謹慎受けちゃいました その4
ミラと2人きりになれる場所を探して歩き回っていたら、海に辿り着いた。
今日はちょっと肌寒いせいか、私達以外は誰も居なかった。
ここなら丁度いいかな。
私とミラは横並びで砂浜に座る。
……さて、どうしよう。
私がミラを連れ出したんだし、私から話しかけるべきなんだろうけど、どう話しかけるべきか。
「旅行楽しんでる?」
ミラが全然楽しめてないのは見てて分かるのに、苦し紛れに出てきたのはそんな言葉だった。
私のコミュニケーション能力不足が嫌になる。
村にいた頃は同年代のエルフは居なかったし、大人たちは“魔纏”しか出来ない落ちこぼれの私を馬鹿にするだけでコミュニケーションを取ろうとなんてしなかった。
だから、村にいた頃の話相手はコウだけだった。
「……うん」
「嘘つかないでいいよ。ミラはシーナのこと苦手?」
「そんなことないけど……」
「けど?」
「…………」
いつも言いたいことはスパッというミラにしては珍しく言い淀む。
ミラは視線をあっちこっちに向けて言う決心をつける為か、服をギュッと握った。
「シーナさんとはどういう関係なの?」
「どういう関係ってただのパーティー仲間だよ」
「私が何度もパーティー組んだほうがいいって言っても組まなかったのに、どうしてシーナさんと組んだの?」
ミラにそう聞かれて、私がエルフだって打ち明けるにはいい機会だなって思った。
「シーナについてはシーナの事情もあるし、私からは何も言えないけど、私がどうしてパーティーを組んでこなかったかは言える」
私は片方だけ耳飾りを外す。
両方でも良かったけど、外だし、誰かに見られたら大変だから念の為だ。
耳飾りを外して幻覚の消えた耳を見て、ミラはとても驚いていた。
ミラの反応を見て、私も初めて付けた時、そんな反応だったなって思い出す。
あの時は鏡を見ながら付けたんだけど、違和感なく変わったから、実は鏡じゃなくて薄くて透明な壁の向こう側に耳の形だけ違う私のそっくりさんがいるんじゃないかって思ったくらいだ。
ミラの反応に満足して耳飾りを付け直した。
ミラは恐る恐る私の耳に触れた。
「嘘。感触がある……」
何が楽しいのかミラは私の耳を執拗にモミモミしてる。
「そりゃ幻覚を見せているだけで耳が無くなったわけじゃないし」
「そういうことじゃなくって。ちゃんと人の耳の形に沿って触れるの」
ミラの言いたいことが分かんなくて、ハテナを浮かべる。
「幻覚魔法って視覚だけしか誤魔化せないの。だから触ったりしたらすぐバレるけど、これは触覚も誤魔化してる。耳って他人が触るような場所じゃないんだからそこまでする必要ないのに」
言われてみれば確かにって感じだ。
「ミラは私の耳、触るだけじゃなくてめっちゃモミモミしたけどね」
ミラは頬を少し赤くしてわざとらしく咳払いをした。
「とにかく! その耳飾りに付与されてる魔法はただの幻覚魔法じゃないってこと!」
ちなみに後でギンにこの耳飾りの魔法について聞いてみたら、
「耳飾りに付与されてる魔法について? まぁ、1言で言うなら、相手に誤認識させる魔法。幻覚魔法ってさ、本物を見えないようにして偽物の像を映す魔法なんだよ。像を映すだけだから、幻覚には触れない。
でもこれ違う。リリアが人族だっていう認識を相手に植え付ける。だから、リリアの耳を見ても人族の耳に見えるし、触っても違和感を感じない。相手の認識に依るものだから、人によっては見えてる耳の形だったり、感触が違うのも面白いポイントだよ」
「それって私達みたいな人族とは別の種族はどうなるの?」
私は人の耳なんて見たことも触ったこともなかったのに。
触ったことないのに感触まで認識できているのはおかしい。
「デフォルト設定があって、人族の認識が曖昧だとそのデフォルト設定の認識が植え付けられるよ。術式の構成とかはすぐに終わったんだけど、デフォルト設定を設定するのがとっても大変だった。私の理想の形と感触を実現したくて……。あの時ほど人族の耳について真剣に考えたことはないね」
凄い魔法なのは間違いないんだろうけど、最後の言葉で台無しだった。