復讐者、もう一つのスキルに意識を向ける
ニューアリアに滞在するようになってから5日目の昼。
リョウマは再びレイジに会いに瞑想し、薄暗い空間へと赴いた。
今回のニューアリアの【大会議】での事件から多くの事を学んだ。
そして、一通りの事をレイジから聞く事に成功した。
肝心のリョウマのスキルである【復讐】の使い方等も決めた。
(【復讐】を一番使える時は…)
そのための修行をリョウマは取り組んでいる。といっても難しい事ではない。
今はステュアート家に自慢の庭の片隅でイメージトレーニングをしている。
すると、レンコがリョウマを探しにやってきた。
「何やっているの?リョウマ?」
髪をサイドテールにして、左に寄せている。首を傾げているのを見ると幼く見えるのはリョウマのフィルターのせいではないのだろう。
「うん?レンコか…【復讐】を使う時のイメトレ中」
「イメトレ?」
「脳内…頭の中で場面を想像しながら戦っているんだ」
想像だと思っても馬鹿にしてはいけない。リョウマが転移する前にルーティンという物が世間を賑わせた事があった。
あれは暗示や習慣といった物に近いが…根本的な事はある行為を行う事でより成功するビジョンを脳内に焼き付ける事で成功性を高める事に起因するとリョウマは勝手ながら学んだ。
「えっ、それってどんなイメトレよ?」
当然、レンコはリョウマがどんな場面を想像しているか気になる。
しかし、それをリョウマは答えあぐねていた。
回答を濁す間にレンコはリョウマの横へと座る。
リョウマは腕を組んで、言いにくそうに話した。
「うーん、それは話せないな、話せない事も含めて、俺の【復讐】の力を最大限使える良い特訓方法を思いついたんだ」
リョウマがこれを思いついた時は自画自賛した者だ。
相談したレイジは「あっそ」という感じだったが、あれは少しばかり驚いていたようにリョウマは感じだ。
相変わらず対面した時はのっぺらぼうの顔で表情からは読み取れないのだが、雰囲気からそうリョウマは思いこんだ。
すると、レンコが心配そうにしてリョウマを見つめる。
リョウマはそんなレンコに気が付いて、戸惑う。
「それってさ…貴方の事を傷付けない?」
ここでリョウマの中で合点が行った。レンコはリョウマの事をジュライドの一件から心配するようになった。
「あぁ、もう大丈夫だよ」
「嘘、リョウマは私と似ているから…自分が苦しい方へといくのよ」
人によっては怒りを覚えるかもしれない。レンコの今の行為は好意での行為でもあり、同時に押し付けを感じさせる行為である。
「はははっ、そうだね。痛い目には合うかも…でも…それ以上に今のこの特訓方法で強くなれたら…この世界に来て色々な人に助けてもらった人達のためになるんじゃないかと思うんだ」
「その中でもレンコから返せない程に…色々教えてもらったよ」
レンコが顔を赤らめさせて、芝生の方に顔を向ける。
しかし、そこで当てつけに様に言ってきた。
「でも、一番はアマンダさんでしょ」
「うっ…」
(なんでここでアマンダが…)
しかし、ここで変な事をいえば喧嘩になると思ったリョウマは…方向性を変えた。
「膝枕してくれない?」
こういう時、我儘を先に言った方が実はレンコにとって嬉しいというのはこれまでの経験値でリョウマは知っていた。
話題をそらされたと認識しているも、献身したいレンコはリョウマの提案に乗る。
ようは物理的接触を彼女は求めてきたのだろう。
要件を言わなくてもお互いに察せる程、リョウマとレンコの仲は良好なのだ。
「いいわよ、どうぞ」
そして、軽く太ももを叩いて、迎え入れる態勢を整える。
「気持ちいい~!」
「硬いでしょ、筋肉付いちゃったし…」
少し悲しそうに言う。
「嫌、それにレンコだから落ち着くんだよ」
「そう…有難う」
レンコのいい感じの硬さの膝枕をしばしの間堪能する。
すると、気になっていた事を思い出したリョウマはレンコに聞く。
「エマとスフィアとはうまくやってる?」
唇を軽く噛んでレンコはどう答えるか考える。
そして歯切れが悪そうにして言う。
「エマは…まぁもともとそこまで私は嫌っていないわ。むしろ、私の境遇とどこか似ているから、勝手ながら親近感も少しあるわ。だから、関係はまぁ…普通よ普通」
しかし、次の人物の事はまだ壁があるようだ。
「だけど…スフィアは正直に話せる仲にはまだなれないわ。現にまだ話せていないわ」
「そうか…俺としては仲良くしてほしいけど」
「むしろ、なんで仲良くできるのよリョウマは?」
レンコはそこが気になっていたと同時に理解が出来なかった。
お互いに殺し殺そうとした中
自分の事を棚に上げているようだが、それは相思相愛の一つの形としてならまだ納得ができた。
しかし…少なくともリョウマとスフィアの仲は男女の仲のそれとは全然違った。
「はっきり言って…リョウマはあの時殺そうと思えば殺せたでしょ?」
「俺に殺す意思がなかった時点で殺せないよ」
不満足な答えを言った事でレンコの顔が曇る。
ジト目はこわいよ。
「…まぁ、意地悪な答え方だけど…純粋な実力なら五分五分ってところだろう。俺はまだ【英雄】の力しか使いこなせていないし」
「あれ?【復讐】は?」
「あれは…使いづらいからここぞって時にしか使わない事にした。さっきレイジと相談してね。相手の力をパクれるけど…そのスキルがどう使うかまでは分からないらしい」
流狼戦でなぜ流狼のスキルである【逆襲】を使えたかと言えば、それは【復讐】の一時的な力に類似していたからに他ならない。
しかし、相手によってはそう使えないスキルもある。
例えば、ラフロシアの【太陽】のようなスキル。周りを巻き込み過ぎるし、自身への負担も半端ない。
それで負けてしまったら元も子もない。
もうすでに魔王国で貴重な民の命をなくしているリョウマ。決して自分一人のだけの責任でないにしろ。より確実に守るべき存在を守りたいと思うようになった。
「なるほどね」
レンコはそこらへんも察し、納得する。
「そう、だからさっきのイメトレは【復讐】を最も効率的に使うための場面を頭中で練っていたの。うんでもって俺の戦闘手段は【英雄】に完璧に絞ったわけで…これからはもっとこれに絞ろうって戦う方法というのを考えようと思うんだ」
しかし、ここで問題がある。それは【英雄】の特訓方法が全く取っていいほど思いつかないのだ。
力の強化という認識で使っていたが、単純な筋トレしか思いつかない。しかし、果たしてそれでいいのかという思いもある。
レンコはそんな悩んでいるリョウマを察したのか、リョウマの【英雄】に関して思う事を述べる。
「よく考えたら、リョウマって【復讐】のスキルばかりに気を取られて、あまり【英雄】の方には取り掛かっていないよね」
「確かに…まぁ単純に強いから工夫のしようがないというか」
腕力を上げるとかどう特訓すればいいのやらだ。
「まぁ、そうよね。私の特技である剣術も要は反復だもの」
レンコの得意な剣術もスキルではない以上、地道な反復しか成長する兆しがない。
「まぁ【英雄】は単純に強いからね。身体能力や物理法則無視の打撃…そういえばジュライドでの強力な攻撃も【英雄】のおかげみたいなんだよね…スキルなのにスキルらしくないというか」
【黄金】や【太陽】の様に超能力ぽくないというか…
「そのレイジって人が嘘をついているとかはないの?」
「うーん、それは考えづらいな…だって必要がないもん」
そこでふとリョウマ変な感覚を背中に感じる。
レイジの存在に【英雄】のある可能性が結びつくのでないのかとリョウマは思い至った。
(あれ、そういえばあの人は俺の体の中に入って…あれって…)
そして、あるひらめきを思いつく。
「単純!そうか単純だったんだ!」
「どうしたの?」
「単純だから、そこまで力を引き延ばせないと思っていたけど…違うんだ!単純だからどの方向持って行っても使えるはずなんだ」
スキルがどういった物かを改めて考えてみれば…とリョウマはあるひらめきにたどり着いた。まだ仮説の段階だが、もしかしたらと思うと凄い力になる。
「リョウマ、落ち着いて、勝手に合点がいっているのは分かったけど、貴方が何に気が付いたから全く見当がつかないわ」
「そうだ、そのためにはバロンさんに聞く必要がある…確かめたい事もあるし」
「あら、バロンさんならこの後刀について聞くために会うわよ」
すると、タイムリーな事をレンコはリョウマに言う。
「よしっ、ちょうどいい!俺も一緒にいっていいか?」
「勿論」
笑顔でレンコはリョウマのお願いを了承する。
「で、それっていつから?」
「まだ時間あるわ…しばらく休んでいましょ」
「そうだな、じゃあお言葉に甘えて」
こうして、ゆったりとした時間を過ごした後にバロンの所へと赴くのであった。
ここまで読んで戴き、有難うございました。
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東屋