復讐者、霊の力を信じるか否か
「さてと順番に行こう…まずはレンコ君から」
リョウマの話は直感的に長くなる事を察したバロンはレンコの話から聞く事にした。
「あの、バロンさんお忙しい所申し訳ないのですが、いただいた業物≪響≫の技をお剃りたいのです。直接父から教わったバロンさんなら色々知っていますよね?」
「なるほど、お主も強くなりたいと思っておるのだな」
「はい、それもありますが、父の残したものを娘としてしっかりと学び取りたいのです。父がいなくなった事で、ヤギュウ流の難しい技とかは実は私も知らないのです」
「なるほど…しかし、霊体の私に刀…もしくは木刀でもいいのだけど、持てなくなってしまった…この体では他人の体に入れても操れないしのう」
霊体なので死体とかなら動かせるかと思われたが、それも確認した所、できなかったみたいだ。
「指示していただくでも構いません。お願いします」
響での練習は行ったが、今のままではただ振りやすい刀なのだ。
何か基本となる型がほしい、そんな時に父の練習を見ているバロンさんが思い至ったのだ。
「だが、剣術を語って学ぶ事ができたら、それに越した事はないだろう」
遠回しに、そして丁寧に正論を言われ、断られたレンコ。
しかし、バロンの言葉はまだ続いた。
「…実は私以外にもう一人、カッサイ殿に指示しているエルフがいる」
「えっ!どなたですか!」
「ミッシュじゃ」
「ミッシュって…あの反論薄毛じじぃ?!」
会議の際にエマとスフィアの二人を訴えていたあの議員だ。
少しぽっちゃりしていたが…
「あいつはあの見た目でエルフの中でも一の剣術を持っておる…まぁそれで大会議の十のメンバーの一人になっているのだがな…はっはっはっ」
「うわー意外」
リョウマは軽い事実に驚く。人は…彼はエルフだが…見た目によらないとはこの世の中には本当によくあるのだと思った。
「では、ミッシュさんに伺ってみます!」
「素直に付き合ってくれるとは思うが教えるかどうかは…知っての通りエルフは種族主義でのう、ミッシュは確かにカッサイ殿に指示していたが、それは同時にカッサイ殿の凄さにもつながる。もし、レンコ君に教える才能が無しと判断されれば、彼は私に対して反論してもお前を頑なに支持しないだろう」
「…分かりました。しかし、それでも私は父の、そして響の全てを知っていきたいのです」
その刀の全てを知る事で己の新たな糧とする。
そのためにミッシュの力は必要だと考えたレンコ。
決意のある暖かな目がバロンへと向ける。
「なるほどのう…」
すっと、横に目を向ける。そこにはリョウマがいた。
まだ、ミッシュの事実に驚いているのか、バロンの視線に気が付かない。
(この女、こやつのために強くなりたいみたいじゃのう…なるほどなるほど)
簡単にラフロシアから彼らの人間関係を聞いているバロン。
その中で、特に興味が湧いたのはこの二人の関係性だ。
人間の矛盾を絵に描いたような二人の関係だ。
この二人の進む姿をバロンは見てみたいと思った。
そのためならとバロンも返事をした。
「いい目じゃ、ミッシュのやつも…最初は固くとも、すぐに曲げるだろうのう…じゃあ私の命令という事で明後日にでも始めようかのう…」
「はい!有難うございます!」
こうして、レンコの話は終わった。
「さて、次はお主かリョウマ君」
「あぁ、俺のは相談というよりも、俺の考えた事が合っているのか聞いてほしい」
「?…別に構わないが…どうして私なのだ?ラフロシアの方が博識だぞ?」
霊獣と持て囃されてるとバロンだが、その実は長生きの獅子であり、過去の歴史なら見て聞いているので話せるが、スキルについてや魔術に関する事の場合は答えあぐねる。
しかし、次のリョウマの一言で何故バロンに聞くかが合点が行く。
「あんたの今の体である霊体に関係した推測なんだよ」
「ほう、聞こう」
「あんた、レイジに会ったんだろ?それは間違いないですよね?」
「あぁ、レイジにあったぞ」
「それはあいつがどんな姿でどんな場所でした?」
レイジと会う場所は決まって、黒い靄が漂う薄暗い空間である。
その空間は周囲を見渡しても、ただただ空間が広がっていており、記憶に残る光景だ。
「あいつの顔はのっぺりとした灰色か白色の顔でな、そして場所は暗い所を延々と続いたばしょだったぞ」
「あぁ、俺も同じように見えたって事はあそこは確かに存在しているって事だ」
「そこがどういう世界か気になっていたんだが、つまり霊のような体にも俺はなっていけたんだろう」
何故行けたのかは分からないが、バロンが行けたという事はあの場所は霊体に関する何かで出来ており、またレイジもそれに付随する存在だという事だ。
「そして、もう一つ…これまでの戦いで謎だったものが俺の謎の力だ」
ジュライド戦で見せた高エネルギーの弾。
あれはレイジ曰く【復讐】のせいではないと言った。
「あれは【英雄】の成果と持っていたが…少し違ったんだ」
「【英雄】はあくまでツール。例えば俺が【英雄】を使う事で物理的に、そして魔力も強くなる。でも【英雄】はゼロからは何も生まないスキルなんだ」
英雄は強化はしても、何かを生み出す事はしない。
才能を伸ばすスキル。
「そういえば」
レンコが確かにと相槌を打つ。
なら、あの高エネルギー体はリョウマの可能性の一つなのだ。
「そこで考えた、武力、魔力…以外に何かしらの力がこの世界には存在するんじゃないかって…それは霊力。もしくは命に宿る生命力みたいな力があるんじゃないのかって」
この異世界はリョウマにとっても未知だが、ここに住んでいる人でも知らない事はあるのかもしれない。そもそもここに住んでいる人が全て知っている事自体、リョウマの先入観だ。
よく考えてみれば、前にいた地球だって、同じ世界の人なのに知っている事はばらばらだ。
「なるほど、私の体からそこまで推測したのか…」
リョウマのは可能性の域を超えないが、十分にあり得るとバロンは思った。
「って…今のは全部仮説なんで…何とも言えないのですが…」
頭を掻きながらリョウマは遠慮気味に話す。
「いや、そのような力に私は心当たりがある、といっても有名な話だけどね」
そして次の言葉にリョウマとレンコの耳を疑う。
「君の所の魔王がもしかしたらそうかもしれない」
「え?」
「アマンダさんが?」
目が点になる二人。
「そもそもなぜアマンダが王になったか君は知っている?」
バロンは二人に聞いてみた。
「確か、突然魔力が膨れ上がる事でその代の王様になれる。それがアマンダだったって話じゃなかったか?」
「それは魔王国の恒例だったが、実はそれだけではないというのが各国のお偉いさんの推測でのう…スキルがあるから、魔力もその可能性があると思われがちだが…魔力は絶対に急激に上がれないんだ」
厳密にはある程度までならある。しかし、それはケンみたいに魔力が少ない人を普通レベルにあげるのみ。膨大な魔力を授かる方法はないというのがバロンが知っている歴史の歩みからの学びだ。
「えっ?じゃあ」
「もしかしたら、便宜上霊力と呼ぶが、それが関わっているのかもしれないのう…」
「そんなまさか…アマンダが霊力を使える?」
その可能性は全く考えていなかったので唖然とするリョウマ。
「霊力が貴様の言う高エネルギー体になりうる物なら、十分に魔力と認識されてもおかしくないだろうのう…もしかしたら本人も知らないで使っている可能性もあるし…」
「そうか…でも、魔王国に帰るには任務が終わってからだからな」
今はイグルシア帝国に潜入して、彼の国の情報を集めるのが先であり、仕事だ。
「そうかい、ならそれ以外に心当たりはないのう…あまり力になれなくてすまん」
申し訳ないとばかりに頭を下げるバロン。
「いや、結構助かったよ…とりあえずは試しにさっきの仮説で【英雄】を極めてみるぜ!」
腕を前に出して言うリョウマ。
レンコも笑顔で楽しそうにしているリョウマを見つめる。
「楽しいそうだのう」
「まぁな、これで前に進めるからな」じゃあ、俺達はここらへんで」
「バロンさん、有難うございました」
そういって二人は帰って行った。
「またのうー」
間延びした声でバロンも見送る。
こうして、リョウマは重要な事を聞けた。
それがリョウマ自身の強さに変わるかはまだ分からない。
しかし、目の前へ進むための立派な指針にはなったのであった。
ここまで読んで戴き、有難うございました。
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東屋