【(元)魔王、冒険者になる】01
(会いたい、あの人に会いたい、会いたい、会いたい······)
もお、どれだけの年月をココで過ごしただろうか?
1年?5年?10年?それとも、もっと長い年月が経ったのだろうか?
あぁ、あの人に会いたい。
会いたい。
会いたい·····。
今すぐこんな退屈な所から飛び出して、あの人の元へ向かいたい。
だがそれは、叶わぬことくらい我が一番よくしっている。
誰でもいい·····我をココから解放してくれぬものか·····。
◼
西の山脈にある洞窟の入口に2人の人影があった。
「うわ〜ひろ〜い!」
「そうっすね!こりゃ迷子にならないか心配っすね!」
2人はある依頼書の為にここを訪れていた。
一人は、錆び付いたボロボロの剣を腰に刺し、木の盾を装備した軽装備の男と茶色ローブを被り、木の杖を持った金髪碧眼の少女だった。
「それにしても俺達が·····大丈夫なんすかね?」
男は浮かぬ顔で、そんな事を言う。
彼が、心配になるのも無理はない。
彼らは、冒険者になったばかりの、駆け出し冒険者なのだ。
そんな駆け出し冒険者が、受ける依頼書にしては、報酬が多額すぎる·····。
「だ〜いじょうぶ!だ〜いじょうぶ!」
そんな彼の心配とは裏腹に、少女は生色としていた。
「さあ〜いくわよ!オーーーー!!!!」
「オ、オー!」
初の依頼書に気合を入れ直す二人。
はぁ·····何も起きなきゃいいっすけど·····。
こうして2人は、洞窟内へと進んで行った。
◼
誰かが洞窟内に入ってきたのか?
気配は·····2人、か!?
何か起こるかもしれぬ!
気配は·····探知出来てもここからじゃ様子が何もわからない。
仕方ない·····
残り僅かな魔力で、この洞窟内の魔物の目をリンクさせてもらおう。
(視覚リンク)
ん·····んん·····これは·····黒い羽に二本の鋭い脚、ブラック・バット、か?
丁度いい、これで気配のした二人を探すとしよう。
◼
「きゃあああああ」
「うああああああ」
洞窟内に二人の絶叫が、反響する。
全力で走りながら、あるものから逃げる二人。
「な、なんなんすかあれはー!」
「知らないわよ〜!」
⦅ガサガサ、ガサガサ⦆
その二人を追うように、後方から物凄い勢いで追うものの姿があった。
体調は、五メートルを超えるだろうか?大きく膨れ上がったお腹は、気味悪く蠢めいている。身体を支える八本の足は人の腕程の大きさだ。
彼らを後方より追いかけていたのは、1匹の蜘蛛だった。
通称・ビック・スパイダー
「と、とりあえず、アソコにかくれるっす!」
大きな岩場を見つけた冒険者の一人がそう言うと、二人は岩場へと隠れた。
「マルク、あんたどうにかしてよ」
「むりっすよ!見てくださいよわっしのこのぼボロボロの剣·····ユーリこそ遠距離から魔法で何とかするっすよ!」
二人は蜘蛛に気づかれないように岩裏で、そんなやり取りをしていた。
「そもそも装備も揃えずに来るのが間違いだったんすよ!」
「しょうがないじゃない!お金無かったんだから〜!」
こんな事なら、薬草採取の依頼やらスライム討伐の依頼なんかを受けて、地道に装備を整えるべきだったと·····二人は心の底こら思うのであった。
⦅ギギィィィィ!⦆
突如洞窟内に、不気味な鳴き声?が響き渡る。
音のした方に目を向けるとそこには、先程の蜘蛛を囲うようにゴブリンが1、2、3·····20匹いた。
話してるようにも見えるが、威嚇しあってるようにも見える·····そもそも魔物に言葉というものがあるのかどうか·····。
⦅ギギ!⦆
突如1匹のゴブリンが、蜘蛛に攻撃を仕掛けた。
それと同時に1匹、2匹と次々とゴブリンは、蜘蛛に襲いかかる。
が、蜘蛛は動じる様子もなく邪魔な物を退けるかの動作で、太いその脚で襲いかかるゴブリンを横薙ぎにした。
たった一度の一撃に、20匹いたゴブリンは半分近く殺られてしまった。
その光景をみた残りのゴブリン達は、とても適わないと悟ったのか、次々に逃げてゆく。
邪魔者が居なくなったのを確認した後、蜘蛛は倒れたゴブリンの方にゆっくりと歩より、
⦅ムシャッ!⦆
蜘蛛は、倒れたゴブリンをその強靭な顎で捕食しだした。
洞窟内に肉が潰れるような、骨が砕かれるような、そんは嫌な音が響きわたる。
「な、何あれ·····た、食べてる?き、きもぢわ、オェェェ」
そんな異様な光景を、目のあたりにしてしまった金髪の少女、ユーリは真っ青になりながら·····ぶちまけた。
「や、やや、や、やめてくださいっす!わっしまでも吐きそうになりますっす!」
そう言いながらも、ユーリの背中を優しくさすってあげるマルク。
⦅バサバサ⦆
天井に二本の脚を突き立て、そんな二人の様子を眺める者がいた。