復讐者、両親の死の謎
女性陣が戦闘を繰り広げている時に、カツに乗ってレンコを探しているケンは戸惑っていた。
「おい!どうしてレンコさんがここにいないんだ!いるはずなんだろ!」
【大会議】のエルフの兵士と合流し、真っすぐと牢屋の方へと向かった。
案内された牢屋の中にはレンコがいなかったのだ。
「いえ、分かりません!確かにここに収監されていたのですが…」
案内をしてくれたエルフも戸惑っていた。
「カツ!牙!」
「ぶぃ!!」
ケンはそうカツに命令して、カツに牙を見せさせ、兵士へ威嚇する。
「ひぃぃぃぃぃぃぃ!本当に知らないんです。ここに収監されていたはずなんです!本当なんです!!!」
エルフの兵士は泣きながら、それでも己が知っている事を懸命に説明している。
「…どうやら嘘ではないみたいだな…でも…じゃあ一体どこに?」
牢屋の中を調べると、わずかに体温の温もりがあった。先程までここにいたのは間違いないのだろう。
すると、廊下の向こうから別のエルフの兵士がやってきた。
「おい?君はリョウマ様の仲間か?」
「え?あぁ、そうだ」
「なら、丁度いい!私についてきてくれ、ここに収監されていた女性なら霊獣様の元へ避難させている。君も案内しよう。」
霊獣様と聞いてケンは戸惑いから驚きにスイッチした。
「霊獣って…ここの守り神的存在の?」
「守り神的ではなく、守り神だ…と失礼。とにかく、霊獣様があの女をここにお招きしろとおっしゃったのだ。あそこならこのニューアリアで一番安全だからな、リョウマ様のご要望に合うかと」
「そうか!なら、急いで案内しろ!こっちも急いでんだ!」
「ぶぴぶー!!!」
本当はレンコを呼ぶのではなく、非難させる事を云いつけられているのだが、そんな事は忘れてしまっている二人。
そして、ケンはレンコと合流するために霊獣の元へと向かった。
◇
霊獣 バロンのいる湖の畔
そこではテーブルが用意され、バロンは優雅にお茶を啜っていた。
レンコは冷や汗を出しながら、目の前の老人を見る。
バロンは人型に変身できるのか、老人になっていた。
「あの…どうして私はここに招かれたのでしょうか?」
「いえいえ…リョウマ君と君の容疑は他国の密偵からの偽の情報でな、そのお詫びも兼ねてお茶を入れようと思ってな、どうじゃ、ここの景色もきれいだろう?魔王国のにも負けていないと思うぞ」
「えぇ…とても綺麗な景色ですし、このお茶も美味しい。」
紅茶を飲みながら、緊張を整えるレンコ。
「リョウマ君は今【大会議】のエルフ達の話し合いをしている。私はこの国の霊獣だが…基本暇しておってのう…しかし、こういう事を頼むのも自国の者は皆遠慮してしまうのだ」
崇拝される存在のバロンとお茶など、エルフの殆どは恐れ多いだろう。
陽気なリリアシアも遠慮したいほどにバロンへの崇拝度はエルフにとって大きい。
そして、リョウマが危機に立ち向かっている事は伏せた。
「はははっそんな時に他国のこんな美しい女性とお茶を飲めるのは、この老いぼれも元気になるというもんじゃ」
「ははは…そうなんですね」
レンコは霊獣であるバロンが果たして人間と同じ美の感覚なのか疑問に思ったが、口を閉ざした。
「…して、レンコさんは刀を持っているのを察するに、剣士ですかな?」
「え?…はい。そうです!すみません、霊獣…様の前で武器を持っているなんて失礼ですよね。預けるタイミングを逃してしまって、どうしようと思っていたんです!今地面に置きます」
そうして、草むらの上に刀を置こうとするレンコ。
しかし、刀を見て、バロンは言う。
「?!…すまないが、それを見せてもらってもいいかな?」
「え?いいですけど…どうぞ」
そして、刀を受け取ったバロンはレンコの刀をまじまじと見る。
「レンコさん…あなたヤギュウ家のものですか?」
「えっ?はい、そうです。あれ?でもそんなニューアリアまで聞かれる程大きな道場でもないかと思うのですけど…」
元ランドロセル王国ではヤギュウ流派の道場よりも、≪鬼姫≫として実力のあったレンコが有名であまり道場の名は国の中では轟いても、他国では広まっていないとレンコは思っていた。
「見覚えある刀だと思ったら、これはカッサイ殿の練習刀の一つだね。そして、名前が轟いていないですと?いえいえ…あなたのお父様は一度ニューアリアへ剣術指南でお招きする程の剣豪でした。こうして、剣術を教わっていました」
「え?、そうなのですか…」
「カッサイ殿…レンコさんの父君はご顕在か?」
バロンの言葉への返事に言いよどむレンコ。
「実は父と…そして母は私が生まれてすぐに亡くなってしまいました。子育てで忙しかった時に一晩だけ、母方の叔母に私を預けて行ったんです。その夫婦で出かけてきた帰りの夜に何者かに襲われて…そのまま両親は亡くなりました…と聞いています」
レンコの両親が早くに他界しているのは魔王国の彼女の仲の良い人なら全員が知っている事だ。
葬式をしたのも覚えているが、レンコ自信、記憶が薄い幼い頃の出来事であまりショックを覚えていない。
しかし、バロンはレンコの口から聞いた事に驚愕する。
「何!?あなたの父君が?そんなバカな!」
「え?どうしてですか?」
「レンコさんの父、カッサイ殿は国家象徴程の実力があった男ですぞ?事故ならともかく、誰かに殺されたなどあり得ない!それこそ同じ国家象徴並みの力がなければな…」
飲んでいた紅茶を乱暴においていう。
「国家象徴ですか?ご冗談を…ヤギュウ流は刀の流派を唱っていますが、その本質は自由な剣技であり、自由故に、各々の剣技が誕生するという心情の流派で、技術的なものでは…」
「あぁ、だからカッサイ殿はよく言っておられたぞ…王国の国家象徴なんぞになりたくないと…自由じゃないからのうと…」
腕を組みながらして、バロンは言う。
「確かにうちの流派と同じ事を言っていますが…」
レンコは信じられなかった。父が相当の強者だったという事実と、そしてその死に謎が含まれている事に。
そういえば…レンコの代でヤギュウ道場が危機に瀕したとおばさまがいっていた。
突然弟子達がやめていったのだ…それがどうしてだったのか、危機に瀕したかは分かっていない。
そのおかげでとはいってはなんだが、レンコは早急に次期当主として鍛え上げられたのだ。
凄く厳しかったのも、父の才能を叔母さまは知っていたからなのではないだろうか。
「えぇ…確かに」
「うむ、そうかカッサイ殿はもうこの世にいないのか…寂しいな」
そういうと、バロンは立ち上がり、少し先の小屋へと入っていった。
(…あれって人間のサイズよね。でも霊獣って)
そんな事を考えていると、すぐにバロンは帰ってきた。
「実はそんなヤギュウのレンコさんに譲りたい物がある。これはカッサイ殿が置いていった刀じゃ。おそらく、自分が殺される可能性を見越していたのじゃろうかは私にも分からないが…他国に住む私にこれを預けていった」
巻かれていた布を解いて、中身を見せる。
「業物 ≪響≫ 。切れ時、強度と抜群の刀だ。何より雷魔法との親和性が高い刀じゃ。カッサイ殿も雷魔法が得意だったからのう」
懐かしそうにいうバロン。
「これは…綺麗…」
黒の乱れ映りのある刀で、それは大変美しかった。
引き込まれるような魅力を刀から感じさせた。
「きっと、カッサイ殿も娘のレンコさんに使ってほしいはず。どうか貰ってくれ」
腰を曲げて、懇願する。
「そんな…こんないい刀、私には勿体ないです」
「何を!これは私からすれば預かりもの。持っていてもしょうがないのじゃ、どうか受け取ってほしい」
「…では、一振りだけ試しに振っていいですか」
凛とした姿で綺麗に振る。
そのひと振りでレンコは気が付いた。
これは私の刀だと。
「こんな振りやすい刀があるなんて」
「よかった、よかった…」
「レンコさーん!!!」
すると、転移紋が光り、ケンが現れた。
そして、ケンから事の顛末を聞いて驚く事になるのだった。
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東屋