復讐者、唸れ!拳のたんぽぽ
メグとエマの戦闘を行っている時、ラフロシアはニューアリアの街を走り抜けていた。
ニューアリアの街はレンガ造りのお家が並び、それらを大木が守る様にして囲っている。
時間は昼。
木漏れ日が街の道路に敷き詰められていた石造りの道を照らし、風によって揺れていた。
そのニューアリアの道路だが、あまりエルフの影は多くない。
そもそも、エルフの数が1000にも満たないのだ。
今もニューアリアで一番大きな繁華街を走り抜けているが、そこを通るエルフの数は50とない。
しかし、皆一応に驚いていた。
なぜなら、カーナークが走ってくるのだから。
「カーナーク様!」
「きゃっ、どうしてこんなところに?」
「あれはラフロシア様では?どうしてこちらに…魔王国へご駐在されているのでは?」
ラフロシアの事を知るエルフも少なからずいる。しかし、それよりも、皆カーナークがニューアリアの街を走り抜けている事に目を疑った。
(さて…どうしたものか?)
ここでラフロシアは考える。どこでカーナークと迎え撃とうかと。
お互いに先天的スキル保持者、そして国家象徴。
国家象徴の戦闘は当然並みの戦闘ではない。
ラフロシアの力はこの森を全焼させる可能性もある。
カーナークの力もこの森を永久凍土に変える可能性がある。
それはお互いの故郷が現在瀕している危機だ。当然、ラフロシアはそんな事を己の故郷にさせたくない。
(確か…この通りを抜けて、さらに行った先の森の入り口に…)
そこでラフロシアは思いついた。自分たちが思う存分に戦える場所を。
すると後ろか殺気がする。
(まさか?!)
ちらりと後ろを見るとカーナークが氷の弾を作っていた。
(街中でしょ?!『アミンアミ草』!)
そして飛んできた氷の弾を捕まえた。
一発でも漏らすと、街への被害に繋がる。
(これは…加速しなきゃだわ)
『反発のたんぽぽ』
白いタンポポを足につけて、飛びっきり大きな跳躍をする。
これで加速して、早めに目的地に着く算段だ。
「カーナーク!こっちよ!追いついてみなさい!」
一応の挑発をしてみて、カーナークの意識を自分に引きつける。
カーナークも催眠状態でラフロシア以外の対象に興味がない。
暫くの間、ラフロシアとカーナークの競争は続いたのだった。
◇
ニューアリアから離れた所にある巨大な湖。
ミカロジュの森が国として貴重な保存している水源の中でも一番大きな湖にラフロシアは戦いの場を移した。
名はルフ湖
ルフ湖はまっ平らで、森では感じられなかった太陽の恵みを一心に受け、その水面は空の色を映しているように真っ青だった。
水鳥達が水面で羽を休めており、その眼は日向ぼっこをしているからかとろけているようにラフロシアには見えた。
ラフロシアも、久しぶりに見たルフ湖の光景に心が奪われた。
よくここで家族と共に遊びに来たラフロシア。まだスキルに不安があった中で、水辺は数少ない安らぎの場だった。
そして、今度もそれを利用して戦う。
後ろから草が揺れる音がする。
カーナークが来たのだ。
後ろを振り向いて、ラフロシアは彼の姿を確認する。
催眠状態だと自分の姿に気づかないのだろうか、カーナークの顔には落ち葉が付いているが、取るそぶりが見られない。
正に人形のようなたたずまいでただ獲物の対象であるラフロシアを見ていた。
「カーナーク、一応確認するわ。あなた?私を倒すつもりでいるのね?どうしてもそれには抗えないの?」
まず、ラフロシアは声からの催眠解除に取り掛かった。
これで、解決するなら…戦闘をしないで解決できるならそれに越した事はない。
何事も荒事は最後。いや、しないようにして取り組んだ方が良い。
しかし、カーナークはラフロシアの言葉へ返事をしない。いや、顔一つ動かさない。
聞こえていないのだ。
(やはり、物理干渉で目を覚まさせるしかないか)
もしくは捕縛という手段もあるが、それは難しい。
何故なら、カーナークは先天的スキル保持者で体を自然物質に変換できる。
縄や高速器具で縛っても、意味がない。スキルを無効化できる技術はあるが、ラフロシアの手にその物はない。
気絶させるしか手段がないのだ。
(国家象徴を相手にね…きついわね)
「カーナーク、そういえば、私達ってさ…結構話した事はあったけど、こうして喧嘩した事はないわね」
魔王国へと出向が決まる約数十年。
同じ自然系の先天的スキル保持者として意見を聞く機会は多かった。しかし、カーナークは天才肌であまり参考にならなかった。
それでも、ラフロシアにとっては良き友人だった。その友人が自分の生徒をぶん殴った時は怒りで思わず声を荒げてしまったが、それでもカーナークはラフロシアにとって友だ。
できるなら戦いたくないが、今はメグもそしてリョウマも戦っている。自分の過去と。
なら、一番楽である自分が戦わない選択肢はない。
そうラフロシアは決めた。
「大丈夫よ、カーナーク。殺しはしないわ…だけど…少し痛い目に見てもらうわ」
そしてまた思い出されるリョウマがカーナークに殴られたシーン。
「あなたは少し私を怒らせたから、あなたの知らない戦い方で倒させてもらう…いくわよ」
カーナークは何かを察したのか、ラフロシアよりも先に技を繰り出した。
【北陸の氷の樹】
人を凍らせるカーナークの得意技。
しかし、それはラフロシアがミカロジュの森にいた頃から使用している業だ。
当然、その対策もすでにある。
「咲き誇れ『ジュロンジュの花々』!!!!」
すると、紫色の巨大な花をラフロシアは瞬間的に咲かす。
すると、氷が一瞬で溶け、そして花へと吸い込まれた。
「ジュロンジュの花…砂漠にある花で少ない水分を吸い取る事で有名な花よ。そして、何より砂漠の高温の環境に適応するために自身も温度を持つ花よ…個体によって温度は変わるけど、このジュロンジュの花は周囲を約80度にするわ…これだとあなたの氷の攻撃はもろくなるわね」
「それ以外に目的もあるわよ?段々暑くなっているのわ分かるかしら?そして、カーナーク?このパンチ躱せる?」
そして、足にしかけていた反発のたんぽぽで瞬時にカーナークの元へと飛ぶ。
カーナークは体を氷に変えて迎えようとするが…すぐに溶けて、本来の皮膚が見える。
「催眠で忘れているみたいだけど…自然系の先天的スキルの弱点はその自然が形成できない環境下ではスキルが発動できない。私達は強い存在だけど、故に弱点もあるのよ」
だからこそ、ラフロシアは第二の武器を磨いたのだ。
それが植物魔法と出会ったキッカケ、そして刃だ。
「催眠が解けたら、新しい武器でも磨く事ね…」
そして反発のたんぽぽがラフロシアの肘と拳の先ににあるのが見えた。
肘のたんぽぽには二つのたんぽぽが向かい合いながら、その威力がどんどん上がっているのが見える。
「見れば分かるわね?反発の力でパワーを増幅して、さらに止めで拳の反発であなたにぶつけるわ」
カーナークは避けようとするが、足に何かついているのに気が付く。
『納豆草』
「それは新種でね…とっても粘ったい物質を出せる草よ。名前はあいつの故郷のごはんからいただいたの」
カーナークにはラフロシアの言葉は届いていない。
今も、じたばたと罠にはまった足をどうにかしようとしているが、それが出来ない事はラフロシアは見抜いていた。
(催眠状態だと恐ろしく思考が下がるみたいね…これなら簡単だわ)
そして、たんぽぽのパワーも貯まり、拳を出す準備をする。
「さーて、覚悟はいいかしら?」
催眠状態のカーナークには感情が表に出るわけがないが、その眼は「やめてくれ」と言っているかのように懇願しているように見えた。
「私の生徒への一発、返させ貰うわ♪」
植物魔術格闘技 【唸れ!拳のたんぽぽ!】
ドガンッ!!!!!!!!
そして、カーナークの顔面へと強打する。
そして、取りついていた草事カーナークの姿は空中へと飛んでいった。
「えーーと、こういう時はなんていうのだっけ?」
すっきりとした顔で、ラフロシアは勝利の掛け声を思い出していた。
「あっ、そうだ、玉屋―!」
そして拳を上げて、気持ちよく叫んだ。
リョウマの言った異世界の常識を間違ったタイミングで言いながら。
何よりも、カーナーク対ラフロシアとの戦いは、ラフロシアの圧勝で幕を閉じたのだった。
ここまで読んで戴き、有難うございました。
ブクマ、感想、評価等いただけると大変励みになりますので、もし良かったら宜しくお願い致します!
東屋