復讐者、強くなると決める
ここはニューアリア近くにあるユドラ湖
実はここにバロンの家がある。
といっても、簡単な神社みたいな建物だ。
霊体になったバロンには寝床さえあればいい生活になっていた。
ふよふよと浮きながら、湖の絶景を眺めていると、後ろから誰か来ている事に気が付く。
「おや、おまえさんか、ケン君とカツ」
「はい、スキルの使い方を教えてほしくきました」
「ぶいぶい!」
バロンの元にやってきたのはケンとカツ。
新しいスキルをバロンから授かったので、その稽古に来ていた。
今日で三日目だ。
バロンは霊体になってからというもの、ケンとカツのよく彼らの修行に付き合っていた。
というのも、バロンがカツの言葉を訳してくれるのが大きい。
魔物の言葉もできる霊獣 バロンはケンとカツのコミュニケーションとして貴重な存在になっている。
さらに、バロンのくれたスキルがたという点もバロンが教える理由になっている。
ようは詳しい事はバロンが知っているのだ。
バロン曰く…
「私が君に与えたスキルは【融合】。これは魔物と人間が一体一でのみ発動するスキルじゃ」
才能を可視化した存在と言われているスキル。そんなスキルにおいて融合できるという才能はピンとこなかったケン。
「【融合】か。そんなスキルもあるんだな…一回使っておいていうのもなんだけどさ、体に害とかないよね?いや出来たんだけども」
「びい!」
カツが自分は病原菌かとツッコミを入れる。
「スキルを扱えた時点で害があるとかは気にしなくてもいい」
「ほっ、良かった」
一応の確認がとれてほっとする。それだけケンにとってスキルは未知の存在だ。
「そもそもスキルがケン君に乗った時点で、君にその才能があるんだ。自信を持ちなさいな」
「え?」
融合の才能と云ってもイマイチぴんとこない。
「こればかりは個人の采配だからのう、私も分からない。しかし、間違いなく融合、もしくはそれを会得したいと思う気持ちと資格があるんじゃ、でなければそもそも譲渡できんからのう…私がこのスキルを与えれる最低条件がそれだからのう…だから胸を張れい」
【融合】を持つ資格があるかないか。それが【譲渡】における最低条件だとバロンは言う。
「まぁ、私はもうスキルがない存在だから、今更確認が取れんがな…」
「そうですか…ずっと料理人をしてきたんで、料理以外の才能があるなんて思わなくて驚いています」
「スキルを扱うものとして精神は大事じゃ。特に【融合】のスキルはのう。そこの魔物、カツとの信頼関係ありきのスキルじゃ、片方が揺らいでいては真っすぐには跳べないぞ」
「ぶい!」
バロンとカツがケンを鼓舞する様に言う。
ケンも内心、不安もあるが、同時に喜んでもいた。
ヴォンロウドの第三の都市であるジュライドでの流狼戦。
まだ仲間になって少しだったが、それでもあの時に何も力になれなかったのを悔しく思わなかったわけではない。
メグや他の人にも自分の強さである料理で貢献しようと頑張ったが、やはり男とし不甲斐なさを捨てきれなかった。
そんな想いを秘めている時にカツと出会い、意気投合した。
さらに流れでの譲渡だったが、新しいスキルも手に入れた。
この状況で極めようとしない男はいない。
「やってみせます」
「じゃあ、まずは【融合】を使ってみなさい」
「はい!」
「ぶい!」
そして、意識してカツとの融合をする。
ドンッ!
「できました!」
「カツはどこじゃ?」
「なんていうか、姿は見えないんですけど、心の中にいる感じで存在は確認できます」
バロンには聞こえないが、カツはケンとなら声を掛け合う事ができる。
モグラの獣人のような姿になったケン。
鋭い鍵爪に毛に覆われた体だが、鋼の様に固い。
「どれ、一旦体の中に入るぞ」
「え?」
すると、このまえ見せてくれたみたいにバロンがケンの中に入る。
「ほう、成程のう…これは…」
「あの特に痛みはないのですが…なんというか他人に体の中に入られているのってあまりいい気分じゃないのですが」
「平気じゃ、私は獅子だからのう」
「そういう問題じゃありませんよ」
「大体わかった」
「何がですか?」
「カツは一応精神体…私の様な感じに貴様の体におる。私と違く、外には出れんようだがのう」
「で、技なのだが、おぬしはカツの魔物は詳しく知っているのか?」
カツの魔物の種類は深層熱土竜。
モグラ同様の地中の移動と高熱のブレスを吐くβ級の魔物。
「はい、なんとなくですが技は深層熱土竜の性質から想像できます」
「では、試してみろ」
「はい!」
そしてイメージする。カツが魔物の姿で見せてくれた戦闘を…
「まずは息吹から!」
大声を出すイメージでやる。
「うぉーーーーー!」
湖に向かって赤白い太い光線が飛び立ち、水しぶきが上がる。
明らかに強大な攻撃だったが…ケンの意識が遠のく。
すると、融合が解けた。
元のケンとカツ、二人の姿が出る。
「あぁーやっぱり…そして疲れた…」
「やっぱりのう、まだ維持できんようだな」
そしてバロンは三日の修行の成果を簡単に解説する。
「そのスキルは元々私のスキルだが…どうやら無意識に私と同じ魔力を必要にしているのかもしれない…故に貴様の今の魔力では技は一発。獣人モードだと3分戦うのが限界じゃろう」
獣人モードで簡単な組手もしたが、3分が限界だったのをケンは覚えている。
毎秒走っているかのような感覚になる【融合】後の姿。カツの方は一切疲れていないのを見ると、やはり自分の魔力量が少ないからなのだと痛感する。
「一気に上げる方法はないですかね」
ケンはダメ元で聞いてみる。
「あるぞ」
「え?」
すると意外な返答がきた。
「あるある」
「そこはないっていうパターンじゃ?」
「まぁ、有名な手段ではないからのう…だが、このミカロジュの森でなら可能な方法がある。しかし、相当にきついぞ」
きついと言われて引き下がるケンではなかった。
「教えてください!」
「ふむ…貴様らの仲間には一切言わないのなら許そう。そして、遺言も残しておけ。」
改めて、バロンの迫力から明らかに命をかけるのだと分かったケンは考える。
カツを見るケン。
カツは自分はケンと強くなりたいという。
そうだ。そもそもカツはもう十分に強い魔物で、別に特訓する必要がない。
しかし、それでも、ケンの特訓に嫌気を指さずに付き合ってくれる。
今も頑張ろうといっているのか、励ましながらケンの頬を掻く。
ケンの決心がつく。
「やります!」
「宜しい…では明日の晩にまたここに来なさい。その方法とそこへ連れて行こうと思う」
「はい!よろしくお願いします」
そして、今日は終わりとばかりにケンとカツはステュアート家へと戻った。
「さてと、今日はもう一人来る約束をしておった…」
霊獣かつ今は霊体ゆえに疲れから離れた存在になったバロン。
同時に広い範囲で人の認知も可能になっていた。
「はて、二人とな…レンコ君とこれは…リョウマ君か」
どうしてリョウマが来ているのか知らないが、何か新しい相談事だろうか。
「まさか、霊体になってからが忙しいとはのう、人生何が起きるか分からんな」
バロンは束の間の休憩で再び湖の景色を堪能した。
彼がここをよく見るのはそれは今は無きご主人様との数少ない思い出の地だからだ。
レンコの父であるカッサイもここに招いた事がある。
もう二人はこの世にいない。
急に来る寂しさをバロンは感じた。
「霊になっても、怖い物があったとはのう…よく気づけたわい…はっはっはっ」
その体験を自分で笑うバロン。
そう思っていると後ろに二人が来ていた。
「こんにちは バロンさん、ここにいるのが見えたので」
「こんにちは」
「こんにちは、お二人さんさて、レンコ君とは約束していたが…リョウマ君はどういった要件じゃ?」
「あんたのその霊体について聞きたい事があるんです」
簡単に挨拶を交わし、レンコとバロンとリョウマの話は続くのであった。
ここまで読んで戴き、有難うございました。
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東屋