復讐者、見返そう美人
ケンとメグ、そしてリョウマが様々な思惑で行動をしていた頃(カツは…まぁカツだけに割愛という事で)。
メグとエマはニューアリアの街を散策していた。
エルフ至上主義と掲げているエルフの国ニューアリアだが、不思議と商店街の方はそんな考えが浸透していない。
初めてここを訪れたメグとエマは少し緊張していたが、店の人に聞くとエルフはあまりお金を使わないのでお金を落としてくれる旅人…特に人間はとても良い客なのだそうだ。
エルフ至上主義は大会議のメンバーに多いのだそうだ。
少なくとも商店街なら危険はないとの事。
そして、種族としてのプライドがそうさせるのか、道に並ぶ商品は全て良い品ばかりだ。
例えば、野菜…人間の農園で育ったところなら間違いなく高値で着く野菜もここでは通常の価格だ。
理由はエルフは魔術を得意とし、自然と共に暮らす事が多い種族のため、野菜の育て方には秀でている。
他にも工芸品やら武具といった物も職人の技が光る。
そんなエマとメグはエマのロッドを探しに訪れてきた。
「いいの?あの髑髏のロッドは?」
「あれも一応サブで日常で使う分には残すけど…見た目と少し能力がいいだけで通常のロッドと変わらないのよね」
ポンとロッドを出して、またすぐに消すエマ。
エマが愛用しているロッドはあまり強くはないようだ。
「でも、それこそイグルシアで踏んだ来ればよかったのに…」
「えっ…そういえばそうね」
「…エマって結構欲が強いと思っていたけど…そうでもなかったのね」
「私からすれば、学園にいた頃と今の貴方を比べて本当に同じ人物か疑うわ」
「まぁそれはお互いに…」
「「色々あったって事で」」
「「…」」
「くっははははは!」
「ふふふふふ」
「あなた、少し表情が無表情なのよ…まだ笑えないのね」
二人して笑いながらに道を行く。
メグが笑顔が苦手だという事はエマは知っているようだ。
「まぁ、確かにイグルシアに頼んでおけばよかったのかもしれないけど…それじゃあ自分で強くなるわけじゃなかったと思う…実は今まで使ったロッドも私が選んだよ」
「…へぇ」
あの趣味の悪い髑髏を愛用していたとは知らなかったメグ。
「あの攻めたデザインってさ…私になかったものだから…」
「あっ」
そう言えば…ラウラも似た事をつぶやいていたのを思い出す。
自分にないモノに対するコンプレックス。
「だから、ロッドは私にぴったりなのをまた自分で選ぶわ…」
「確か…回復魔法が得意なのよね?でも、スキルはいいの?」
「いいわよ…あのスキルは戦闘に不向きだし…何より私のコンプレックスが産んだものだからね」
「それよりも回復を極めたいと?」
確かに、カーナークのような存在がいればいいが、それは相当稀だろう。
基本は裏方向きのスキルだ。
そしてそんなエマは、本来、リョウマのパーティにいた頃は回復を主に任されていた。
「そうなの…あの時はね、回復役なんてださっと思っていたわ…お給料も良かったし、才能を見込まれていたからさっさとついた仕事だったけどさ、見栄えがないというか。だって、レンコさんみたいにかっこよくもなかったし、スフィアみたいに切れ者感もなかった…なんていうかお荷物?」
エマはため息をつきながら、当時の事を振り返っていた。
「戦闘も得意じゃないのにさー、最前線に生かされていたから、本当私ほど命の危険を感じた冒険者はいなかったと思うわ」
「そんな事ないわ」
「何よ。私の意見は甘いってわけ?」
エマは強気にメグに言う。
「いえ、その前のお荷物だって所よ。回復役は重要。今までならラフロシアさんのポジション」
「あの人かっこいいよね!なんていうかおねぇさんって感じで!あぁ、憧れるぅぅ!」
この様子を見てメグは思った。エマは普通に憧れ体質なのだろうと…
ほぼ初対面のラフロシアにでさえ憧れてしまうのだから、おそらく他人の魅力にひかれやすい子なのだ。
故にコンプレックスも多くあるわけで…
「いや…あの時は特にそう思わされたわ…だってパーティでの会話ってゼロだったのよ!私達!そりゃ、唯一リョウマとレンコだけはいい感じだけど…明らかにスフィアはリョウマが苦手だったし…もう大変だったんだから…」
一番年下の子にどんな気を使わせているんですかとメグは思ったが、3人の状況も状況だったので同情するしかないメグ。
そして、エマは続けて言う。
「だから、あの時に傍観をしていたのも悪かったとも思うけど…仕方なかったのよ」
「エマ…」
しょんぼりとするエマ。やはり己の過ちを許されても、心には残るのだろう。
「後、ごめんなさいね」
「いいわよ」
「…何の事とか聞かないの?」
「あなたは私に多くのごめんなさいしたんだから、今更エマが何に対してごめんなさいしたかどうでもいいよ…大事なのは私にごめんなさいをした事」
「そうね…有難う」
「え?」
「何よ、ごめんなさいは驚かなくて、有難うは驚くのね」
「いえ…」
「分かった、今度から有難うって一杯いってやるから」
「ふぇ?!」
エマはメグの軽い弱点を見つけられて円満だった。
メグは人に虐められたことは多くあっても、感謝を伝えられた経験は少ない。
なので、自然とどういう反応をすればいいのか分からないでいるのだ。
それが笑顔になればいいという答えに繋がるのはまだ先の事になるのだった。
話を変えるためにメグはある提案をエマにする。
「じゃあ、今度さ、3人に私は必要な存在よって教えようよ!」
「え?」
当然の話題転換に唖然とするエマ。
小さな口がぱっと開いたままだ。
「私もリョウマさんをいつか追いつきたいんだ…それがあの人に着いていく時…そして一緒にいて決めた目標なの、エマも私みたいに目標決めようよ!」
軽い熱血キャラが入っているのも、エマが弄ったために発生した照れ隠しの混ざっている。
「ちなみにラウラも決めたよ。あの子はリョウマさんの隣に立てる程の人だって言っていたような」
早口で他人の情報も漏らしてしまう。それも話している相手にも面識がある人の情報を…
「ラウラが!隣に立てる程の人って!まさか、あの子リョウマに恋でもしているの!?」
趣味悪ぅうと言わんばかりに引いているエマ。エマ的にはリョウマは頼れても、恋愛対象としてはペケだった。
「私にはよく分からないけど、リョウマさんに話をすると嬉しかったり悲しかったりしているわ」
「あなたってなんでそういう話を聞けたり見たりできるのよ…胸やけしそうだわ…友達のそういうのは想像するのって」
「え?あなたが学園にいた頃のイケメン貴族に相手してた時もそんな事をラウラから聞いたわ」
「あいつぅぅぅぅうぅ!今度会ったら覚えていなさい!」
メグがいい感じに女の友情にヒビを入れた。
エマは軽く心が燃えるのを覚えた、そして遠くの地にいる人にくしゃみを発生させた。
「でも、そうね…スフィアにも馬鹿にされっぱなしだし…というかあの三人…私の存在を軽んじている節があるわ…少し怒ってきた、ねぇ怒っていいよねこれ?」
ラウラの怒りついでにリョウマ、レンコ、スフィアの自身の扱いが軽んじている事に気が付く。
「いや、そんな事はないと思うけど…」
少し今更だろうと思うけど、メグは黙る事にした。
彼女も、リョウマ達と時間を過ごした事で処世術を学べるようになった。
「絶対そうよ!あーもう!絶対凄い回復魔術師になって見返してやる!」
「なら…余計にさ3人に私は必要な存在よって教えようよ!」
「そう言われてみればそうね…」
ここでメグの言っている事の意味に気が付くエマ。
自分はよく他人に任せる事が多い。でも、自分が軽く見られるのは嫌だ。
そのために行動するのも悪くないのではないかと…
「そうね!そのために回復極めるわ!そんでもって!あのラフロシア?さんだっけ…よりも凄い回復術師になる!」
「そうそう、その調子」
メグは内心、ラフロシアさんは回復術師ではなく、ここミカロジュの森へと連れてきてもらうための人選であり…たまたま回復術師として任さられる人で…そんな人と競ってしまうエマは…という事実は伏せた。
伏せなければ…どうなるかは察しがついたからだ。
友とは必ずしも全てを話訳ではない。それでも友を思ってこその友だ。
「じゃあ、エマ、ロッド買いにいこう!」
幸い、ある程度なら魔王国のお金から買えるので、奮発もできる。
「そうね!行くわよエマ!あいつら見返そうぜ」
エマは満面の笑みでロッドの売っている店を探すべく駆け抜ける。
メグはそんな調子に乗りやすい新しいパートナーに少し心配もしたが、そんな彼女と共にニューアリアの商店街を駆け抜けたのであった。
ここまで読んで戴き、有難うございました。
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東屋