力試ししちゃいました
ギンは大きく横に手を広げている。
凄く隙だらけで、私を嘗めているとしか思えない。
絶対に後悔させてやる。
一撃必殺。狙うは心臓だ。
吸血鬼は回復力が高いことで有名だ。
銀で心臓を刺されなければどんな傷でも回復するらしいし。
ギンはさっき語られてる吸血鬼はサードだって話してたけど、サードよりも強いらしいギンだって胸を貫いたって問題ないと思う。……思いたい。
私は“魔纏”を纏う。そして、最高速度でギンに近づいて胸に貫手を放つ。
これで倒せない相手は居なかった。私の持ち得る最強の技。
でも、私の手には体を貫いた感触がなかった。
「リリア、一回死亡ー」
いつの間にか後ろに居たらしいギンに肩をポンと叩かれる。
「“魔纏”を使えることには驚いたけど、全然使いこなせてないね」
私は独楽のように体を回転させて、その勢いのまま蹴りをいれたけど、躱されて最初の時と同じくらい距離を取られていた。
それからは似たような場面の繰り返し。
私の死亡カウントはもう二十は超えていた。
私は肩で息をしてるのに、ギンは息を切らしてない。とても涼しい顔。
“魔纏”はとても魔力を使うし、コントロールにも気を使う。
だから、体力的にも魔力量的にも、もうすぐ限界だ。
「“魔纏”以外は使わないの?」
「私は“魔纏”しか使えない。でも、それでもいいと思ってる。だって大抵の生き物は心臓を潰せば勝てるから!」
「アハハ! 本当にその通りだ。例外は私くらいだよ」
昔は“魔纏”しか使えないのが嫌だった。
でも、コウに会って変わった。
コウが教えてくれた。
“魔纏”しか使えなかったけど、“魔纏”を極めて銀十士になったシルフィーのこと。
だから私も王都に出てきて銀十士を目指すことにしたんだ。
これが最後の攻撃になる。
せめて一撃はいれてやりたい。
ただ闇雲に突っ走るのはダメ。
私は成功するか分からない賭けに出る。
全身に纏ってた魔力を薄くして足に集中させる。
これでさっきよりも速く走れる。
私はギンに向かって走る。
近づいたところで足の魔力を腕に素早く移動。
私は魔力を速く動かせない。無理に速く動かそうとするとコントロール出来なくなって“魔纏”が消えちゃう。
だからここが賭けだったけど、どうやら天は私に味方した。
私は勢いを殺さないように貫手を放った。
今度は体に当たった感触があった。
「でも、こんな突きじゃ皮膚の硬い敵や、皮膚の厚い敵には通用しないよ」
受け止められてしまった。
何にもしてない素手で。
魔力が少なくなってて威力は落ちてただろうけど、それでもかなりの威力はあったはずだったのに、ギンは軽々しく止めてた。
「あっ、もちろん素手じゃないからそんなに自信喪失しないでよ。薄く魔力で強化してるよ」
素手じゃなかったとしても、受け止められたことがショックだった。
私は地面に仰向けに倒れ込む。
魔力もすっからかんで、“魔纏”も切れちゃってる。
疲労困憊で、このまま寝ちゃいそうなレベルだ。
「ここまでにしようか。お疲れ様。こんな所で寝転がったら汚いよ。立てる?」
「無理。もう動けな……くない。動ける」
限界まで魔力を使って動けなかったのに、今は何故か魔力も体力も回復してる。
体力が回復したなら寝転がってる理由もない。
立ち上がって、体に付いた土を払う。
「ギンが回復してくれたの?」
「そうだよ。ごめんね。ここまでさせるつもりはなかったんだけど」
離れて見てたコウとマスターがやってきた。
「リリアちゃんお疲れ様。凄いじゃない。これなら十分に戦っていけると思う」
「でも私、全然歯が立たなかった」
『そんなことないよ。相手が大人気ない化け物だっただけだよ』
コウが慰めてくれる。
けど、それじゃダメなんだ。銀十士になって見返す為には。
「ギン! どうすれば強くなれる?」
ギンは地面を踏み鳴らす。
すると、地面から2つ、私とギンの前に岩山が出来る。
「この岩山、“魔纏”で殴ってみてよ」
どうしてかは分からなかったけど、取り敢えず私は言われたとおりに“魔纏”で目の前にある岩山を殴る。
岩山はガラガラと音を立てて崩れた。
「リリアの“魔纏”だと、力が分散されちゃって貫通力が足りない。リリアが目指すべきはこれ」
ギンは拳を振りぬく。
岩山には拳大の穴が開いていて、向こう側が見えていた。
「これが出来るようになれば、どんな敵でも勝てるようになるんじゃないかな」
「……どうやるの?」
「それは、自分で考えないとね」
「……そうだね。分かった。次は心臓抉り潰してあげるから覚悟しててね」
ギンはニコッと笑う。
「楽しみにしてる」
こうして新たな目標と、パーティーが出来た。