・土の四大属性と呼ばれる基本属性があって、それぞれ相性がある。
水は火に強く、火は風に強い。そして風は土に強く、土は水に強い。
「私も風属性で熱いの苦手だけど、コウほどじゃないよ」
「精霊は自然エネルギーが人の形をとった様な存在だからね。属性の影響を他の生物よりも受けやすいんだよ」
「へえー……ギンは見かけによらず物知りだね」
「あれ? 私、馬鹿にされてる? お仕置きだー!」
ギンが私に抱きついてきた。
その勢いでバシャッてお湯が波を立てて私の顔にかかる。
「ちょっ……お湯が」
ギンは私の体をいやらしい手付きで触ってくる。
「ぐへへ……お嬢さんいい体してるね……」
「私のよりマスターの触りなよ」
「何でここには居ないユーナの話になるの?」
「カップルなんじゃないの?」
この国では同性結婚が認められている。
昔は違ったらしいんだけど、三代前の国王が同性愛者で同性結婚を認められるようにしたそうだ。
それでも最初の頃は偏見とかあって、少なかったらしいけど、今は異性結婚と同じくらいの数にはなってる。
「私とユーナが? 違うよ。確かにユーナとは二人暮らしだけど、そういう甘い関係じゃないよ。ユーナは私の監視役だから」
「監視?」
「私は神戦時代に神が神を殺すために造った“対神兵器”だから。人間たちにとっては脅威なんだよ。だから監視」
神戦はおとぎ話とかに出てくる神々がこの世界の最高神を決める戦いのことだ。
「心配しなくても危害を加えられない限り、私から危害を加えるつもりは無いんだけどさ……約束もあるし」
ギンは凄く寂しそうな顔をしてた。
「お腹空いたよね。ご飯の用意は私がするからリリア達はまだ温泉に入っててもいいし、さっき案内した部屋に戻っててもいいよ」
ギンは誤魔化すように明るめの声で言って出ていった。
『どうする?』
「……少し待ってから出よっか」
「のぼせたー」
部屋に着いた私は、ボフッとベッドに倒れ込む。
ギンが出てってしばらく待ってたからのぼせちゃった。
『浸かったまま待ってるからだよ。湯船から出とけばよかったのに』
コウが風を起こして私に当ててくれる。
涼しい。
「ありがとう」
フカフカの布団に包まれて、さっきまでは眠くなかったのにとてつもない眠気に襲われる。
『少し休みなよ。ご飯出来たら起こしてあげる』
「大丈夫……。そういえばご飯って……血じゃ……ないよね……」
ここまでで私の記憶は途切れた。