復讐者、変身
「ぐはっ!!」
背中に刺されたナイフ。
そこから血が止まらずにバロンの体から流れて続けていた。
「まだ意識あるのか…流石霊獣様、忍耐も化け物だ」
フレディには分かっていた。このナイフでの一撃は致命傷だという事に。
なので、純粋にまだ意識のあるバロンに最大の賛辞を心から送っていた。
「だから、そのナイフ。抜くよ」
「!!!」
ずぽっ!!
「うぉぉぉ!!」
ただでさえ止まらなかった血が、今度はつっかえとなっていたナイフが抜かれた事でどんどん溢れる。
人を殺すのに二度も攻撃する必要はない。
一撃の所作をしっかりと行えば、生き物の息の根は自然と止まる。
これで、どうしょうとバロンの命は潰える。そうフレディは確信した。
「はぁ…全く。この霊獣を殺す事でこのニューアリアもおしまいか…」
フレディ・オッポサムの言われた指令はただ一つ。
霊獣 バロンを暗殺する事。
しかし、そのためにはニューアリア以上にリョウマ達が邪魔だった。そのための陽動でスフィアとエマを使う事で、彼らの戦力を一か所に留めた。
イグルシア帝国にいる鳥使いのスキルを持つ兵士にバロンに嘘の情報を与える事から始まり、フレディはスフィアの影の中に隠れ、ここまでやってきた。
作戦は順調に進んでいた。しかし、この作戦にフレディは内心苛立っていた。
「たくっラルフの提案だっていうのが納得いかねぇ…そもそもあの女共なんかいなくて、俺がエルフの中にいけばそれで済んだ話だろうに…俺もとっとと本隊に戻んないと」
そう愚痴りながら、転移紋のある位置に歩いて戻ろうとする。
この後はまたエルフの兵士に紛れ、エルフ側の内通者によって外へと逃げればいい。
そのエルフの内通者も家族を人質に取られているため、こちら側に従っているだけだ。
すると、バロンの体の方から音がするのが聞こえた。
フレディはこれまで多くの死体を作ってきた。そして、その後体が発する匂い、音といった五感も彼の中には染みついていた。
そして、フレディの聞こえた音はその慣れた五感のものではなかった。
「なんだ?」
見ると、小さな動物がバロンの事を確認していた。
「ぶい!」
その動物は薬草をバロンに当てていた。
「ん?なんだ?このモグラみたいなやつは?」
小さなモグラがバロンの側へと寄っている事に気が付く。
すると、後ろから殺気がフレディの身に飛んだ。
「雷霧!!!」
すると目の前に謎の女が出てくる。
「なっ!」
確かに後ろに殺気が届いた。そう思った瞬間に前にいた。
(いかん!)
そして、小さな雷のかまいたちが飛んできた。
ドンッ!!
辺りに土埃が舞う。
飛んできた女性、レンコは一旦距離を取り、様子を伺った。
「レンコさん!カツ!」
ケンが後から追ってくる。
「ケン!ラフロシアさんからもらった薬草を早くバロンさんに!!」
「おう!合点招致!」
急いでバロンの様子を見にいくケン。
レンコもバロンの容態は気になるが、目の前の敵から目をそらせないでいた。
飛んでいた土埃も段々と晴れてきた。
徐々にフレディの姿見えてくる。どうやら致命傷までは与えれなかったとレンコは思った。しかし、それは少し違った。
「あーあ―…やってくれるね、お前も俺の姿を見たからには」
黒いナイフを出し、刀身をなめながらレンコを下品な笑みで睨む。
「…死んでもらわなきゃな…」
「そんな…無傷…」
そう、先程の雷霧は致命傷が無理だったにしろ、傷を多く残す事ができる乱れうちの技。
しかし、それでもフレディの体には傷一つなかった。
「確認するまでもないけど、イグルシアの者ね」
レンコは確認とばかりに聞く。
「馬鹿か、簡単に答えるかよ。そういうお前は黒髪に…刀…リョウマの犬の鬼姫か、殺す相手としては申し分ねぇな…」
「犬って…!」
レンコはフレディの挑発に乗った。こいつが誰だろうと切り刻むと。
「俺はプロでな…殺すやつは相応のやつじゃないとだめなんだよ」
「あら、そう…なら、私は貴方のお眼鏡にかなったという事かな?」
「元ランドロセル王国α級冒険者の首なら十分」
「!」
ぐさっ
レンコは間一髪で斬撃から避けた。
慌てて後ろを見るが、そこには誰もいなかった。
「え?消えた?」
レンコはあたりを見るがフレディの姿がどこにもない。
すると、ケンが声を上げて、レンコに注意する。
「レンコさん!影!あいつは影に潜った!影に気を付けて」
そして、ケンがそういった瞬間。
「ご名答」
ナイフを持って、フレディがレンコの影から飛んできた。
「雷速!」
居合の技術を交えた迎撃で向かえ討つ。
「ふっ、そんな攻撃当たるか!」
「くっ」
そして肩を斬られるレンコ。
「良く反応した。普通ならいまので首を斬られるんだがな…まぁ、もう遅いがな…」
「先にいってやろう。このナイフには毒が塗ってある。この意味は分かるな?」
「このっ!」
「やべぇ!」
「…あなた、スキルを二つ持っているわね」
「ほう、そう思った理由は?」
「最初の私の脇腹を切った攻撃。いくら影に潜れるスキルを持っていても、気づかれずに後ろから切れるスキルはないわ。これでもα級よ…そう簡単にやられないわ、スキルでもない限り」
レンコはラフロシアからもらった薬草で傷を癒す。
「可能性としては二つ。超高速のスキルか分身のスキル。超高速ならあなたに変化があってもいいけど、そんな様子はなかった。なら、分身のスキルが一番しっくりくるわ」
「ははっ正解だ。俺はスキルを二つ持っている。冥土の土産に教えてやるか。俺の名前は【影縛り】のフレディ・オッポサム。 肩書の影は当然俺のスキルだが、縛りはどういう事かというと」
すると、レンコの足が何かに捕まった。
「ぐっ、何よこれ!」
レンコは足を動かすも、しっかり固定されてしまい、動かせないでいた。
見ると、そこには手があった。
「そいつは土魔法で地中に忍ばせた俺の分身だ。一体しか出せない分。純粋な俺の戦闘力を持っている…実質二倍だ。簡単には抜けない。そして俺はこのまま動けない相手をぐさってわけだ」
「バロンさんもこいつで後ろから攻撃したのね、なら!」
レンコは刀を地面に刺す。
しかし、地面が硬くなっており、刀が刺さらなかった。
「地面に硬化の魔法を掛けているからな…簡単にはその分身は殺させねぇよ。そして死ぬのはあぁ…お前だ。」
フレディがナイフを掲げてレンコへと飛びかかる。
それをケンはただ見る事しかできずにいた。
(やばい!やばい!やばい!やばい!やばい!、レンコさんを助けないと。だけど、俺には)
ケンには戦闘する術がない。
カツを今さら元に戻しても、フレディの速度にすら敵わない。
すると、下から声がする。
「お前さん…」
「バロンさん!」
バロンが力なくもケンに声をかけた。
止血は出来たが、失った血が多すぎたため、危険な状態には変わりない。
「まだ横になっててください!すぐにエルフの兵士も来るので!今はじっとしてて」
「そういうも、お嬢さんが、カッサイ殿の娘さんがピンチじゃないか…」
そして、側に寄っていたカツに目が行く。
「その獣は?」
「え?こいつは俺のペットの魔物で」
「ぶい!」
カツは元気に返事をした。
「ほう…いい魔物じゃの。懐いておるし、力もまぁまぁ。よし、いい時間がない。この後の事はお前が順応しろ」
「順応って?」
すると、カツにバロンは触れて、何か光り出した。
「私が残せる唯一の力じゃ、受け取れ!」
カツが空中に浮かんだと思うと、ケンの中に入っていく。
「急いでいけ、今の君なら受け止めれるはず!」
そしてフレディのナイフがレンコに届こうかとする瞬間。
ギンッ
「何?!」
「え~っと…とりあえず?俺もスキル保持者か?」
半獣人のような恰好。どこかカツの面影のある姿にケンは変身していた。
そして、手は大きな鍵爪となって、レンコをナイフの強襲から守っていたのだった。
「嘘…」
レンコも目の前の光景に驚きよりも唖然としていた。
ここまで読んで戴き、有難うございました。
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東屋