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復讐者、不屈の卑屈

ラッシュの花園で今日もリョウマは修行している。


この花園には色とりどりの花があるが、どうやらここは実際にあったかつての花園を開拓し、ここまで広くしたみたいだ。


「おぉーリョウマ―、調子はどうだ?」


庭師のような恰好をしたラッシュが、丘の上で修行をしているリョウマに声を掛ける。


リョウマは疲れたように言う。


「全然できない!【英雄】がないだけでここまでだとは思わなかった!」


花園の花々は風によってゆらりゆらりと揺れ、まるであざ笑うかのようにしてリョウマの修行の失敗を見守る。


リョウマは改めて己の無力さを噛み締めた。自分がこれまで良い思い…言葉が悪いので、言い換えると…それ相応の地位と名誉があったのはスキルがそもそも良かったからだ。


リョウマが心優しく、意外とモテていても、それがある程度まかり通るのは異世界かつ、実力があったからだと…本人は思ってしまった。


「俺…このまま帰ったら、生きていけるかな」


改めて、この異世界での生活の恐怖が体に流れてくる。

悲観というやつだ。


「リョウマ、落ち着け」


「はっはい?」


ラッシュがリョウマの様子を見かねて声をかける。

いつの間にか側までやってきたラッシュ。


「お前は少し考えすぎだ。そりゃ、そういう建前の力で人を判断する奴もこの世にはいる。だが、その恐怖は決してその人達に対しての恐怖じゃないぞ」



さらに続けて、ラッシュはリョウマの感じている悲観の正体を言う。


「その恐怖は…事実を知った事を忘れるための恐怖だ。恐怖に陥れば正常な思考ができないからな」


気休めの恐怖といえばいいのだろうか。

自分を悲観する事で慰めているのだ。


「そういう人がいるから恐怖しているというからではなく、こういう人がいるから俺は怖くてだめだと…君の心の中で産んでしまっているんだ。それで終わらせて、その先を考えないんだ。」


腕を組みながら力強く言うラッシュ。


「考えるなと言わないけど、というかお前じゃ無理だと思うなはは…考えるのが癖になっているからな」


「うっ、そんな事は」


軽く否定するも、ラッシュはそんなリョウマを無視して言う。


「なら、違う事を考えろ。逃げだと思っていいから、とにかく楽しかった事を考えろ」


「それって想力の取得に繋がりますか?」


リョウマは楽しかった事を思い浮かべるのと、想力がどう繋がるのかが分からなかった。


「なる。まず楽しかった事を思い出せば、それが自然とこの世に存在したいという意思になる。そして、その思い出をきっかけ、他の存在に共感を貰って、エネルギーをいただくんだ。」


「ここで楽しかった事か…」


最初は…異世界召喚をされる前は普通の生活をしていて…でも、召喚された時はラノベやアニメの世界だから少し嬉しかったのは覚えている…


しかし、変化はない。


「これじゃないか」


じゃあ、ラフロシアやアマンダといった魔王国のメンバーに出会えた事か?

いや、薄いな…


次にリョウマはランドロセル王国の事を思い出した。

あの時は魔物とレンコと一緒にいた時しか楽しくなかった。


魔物を狩れた時の達成感はあったし、楽しかった。いつかの死線も潜り抜けた。


そして、レンコの温もりはすり減ったリョウマの心には必要だった。

当時は大事にしていなかったが、リョウマは改めてレンコの存在の大きさを認識した。


それでも…変化はなかった。


「なんか違うのか」


そして、復讐の時


あの時の魔王感は…嫌、今思い出しても心が痛いな


絶対に違うなとリョウマはそう決めた。


「ダメだ…楽しい思い出がないよ」


「…君…意外と超のネガティブ?」


「それ程ではないですよ…流石に…」


自信が他社よりも薄いのは認めるが、ネガティブではないと言い張るリョウマ。

この言葉に矛盾しているのも気づいているが、そうなのだからそうだと彼の心は言い決めている。


そして、それゆえの発想があった。


「あっ!」


「どうした」


「少し試したい事がありまして…」


そして、改めて、リョウマは座り込んで、胡坐をかく。


「…」


手のひらの中に集中する。


「…」

「…」

「…」

「…」


そして、5分後にそれは出た。


白い小さな玉だ。


「うぉーーーーーーー!」


「はぁ…でた、エネルギー玉…やった」


リョウマは軽い汗かきながらも見事想力の最初の段階を自力で駆け上がった。


「なんで、出来るようになったんだ?やっぱ、いい思い出が見つかったからか?」


「いえ、その逆です」


リョウマはどうして想力を集められたかを説明した。


「俺はまだこの世界で、心の奥底から楽しいと思える思い出がありません。でも、守りたい人や国があります。だから、こう思う事にしました。…どうかその者達と共に素晴らしい思い出をこれから作るために力を貸してください…ってお祈りしながら想力を練っていると無事に出来た感じです」


卑屈と感謝の重ねた祈りでリョウマは想力を集める事に成功したのだ。

それは彼なりのやり方だとラッシュは舌を巻いた。


「そんな方法でか…すげーな…でっどうだ?なんか、霧を掴んでいる感じだろ?今」


「はい、【英雄】を持っている時はそんな感じしなかったんですけど…今はこの白い玉に感触という物があるのだと理解しました」


「それがあればと、とりあえず大きくするのはそう時間が掛からないはずだ…やってみよう!」


「はい」


そして、それから数時間、特訓は続いた。


時間をかけた事もあって、ラッシュの言う通りに…一日の終わりの前に玉を人間大の大きさにする事ができた。


「よーっし、今日はここまでだ!」


「えーっ後、もう少し」


リョウマは感覚を取りつつ今のうちに体内に移動させる特訓に入りたかった。

しかし、ラッシュに反対される。


「お前、気づいていないとは言わせないぞ」


「くっ…」


「掌が痛いはずだ、そして体全体もな」


「魔力とは違う…想力は本来、自分とはよそのエネルギーだ…それを維持するのは【英雄】がないと相当な集中が必要だ。そして、エネルギーが大きくなれば大きくなるほど、身体へのダメージが大きいはずだ。体中の血液がぐるんぐるん回っているみたいにな」


確かに、風邪を引いた時みたいな、筋トレをした後の血管がパンパンになったような感覚を現在体で覚えているリョウマ。


「焦るな、想力も慣れが必要だが、つまりある程度時間が解決してくれる。一晩のインターバルを入れる事で、その分体内に入れるのがはやくなるだろう」


「なるほど」


「だから、まぁ【英雄】がない事を噛み締めておくんだな。あれは相当便利だって分かったでしょ?」


「はい、でも同時に、想力を使える時に…【英雄】を使ったらどのようになるか気になります」


「なるほど、それは俺も気になるねぇー」


周りの存在をエネルギーにしていただく想力。それを生身で取得した人が【英雄】を使えば、どれ程、一体どれ程の想力が扱えるようになるのか。


「まぁ、話で聞くジュライドでの威力は超えるだろうな」


「それってなんだかワクワクしません?」


「お前って…やっぱ子供なんだな」


色々と死線や立場を担っているリョウマだが、どうやらその本心は子供のように純粋だとラッシュは考えた。


(子供のように純粋だからこそ…災難にある度に心が大きく揺れる。そして、他の人に指摘されるのに弱い…だが、こういう人物は…のせるとのせるだけ強くなる)


ラッシュはこれでも元は国王。


今でこそ、庭師の格好だが、元魔王国国王なのだ。


人心掌握はお手の物だ。


まずは休みを入れろとしっかりと指示する。


そして、ちゃんと褒める。


「いや、でも凄いよ、本当。想力をわずか一週間で会得するなんてさ、よく自分を見ている証拠だね」


「いえ、卑屈なだけですよ」


「はは、だが、しっかりと出来たんだ。だから、今日はもう休みな」


「…はい、分かりました。」


そうして、リョウマはレイジの小屋へと戻っていった。


ここ一週間は3人でレイジの小屋で寝泊まりをしている。


「褒めたはいいものの…、時間が持つかな」


実はラッシュはレイジを通して、リョウマの世界で今何が起きているか、知っている。


そして、その敵がどこかという事も。


その国にいる人物でラッシュも警戒する人物が一人いる。


「あいつがまだいる可能性、リョウマを強くさせる他にないよな」


集中してもらう他にない。


だから、リョウマにはまだ言っていないのだ。

魔王国が襲撃を受けて、それにより仲間達が反撃に出ようとしている事に。


ラッシュは花の手入れをするために、しばらく散策すると、リョウマと同じく小屋へと戻るのだった。










「いやー、疲れた」


先に帰ってきたリョウマはそのまま部屋にあるソファに横になる。


「おう、お疲れ」


レイジが奥にキッチンから顔をのぞかせる。


どうやらご飯を作っているようだ。


ここ最近はレイジが用意してくれる。


「思ったけど…ここでの食事は一体どうなっているの?」


本体はおそらく眠っているのだろうが、それでもこの世界いるとお腹は減る。

そのエネルギーの行き先が気になったリョウマ。


「一応、感覚は元の体とリンクしているから、ここで食べたエネルギーはちゃんと元の体のエネルギーに変換される。だから、糞もしないぞ。すでに栄養だけの存在だからな」


「あぁー、それはよかった…あっちで糞まみれだと思うと、泣けてくるからな」


「じゃあ、飯にするか」


そういうと奥へと引っ込むレイジ。


「お願いします」


こうして、飯を作るレイジ、そしてそれを待つリョウマ。


しばらくしてラッシュも帰ってきたので、ご飯の時間になる。


レイジの飯の食べるとリョウマは思う…


「ケンよりもうまくね?」


この事実をケンにどう伝えるか迷うリョウマだった。


ここまで読んで戴き、有難うございました。


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東屋

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