謹慎受けちゃいました その2
話は2日前に戻る。
私達がゴブリン討伐依頼を完了させて、ギルドに報告に行った時の話。
「1日の出来事だったんだよなぁ。長かった」
「イレギュラーがあったからね。でもお疲れ」
『やったねリリア。ミラに褒められちゃうんじゃない?』
コウは無視して、ギルドに入る。
入ってすぐにミラと目が合った。
私達は見つめ合ってしまう。
「入り口で止まってたら邪魔になるよ」
ギンに言われて、ミラの所へ向かう。
依頼人受付――依頼人から依頼を受ける受付はそれなりに混んでたけど、受付は空いていたからすぐだった。
「ただいま」 「おかえりなさいませ」
ミラと挨拶のタイミングが被ってしまって少し恥ずかしい。
「はい、これがゴブリンの討伐証明」
誤魔化すために、慌てて討伐証明を出す。
ゴブリンの右耳が8個。
「確かに確認しました。依頼では2体の討伐となっていたので、追加報酬も加えておきますね」
「ありがとう。それと、まだあるんだけど」
「ゴブリンですか?」
私はギンに視線を向ける。それでギンは私の言いたいことが分かったのか何も言わずにフィンガースナップをする。
村で倒した奴隷商たちの死体がギルドの床に積みあがって出てきた。
「これだよ」っていうギンの言葉は、依頼人受付のところからの絶叫でかき消された。
「キャー! 死体よ!」
「キャー!」
依頼人たちは我先にとギルドから出ていった。
「シーナさん! とりあえずしまってください」
「せっかく出したのに」
「いいですから」
死体を黒いものが覆ったと思ったら死体は消えた。けど、血は床についたままだった。
「何事なの?」
マスター室からマスターが出てきた。
マスターは辺りを見回して、私達が原因だと気付いたのかため息を吐く。
「あなた達はマスター室に。ミラちゃんは申し訳ないけど床を掃除してから来て」
私達はマスターに付いて行く。
怒られちゃうんだろうか。
「ミラちゃんが来てから状況を聞くからそれまで待ってて」
「はい」
「ところで、初めての討伐依頼はどうだった?」
「ギン達に助けてもらってばっかりでした」
「初めてならしょうがないよ。次に生かせればいいから」
「頑張ります」
マスターと話をしていると、ドアが控えめにノックされた。
「入っていいよ」
ミラがマスター室に入ってきた。
「じゃあ話を聞こうか」
ミラからマスターに話した。完了報告をしたこと、死体を出したら騒ぎになっちゃったこと。
「それで? その死体っていうのは?」
「奴隷商が居たから討伐したんだよ」
「紅き狼って村人が言ってました」
蔵でのことを思い出してちょっと嫌な気持ちになる。
コウが殺気立ってたから、あの場では冷静でいれた。周りが熱くなってると、自分はかえって冷静になれるって話は聞いたことがあるけど、どうやら本当らしい。
「リリア! そんな危ない奴らと戦ったの?」
ミラが凄い剣幕で怒る。
「それって国から懸賞金かけられている奴らじゃない」
「やったねリリア。奴隷商討伐報酬だけじゃなくて、懸賞金も貰えるよ」
犯罪者を討伐すると、国から治安維持に貢献したとして、報酬が貰えるんだけど、今回はそれに加えて、懸賞金も貰えるようだ。
「次も頑張ろうね。リリア」
「うん」
「そのことなんだけど、あなた達には謹慎を受けてもらいます」
「何でさ? ユーナ」
ギンが勢いよく立ち上がってマスターに詰め寄る。
「あなた達のせいで、仕事が減るかもしれないからよ。冒険者の仕事は依頼人が居るからこそのものよ。依頼人は、“宵闇の宴”を信頼して依頼を出してくれる。あなた達はその依頼人たちからの信頼を損なう行為をした。よって“宵闇の宴”ギルドマスターとして厳しい判断を下します」
「仕事が減らないかもしれないじゃん」
「現に仕事が減ったじゃない。依頼人たちが逃げたんだから、その依頼人たちが依頼してくれるはずだったものが減ったんだから」
そう言われると反論できない。ギンも黙ってしまう。
「そしてミラちゃんも謹慎よ。監督不行き届きで。リリアちゃんの監視も兼ねてるわ」
「わかりました」
「ちょっと待ってください。ミラは関係ないじゃないですか」
ミラも謹慎になりそうになって、それは流石におかしいと思う。
悪いのは私達だけだ。ミラは関係ない。
「これは決定事項よ。ミラちゃんは引継ぎの準備して」
「分かりました」
ミラは何も文句を言わないでマスター室から出ていった。
「リリアちゃん、ごめんね。ミラちゃんを休ませたかったのよ」
「どういうことですか?」
「ミラちゃんは言っても仕事を休まないのよ。働きすぎもよくないから休むようにいつも言ってるんだけど、大丈夫ですの一点張りで……だから謹慎として強制的に休ませようと思ったのよ」
たしかにミラの家に住むようになってから、3ヶ月近いけどミラが仕事に行かない日はなかった。ギルドは毎日開いてるし、そういうものだと思ったけど、違ったようだ。
「謹慎と言ってもそんな気にすることないわ。気晴らしにどこかミラちゃんと旅行行ったら? 今回の依頼でお金いっぱい入るでしょうし」
ミラにはとってもお世話になってるし、何かお返しをしようと思ってたからいいかもしれない。でも……。
「良いと思うんですけど、ミラの性格的に謹慎中に旅行は無理だと思うんです」
ミラってばとんでもなく頑固だから。
謹慎中は家に居て反省しなきゃいけないと思うはず。
「たしかにそうね……」
マスターは腕組みをして考えてる。
「だったら私に良い考えがあるよ」
私とマスターで悩んでたらギンがそんなことを言いだした。
正直、ギンの考える良い考えってのは不安だ。
「ミラってリリアの監視も兼ねてるんでしょ? だったら簡単じゃん。リリアが勝手に旅行に行っちゃえばミラも付いてくるはずでしょ」
こうして私達はケルトの街に旅行に行くことになった。
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