復讐者、地元の街へと出かける
魔王城の中でも広く豪華な部屋であるリョウマの一室。
そこで出かける準備をリョウマはしていた。
一緒にレンコとヒカリがいる。
リョウマはヒカリを胸にあるだっこ袋に入れて、レンコに声を掛ける。
「お待たせ、そろそろ行こうか?」
「そうね、行きましょう」
リョウマはこちらの服装に合わせた地味な感じだ。元々ファッションには興味がなく、あまり派手でなければ、素直に着る。
「どう?」
レンコは両腕を後ろへ回し、彼女の服装をリョウマに見せる。
先程の口調から分かる通り、レンコは仕事の時と仕事以外でのリョウマの接し方を分けている。
一旦は両方とも仕事時のような口調で過ごしていたが、「慣れない」とリョウマの一言でレンコはやめた。
そんなレンコは髪型は後ろに一本にまとめ、肩にかかるようにサイドテールにしていた。
服装は灰色と白を基調とした服装。
彼女はリョウマよりも年上なのだが、どうやら褒めてほしいそうだ。
「似合っているぞ」
リョウマは思った事をいう。
「有難う…でも年上として言わせてもらうけど、女性への褒め言葉はそれだけじゃ足りないわ」
今日はプライベートだからか、いつもより積極的に声をかけてくるレンコ。
「へぇ、じゃあ?こう表現すべきか?」
そういい、リョウマはすっと彼女にキスをする。
ちゃんとヒカリを押しつぶさないように気を付けてだ。
「可愛いぞ」
耳元でそういうリョウマ。
この行為に顔を赤らめるレンコ。
「////…恥ずかしい。なんでできるのよ…」
日常会話で年下の男性におちょくられる年上の女性。
内心、レンコだからできるのだが…と思うリョウマ。
よその女にこんな恥ずかしい事なんてできない。
だが、弱味を見せるわけにもいかず、リョウマは強気に言う。
「なるほど…こういうのも悪くないな…今度みんなの前で披露しようかな?」
「みんなの前ではやめて!恥ずかしくね死ぬわ!!!」
「へぇー…つまり…みんなの前じゃなければどんな恥ずかしい事も平気だと?」
「!!!!!ぅうぅー」
何も言えなくなり、レンコは涙目でリョウマを睨む。
普段は凛としているレンコだが、リョウマの一緒に居る時は大体こんな感じだ。
冒険者をしていたので、女性としても、同世代の人からしてもしっかりとしているが、少しつつくと…多少の天然が彼女にはあった。
「そう睨むなよ?なぁ?ヒカリ?レンコが怖いねー」
「はぁ…で、リョウマ…まず、どこに行く?」
「…まずは市場にでも行って、雑貨やヒカリの玩具でも見ようか」
「いいわね!」
「で、夜は寿司だ。料亭を予約しているから行こう」
「え?」
レンコは驚いた表情でリョウマをみた。
「後、そこは個室で予約しているからさ…前みたいに飯でも食おうぜ」
リョウマが少し照れ気味にいう。
前と言うのは彼らがパーティーを組んでいた時の話だ。
「そうね、休日ですもの。たまにはそういうのもいいわね」
レンコは嬉しそうにいう。
ふふふって笑いながら、リョウマの言った事に返答する。
「なんだ?」
「別に、何もありませんわ。」
だって、レンコもそうしたいのだから、意地悪をいって気でも変われば困る。
「あぅあー」
そんな二人を赤子が急かす。
早く行こうとでも言っているかのように。
「おぉーそうだなヒカリ。行こうか」
「行こうね、ヒカリ。」
こうして、リョウマとレンコとヒカリは町へと繰り出したのだ。
◇
「さぁー今ならバロンが手配した産地直送!冷凍されたラドガーサケが1匹1000ルースだよー!」
「果物はいかがー!みずみずしいバルルを仕入れたわよー」
「奥さん!今日の夕飯にこの新しく販売したコロッケはどうだ?中身はジャガイモをすりつぶしたのでほっくほくのあっつあつで美味しいよー!」
城下町は大きく分けて4つに別れており、魔王城が北にあり、南へ順に貴族と有力な平民が多く暮らすが高い住宅街が広がっており、その下を二分するように市場を中心とした商店街と平民が多く暮らす住宅街がある。
最後の一つは少し外れにあるが…今回はそこに用事はないので、また今度にしよう。
リョウマ達は商店街の中の食べ物を売りにしている通りへと来た。
「お昼はここで済まそうよ」
「そうね。」
「あうぁあー!」
もう昼近くなので、お店の人も元気に客を呼んでいる。
商店街を歩いていると、レンコは見覚えのある揚げ物を見つけた。
「コロッケなんていつ用意したの?」
「何か揚げ物を食いたいなーとなって、芋のコロッケなら値段も安くていいだろと一週間ぐらい前にアマンダに提出したんだ。まさか、もう市場にでるとはな…仕事が早いよ、あいつ」
この世界では娯楽は少ない。なので、うまい食い物を食べるのは生活を満たす上でこの世界では特に大事とされていた。
「食べてみるか?」
「いや、いいわ」
レンコは少し遠慮気味な反応をする。
それでリョウマは察した。
「まさかお前…その歳でまだ体重とか気にしているのか?」
リョウマは心から驚く。
「その歳って何よ!私はまだ24よ!体重を気にして悪い?!」
レンコは顔を赤らめて、リョウマに言う。
「だって、そんな年で女子高校生みたいな事を…」
「その言葉って確か…リョウマの世界の若い学生を指す言葉よね!その子達と一緒にするな!十代と二十代では大きな違いがあるのよ!」
そんな必死なレンコを少し面白く思うリョウマ。
「はっはっはっは!じゃあコロッケはまた今度な」
そういいながら、リョウマはコロッケを売っている屋台へと赴く。
「おっさん!」
「よぅ兄ちゃん!何にする?」
「コロッケを一つくれ」
「はいよ!一個100ルースだ」
小銭を出して、コロッケを戴くリョウマ。
「…リョウマ?コロッケはまた今度じゃ?」
訝し気にリョウマを見るレンコ。
「あぁ、レンコはまた今度な、これは俺とヒカリが食べるよ、あれ?ヒカリは食べれるのか?」
「えっ…」
「あっむ…美味しいなー、やっぱコロッケならすぐに再現できると踏んでいたぜ。ほーれヒカリー中のジャガイモだぞーこれなら食べれるだろー」
冷ましたすりつぶされたジャガイモをヒカリの口へと寄せる。
「あぅー」
リョウマもヒカリも美味しそうにコロッケを食べる。
「残念だねー、食事制限をかけているレンコには申し訳ないけど、その分俺らが美味しく食べようなー」
「ばぁーばぁ」
ヒカリと会話?をしながら食べ進めるリョウマとヒカリ。それをレンコはうらやましそうに見る。
遠慮したので、小さな女子としてのプライドから言い出せずにいた。
「…うぅ」
しかし、目はリョウマを見ており、一時も離さないでいた。
「ほれ、一口」
すると、リョウマは半分を食べ終えたあたりでレンコの鼻の近くにコロッケを寄せてきた。
明るい茶色にあげたコロッケはまだ油からあげたばかりか、日光で照らさせており、香りはジャガイモのほっくほくな香りと胡椒のスパイス効いていてとても香ばしそう。
あむ!
レンコは我慢できないとばかりに一口戴く。
あむ…ぱくぱく…ごくっ
「美味しー」
結局レンコは我慢できず、残り半分のコロッケを食べた。
「また、城に帰ったらさ…稽古でもしようぜ。そうすれば少しは痩せるだろ?」
と、リョウマはレンコの悩みを解決する事をいった。
「…そうね、たまには体を動かすのもいいね」
「体はわりかし、夜に動かしているけどな」
リョウマはレンコの打たれた。
「あんたって…本当そういう所直らないよね!!!!町の中でそんな事いわないで!」
リョウマに怒るレンコ。流石に弄り過ぎたとリョウマは反省した。
なので、軽い反撃をする。
「なんだ?俺は夜の鍛錬の事を言ったが?レンコは何を想像したのかな?」
にやりとリョウマは言う。
「リョウマ!あなた夜は鍛錬しないでしょ!!下手な言い訳するなー!」
「いやーたまにするよー。なぁヒカリ」
「あぅあう」
「嘘をつけー!」
レンコの小さな叫びが市場に木霊した。
◇
その後は、屋台を巡りながら昼食をとった。
その間、リョウマは何が人気かも確認していた。
この世界は前の世界でいうところの西洋文化に近い世界観だ。
それは魔王国も同じで基本は皆パンとお肉を食べる生活だ。例外でエルフなどは野菜や木の実を中心とした食生活をしているが…
この魔王城のある城下町…名前はレイフィールド…アマンダの苗字がつけられており、昔から様々な人種の民がいる。
他にも種族はいるが、基本的にエルフと獣人と人間、この三つと魔族を覚えていればレイフィールドでは問題ない。
ランドロセル王国がなくなった事もあり、同じ数ぐらいの人族、エルフ族、獣人が城下町に住んでいる。その他にも少数ながらドワーフも存在している。
さっきのコロッケ屋さんもドワーフだった。
鍛冶だけじゃないんだなとリョウマは思った。
「やっぱ、寿司は人気なんだな」
「えぇ…港町ぐらいでしか食べませんからね。オスシは。」
意外だったのは、生魚を使うオスシが人気だった事。肉をあまり食さないエルフにも受けいられ、オスシのレストランがもうあるくらいだ。
「夜がたのしみだね」
「うん、すごい楽しみだ。」
レンコとリョウマはそんな事を話しながら町を歩く。
次は雑貨屋が多く集まる所に来た。
「あ!あそこぬいぐるみ屋さんだ!見てみましょう!」
そういい、レンコはリョウマの肩をひっぱり雑貨屋を指さす。
「そうだね…そこに入ろうか」
カランカラン
雑貨屋の扉を開き、扉に付けられたベルが鳴る。
「あっ」
「あれ?」
すると、彼女達がいた。
「メグとラウラじゃないか?なんだ、二人も休暇か?」
メグとラウラがお店の中にいた。
二人は少し驚いた表情でリョウマの言った事にメグが答える
「はい、私達も休暇でラウラが誘ってくれたんです。」
「いやーまさかリョウマさんと会うなんて!後レンコさんとヒカリちゃんこんにちは!」
ラウラはレンコとヒカリにあいさつをする。
「こんにちは」
「あう~」
「可愛い~!」
ラウラがヒカリの挨拶にときめく。
「ヒカリちゃんも一緒なんですか?」
「あぁ…ヒカリの玩具でも探しにここへ来たんだ」
「ここならいいのあると思いますよ。可愛いお人形さんおいいですし!」
そういいながら、ヒカリの手に指を入れるラウラ。
その指を握ったり握らなかったりと笑顔でヒカリは遊んだ。
「そうだな…ヒカリを少し持っててくれないか?俺らはヒカリが好きそうな玩具見てくるから」
リョウマは二人にヒカリの面倒を見るようにたのむ。
「分かりました!」
「了解です」
「メグ?なんか印象変わったな…」
「そうですか?」
リョウマは普段のメグの印象と今日のメグが違う事に気が付く。
「あぁ、今日は綺麗な格好だな」
「…、有難うございます。」
少しだけメグの口角が緩んだ。
そして了承を得たリョウマは抱っこ袋をメグへとやる。
「えー私が抱っこしたかったのに!」
「お前だとなんか落としそうだからいやだ」
そういいメグに抱っこ袋を渡す。
「未婚のシングルファーザーが…」
「うっ!」
密かにリョウマが気にしている事を言うラウラ。
そう、今はリョウマは誰とも結婚をしていない。にもかかわらず、ヒカリという娘のパパをしているのだ。
「もういいかげん、魔王様かレンコさんと籍入れなよ。」
この世界にも入籍といって役所へと結婚を報告する法律がある。
後、申請書の提出が必要だが、重婚も認められている。
しかし、魔王はその立場から…レンコとは歪な関係で結婚までには至っていない。
さながら、ダブル事実婚の状態だ。
まぁ、それ以外にもリョウマは多くの女性に思われているが、リョウマが気にしているのは実質この二人だけだ。
男としてはっきりと関係をいえないのが辛いが…二人の了承もあるのでしばらくはこのままだ。
だが、いざ言われると答えに困る。
「少し重みが…」
そんな事を思いながら、メグはヒカリを持った感想を言った。
「命の重さって感じだろ?」
話題をそらそうとリョウマはメグの言った事に反応した。
「はい」
そういい、微笑むメグ。
優しい笑みをヒカリに向ける。
「あのーそこんところどうなんですか?-」
しかし、ラウラはしつこく聞く。
「うるさい、そこは俺らの話だから深く聞くな」
リョウマは照れながら言う。
「そうね…少なくとも私は今のままでいいと思っているから…ラウラもそれくらいにしておいて」
「…はーい」
レンコも手助けとばかりに言葉を言う。
レンコが言った事もあり、ラウラももうやめようと思い、ヒカリちゃんへと意識を向けた。
女子二人で和気あいあいと面倒を見てくれている。
「ふぅー…じゃあ見てくるか」
店内は少し広く…色々なぬいぐるみやおもちゃがありそうだ。
「ふふふ…そうですね」
そう思うながら、リョウマとレンコは二人で商店の中を回るため歩く。
二人っきりになり、レンコは言った
「本当に私は貴方さえ良ければ今の関係でいいのよ…」
レンコはリョウマの顔を除くようにリョウマの反応をみる。
「……うるさい。そんなのは分かっている。」
そうリョウマはレンコの言った事に照れて答えた。
それにレンコは嬉しそうに感じながら、店内を回るのだった。
ここまで読んで戴き、有難うございました。
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東屋