復讐者、隠された指令
ドンッ!!!
轟く銃声
そして、確かに銃弾の軌道はリョウマへ飛んだように見えた。
ピッ
しかし、それはリョウマの頬を切るだけに止まった。
切れた頬から血が滴り落ちる。
「どうして当たらなかったか言い当てようか?」
「…私がただ下手だったって話じゃない」
「お前が下手っていうのは勝手だけどな…今の攻撃、俺が少しでも動けば、致命傷だった」
確かにリョウマの言う通り、スフィアの攻撃から逃げようとすれば顔の一部が飛んでいた。
「殺す気があったって事よ?分からない?」
「死なないでという思いもあったって事だろ」
「…あっ」
「んでもって…俺は…今回はお前を疑わずに信じたぜ」
「結果だわそんなの…バカみたい…一歩間違えれば…私は楽だったのに」
「そしてまたお前は苦しい渦の中に入るって事だろう。そんなバカな結果は俺が認めねぇよ」
「…とにかく今回はお前の負けでどうだ?そして、大人しく俺と来い」
「必ず、お前を二度と後悔させない。俺もこの世界ではひとりぼっちだったからな。お前の気持ちはよくわかる」
非情にならなければ生きていけない。
いつの間にかその生き方に支配されていた。
銃を落とすスフィア。
「一旦よ。あなたの軍門に下るわ。その代わり…私達の身柄は保証しなさい」
私ではなく、私達…エマも含めてスフィアは言った。
「あぁ…勿論」
「…後、ちくってやる。レンコに」
「はっ?!なんであいつの名前が出るんだよ」
「気づいていないかもしれないけど、相当な落とし文句よ、あなたの今のセリフ。私以外の女ならころっと落ちるわ」
「誰がお前なんかに惚れるか!忘れるなよ!お前は俺を一度殺そうとしただろ!」
「あなたもよ!私を殺したじゃない!」
「お前は今も生きてるだろう!」
「あなたもじゃない!」
ボロボロのリョウマ。傷がないスフィア。
しかし、二人は対等に、まるで旧知の中かのようにしてお互いを罵り合う。
そして、言い争いをしているとスフィアの穴から誰かが出てきた。
「リョウマ!」
「リョウマ!無事か!」
「リョウマ!」
ケンとレンコとラフロシアだった。
「ひどい怪我じゃない!」
「止血草!」
ラフロシアとレンコが急いで応急処置をする。
「おまえはあの白髪!」「ぶい!」
「…誰よあんた?」
スフィアは突然出てきたケンと肩に乗るカツを呆れる様にしてみる。
先程あったばっかりだが、彼女の中ではケンの事などモブの様なものなのだろう。
ケンはリョウマの側にいたスフィアを警戒して、守る様にして立つ。
「あー、ケン。大丈夫だ。もうスフィアは仲間…とまではいわないが、敵ではなくなったよ」
「はぁ?またそれはどうして?」
先程まで敵対していたのに敵じゃないとはこれ以下にとした顔でケンはリョウマを見る。
「この馬鹿に諭されたのよ…どうせイグルシアにいても特にうまみはないし」
スフィアはぷいっとそっぽを向いて言う。
「スフィア…」
「あら、レンコ…久しぶりね」
「どうしてあなたが許されるのよ?」
「…」
「あなたがリョウマを殺す事を持ちかけてきたのに…それで私やエマがどれだけ悩んだのか」
レンコはきつく睨む。
「えっ?持ち掛けた?このレンコが全ての元凶なの?」
「…」
ケンはレンコの口から出た言葉に戸惑う。
しかし、それを聞いて一番落ち着いていたのが当のリョウマだった。
リョウマの口が開く。
「大丈夫だ、レンコ。それも含めて俺はもうお前たちを許すと言っているんだよ。おまえだけじゃなく…エマ…隠れてないで出てきな」
穴の方へと声を上げる。
そして、穴からはエマとメグが出てきた。
エマはどうすればいいのか分からなくなっていたのだろう。
後ろにメグがいる事でリョウマはメグ対エマの戦いがどのように幕が落ちたのかを知った。
年相応の戸惑いだ。
「…それよりも聞きたい事がある。スフィア…お前はイグルシアの作戦を把握しているな。その中で俺らの足止めも含まれている。頭のいいお前だ。ここまでの作戦は大方察したよ」
立ち上がり、説明を始めた。
「えぇ、そうよ。私達が命令されたのはあなた達の足止め。新しい団長の件も、相手に目をこちらに向けるため」
「えっ!そうなの」
エマが驚いた口調で言う。彼女だけは知らされていなかったのだろう。もしくはスフィアが調べたかだ。
「…まずは、最初の奇襲。あれは奇襲に見せかけての囮よ。カーナークを呼び寄せて、エマのスキルの足しにするつもりだったの。そのために先兵は知恵が浅い兵士で固めたわ。だからカーナークの事知らないのよ、あの凍った人達は」
普通、カーナークが戦線に加われば、常識ある指揮官なら撤退か…少なくとも馬鹿みたいに攻撃しないだろう。
しかし、最初に突撃したイグルシアの兵士達はカーナークへ攻撃した。これはつまりカーナークの事を説明していなかった事に他ならない。
「そして、カーナークが出てきた時に私達はこちらへとやってきたわ」
「そこだ、スフィア」
「偶然とも思ったけど、どうむ都合が良すぎる。このあまりに良すぎるタイミングは…同時にある確信へとつながった…裏切り者がいる事のな」
リョウマはスフィアをきつく見つめる。
そして、スフィアは降参とばかりに口を開く。
「半分正解。そいつはどういう指令を受け持っているかも察しがついているんじゃない?」
「…それは」
「その指令は一体なんだ?」
ラフロシアが問い詰める。
「このニューアリアのどこかにいる霊獣の暗殺よ」
「バロンさんが危ない!」
「俺達は今さっきバロンさんの所から来たんだ!」
「くそっ今から行くぞ!」
「俺も…くっ」
リョウマも向かいたいが、傷が深くてすぐには動けない。
「俺とレンコさんで行く!場所ならは分かる」
「メグ!エマとスフィアを監視しているのよ!」
ケンとレンコは駆け足で走って行く。
去り際にレンコがメグに二人の監視を言い渡した。
「えっ?えっ?」
「今更何もしないわよ」
「うーん」
スフィアとエマはもう戦う気がないと座り込む。
そして、レンコとカツは慌てて元いたバロンの所へと走った。
◇
場所は戻って、湖畔のバロンの所。
「はっはっは、ご主人様。あなたがいなくなってから随分と生きましたが、旧友との再会、新しき友と出会い…この生は楽しく過ごさせていただきましたよ。これもご主人様が私を助けたからですよ…」
霊獣であるバロンは湖畔の奥にあるお墓のようなものにお参りしていた。
「しかし、ただ得ているだけでは仕方ありませんよなー。この獣ももう歳。そろそろ残す事も考えなければいけませんなぁ」
「霊獣様!」
すると、バロンの後ろにエルフの兵士がやってきた。
「なんじゃ?」
「只今【大会議】並びに魔王国の国家象徴でありますリョウマ・フジタ様の警告で、このバロン様の空間にイグルシアからの暗殺者がこの混乱に乗じて攻めてくるとの事」
「なるほど…それで私の身も隠した方がよろしいのかな?」
「はい、どうか避難の方を!」
そういいながら、兵士がバロンの方へと近づく。
「して、君は誰かな?」
バロンは両手から爪を出す。
「え?私は【大会議】所属の兵士です。霊獣様をお守りしようと…」
「ほう、成程、貴様はエルフと申すか。その殺気でのう」
そして、バロンは高速で爪のある右手で掻き切る。
しかし、高速で掻き切った右手は空を切る。
並みのエルフでは回避不可能の攻撃は目の前のエルフは避けた。
「ちっ、ばれたか」
エルフの兵士は少し離れた所へ着地し、バロンから距離を取る。
「情報不足じゃな。この国のエルフはそもそも私を探しに来ないのだよ。いつも転移紋のそばから離れんで待っておる…私も心苦しいが…どのくらい待っても、やつらは嫌な顔を一つせずにおる。かわいいものよ。お前と違くてな」
笑いながら、ゆっくりと獣の姿へと戻るバロン。
「ちっ、そんなに信仰心熱いのかよ」
エルフの兵士は悪態をつく。
「信仰心をばかにするな、それにさっさとその影から出なさい。私には効かないぞ」
「ほう、流石は霊獣。指令は暗殺だったが…仕方ない…」
すると、エルフの兵士から影が出た。
その影は人の形からだんだんと人間の姿へと変わった。
「姿を見られちゃあしょうがない。あの女二人も勝てると思えないし…さっさと終わらせるか」
第四師団長 フレディ・オッポサム
通称「影潜り」
イグルシアの魔の手はまだニューアリアにいたのだった。
「何を…」
ザクッ
すると、バロンの背中にナイフが刺さっていた。
「あー、霊獣のあんたと戦う気なんかさらさらねぇよ」
耳をほじりながら影から出てきた男は言う。
(そんな、なぜそんなに早く?!何かのスキルか?あの影がそれでは?)
おそらく潜伏を得意とするスキルだ。しかし、それは今の攻撃への説明がつかない。
バロンは獣の姿になった事で本来の力を発揮できる。
それは相手の行動を予知レベルの感知する事も、しかしバロンには分からなかった。
(いかん、これでは)
「とりあえず、これで俺らの目的は達成だ…じじぃはもう寝てな」
あくびをして立ち去ろうとするフレディ。
その後ろでは立ち崩れるバロン。
そのバロンから流れる血は止まらないでいた。
ここまで読んで戴き、有難うございました。
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東屋