復讐者、砕ける
数年前の出来事
ランドロセル王国にある王都のリョウマ達の元家。
「ランドロセル王国の南西にA級魔物のゴロゾニフが出ただって?」
スフィアがランドロセル王国冒険者ギルドの職員から魔物討伐の依頼を聞いていた。
「そうか…リーダーに聞かないと分からないけど…」
スフィアは依頼を一通り聞いていたが、あまり乗り気ではなかった。ここ一年で十分に稼いでいるのだ。それをわざわざ遠方まで赴いていくほど、スフィアはお人よしではなかった。
「行くぞ」
しかし、そんな気持ちもリョウマの前では無視されていた。
「…待って、行くなら少し条件を良くするために交渉をするとかしましょ」
スフィアはリョウマが依頼を簡単に引き受ける事に対して快く思っていなかった。
「そういうのはお前に任せる。俺はこの国では魔物を倒す事しか能がないんだ…レンコ、エマも準備していくぞ」
「えぇ、行きましょう」
「えー、もう少し王都で遊ばせてよー、これから予定会ったのに!」
スフィアはパーティーのリーダーであるリョウマに大人しく従う二人に呆れを感じていた。
レンコは基本的にリョウマの事には従順。エマは年のせいか年上の男性であるリョウマの言葉には反対しない。
唯一、スフィアだけはリョウマに対して利用価値という点でこれまで着いていった。
だが、リョウマとの歯車が合わない事にはフラストレーションが溜まっていた。
(あぁー、早く稼いで、冒険者引退して、商人になって、大金持ちになりたいわ)
リョウマはスフィアの盗賊としての職業と知恵周り早さを評価して、スフィアはリョウマの腕っぷしを評価して。
表面しかお互いに見てこなかった。
この数か月後、ランドロセル王国側からリョウマへの裏切りの依頼が真っ先にスフィアに届いたのは、当たり前だったのかもしれない。
◇
「久しぶりね、リョウマ」
スフィアは自分の体が火照っているのを感じた。目の前に憎くて憎くて堪らない男が自分の眼に映って、今再び現れたのだ。
スフィアの息遣いは少し早くなり、自信に状態に気が付いたスフィアは右手で左手をつかみ、落ち着かせた。
「あぁ…正直驚いたぜ…お前達、一体どうやって生き延びたんだ?」
まずは彼女達がどうやってリョウマの復讐から生き延びたかを知りたいと思った。
少しでも情報を得るためだ。
スフィアが淡々と説明する。
「あの日、あなたが行った復讐は確実に私達を屠って行ったわ…だけど命まではとれなかった。私は黄金で肌が溶け、肉が焼かれたけど、間一髪の所でラルフっていう男に助けてもらったわ」
続いて、エマが話した。
「エマは~、学園のみんなにぼこぼこのぼこにされていた時に同じように助けられた」
「あの男か…しかし、あの状況でどうやって?」
スフィアは黄金の中、エマは人ごみの中だ。状況的に簡単には抜け出せなかったはず。
エマはにまにまとしながら言う。
「あなたもよーくご存知の魔法に似た方法で私達も転移したのよ」
「ご存知の魔法…ラルフ…まさか…」
リョウマは考えもしなかったある魔法がこの世界ではある可能性がある事に思い至る。
すると、スフィアが答えを言った。
「同世界召喚、あなたがされた異世界召喚の逆で、同じ世界の人間を対象に絞った方法よ…奇跡だって言ってたわ…普通は召喚できたと同時に塵になってしまうみたい」
「でも、私達は無事に傷だらけでイグルシア帝国に召喚されたわ…あの仮面は見隠す以外にも【治癒】のスキルが植え付けられた仮面でね。便利な仮面よ、他人から治癒力を奪えるから…ここ数か月でようやく人前に出てもいい顔になったわ」
そういうと、スフィアは頬の火傷、エマは頬のシミに手をやった。
「でもねーリョウマ、私達は考えたの…それぞれ一つは傷を残そうって…貴方への復讐を忘れないためにね!」
生気のない目でリョウマを見つめるエマ。リョウマの知っていたエマはこういう目をする子ではなかった。復讐者に殺された者は生き残った末の姿にリョウマは軽く戦慄で身震いをした。
「成程、同世界召喚…それでこの現状か…ってまさかだが――――
ここである可能性を考えた。【治癒】のスキルといったが、偏に治癒の方法はいろいろある。中には他人から奪う場合も…
へんな勘がリョウマの中では働く事がある。
今回もその一端が現れた。
「―――お前ら、まさか…その傷は魔王国の民で治したのか?」
すると、その顔が見たかったと言わんばかりに、スフィアはにんまりと笑った。
「勘が良いわね、えぇそうよ…あなた達が調査している誘拐された人達…その全員ではないけど…何人かの治癒力をいただいたわ…楽しみでしようがなかったわ…貴方がこの事に気が付いたらいどんな気持ちになるかを想像してね」
「、まぁ私はこの守銭奴と違く手、少し可哀そうと思うけど… 怪我をさせたわけじゃないわよ…ただ治癒力といった魔力と細胞を少しいただいただけよ、時間が経てば戻るわ」
「…そいつらは無事なんだろうな?」
「分かり切った事を聞かないでよ」
スフィアは笑いながら答える。
エマは少し言いよどんだ風に佇む。
この二人の態度を見て無駄な質問だったとリョウマは思った。
魔王国で倒したエズカルバンの一味の長であるガ―ジルの言っていた後天的スキルの発掘。
そして、二人の治癒にあてがわれた点を察するに、五体満足だとしても心の方で問題があるのかもしれないとリョウマは察した。
そして、目の前のこの元仲間達がどういうやつかと言う事は、自分の身を持ってよく知っている。
「あぁー分かった。いや知っていたよ…お前らは他人をのけ者にするくず野郎だという事をな」
決意の眼で二人を睨む。
少しだけ、想像してしまった。生き残ったこの二人は改心しているかもしれないと。
その時は自分は彼女らの復讐を受ける義務があると。だが、彼女らは変わってなどいなかった。むしろ、リョウマへの復讐心が目の前の二人をさらなる強者へと進化させてしまった。
リョウマは大きく深呼吸をして言う。
「ぶっ潰す」
「ぶっ殺すの間違いじゃなくて?」
「言っとくけど…私達も頭にきているんだからね」
エマが悪態をつきながら言う。
「何…色々とお前らには聞きたいからな、殺しはしねぇよ、殺しは」
「相変わらず甘いわね…私達を昔のまんまだと思わないでね」
すると、スフィアは金を体から発生させ、空中で停止させた。
一方、エマはカーナークを側に寄せる。
(そういや、同世界召喚か)
そして、リョウマは先程の説明を思い出す。
「成程…同世界召喚、そうか、それも召喚か、という事は…スキル保持者になったって事ね…これは一筋縄ではいかないな」
リョウマは戦闘態勢になり、身構えた。
「えぇ、私のは【黄金】、体から黄金を生み出し、自在に操れるスキル」
(それはジュライドで見覚えがある。まさかあれがスフィアだったとは)
リョウマはジュライドにてラフロシアの攻撃を防いだあの金の盾を思い出す。
「私のは【人心操作】、触れた相手を完全に操り人形にするスキルよ」
(チートじゃないか!って…)
スフィアに与えた黄金の波、エマに与えた友達の暴力。それが見事に彼女達のスキルに当てはまっていた。
「なるほど、見事に俺がやった復讐がそのままスキルになったみたいだな、二人にはお似合いだぜ」
後天的スキルがトラウマや強い心理状態で発言する理論はこの二人の存在を持ってして確証されたのだと言えた。
エマが興奮気味にして言う。
「うふふふ、そうね、ある意味あなたがくれたスキルとも言えるわね。だから私は楽しみでしょがなかったの!あなたにこのスキルで復讐するの!白髪守銭奴!手を出さないでね!あいつもリョウマも私が嬲ってやるのわよ」
「ちょっと!来る前に言ったけど、貴方は別の獲物がいるのでしょ!そっちにしなさい!」
けんかする二人をよそに、リョウマは口を挟む。
「…で、お前たちの目的はよーく分かった。で、戦いに入る前に聞くが、イグルシア帝国の目的はなんだ?」
スフィアとエマがリョウマに恨みがあるのは百も承知だ。しかし、イグルシア帝国がミカロジュの森を攻める理由が分からない。
「簡単にそんな事を教えるわけないでしょ?」
エマは少し興奮気味な所を見ると、スフィアが指示を聞いているようだ。
(スフィアの相手をしたいが…カーナークにエマか…)
三体一という危機的状況だが、仕方がない。
リョウマが攻撃しようとしている意思を察して、スフィアとエマも構える。
「…先物勝ちよ、エマ。仲良く殺しましょ」
「分かったわ、そうしましょう」
(つっても…二人相手は厳しい特にスフィアはラフの攻撃を止められるほどだ…)
実質3対1の状況にどう戦うか思案するリョウマ。
すると、部屋の壁にひびが入っているのに気が付く。
「ん?」
先程まで、そのひびはなかった事に気が付き、不思議に思う。
「あいつ!よそ見をしているわ!なめているわね!チャンスよカーナーク!リョウマを攻撃しなさい!」
そういい、エマが先制と言わんばかりにカーナークを前進させた。
「ちょっと待ちなさい!エマ!何かおかしいわ!」
すると、冷静なスフィアは壁の壊れる音に気が付いた。
そして、ひびはどんどんと大きくなり、やがて大きな亀裂へと変わり、壁の崩壊へと繋がった。
ドォン!!!!!!!
「うわ?なんだ?!」
瓦礫が飛んできたせいで、カーナークに当たった。
「くっ、カーナーク!戻って私を守って!」
大量の瓦礫をもろに喰らいそうだったエマだったが、操っているカーナークでどうにか凌いだ。
「ちょっと!どういう事よスフィア!この建物は外からの攻撃は防ぐって言ったじゃない!」
【大会議】の建物は確か周囲を結界が張られていると議長が言っていた。
しかし、現に壁は崩壊した。という事は誰かが壊したのだ。
「えぇ、そうよ!こんな事が出来るのは…」
スフィアはある可能性に思い至る。
「まさか!あの人が自分の国の国会を攻めるとは考えなかったわ、これじゃあ作戦が少し困難になるわね」
そして、崩壊した壁の向こうから見覚えのある影が数人見えた。
「あれ?リョウマァ!無事かー」
「リョウマさん!」
ケンとメグ
二人がリョウマの姿を見て安心する。
そして最後に見えたのはラフロシアだ。
崩壊した事でに陽の光が入ってきた。
それが二つある事にリョウマは気が付く。
(二つ?太陽が?)
一つは空に照らされている。
もう一つはラフロシアから放たれていた。
彼女の様子はどこかいつもと様子が違った。
「燃えてる?」
ラフロシアは燃えていたのだ。
まるで、太陽をその身に宿しているかのように
「あいつ!」
「…これは、想定外だわ」
スフィアもエマも突如参入してきたリョウマの仲間に驚くも、先程以上に敵意を、そして警戒をむき出しにするのだった。
ここまで読んで戴き、有難うございました。
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東屋