復讐者、救出大作戦!
【大会議】の壁が砕かれた数十分前。
場所はステュアート家のお屋敷。
メグとケンが息をのんでリリアシアの声に耳を傾けていた。
「…いたって単純だわ、ラフロシアの本気の力で強行突破!そしてそのままイグルシアに飛ぶのよ!」
「作戦の要素皆無!」
ケンがツッコミを入れた。【大会議】の周囲には強固な障壁が発生されており、それは壊せないという話だったはず。それを無視して、リリアシアは実に単純な方法を提案した。
その発言にメグも、無表情ながら、戸惑いの感情を出していた。
「…ラフロシアさんのですか?でも、植物魔法ってあまり直接的な攻撃には不向きなんじゃ…」
そう、ラフロシアの主な攻撃は植物魔法であり、これは多彩な攻撃が持ち味の魔法だ。リョウマの拳から繰り出す攻撃や、レンコの切れ味鋭い剣戟と比べると、どうしても見劣りしてしまう。
「だから、本当の力よ、本当の」
リリアシアは興奮気味に言う。
「お母様…メグとケンは知らないのです…そもそも今回の旅に同行している人皆知らないでいます」
すると、ラフロシアがリリアシアに対して説明を加えた。
「あらっ?そうなの?どうして隠しているのよ?」
リリアシアがお返しとばかりに質問を我が娘へと聞く。ラフロシアは少し天然な母だと感じているが、エルフでも上位の地位にいるリリアシアならラフロシアの事情も知っているはずだ。それをあえて聞くのはこの場にいるメグやケンへの説明も兼ねているのだろう。
「魔王国国王と会議長からご命令で、魔王国国王にのみ私の本当の力を教えています。代わりに有事の際を除いて使用を制限する契約がなされているのです」
「でも、それって魔王国内の話しよね?」
「そうですね…鋭いですね、お母さま」
確かに会議長との話ではそういう事になっている。
それは会議長自身、ラフロシアを信頼して、ゆるい契約になっているのだ。
「ふふふ…意地悪な事を聞いたわ。それよりも大事な質問よ…大会議に囚われているのはあなたにとって大切な人?」
先程まで楽しそうだったリリアシアは、今度は凛とした佇まいで聞いてきた。
彼女も侯爵夫人、切り替えの速さにラフロシアも気後れする程に磨かれていた。
そして、同時にそれは母親として聞いているのだともラフロシアのみ分かった。
「はい」
ラフロシアの返事を聞いて、リリアシアの凛とした雰囲気は解かれ、元のやんわりとした感じに戻った。
「なら取り返さなきゃ…男はギャップ萌えにとやらに弱いのよ。お姉さんな女性が、強気な所を見せるのもそう…どんどんやっておしまいなさい!」
「そうですが…お母様はどうするのですか?」
「まぁ、ただでは済まされないでしょうけど…その時はあなたを頼ってお父さんと魔王国に行くわ。よろしくね」
女は強し…ラフロシアの行った事の後のお父様の苦労を考えたら申し訳ない気持ちで強いのだが…それでも母であるリリアシアの了解を得たラフロシアは嬉しかった。
ここ数日、生まれた国に囚われているリョウマを取り返したいのだ。それは自分自身もまだどういう存在なのか分かっていない。ただ、これだけははっきり言える。
リョウマは大切な人だ。
そのために防波堤をリリアシアは壊してくれた。
「はい、勿論です。魔王国もいいですよ。特に私の住むレイフィールドは民の笑顔いっぱいです」
ラフロシアは心強い母を持って幸せだと感じだ。
「あのー、俺達にもう少し説明していただけると助かるのですが…」
「えぇ、今話すわ」
そして、置いていかれているメグとケンにも追加で説明する。
「まずは先に謝らしてほしいわ、今から話す事を黙っていてごめんね…メグ…ケン…簡潔に言うとね…私も先天を持っているの、それも自然のをね」
「え!本当ですか?!」
「そんな…どうして今まで使わなかったのですか?そんなのあるなら…それをこの前のジュライドにて活用すればすぐに解決できたのではないですか?」
メグは知っている…先天的スキルの強さを、そしてそれを使わなかったラフロシアに疑問を持った。
一緒に旅をしてきたからこそ、向けてしまう疑いの目。
「他国の民だからスキルを使わなかったという理由であれば…正直私はラフロシア産に対して幻滅します」
しかし、ラフロシアは落ち着いて話を続けた。
「そう思われてもしょうがないけど…違うと言わせてもらうわ」
メグの疑問に対して、ラフロシアは真っすぐと眼を見て言う。
「あの時も、そしてこれまで使わなかったのは…制御がとても難しいからよ。私の先天的スキルを使うと…周囲に多大な迷惑をかけるの、それも命に係わるレベルで…だから契約も魔王国が悪用するよりも、私のためにしたようなものよ」
「迷惑って…どういう事ですか?」
「そうね、そもそもメグ…初めて私の魔法…私の植物魔法を見た時可笑しいと思わなかったかしら?」
メグは初めてラフロシアの魔法を見た時の事を思い出した。
「はい、よく覚えています。植物魔法を戦闘レベルで加速させて発動できるなんて至難の業です」
「そうなの?」
魔法に詳しくないケンが聞く。
「はい、でも私も広い世界を知っているわけではないので…エルフとか特に、なのでそういう事ができる達人がいてもおかしくないと思いました。リョウマさんのもあの時説明してくれたし」
「そうね…リョウマも知らないのよ私の先天的スキルについて。だから、疑いなく私が昔に伝えた事をそのままいったのよ。そういう所が可愛いのだけど」
ラフロシアは頬を赤く染めて言う。
「まず、エルフだからという点から違うの…そもそも…いくら魔力の多いエルフでも魔力を注ぐのに時間が掛かる植物魔法を瞬時に出すのは不可能。天賦の才がない限りは…」
「つまり、その先天的スキルを使って、これまで植物魔法を使っていたのですね」
メグはラフロシアの言い分からそう推測した。そして、それは正解だった。
「そうよ、メグ、私のスキルの名は【太陽】、自身を擬似太陽の塊にするスキル。これに発生する熱エネルギーをうまく植物魔法と駆け合わせる事で植物魔法を繰り出した。そしてそれが私の一番の戦い方になった。見せたいけど…まだそれだけのコントロールが効かないの」
ケンとメグは驚きの表情を露にした。
ケンからは冷や汗が流れた。
「【太陽】だって…そんなのになれたら」
「ほぼ全ての敵は倒せますね」
メグとケンは想像した。もし、目の前に太陽がいて、それは意思があり、倒さなければいけない敵だった場合を。
答えはすぐに出た。
立ち向かう前に無くなる。
太陽の高熱に自分が勝てるわけがない…そもそも勝負にならない。
「発動するだけで周りを焦土に変えるわ、そしてその火がどんどん広がるの」
「ラフロシアが幼かったころは大変だったわね…耐火魔法の服で凌いでいたけど、どんどん焼いちゃうんだもん」
リリアシアがラフロシアの幼少期を思い出しながら話す。
(どんだけ前なんだろ…)
ケンは野暮な想像を心の中だけにとどめた。
「結局、【大会議】でスキル保持者を抑える鎖を買って、私はそれを利用して【太陽】を抑えるまでに特訓をしましたね」
「懐かしいわ…ただねーそのおかげで当時は男勝りで男の貰い手が…」
「おほん!お母様…そういうのは後にしてください」
「何よ!貴方の歳の頃にはまだお父さんとはあっていないけど、すでに…」
「あー、リリアシアさん、プライベートな事はプライベートの時にお話ししましょう!今はとりあえず、リョウマとレンコの救出が先」
リリアシアがカムバック発言をしそうな時に、ケンがうまい具合に間を挟んだ。
「作戦は…まぁ理解しました。でも壁は本当に壊せるのですか?それと周辺への被害も…流石に俺もラフロシアさんの故郷を焼く事には心痛いです」
ケンはラフロシアの【太陽】の発動でニューアリアへの被害を心配した。
「それは大丈夫だわ…長年の自己鍛錬で、10秒だけなら自由が利くわ。ただその準備や集中で一分以上はかかるからめったにやらないけど、それと使ったらしばらく自身の暑さのせいで動きが鈍くなるわ」
とほほとした風にしてラフロシアは話す。
「カーナークさんの【氷塊】がうらやましいわね。彼はもうスキルをものにしているもの」
「その分、増長が激しいですがね、あのバカは」
リリアシアとラフロシアがカーナークの話題を出す。
「やっぱり、ニューアリアの国家象徴であるカーナークも先天的スキルを持っているのですね」
メグがリョウマの捕えられたお店にてカーナークの腕が凍っているように見えた事を思い出す。
「そうよ、彼のスキルは【氷塊】で体を氷に変える力よ…とても強い力だけど、故に私には彼を倒せるわ…なんたって【太陽】だから」
ラフロシアが胸を張って言う。
「そうですね…ただ出来るだけ戦闘は避けたいですよね」
「でも、今のところはそうするしかないだろ…」
ケンとメグは作戦に納得し、ケンが続けて言う
「…なら、その作戦で行きましょう。ラフロシアさんの作った壁の穴に俺が速攻で入ります。メグは援護しつつ、動けないラフロシアさんを守って」
「了解」
「あなたはどうするの?」
ラフロシアはケンだけが先行するのには心配した。彼だけは個人での戦闘力がないのだ。
「俺にはカツがいるので、戦闘やあの中の移動にはこいつがいれば早いよ」
「ぶい!」
すると、カツがケンの胸から出てきた。
「カツがいたのね…」
「ぶい!」
「こいつ普段は俺のポケットで寝ていますからね、後リョウマの事苦手で」
※カツはリョウマに殴られて、一時捕まっていた。
「あー、成程ね…怖いのねリョウマが」
ラフロシアとメグは同情するようにして、カツを見た。
「でも…確かカツって確かβ級の魔物ですよね?なら相当強いですよ」
「えぇ、少なくともエルフの兵士複数なら十分な戦力になるわね」
「ぶい!!!」
任せろっとカツは鼻を天に向けて言うようにしてた。
「じゃあ、【大会議】に向かおうとしよう、皆は必要のものを用意して」
「うん」
「了解」
ケンの掛け声でメグとラフロシアは返事をした。
そして、ケンとメグは自分の部屋へと荷物を取りに行った。
部屋に残ったリリアシアとラフロシアの二人は話をつづけた。
少し寂しそうにしてリリアシアはラフロシアに声を掛ける。
「私が出来る事はここまでね…しっかりとやってくるのよ、ラフロシア」
母親としてラフロシアの実力と思いを把握して、よく理解しているつもりだ。それでもこれから先、救出へと向かう娘を心配するというのも親心。
反対をしないだけ、不安よりも信頼が大きいという事だ。
「はい!お母さま、出来るだけニューアリアには被害を出しませんが、もしお母さま達に迷惑が掛かる時は魔王国へ是非来て下さい」
「えぇ、私も逃げる準備をしておくわ」
ふふふと微笑ましく笑うリリアシア。
そして、ラフロシアは力強く返事をした。
そうして、リリアシア発案の作戦の幕は切られ、【大会議】の壁を壊すという所まで話は進んだのだった。
ここまで読んで戴き、有難うございました。
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東屋