復讐者、名前を呼ばれる
リョウマは考えた。
ラッシュ達の言う神という存在は正直に言えばリョウマの考えで断定するまでに至れなかった。
(そもそも会っていないしな…)
リョウマは自分が深く反省した事もあり、あまり人に厳しくしないように心がけるようになった。
これは常に優しく居ようという考えではない。ただ、すぐに怒ったり、特に話し合いもなく迫る事は絶対しないようにしようと思ったのだ。
そして、深く考え末に、最初に思った答えにたどり着いて、リョウマは言った。
「一緒に戦わせてください」
答えは最初から決まっていた。
後は少しばかり、その答えをより強固にするために時間が必要だっただけだ。
「俺だってこの世界に守りたい存在がいます」
レンコやヒカリ…そして魔王国や旅で出会った仲間達がいる
「でも、それ以上に…自分で創った世界に見限りをつける…勝手にダメだと決めるその神って存在が…俺は無性に腹が立ちます」
自分はいうなれば一度堕ちた身だ。結果が良かっただけで、過程は最悪だ。
だからこそ分かるし、思う。人の評価は必ずしも決まるもんじゃないと。
だめだったかもしれない。悪いやつだったかもしれない…それでもその人は絶対悪だという評価は誰にもつけられない。それなのに消すという評価になるのは些か乱暴な強行だ。
「ラッシュの作った国…凄く居心地がいいんですよ」
「あぁ、有難う」
「…ちなみに異世界召喚の魔法ってラッシュさんが考案したんですか?」
ここで気になっていた事を聞くリョウマ。
かつては初代魔王だったラッシュ。
それならリョウマのしてきた異世界召喚魔法を知っているのではないかと思って、聞いてみたのだ。
別に深い意味はない…ただ気になって、すっと聞いてしまった言葉だった。
しかし、思っていたのと違う答えが返ってくる。
「え?魔法は俺全然だよ?妻がそういうのは得意だったけどね…その魔法は少なくとも俺が生きてる時には聞いた事ないな…」
どうやらスキルの力で王まで駆け上がったみたいだ。それはそれで凄いが…
「そうなんですか…実は俺、異世界人でその魔法で魔王国に召喚されたんですよね。それで、その魔法はどうして出来たのかなと思ってラッシュさんなら何か知っているんじゃないかと思って…」
そしてラッシュはリョウマが異世界人だと知り、驚いた。
「へぇー、異世界なんてあるんだ。ってごめん。。。その魔法についてだよね…うーん…俺は何も知らないよ」
どうやら本当に知らないようだ。
「一応…今の魔王である…アマンダ・レイフィールドが行ったのですけど」
アマンダの事を知っているか分からないが、今の魔王国を気になっているだろうと思い、伝えると…
「アマンダ!あの国家象徴が魔王になったの?」
「え?!アマンダって国家象徴だったんですか?!」
意外な事実をリョウマは耳にした。
アマンダがラッシュの時には国家象徴だったのだ。
「あぁ、俺が死ぬ間際に指名した国家象徴だよ…そうか…彼女は優しいからきっといい政治をしているだろうな」
どうやら当時から素晴らしい存在として国を引っ張ってきたんだ。
「えぇ、そうでしたよ。俺の事も異世界から連れてきたから心配していましたし…でも、その分よくしてくれましたから楽しかったです」
そんな風に軽く魔王国の話になる。
しかし、本題を忘れてはいけない。
「おぉーと話をしている場合ではないや、レイジにリョウマ君の想いを伝えないとな」
「そうですね」
そして、丘を降りて、レイジの小屋の方へと戻る。
再び、レイジがドアから出てくる
「そうか…その表情は共に戦ってくれると承諾したのだな」
「いいのか?お前はそこのラッシュみたいに死ぬかもしれないし、君の周りの者に危害を及ぶかもしれない」
確認だろうか、再度リョウマに忠告をするレイジだ。
こうなる事は予測していたので、素直に思っている事を言うリョウマ。
「それでも、俺はその神に一言言いたいな…人の事を勝手に決めて、絶望なんてしてんじゃないってな」
見直しもせずに決めつけるなんて不快だとリョウマは思った。それなのに邪魔だと思ってラッシュを殺してしまうとか一体どういう独裁者っぷりを発揮しているのかやら。
そこである事にも気になって、後ろのラッシュに聞く。
「あれ…ラッシュさんはどうして殺されたのですか?」
頭を掻きながらラッシュは答えた。
「そこらへんの記憶があいまいなんだよね…背中をぐさーだったのは覚えているんだけど…誰に殺されたのかまでは…そもそも生きているか分からないしね」
もう150年程昔の事なので、エルフが犯人でない限りは犯人も死んでいる。
そうこうしている間にレイジの答えもまとまったみたいだ。
「そうか、リョウマの覚悟は伝わったよ」
その一言にリョウマは驚愕した。
「今…リョウマって」
嬉しそうなリョウマを他所に、さも当然と言わんばかりにレイジはいった。
「いい加減よそ者扱いも疲れたからな…改めて宜しくだ…リョウマ・フジタ」
「うぉー!」
両手を上げて、リョウマは喜んだ
「そうなんだよ、レイジに名前呼ばれるとなんか嬉しいんだよね」
うんうんと頷きながら、ラッシュも同調する。
「子供かお前らは…んで、【復讐】をどうにかして想力を得る方法だが…」
そして核心を話そうとするレイジ。
しかし、言葉では実に簡単だという事ラッシュとレイジは思い知らされる。
「一旦、スキルを全部俺に譲れ」
手のひらを上に向けて、指を曲げて、頂戴のサインをするレイジ
「全部?」
リョウマは全部がどういう意味かまだ理解していなかった。
先に理解したのはラッシュだ。
ラッシュは言う。
「ちょっと待って…全部だとスキルが亡くなるから…想力が…」
そう想力は【英雄】のおかげで出来ている。なので、もしそれが亡くなるという事は…
「生身で得るしかないな…一から」
「そんなぁーーーーーーーーーー!!!」
リョウマの悲痛な声が花園に木霊する。
涙目を堪えながらに後ろにいるラッシュに聞くリョウマ。
「ねぇ、ラッシュさん!どのくらいかかりますかね…」
ラッシュはこれ程答えづらい質問はないと思いながらも、素直にどのくらいの期間が掛かるか答えた。
「…センスにもよるが…1か月は最低かかるな」
「マジですかー!」
再び、リョウマの悲痛な声が花園に木霊する。
そして、軽い涙も出るのだった。
こうして、一から再度リョウマの修行は始まるのだった。
ここまで読んで戴き、有難うございました。
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東屋