謹慎受けちゃいました その3
露天街をそれなりに満喫した私達は宿へ戻ってきた。
ほぼ初対面のミラとギンが一緒の部屋は気まずいんじゃないかって思ったから、一人一部屋借りた。だから今は私一人だ。コウも居るから、厳密には一人じゃないけど。
「疲れたよもう……」
私はベッドに頭からダイブする。思ったより固くてちょっと痛かった。一人一部屋借りる為に少し安い宿にしたから、しょうがない。
『いやー、大変だったねー』
コウは凄く楽しげだ。私が大変な目にあっていたのに、コウは全然助けてくれないどころか、あの状況を楽しんでいた。
そう考えるとイラッとしたから、コウに向かって枕を投げつけた。
『甘い甘ーい』
コウまで一直線に飛んでいった枕は、コウに当たる前にピタッと止まった。それだけじゃなく、私の方に返ってきた。
寝転がってて避けられなかった私に枕がボフッと当たる。
……寝よう。
私は布団を頭の上までしっかり被った。
『もう寝るの? せっかくの旅行なんだから、徹夜しないと! 枕投げの続きは?』
ねえねえってコウがうるさい。
枕投げって、コウは風で飛ばしたのであって、投げてはないでしょ。コウの体より大きい枕を投げるのは無理なのかもしれないけど。
私は寝るのを諦めて、布団から抜け出した。
「やっぱり謹慎中に旅行に来たから、ミラも楽しめてないのかな?」
思い出すのはやっぱり、さっきまでのミラの態度。
ミラへのお世話になっているお礼なのに、ミラは全然楽しそうにしてくれてなかった。
『それも多少はあるだろうけど、ミラが不機嫌なのはもっと別な理由があると思うけどね』
どうやらコウには、ミラが不機嫌だった理由が分かるらしい。
「どうして?」
『リリアの立場だとそうだなぁ……ミラが担当している冒険者は今のところリリアだけだよね。でもそれがいつまでもそうとは限らない。他の人を担当することだってある』
言われてみれば確かにその通りだ。
何故かミラは私だけの担当でいてくれると思ってたけど、そんなことあるはずもなかった。
他の人に笑顔を向けたりしているミラを想像すると、少し嫌な気持ちになる。
『嫉妬だね。嫉妬』
嫉妬。
コウの一言で、この嫌な気持ちの正体が分かった。
そして少し嬉しくも思った。
私がギンとパーティを組んだことにミラが嫉妬してくれたこと。
『まあ、全部私の考えだし間違ってる可能性もあるけどね』
「どうしたらいい?」
『嫉妬でもそうじゃなくても、ミラと二人っきりで話し合ったら? 言わなきゃ相手には伝わらないよ』
「コウは大人だね」
『お姉ちゃんって呼んでもいいよ』
精霊は生きてる年月で強さが変わるらしい。そしてその強さは、低級、中級、上級、神級って4つに分けられる。
コウはそのうちの上級精霊。
どれくらい生きてるのかは知らないけど、相当長く生きているのは間違いない。
お姉ちゃんというよりも、お婆ちゃんのほうが正しい。
『何か失礼なこと考えてない?』
コウがジト目で見てくる。
「ミラの所、行ってくる!」
逃げるが勝ち。
私は急いで部屋を出た。
ドアの閉まるバタンッっていう結構大きな音に紛れてコウが何か言ってたような気がするけど、聞こえなかったことにしよう。……実際に聞こえてないし。
勢いよく出てきたはいいけど、どうやって話しかければいい?
ミラの部屋は私の借りてる部屋の左隣。あまり考える時間もなく、ミラの部屋の前に着いちゃった。
ノックをするのは決めてからにしようと思った矢先、ドアが勝手に開いたからドアの近くに居た私は頭をぶつけてうずくまる。
「大丈夫? リリア」
「全然大丈夫……それよりも外出かけない?」
頭をぶつけて、色々考えてたのが吹き飛んだ。
悩んでてもしかたない。当たって砕けろ。
ミラはコクッと小さく頷いてくれた。
そしてどちらからともなく歩き出した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「見ない間に随分大人になったね」
『あれから何年経ったと思ってるのさ』
「400年。この400年はとっても長く感じた」
『……』
「また巡り合えたのは奇跡だ。神様は大嫌いだけどこのことに関しては、感謝してもいい」
『……前世は前世。リリアとお姉ちゃんは別人なんだよ』
「分かってるよ」