復讐者、嵐前の静けさ
一方、魔王国では平和な日々が続いていた。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
「ふんふんふん~♪」
「どこからそんなスタミナあるんですか」
「まぁ…これは元からの持っているものだから、ほら?僕は天才だからにゃー」
ここは魔王城の練習場。
魔王国三大将軍の一人であるルカルド・ラオハートに師事する事を決めたラウラ・オードバルは日々事務仕事を片付ける傍ら、ルカルドに武術、そして己のスキルの使い方を習っていた
彼是、一時間ぶっ続けで模擬戦闘を行っているが、未だにルカルドに一発を与えられていない。
(あんなので私のスキルが効かないなんて…)
汗を腕で引き取り、次の攻撃の出方を伺う。
練習だが、緊張感をもって取り組んでいた。
そしてラウラはスキルを発動して、ルカルドへと向かう。
息をめい一杯吸い、今出せる最大速度で走り抜ける。
すると、ルカルドは説明口調で話し始める。
「ラウラのスキル…【存在無視】は相当つよいスキルだなにゃー、まず初見で見破れるのはそう多くないにゃ」
そしてポケットからある物を出すルカルド。
「だけど、どうやら対象を一人にしか使えない事と、物理的法則で発生する認知からは逃れられないらしいにゃ」
そういうと、地面にポケットから出した煙幕玉を出して、地面へと殴りつける。
ポンという音がなると同時に大量の灰色の煙が周囲を舞う。
「こうして、煙幕や砂塵で君の位置を把握する事ができる…多人数の時は言わずもがなだにゃー」
二人いれば片方に気づかれる。そして、こうすれば、一人相手でも位置がばれる。
ルカルドから見て右側の煙に空間ができる。そこにラウラはいるのか分からないけど、ルカルドの認識では誰かいるという事が分かった。
「そして、息を止めている間しか使えない…走っていても…持って三十秒だにゃ」
ラウラの【存在無視】は息を止めていなければ発動しないらしい。
ルカルドは瞬時にラウラのいるであろう空間に飛んで、足があるであろう位置を左足で捌く。
「きゃっ!」
声を出した事で呼吸を開始してしまったラウラ。そして【存在無視】が解かれる。
こうも容易く扱われるのも一番の弱点があるからだ。
「一番の弱点は…武術の才能がないんだよね…ラウラっちは」
性格に言えば一撃必殺の技や魔術がまだ彼女にはないのだ。
倒れたラウラ、そして後ろに手套を掲げる事で倒した事を示す。
「参りました…。でも、うーん、ナイフまでは【存在無視】の効果が及ばないのですよね…」
透明になるわけではない…そして自分の体以外はスキルの効果が及ばない。
便利なスキルだが、色々と制限があるのは悔しい所だ。
「あの死んじゃった犯人の一人の首絞められたのはどうだったにゃ??」
「あれは、火事場の馬鹿力で出来た事で…また出来るかどうかは…」
マッコウを倒した時の事を思い出す。そして、自然とその時に亡くなったロウド氏の事も思い出す。
ラウラの気持ちが少し沈み、顔に影ができる。
それに見かねてルカルドは言う。
「ラウラっち。落ち込んでる暇はないにゃ。人間生きていれば誰かしら死ぬにゃよ」
「そうですけど…いえ、そうですよね…それにメグやリョウマさんもきっと旅で強くなっているでしょうし…私もくよくよしていられません!」
暗い事よりも明るい事を思い出して心を軽くするラウラ。
「その調子にゃ」
「…というか、ルカルドさん…貴方のスキルって一体何なのですか?」
ずっと特訓に付き合ってもらっているが、未だにルカルドのスキルは分からない。
ルカルドはるんるんとしながら練習場から出て行こうとする。
「見抜いてみなしゃいにゃー、僕は自分のスキルを教えない主義だなにゃ。それともう時間だから帰るよー」
「えー、ずるいですよ…対策とれないじゃないですか」
「にゃにゃにゃ…それもまた修行ですにゃ」
そういってルカルドは自分の部屋へと帰るのだった。
「そういえば、ルカルドさんの部屋ってどこなんだろ?」
ラウラはそんな事を考えながら、自分も部屋へと帰るのだった。
◇
魔王国の魔王城の中でも格式のある部屋。
アマンダの仕事部屋だ。
「以上が本日の業務です」
そこには宰相のジェフは魔王国国王であるアマンダ・レイフィールドに一日の仕事を運んでいた。
「有難う…ジェフ…はぁこの書類の量っていったらね」
机の上に置かれた、天井にも届きそうな勢いの書類の山に唖然とする。
「ラフロシア様とリョウマ様がいませんからね、その押し寄せは当然魔王様にとっていただかないと、今日は外に行くご予定がない分、楽かと」
「お外行きたいわー、書類ばっかだと肩がこるのよね」
そういいながら、部屋にある窓から景色を見る。
「リョウマ達はどうしているの?」
「はい、なんでもランドロセル時代のパーティ仲間と再び仲間にしたとか。一応、帰ってから相応の診断や調査はしますが…」
「そう…リョウマそう選んだのなら私はとやかくいうつもりはないわ」
アマンダとしてはランドロセル王国のパーティも被害者だという認識があった。彼女は魔王国としてランドロセル王国がどう腐敗していたかよく知っていた。確かにリョウマを害した存在だが、彼女の手でどうこうしようという考えはなかった。
「さてと…」
遠くの地で頑張っているであろうリョウマを想いながら、自分の仕事を始める。
自分の元に争いが来る事を知らずに…
◇
魔王国最南端にある港町 ハチジョウ
そこで働く漁師は遠くに見慣れない景色が広がっていた。
「なんだあれ?」
そこにはたくさんの船が港に向かって来ていた。
それぞれの旗には赤い紋様が乗っていたのだった。
そして、その船の一つから一人の男が出てきた。
「ついたか、やっと」
笑顔で浜風を感じながら、目的の国を見るのはラルフ。
「すみません…ここまでこの量の船を転移させるのはとても時間が掛かってしまい…」
後ろに青髪の女性、レーナ・イプシロンがラルフに言う。
「いいよいいよ、二人がいなかったらこの作戦はうまくいかないのだしさ…」
「あの妹の事なんて気にしないでください…ラルフさんには私だけを見てほしいです」
そうレーナは側へと行き、後ろから抱き着く形をとる。
ラルフは顔色一つ変えずに、そのままレーナの抱擁を受けるが、目先は魔王国へと向く。
「では、魔王国でお祭りでも始めましょう」
そして、ラルフは各船にいるイグルシア帝国の猛者達である、師団長達に念話する。
「総員、準備をお願いしますね」
「おう」
フレディ・オッポサムがナイフを磨きながら、返事をする。
「御意」
サンジュウロウ・ニトベが船上から空を見上げて言う。
「やったるでー、やっと戦争だ!」
クラウマン・アランポールがこれから行われるである大戦闘に胸を踊らさせながら言う。
「こっちは準備できてるぜ」
最年長のカモーラ・ギャングスタンが落ちついて言う。
イグルシア帝国の八蛇師団の殆どが今、魔王国を襲わんと向かって来ていたのだった。
「リョウマ、先に国をいただく事にするよ」
届かないであるラルフは、ここにはいないリョウマにそうつぶやくのであった。
そういうと、ラルフはレーナから離れた。
「どこにいくのよ?」
「彼女の様子をね」
「あぁ、彼女?ふん、ラルフ様の魅力に靡かないなんてとんだ阿婆擦れよ」
「はははっ、まぁまぁレーナもローナと共に準備して待ってて」
「はい!」
そう言うと甲板からラルフは船内へと戻る。
そしてとある船室に入る。
すると、そこには黒髪の女性がいた。
「そろそろ、目的の彼のいる国に着くよ。では約束通りに彼の話を聞かせてあげよう」
そして、その黒髪の女性に様々な話をラルフはするのであった。
ここまで読んで戴き、有難うございました。
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東屋