復讐者、いじめられっ子の決意
スフィア対リョウマの戦場は空高くある黄金で出来た舞台へと移った。
彼らは上へと行き、一階の転移紋の部屋に残されたラフロシアとメグ、そしてエマとカーナーク。
「さてと…」
ラフロシアは一息をついて、先に動いた。
まずはメグへと声をかけるラフロシア。
「私は外に行くわ、メグ。私の場合切り札を使うとどうしても周りに迷惑をかけるからね…」
彼女の言う切り札はスキル【太陽】の事だろう。
そして、彼女の相手は大規模攻撃が得意なカーナーク。
確かに、この部屋はかなり大きい。
しかし、屋内には代わりなく、熱で他の人へと影響は計り知れない。
「はい!どうかご武運を!」
そのため、自分の壊した障壁の穴へと入るラフロシア。
そして、カーナークはすでのエマの命令でラフロシアを追うように操作されている。
穴を通ったラフロシアに続いて、カーナークもその穴へと入る。
そして、大きな部屋に残されたのはエマとメグだけになった。
「あーら?いいの、あなた一人で?別にいいのよ~助けを呼んでも」
「…」
「だんまりね…貴方って昔からそうよね…私もカーナークを操作しながら国家象徴を相手に取るのは難しいけど、あなた一人ぐらいならどうってことないわ?副団長よ!副団長!」
「…」
「知っている?イグルシアってランドロセル王国よりも全然大きいの!そして、その中の最高峰に位置しているのは八蛇師団…だったけど私達の加入で九個目の師団ができたのよ!それだけ私達の存在はイグルシアにとっても特別なのよ」
「…そう」
「それにね、ねぇ、覚えている?学園での私達の成績?あなたは…ずーっと私に勝てなかったわね。いや、そもそも学園にいるのすら可笑しいほどに魔術のレベルがあなたは低かったわ」
「そうね、貴方は私よりも上だった」
「やっとまともな返事したわね…だからこそ、むかつくのよ…貴方の事が…今回の私への仕打ちもそうだけど…それ以上に、それ以上に、実力も向上心もそれ以外の面でも私より下だったあなたが、今もこうして目の前にいるのがね!!!…あなたを敵として認識するのも…私の中のプライドに傷がついているわ」
先程まで笑っていた顔も、今は悔しさで歯切りしが聞こえそうだった。
「…」
「メグ、リョウマの弟子とかほざいていたわね…笑えるわ。あいつを師匠として認めるなんてどうかしているわよ?私に何をしたか知っているでしょ?私達の生まれ故郷に何をしたか知っているの?分かっているの?あいつは、人殺しをなのよ」
「くっ…」
リョウマを人殺しと断定したエマにメグは顔を濁す。
厳密にはリョウマはスフィア、ましてやエマも殺してはいない。
しかし、それは偶然であり、こうして相まみえるまではリョウマは彼女達を自分が殺したと認知していた。
リョウマの中でも、己が殺人者だという事は認めているのだ。
それをメグは否定したくとも…事実は変えられない。
エマは続けている。
「殺人者を師匠に…いいえ、師匠だと認めるなんて、あなたも相当歪んでいるわよね…だから、学園で虐められるのよ。この世の中、可笑しいやつは排他されるのよ」
「…!」
「可笑しいやつは前へと進んでいる人の側に来ないでよ!邪魔なの!脇役風情が!足を引っ張っているのよ貴方わ」
指をさして声を大にしてエマは言う。
そんな様子の彼女にメグはどう感じたのか。
メグの口が開く。
「…そんな考えだから、エマは私や色んな人にあんなことをしたの?」
思い出されるのは自分がいじめられた日々…だけではない。
確かにメグが一番虐められていた。
しかし、虐められていたのはメグだけではない。多くの平民で入学した人だけではない。貴族の中でも妨害や阻害は日常的に起きていた。
それは小さな事でも大きなことでも変わらない。皆、貶して生きていたのが学園の現状だった。
「実力も向上心も…ましてや可愛いあなたがどうしてそんなに他人の持つ物を妬んで、どんどん奪うの?学園のみんなもそう。虐められたら虐め返す。そんな空気だったあの学園は私は大嫌いだった。
「だから、私は耐えた。耐えに耐えたの…あなた達と同じ土俵に上がるのなんでまっぴらごめんだわ」
殴り返したら殴り返せ。
やられたらやり返せ。
目には目を、歯には歯を。
学園にいたメグは当時、そのような事をずっと考えていた。
しかし、心の中でどうしてもその事を行動に移せなかった。
「それは貴方が他人を蹴落としても得たい者がないのよ…つまり弱いの!弱いのよ貴方は!耐えたとかぬかしているけど、貴方はただ何もしなかったの!」
「違う!」
大声でエマの言葉を否定するメグ。
「私は何もしなかったんじゃない!何もしない事選んだよ!そう決めたの!それが…約束だから!」
目頭を熱くして、メグはエマを見つめる。
睨みつけてはいなかった。ただ、決意の籠った目だった。
「約束?」
「えぇ、私にとって大事な約束よ…それは貴方を倒して、私が教えてあげるわ」
「…別に貴方の約束事なんて興味ないわ」
「いや、教えるわ…決めた、教える。あなたを倒して、私はあなたに教えるわ。」
「それってさ…つまり私を殺さないって事?」
「えぇ、だって殺したらあなたを変えられないもの」
倒さないという宣言。
それはエマの中のプライドを一番傷つける行為だった。
「弱いやつが、強いやつに立てついてんじゃないわよ!!【風の九弾】」
九つの風の弾がエマの周りにでき、そしてメグへと向かって狙撃された。
それをメグはなんなく避ける。
「まだまだぁ!!」
そして次々へと風、水、そして炎の弾が飛んでくる。
飛びながらエマはメグに向かって言い放つ。
「耐えたというけど、そもそも強いやつが弱いやつを虐げた何が悪いの?それがこの世界じゃない!あなたも平民なら分かるでしょ!それがランドロセル王国の正義じゃない」
ランドロセル王国
この国の闇は決して深くない。
何故なら国中、そして他国にもこの国の悪は隠されていないのだから。
徹底した王政と貴族制度というなの身分の壁。それを建前にした上位優位な政治。
エマやメグは勿論。この国ではスフィアとレンコ、そしてリョウマも住んでいた。
過酷な環境から彼らの心はもしかしたら歪んでいるのかもしれない。
「そうね、私はもっと分かるわ。あなたのは違うの、あなたのはあなたの言うランドロセルの正義なんかじゃない」
メグは避けながら、自分も呪文を唱え、反撃する。
しかし、エマよりも魔法は得意ではないので、数は少ない。
しかし、たまたまエマの足元にメグの攻撃が届き、交戦が中断する。
そこでまたメグは口を開いた。
「-本当に強いやつが弱いやつを虐げる事というのは弱いやつの存在すら知らない事よ」
「はっ?何を知っているのよ?平民のあなたに!」
ここでメグはエマに告白をする。
「エマには話していなかったわね…私は学校ではメグ・サカイとして在籍していたから…私の本名はメグ・ミサカイ…ランドロセル王国の人ならこの意味わかるよね?」
メグの本名を聞いて、エマは驚愕する。
「ミサカイってまさかあのウイジャン・ミロス・ミサカイ?!」
ランドロセル王国唯一の国家象徴。
そして、唯一といってもいいほどに他国から警戒されていた男。
「フッ…その名前すら私は恨めしいけど…でも、幼少期にその人の側で住んでいたから分かる事もあったのよ」
珍しくエマは少しだけの間だが、顔に笑みを浮かべた。苦笑いだったが。
「エマ…あなた、そしてあの時に私をいじめていた生徒皆…ただ自信がないのよ」
メグは無表情に、冷酷に言い放った。当時から思っていた想いを、今言ったのだ。
エマは何も言わなかった。
「自信がないから、他人の持つ物に敏感なのよ。いじめが横行していたのも、それを見過ごした大人も…ただ自信がないの。自信がないから肩書に固執するのよ戦う前にあなたが話していたように…それはたぶん…人の性分なのだと思う…でも、ただそれを受け入れ居たら負の連鎖は止まらない。それでは性格、才能、お金、地位…それを他人から奪う事に躍起になってしまうわ…一番大事な自分の実力も磨かずに」
まだエマは言葉を返さなかった。ただ、彼女の体は震えていた。
「特にあなたはそう。さっきだって、殆どスフィアって人の指示に従っていたんじゃない?何もあなたは自分の物差しで測っていないのよ」
「くっ…」
「そういえば、誰だっけあの馬鹿な貴族だったあなたのお友達?あなたあの子の指示をよく聞いていたわね」
「う…」
その震えはどんどんと大きくなる。
「リョウマさんを殺したのだってそう!私には分かるわ!あなたは…」
「うるさうるさうるさうるさうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいぃぃぃいぃいぃい!!!!それ以上いうなぁぁぁぁ」
エマは髑髏のロッドを出現させて、メグへと向ける。
『水精霊銃の弾丸』
特大の水魔法の弾丸。
溜めが必要だが、威力は絶大だ。彼女の出せる攻撃の中でも最高のものだ。
「消えろ!貴方は本当に私怒らせた!消えちゃえ!きえちゃぇぇぇ!」
魔術を唱え、鋭い水の弾丸がメグへと飛ぶ。
しかし、メグはそれを避けようとしなかった。
手を前へとかがけて、弾丸が届くのを待つ。
(馬鹿ね!そんな手、当たればおしまい!)
しかし、エマの予想は残念ながら外れる。
両手を前へと掲げて、メグはまるでエマの攻撃を受け止めようとしている。
「血迷ったの!なら、そのまま死ね!」
そして、エマの攻撃はメグに当たった。
間違いなく当たった。
しかし…
ごくりっ
という音が聞こえた。
「え?」
ごくりっ
ごくりっ
ごくりっ
ごくりっ
ぽんっ
どんどんと大きな水で出来た弾丸は手のひらへ飲み込まれるようにして消えた。
「え?」
「今さっきの反応…ねぇエマ…これまでの戦いを見て感じたのだけど、やっぱりエマ…あなたはリョウマの復讐に加担していないわね」
「!!!」
衝撃の事をメグはエマに言い放つのだった。
ここまで読んで戴き、有難うございました。
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東屋