表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/115

復讐者、引き金を引く

空気を蹴る様にしてリョウマは黄金で出来た戦いの場の頂上へと駆け上がった。


上へと行くとネズミ返しのようになっていた。頂上を広くしたため、下からは簡単に上がれないようになっている。


リョウマは空中を横に動きながら、黄金の塔の頂上へと着く。


「よっと、着いたか」


高さは五階建ての【大会議】よりもさらに高い位置にある黄金の広場。


50mぐらいの広さの広場には四角い模様の床以外何もなかった。


「…」


リョウマは周りを確認していると、突如として箱のようなものが出現する。


そして、その箱の中央が割れたかと思うと、中からはスフィアが出てきた。側には丸い穴もある。


「あら、せっかくあなたも使える様に階段とここまでの出入り口を用意したのに」


「何仕掛けているから分かったもんじゃないからな」


リョウマはそうスフィアに言う。


「別に何も仕掛けないわよ。あなたをここで殺したいんだから」


「そうか」


リョウマはスフィアの言葉を無視した。


気がかりな事がリョウマの中ではあったが、それ以上にスフィアの事を警戒していた。


「戦う前に聞いておきたい事があるわ」


スフィアは手を頬に当てて、考え込むようにして言う。


「どうして、私を最初に復讐したのかしら?」


復讐の順番。


スフィアは復讐されたこそ、気になっていた。


彼女がリョウマに最初に復讐された。そして、それはつまり…


「お前が一番危険だと思っていたからだ。不服か?」


「いや、やっぱりねと思ったわ」


リョウマから危険だと言われ、頬を緩ませるスフィア。


復讐された相手に危険だと思わせられる。それは今のスフィアにとって甘美なまでに気持ち良く、また誉れでもあった。


そんな相手を今から自分の手で壊す。そう思うと彼女の体はまるで濡れるかのように緊張した。


恍惚とした表情のスフィアを見ながらリョウマは続けた。


「…仮にエマ…そしてレンコを先に復讐したとして、その情報がスフィアに届いたらお前はすぐに雲隠れするだろうと思った…長い間パーティを組んでいたからな、お前らの事は理解しているつもりだ」


「ふふ、理解ね…そんな相手に殺されかけたんだから笑えるわ」


「そうだな、そしてお前はそんな殺されかけたやつに殺された」


「違うわね、こうしてあなたを壊すんだから」


「そうだな…あの時の俺はどうかしていたな…」


「なぁ…スフィア…一発殴らせろよ」


「その前にあなたを殺させて、リョウマ」


「…」


「…」


「ねぇ、リョウマ、私達ってさ」


「あぁ、パーティの頃から感じていたが…」


「「本当に合わないな(わ)!!!!!」」



その一言が開戦の狼煙となった。


リョウマは拳に力を込めて空中へと殴る。


スフィアは黄金を操り、拳の様にして飛ばした。


いくつかを除け、いくつかを殴り飛ばして前進するリョウマ。


「邪魔だー!!」


そしてスフィアの懐へと入り込むリョウマ。


「くっ!」


スフィアは避けようとするも、リョウマよりも運動神経が遅い彼女では避け切れない。


「いけぇ!」


【英雄】の力を乗せた拳でスフィアの顔面を狙う。


「残念。ここは私の舞台。私の黄金の上よ」


そういうと、スフィアはあり得ない速度で移動し、躱される。


「何?!」


空振りの拳は虚しく空を切る。


そして、スフィアは遠く離れた位置にいた。


彼女の地面を見るリョウマ


「そうか、【黄金】の操作か」


「正解、やっぱり一発で見抜いちゃうよね」


そう、彼女の運動能力が爆発的に上がったわけではない。ただ【黄金】のスキルで足元の黄金を操作して、自分の位置を高速で移動させたのだ。


「成程ね…圧倒的に俺に不利なわけだ」


「そうね、そして私には有利な舞台だわ」


そして両手を地面につけるスフィア。


「想像せよ、創造せよ、万物の武器を」


そして、出てきたのは百を超える武器たち。


刀、斧や鎌といった凶器は勿論の事、黄金の弾など多岐に渡す武器が宙へと浮かぶ。


「ただの弾だけじゃあ貴方を倒せないから…人海戦術ならぬ器海戦術で行かせてもらうわ」


「おいおい…これは流石に…」


「行け!」


武器の切っ先がリョウマへ向き、突撃してくる。


「うわぁぁぁ!!!」


【英雄】による武器を最大限にして、迎撃と躱すの両方を駆使する。


「ははは、どうしたリョウマ?避けてばかりじゃ何も出来ないわよ」


「くそ…」


傷をどんどんと負いながら、リョウマはスフィアからどんどんと離れる。


リョウマは遠距離よりも近距離の攻撃が得意、対してスフィアは遠距離の攻撃を得意とする。


これでは戦況はスフィアの有利になる。


「いけいけいけ!」


スフィアは黄金で出来た万物の武器の攻撃をやめない。


「くそ!あいつのスキルって無尽蔵かよ」


悪態をつきながらも、リョウマは飛んでくる黄金の武器を交わしていく。


(正確には限度はあるわ…だけど、それを知った貴方は途方にくれるでしょうね。あの時、私を焼いた黄金の量なのだから)


リョウマを窮地に追いやっている事を嬉しく思うスフィア。


パーティー時代から敵わないと感じていた男に自分は勝っている。


どんどんと増えていくリョウマの傷を見ながら確かな手ごたえと感じる。


そう、うまくいっていると思った。


しかし、ふと思い出す。リョウマのもう一つのスキルを


(…可笑しいわね。どうして【復讐】を使わない?)


「…まさか」


そして、攻撃をやめるスフィア。


「はぁはぁはぁはぁはぁ…」


体中に生傷を作りながらも、リョウマはまだ立てていた。


しかし、彼の息遣いは荒く。着ている服も徐々に血で滲んでいる。


そんなリョウマを見ながらもスフィアは話す。


「流狼の戦い、私は見ていたわ…そしてあなたの【復讐】の大体の効果もそこから分かっているわ。一つは相手の身体能力のコピー…まぁこれは私にあまり意味がないわね。そして、スキルの複製よ。明らかにこの黄金の舞台の上で二個目にスキルは必要、なのにどうしてそれを使わないの?」


リョウマを睨むスフィア


「はぁ…はぁ…、それは答えられないな…。」


「何?」


(まさか、何か秘策が?)


「想像せよ、創造せよ、万物を」


そして、新しくたくさんの黄金に煌めく武器を生み出す。


「じゃあ、その秘策とやらを見せて頂戴!!」


そして、攻撃を続けた。


「【英雄】、強化!」


そして、【英雄】の力で高速で飛んでくる武器から避ける。


(やっぱり、避けるだけで…私への攻撃をしてこない)


(何かを待っているの?なら一体何を?いや、それなら傷を負う意味が…まさか?!)


そして、再び攻撃をやめるスフィア。


今度は屈辱を感じながらにして言う。


「ふふふ、ここまで来た事から分かっておくべきだったわ…」


スフィアに有利な舞台だというにはリョウマは承知だったはず。それにもかかわらず来たという事をよく考える必要があったのだ。


リョウマの前へと歩くスフィア。


「一発殴らせて…あれってまさか…」


溜めて、リョウマの秘策を言い当てる。それは秘策でもなんでもなく、ただの…


「…本心?」


冷や汗を掻きながらスフィアは己の推測を語る。


「あなた…私を倒すつもりはさらさらないのね」


腕を組みながらにして言う。


「このまま殺されるつもり?」


「はぁ…はぁ…」


にかっと笑いながらにして言う。


「ふざけんな!」


沈黙は肯定。


そう察したスフィアは怒りに任せて行動する。


スフィアはリョウマの鳩尾を思いっきり蹴り上げる。


「全く…馬鹿にされたものだわ!そうやって、あなたから始まった復讐を終わらせるつもり?!そんなので終わりにするつもりだっていうの?ねえ!」


リョウマは口から血を吐きながら、縮こまっている。


「さっきまで威勢はどうしたの!何よ!何よ何よ!!」


スフィアが怒鳴りながらリョウマに言う。すると、リョウマの口が開いた。


「俺なりに色々考えた…お前が俺を恨んでいるように…俺もお前の事を相当に恨んでいる…だけど、同じぐらいに大切な仲間だ。そして、そんなお前達を殺したところで何も生まれない事を俺は知った」


この感情を知ったのはレンコと復讐をしようとした際に相対した時だ。


「その感情に気が付いた俺は…レンコを残した。そして、お前達を殺してしまってから…俺は…後悔した。自分の中の大切な何かを失ったみたいで…気持ち悪く、落ち着かない日々が長く続いた、それを救ってくれたのはレンコや魔王国での仲間だった。過ちを犯した俺を許してくれたんだ」


そして、立ち上がりながらリョウマは続けた。


「そして、残したレンコは改心した…そして変わった俺自身を見つめる様になって分かったんだ、学んだ。人は変われるんだってな…そしてどうして変わったか考えるようになった。ふと自然と思い出したのは当時の俺だ」


当時とはランドロセル王国時代のリョウマだ。



「あの時の俺は…お前らにリーダーとして未熟だった事に気が付いた、そして思ったよ…復讐を盾にして、本当の問題から逃げていた」


その事実にリョウマは、逃げていたのかもしれない。あいつらのせいだと、手を掛けたのはあいつらが悪いのだと…


「お前らの身勝手あるが…俺も青かった。青かっただけに過ちを犯した。そして、それはどうしようもないと思っていたが…こうして巡り合えた。もう死んだと思っていたからできないと思っていたが、こうして会えた。なら、俺がやる事はただ一つ…二度とあの土俵に立たねぇ…そして、パーティー時代に続きだ…お前らを改心させるのは()()()()()()()()()()()だ。あの時疎かにしていた仕事をこれからやるんだ」


決心した顔で言うリョウマ。


一通りのリョウマの決意、そして告白を聞いたスフィアは…


「ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんなぁぁぁぁぁぁ!」


過去一の怒鳴りを上げた。


「はぁはぁはぁ…」


そして長い息遣いをする。


「今更、今更…自分だけ勝手に悟るんじゃないわ!!私の気持ちは!この復讐はどうするのよ!」


怒りの籠った目で言う。


「治めろ、言ったが、俺もお前に復讐心がある」


「あなたは復讐したじゃない!私とエマに!なのにそんな都合よく言うんじゃないわ!!!」


正論だ。目には目を歯には歯を。それが世の常だ。


「…お前の怒りは最もだ。そして、そんな怒りを理解した上でいうぞ」


リョウマはそして言った。それがどう相手が受け取ろうと、スフィアに言うべきだと思ったからだ。

それは当時、あまり話せなかったからの反省か償いか。


「それでも…お前を殺すよりも、俺はまたお前らと冒険したいと思っちまったんだよ」


スフィアは呆然とした。

リョウマも、時間の感覚が麻痺ってしまった。


「馬鹿ね…私を生き残らせても…あなたは痛い目にしか見ないわ…」


そしてスフィアは続けて言う。


「レンコは?あなたの子どもは?私ならあいつらなんてすぐに殺してあげるわ…殺してあげるわ!!…どう?これであなたもようやく【復讐】を使う気になった…どう殺す気になった?!」


「…」


「戦え…私と戦え!リョウマァーーー!!!」


「それはお前はしない事はよく分かっている」


そして、止めの事実を話すリョウマ。


「イェーガーの村」


「!!」


その村の名前を出して、明らかにこれまでの態度と違う態度を出すスフィア。


「やめて、それを言うって事は…やめて」


頭を抱えて、リョウマは言い続けた。


「…ランドロセル王国を倒した後、俺はある村に行ったんだ。そこには約十年前に家族そろって亡くなってた事件があった」


「スフィアは言っていたな、家族はいないって…」


「そうよ、それは私がやったのよ。私は家族を手に掛けたわ!別にあなたがどうしようと私はそういう人間なのよ!自らの家族すら手をかけるような…」


「それだけならな…だけど、その村へ行った俺は見つけたぞ。その家族の墓には…毎年人数分の花があった」


耳をふさぐようにしてスフィアは小さく言う。


「やめて」


「村に聞けば、毎年同じ日に花が置いてあるそうだ。そして、その花があった日…どんな依頼があってもお前はどこかに出かけていたな…」


「やめて、やめてよ」


スフィアは顔を下にし、膝を曲げて座る。


明らかに戦意がそがれている。


「それが誰かは俺も分からない…ただ、その花を見て俺はお前だったらいいと思ったよ」


「私じゃないわ…私じゃ…」


スフィアは顔をリョウマの目線から隠した。


「スフィア。俺を許さなくていい、俺もお前を許さねぇ。だけど、いい加減、自分は許してやれ…その生き方はどうやっても苦しい」


真実は分からない。彼女が認めない限りは。

だけど、そうであってほしいのはスフィアの仲間だったリョウマにとって当たり前の感情だったのかもしれない。


「ぐっ…今更リーダーづらしてんじゃないわよ」


「行動に移さなきゃ、何も始まらねぇのよ」


涙を拭きながら、スフィアはリョウマを睨む。


「…本当に使わないようね」


スフィアは立ち上がりながら言う。



「ならいいわ。そのまま死になさい。とっておきを見せてあげる」


そして、小さめの黄金である物を作る。


「銃よ。あなたに教えてもらって、試行錯誤で作れたのよ。私のスキルで作れば、銃には不向きな黄金でもちゃんとした銃が作れるの!」


構えてながら言う。


「こんな結末…望んでなんかいなかったけど…あなたが抵抗しないなら、このまま死になさい」


「…当たらないさ」


「当てるわ、あなたを今殺して、ここで終わらせる!」


そして、指に引き金を掛けて…


ドン!


その引き金は引かれたのだった。


ここまで読んで戴き、有難うございました。


ブクマ、感想、評価等いただけると大変励みになりますので、もし良かったら宜しくお願い致します!


東屋

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ