バレちゃいました
マスター室は十人くらいなら余裕で入れそうな広さだった。
置かれている調度品はどれも高級そうで、黒で統一されていた。
「そこのソファーに座って」
ソファーに座ったマスターが、向かいのソファーを指さす。
高級そうで少し気後れするけど、座った。
凄い。
硬すぎず、柔らかすぎない丁度いい座り心地だった。
これが高級ソファー……。
「それにしても精霊を連れたエルフの女の子をこんなに早く見つけられるなんて、私、運がいいかもね」
嘘。エルフだってバレた。
マスターの言ったことが信じられなかった。
『“風よ”』
「“水壁”」
コウが風の刃を出してマスターを攻撃するけど、床から噴き出した厚さ五センチくらいの水の壁がそれを防いでいた。
「コウ! 何してるの!?」
『リリアがエルフだってバレた。まだ、この人にしか気付かれてないから殺せばなんとかなる』
コウは今まで聞いたことない怖い声で言う。
コウを止めようと立ち上がったら、何故か私は浮いていて、そのまま扉の方まで飛ばされた。
『リリアはそこで見てて。危ないから近寄っちゃダメだよ』
『“集え”』
すると、コウの周りに風精霊が集まって来た。
突風が吹き荒れる。
コウが使ってるのは精霊術って呼ばれる精霊しか使えないもの。
精霊術をよく知らない私でも分かる。
コウはさっきとは比べ物にならない攻撃を放つ気だって。
「落ち着いて! 私は貴女達に危害を加えるつもりはないわ!」
『嘘つかないでよ。あんた達王国民にとって、エルフは処刑すべき存在なんでしょ? 私はリリアを守る』
「ギンに頼まれたの。貴女達を捜してほしいって」
『証拠は?』
「ギンが作った耳飾りの幻覚魔法を見破ることが出来たこと」
私は耳飾りを触る。
この耳飾りには幻覚魔法が付与されている。
私の種族特徴である長い耳を人間の耳に見せる幻覚が。
耳飾りは村を出るときにコウがくれたものだ。
だからてっきりコウが作ったのかと思ってたけど、違うらしい。
「これってギンが作ったの?」
「そうだよ。この世で最も大切な人に初めて贈ったプレゼント」
この場に居ない人の声がした。
私はキョロキョロ辺りを見回すけど、私たちとマスター以外見当たらない。
「出てくるなら早く出てきてよ。あんたのせいで私、超ピンチなんだから」
「上級精霊の相手はユーナには荷が重かったか……」
マスターの影から上半身を出してギンが言った。
私はびっくりしたけど、マスターもびっくりしてた。
「な、何でそんな所から出てくるのよ」
「インパクトが欲しいと思ってさ」
ギンはよっこいしょって言って、残りの下半身も出てきた。
「術の発動止めてくれる? 話がしたいんだ」
『分かったよ……私じゃどう頑張ってもあんたに勝てないし』
コウはとっても不服そうだった。
突風が止んで、集まってた精霊たちは皆、どこかに行った。
ギンは私の目の前まで来ると手を差し出してきた。
「私はギン。よろしく」
「私はリリア。ギンを見てると不思議な気持ちになる。昨日初めて会ったはずなのに、随分前から知ってる気がする」
「それはきっとリリアがシルフィーの転生体だから。顔も血の匂いも……何から何まで似てる。……シルフィーじゃないんだよね?」
ギンは何かに縋るように、期待するように言った。
「私はリリアだよ」
「そうだよね……」
ギンは俯いてしまった。
ギンになんて言葉をかけていいか分からない。
沈黙が永遠に続くかと思った。そんな時、マスターが声をかけてくれた。
「取り敢えず、立ち話はなんだし座って話さない?」
「でも……」
私がさっきまで居た所を見る。
凄く荒れていた。コウの近くにあったソファーは大破していて、とても座れるような状況じゃなかった。
ギンがフィンガースナップする。
すると、今までの惨状が嘘のように消えて、マスター室に案内された時のような綺麗な状況に戻った。大破していたソファーも元通りだ。
「これで、座れるね」
ギンがニコッて笑いかけてくる。
どうやって直したのかは分からなかったけど、とりあえず座る。
さっきと変わらない、良い座り心地だ。
全員が座ったタイミングでギンが切り出す。
「じゃあ、しようと思ってた話をしようかな……。私とパーティー組まない?」