囚われのアインと精神の陥落
-騎士の国アシュヴァルツ王宮の地下にて:
「ぐ・・・・ここは・・・・」
(・・・・頭がぼんやりする・・・・くそ・・・)
アシュヴァルツの騎士団長アインの体はツタ状の植物に絡めとられていて身動きをとることができなかった。
また、あたりを見回してもびっしりと同じようなツタが生い茂っており自分が王宮のどの辺りにいるのかさえ把握することは難しかった。
「みんな・・・・・・すまない・・・・・」
アインの胸には、王都が陥落した日のことが思い出されていた。
最後まで戦った仲間たちのこと。
約束を果たせずに囚われの身となった自分自身への不甲斐なさ。
長い時間アインは、後悔と無念に苛まれ続けた。
また、それから幾日か過ぎたある日のこと。
アインは失意の中から抜け出せずにぼんやりと虚構を眺めていた。
ただ、不意にどこからか甘い花の香りが漂うことを感じ意識が混濁した。
(・・・・この香りは・・・・)
霞む目の焦点を合わせると、そこにはこの世でもっとも憎むべき存在がたたずんでいた。
「・・・・きさ・・・まは・・・・!!!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
目の前にたたずむ少女のような姿をした悪魔は何も答えずにこちらをじっと見ていた。
「・・・・・・・・・・」
あたりには花のなんとも言えない甘い香りが満ちていた。
意識がこの甘い香りに根こそぎ持って行かれそうになるような。そんな時間が永くつづいた。
意識が甘くけだるいような渦に飲み込まれつつある中、
胸元に突然激しい痛みが襲いかかった。
「・・・・・・ッ!!!!!!!」
また、しばらく続いた激しい痛みのあとは
何か甘いトロトロとしたものが身体に流れこんでくるのをアインは感じていた・・・・。
(・・・甘い・・・・・・・・・・・)
甘く突き刺さるような感覚が頭の先から身体中に染み渡り心がその甘さに流れていった。
「・・・・・・・・・・・・」
甘く混濁していく意識の中、久しくアインは満たされて眠りに落ちていた。
-騎士の国アシュヴァルツ王宮の地下にて:
王都陥落からアインは満ち足りた睡眠をとっていなかったのだが、その日はなんとも言えない心地よく甘い感覚に包まれて眠りに落ちていた。
甘く、心地よく安らかで幸福に満ち溢れた感覚・・・。
ずっと包まれていたいようなそんな感覚。
また、アインは目が覚めるとツタに囚われたままのいつもの風景がそこに広がっていた。
囚われたまま過ぎ去る時間。
それは果てしなく長く感じられた。
アインの中には昨日の甘い感覚が過ぎ去り、苦痛が押し寄せて来るのを感じた。
(ひどく、胸の中が苦しい・・・まるで何かが体の中に根を張り蠢いているような・・・)
ミシミシと胸の中を食い破るようなそんな感覚苦痛がアインを襲っていた。
果てしなく続く苦痛の渦の中またアインの目の前にあの少女が姿を表した。
また、もがき苦しむアインの胸に手を触れた。
すると、アインの苦痛は治りまたあの、甘ったるいような幸福に満たされたのだった。
「・・・・・・・・・」
相変わらず、少女は何も話さずアインの方をじっとみていた。
「・・・ぐ・・・ぅ・・・お前・・・一体俺に何をしたんだ・・・・?」
アインは、ぼやける焦点を必死に合わせながら少女に問いを投げかけた。
「・・・・・私の力を与えたの・・・・・。」
「お前の・・・・?・・なんだそれは・・?」
「これ・・・・・・」
そう少女が言葉を投げまたアインの胸に手を当てると、またアインの胸に激痛が走った。
「がはっ・・・ぐ・・・が・・・!!!!」
しばらく、苦痛は続きやがて痛みが少しづつ引いていくのを感じつつ、アインは胸元に目を向けた。
見ると胸元からは自分の肉体を突き破りツタと葉が顔を覗かせていた。
「・・・・・!!!!?・・・!!これは・・!!!!?」
「これは私であり、そしてあなたのもの・・・・。」
「ほら・・・・こうすると感じられるでしょう・・・?」
そう言って少女は胸元のツタや葉を優しく撫でた。
また、あの甘く柔らかな感覚がアインを襲っていた。
「・・・・・・・っ・・・!!!!」
「・・・あなたに根付いたその子は、やがて綺麗な花を咲かせるでしょう。」
「・・・・・なんだと・・・・・?」
「私がその子を育ててあげる。」
「・・・・ばかな・・・!?お前は何を言っている・・・・・・!?」
そう言って、リリファはアインを優しく包み込んだ。
暖かく柔らかな感覚と甘い香りに包み込まれアインは意識が遠のいていくのを感じていた。
また、数刻がすぎてアインは目を覚ましていた。
「・・・・・・・・・・・・・」
まだ、柔らかく甘い感覚が体に残っていた。
また、ふと見るといつもはツタに縛られているはずの自分の身体が自由になっていることに気がついた。
「・・・これは!・・・一体・・・!?」
また身体が自由になったアインは、あの少女を求めて歩き出していた。
まるで砂漠で乾きに耐えかねて水を求めるかのようにあの少女を探し求めていた。
王宮の階段を駆け上り城の最上部にでたところにその少女は佇んでいた。
まる、ここにくることがわかっていたかのように少女はアインの方をじっと見ていた。
「・・・・・俺は・・・・・お前にまた会いたくなった。お前の名前はなんと言うんだ?」
「・・・・・・・リリファ・・・・・・・・」
「リリファ・・・・お前を護らせてくれ。お前に俺の全てを捧げたい。」
アインは頭を垂れリリファの前にひざまづいた。
リリファはそんなアインの頭をそっと撫で下ろした。




