表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/115

復讐者、若き者の変化

エマ達が買い物を終えた晩。


【大会議】ではまだ明かりが付いていた。


【大会議】にある多目的室でニューアリアの憩いの会が行われていた。


これはニューアリアのエルフ同士での親睦を兼ねた集会で月一に程に開催される。


本来はここまで豪勢ではないが、ラフロシアや後程カーナークが参加するといい事で豪華賢覧になっている。


「殆ど私達のお金だけどね」


「お母様…」


ステュアート家はニューアリアでも一番お金がある貴族だ。


リリアシアの強気な態度に娘であるラフロシアは一歩引いた場所で抑えていた。


「だって、議員の何人か…カーシー議員とマウマウ議員ってば同じエルフなのだからお金を借りても問題でしょうっていうのよ!年上だからってあの老害どもめ」


「どうどう」


リョウマから教わった暴れる人を止める呪文を口にするラフロシア。なお効果は推して知るべし。



ラフロシア正直これに参加するか迷っていたが、参加する事にした。彼女もニューアリア出身のエルフだ。幼い頃の友達もいる……か

思えばそうではなかった。


「いやー、元気にしてたかラフロシア!」


「ナハルさん、ご無沙汰しております。」


ラフロシアがここへ来たのはもっぱら【大会議】の議員メンバーと顔を合わせるためだ。


件のマウマウ議員とカーシー議員だ。


この二人は一応10人の【大会議】のメンバーのだが…あまり実績を打ち出してはいない。昔は様々な取り組みをしたらしいが、今はもっぱら会議長の太鼓持ちや霊獣様の指示待ちだ。


ラフロシアも本当はこんな人達が来るパーティーに来たくはなかったが、来ないとここの老人は後々面倒なので来ざるを得なかった。


「いやー活躍はこっちにも届いているよラフロシア君!エルフを代表して世界的にイメージを上げてくれて大変助かっている」


「はい、それは良かったです」


別にイメージを気にして仕事をしているわけではないが、否定しても面倒なのでそのまま作り笑いで相槌を打つ。


「しかし、あの者の名前もこっちに届くようなってきたな…あの人間の何だっけ?今回の大会議をめちゃくちゃにした男だよ!


「あいつはリョウマ・フジタですよマウマウ議員」


「そうか、そのリョウマとやらのよくない噂を聞くよ…本当に危ない男を国家象徴に選んだものだ。…あいつは危ういから魔王に国家象徴の任を下した方がいいだろうに、全く」


「そうですなマウマウ議員、そもそもあいつはこの世界の人間ですらないのでしょう?人間の上、さらに別世界に存在した人だなんて、国の格式ある地位にすえていいものかね?」


カーシー議員とマウマウ議員がリョウマの事をひどく下に見ているようだ。


つづけてマウマウ議員が話す。


「それにだ、あのリョウマって人はあの亡くなった国ランドロセル王国で著名な冒険者をしていたという情報もある。それなのに魔王国に肩入れして滅亡させたかと思うと信用にたる人物か分かったものじゃないな」


確かにリョウマは過激な行為に出たし、それでランドロセル王国の民には迷惑も被った者もいるだろう。しかし、そもそもランドロセル王国側に問題があり、それに対してもリョウマは当時に大変な苦しみや葛藤を得たんだ。


あの時、アマンダ同様にリョウマの近況をしていた一人として、ラフロシアはリョウマの謂れの無い罵倒に怒りすら込み上げてきた。


(よくもまぁ、目の前でそう仲間を馬鹿にできるものね)


普通に考えて非常識だ。ここにはいない仲間を罵倒するなど気持ちよくもない事を平気で言う。頭のネジが外れているどころか違うパーツを無理やりネジ紺まれていて、熱が沸いているのではないかと思う程の頭の悪さだ。


「あの…」


一言言おうと思ったが、それを止めたのはリリアシアだった。


「すみません、娘を少し借りますね」


「いえいえ、どうぞどうぞ」


ニューアリアの財政をになっている一家での夫人であるリリアシアに頭の上がらないマウマウとカーシー議員。


少し二人から離れて、リリアシアはすっとラフロシアの頬に手を当てて、彼女の意識をはっきりとさせる。


「お母様」


「ラフ…あの人達に怒ってもしょうがないわ」


「それはどういう事でしょうか?」


「あなたは魔王国に行ってからもう長い年月が経つから忘れてしまったのでしょうけど…ここはエルフの国の首都、一つに固まった種族で成り立っている国なのよ」


ミカロジュの森の首都であるニューアリアはエルフが殆どの国。


その中で長い年月を暮らしてきたエルフ達の価値観を覆すのは難しい。

いくら言葉に感情を乗せて伝えたとしても、それ以上に彼らの中でのエルフと人間の関係を共にした時間が覆る事はない。


「頭が固いといえばそれまでだけど…そうじゃないの。危険だ、怪しいんだと思わないと生きていけないのよ…可哀そうよね。」


最後の皮肉なのか本音なのかはラフロシアには分からない。


ミカロジュの森から離れた一人で魔王国へと旅立ったラフロシアとしてはリリアシアのミカロジュの森での苦労は分かる事は不可能だ。


それはミカロジュの森にずっといる議員や貴族達と同様に。


「疑う事は決して愚かな事ではないわ。一番愚かなのは疑ったままそれで決めつける事。それは何事においてもしてはいけないのよ…そんなので生まれるのは不幸しかないから」


ラフロシアはリョウマの復讐を思いだした。

ある意味では彼らも疑ったままに時間を過ごして、そして悪だと決めつけたままに行為に及んだ。

そして、リョウマは疑いつつも、決めつけずに対等に話す事を心がけた事で再び仲間としてやっていける事になった。


マウマウとカーシー議員の場合も些事は違えど、根本的な問題は変わっていない。

止まってるものにはそれ相応の結果しかないのだ。


「…でも、まぁ、だからこそ一言だけ…衝撃的な事を言って帰りなさいな」


「え?」


「ここで時間を無駄にしてもしょうがないでしょ?今なら冷静にずばっと言えるでしょうし…後の事は母である私に任せて、帰ってお仲間と楽しい夜を過ごしなさい」


「でも…」


自分は魔王国でのエルフの顔役、そしてステュアート家での跡取り娘でもある。それがパーティを早退するなど、どう考えても印象が悪い。


「あなたはいい子だから色々心配をしてくれているのでしょうけど、この前の戦いでもいったでしょ?なんかあった時は家族総出でニューアリアから出ていって魔王国へ行くからって…だから心配しなくてもいいのよ」


それにとリリアシアは続ける。


「娘の好きな人を馬鹿にさせて黙っている母なんていないわ」


「お母様」


思えば、ラフロシアが心優しく育ったのも、リリアシアの存在が大きい。

もしかしたら、スキルのせいで育児放棄をしても可笑しくない。


親子の関係でも命の危険があったのは事実だ。捨てる事はなくても隔離されるのは仕方ない…とラフロシアは思っていた。


だけど、母と違った。

父と共に裕福だったにも関わらずさらに富をあげ、そしてラフロシアが万が一に暴走しても家の範囲で住むように屋敷を広くした。


あのバカに広い屋敷はラフロシアを守るためのものでもあったのだ。


そして、植物を愛でる事で命の大切さといった様々な事を共に教えてくれた。決して見放さずにずっとだ。


そんな母…そして父だからこそラフロシアは迷惑をかけたくないと思っていたが、その考え事態が彼女らにとって迷惑だったと改めて思う。


「ほら、行きなさい!合わせるから!」


パンっと背中を押され、前へと出される。


何を言えばいいのか、何を言おうとしているのか。


ラフロシアの心の中は不思議な緊張感で包まれていた。


一方のマウマウとカーシー議員はリョウマを陥れる事で盛り上がっていた。


「どうですか?署名でも集めて、あのリョウマを国家象徴から落とすというのも」


「いいわね、同盟国である我らミカロジュの森の意見なら魔王も無視はできないでしょう」

「おや、ラフロシア、丁度いい」


「丁度、あのリョウマに対する不信任への署名を集めようと思ってね、そのために君にも助力を願いたいんだが…」


あくまでもお願い、しかし束縛のあるお願い。


無意識なのか意識なのか分からないし、それが問題ではない。


ただ、一言、ラフロシアの中ではある気持ちが確定していた。


それは…


「いいえ、結構です。なら私はあなた達の不信任の署名を集めますよ」


「はっ?」


「へ?」


「知っていますか?今どんどん若いエルフが外に出ている事を?」


ラフロシアは恐らくこの二人が知らない、もしくは知ろうとしていない事実を突きつける事にした。それが止まっている人への当てつけに最もふさわしいと思って。


「昔よりも徐々に外へと意識するエルフは増えているのですよなんでも嬉しい事に私それラフロシアの影響が強いそうで」


外でもエルフはやっていける。その実績を常に出しているのが彼女だ。

その数は多くなくとも、徐々にエルフ達は外へ出て、活躍しようとしている。


それは大会議の議員への信頼感の薄さからだ。


「逆に…会議長と私のお父様、そしてミッシュ議員以外はぱっとしない議員様を宜しく思わないエルフは多数存在します」


ラフロシアの一言にマウマウとカーシー議員は激怒する。


「そんなの聞いた事ないぞ!」


「それはあなた達がずっと【大会議】から出ないからでしょ!」


二人は知ろうとしない、勝手に相手が悪だと決めつけて、それで満足している。しかし、それでどれだけの人が傷つくのか。それがもしかしたら自分の想い人かもしれない。


そんなの許さない。


ラフロシアは忘れない、リョウマが連れ去られた時に一切議員のエルフ達が外に出てこなく、説明しなかった事を。


「会議長やお忙しい父やミッシュさんなら分かりますが…あなた達は歳をとっただけのエルフでしょ?そんな人が人間はこうだと言っても説得力ありません。不快です。それでは失礼致します」


そういうと、ラフロシアは外へと出て行った。


「なんだあいつ!誰が魔王国の国家象徴に推薦したと思っておる!」


「会議長にいって戻してもらいましょう!そして、あの女に冷たい役職でも当ててみじめに…」


余りの言い分にリリアシアは怒鳴ろうとした。


しかし、それよりも大きな声を上げて議員達を叱る者がいた。


「やめてください!」


金髪を後ろにまとめた美丈夫。


ミカロジュの森の国家象徴であるカーナークだ。


今、多目的室へと来たようだ。


「カーナーク」


「お前…」


「我らエルフは自然を愛し、そして共に生きる種族。そのような存在である我らが…人間の様に卑しい心に満たされてどうするのですか」


エルフを最初に掲げているのは変わらない、だがカーナークの頭の中では人間や他の種族を下に見るという事はなくなっていた。


「しかし、お前はあのリョウマに…」


「そうですね。今回は愚直にエルフが至高の種族だと信じてきた私だ。その考えに偽りはない…だが、私が敵の手に落ちながらも、今こうして生きているのはあの人間共とラフロシアのおかげで…今回の件で思う存分の私の中の誇りを見直さなければいけないと感じました」


敵に操られた以上、殺されてもおかしくなかった。

特に危険な先天的スキルを持つカーナークであるならば加減は難しい。


ラフロシアがいたからいいものを、本来なら必殺の一撃で止めるケースだったのだ。


「今回の事件で未熟であると思い知らされました。だからこそ、私は新しい事に挑戦しようと思います。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


マウマウとカーシー議員を見て、カーナークは言う。


「何?!」


「ちょっと待ってください!貴方は国家象徴!そんな事をしなくとも」


「これまではあなた達に選ばれた事で生きていたただの象徴でしたが、自分で考えていく事にも興味が湧いてきました。そして、私はこの国がやっぱり好きです。そのためには私も先陣を切ってこの国の政治に関わりたいです」


そう元気にカーナークは宣誓しました。


それに多くのエルフ達は拍手喝采を上げる。

しかし、議員二人は嫌な顔する。


「しかし…いきなり素人でそれもまだ若い君がなっても…」


カーシー議員が屁理屈を言うと…


「あら、いいでわありませんか?実質政治は会議長、財政は主人、そして軍部はミッシュさんで回っているのですから…残りの七人の中らから誰か一人降ろせば今の体裁のまま保たれると思いますよ?」


ここでリリアシアがにっこりと的確なアドバイスを言う。


「「そっそれはそうだが…」」


そう、実際は例の三人がいれば、大丈夫な大会議なのだ。


その牙城に一人の若者エルフが弓を打ったのだ。


「では、これからすぐに会議長にその旨を伝えます」


「後、バロンさんに伝えるといいわよ、カーナーク君。きっとお喜びになると思うわ」


リリアシアはカーナークにさらなるアドバイスを送る。


おそらく霊獣 バロンなら喜んで快諾するであろう。

なんやかんやいってバロンはカーナークを孫の様に思っている。


「そうですね…有難うございます。そして、お手数なのですが…ラフロシアにもお礼を伝えておいてください」


「いいけど、どうして?自分で言えばいいじゃない?」


「そうですね。お礼というのはあの時に戦ってくれたおかげで変わるきっかけになった事なのですが…それつまりあのリョウマにもお礼を言わなければいけなくなる流れになるので…」


ようは会いづらいののだろう。


「ふふふ、相変わらずねカーナーク君は、でも了解したわ」


リリアシアは了承した。


そして、パーティはその後落ち着いて進んだ。


マウマウとカーシー議員はこれから来る日の選挙のために早々に準備する事になり、結果としてカーナークの政界参戦はいい刺激となるであろうとリリアシアは読んでいた。


(それによってお金の流れも…)


そんな軽い悪だくみも彼女の頭の中では行われている。


そして、パーティではその後、夫人たちの間で専らラフロシアの恋路に話題が移り、後日にまたラフロシアは顔を赤面するのだが、それはまた別のお話。



「おかえりー」


ラフロシアが帰るとリョウマが居間にあるソファでぼーとしていた。


「ただいま…リョウマ、膝枕」


「また藪から棒に…。どうした」


「いいから」


そういうとラフロシアは植物魔法でリョウマを束縛し、強制的に膝まくらをするための姿勢をさせる。


「うわっ!おまえなんだ…って顔赤いぞ!まさかお酒飲んだのか?!」


本当は一滴もお酒を飲んでいないが、都合がいいと思い、そのままリョウマの膝の上で寝る。


「疲れたーねるわ」


ひどい棒読みでラフロシアは言う。


「いや…寝るって…」


その後すぐにラフロシアはリョウマの膝の上で横になる。


「なんだよ…急に…」


リョウマは納得が行かないと思いながら、それから小一時間、膝枕をしてあげたのだった。


ラフロシアの顔は恥じらいを感じながらも、にんまりとしていました。


さらに、後ろの影の方ではレンコがうらやましそうに見ていたが、流石に空気を読み涙ながら去って行ったが…二人は全く気付かなかった。

ここまで読んで戴き、有難うございました。


ブクマ、感想、評価等いただけると大変励みになりますので、もし良かったら宜しくお願い致します!


東屋

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ