復讐者、「え?」
「まさか魔王国の国家象徴に【復讐】のスキルが宿るとは…長生きしてみるモノだ」
木漏れ日の漏れる自然の広場で獅子の霊獣は落ち着いて言う。
ミカロジュの森の霊獣であるバロンは顔を微笑みながら、リョウマを見た。
リョウマはバロンの元へと近づこうとするが、それを側にいたカーナークに止められる。
「貴様、自分が容疑者という立場だという事を忘れていないか?」
厳しい目を向けて、カーナークはリョウマを睨む。
しかし、それをバロンはやめさせた。
「良い、カーナークよ。この者は危険ではない」
「しかし、バロン様、こやつは貴方様を暗殺しようとした疑いが…他ならぬ貴方様がそういったではありませんか」
どうやら、リョウマ達の謂れのない容疑とそれにより捕まえるように言ったのはバロンのようだ。
「私もそう思っていたのだがな…それ以上にこいつの言った事の方が信用できるのだ…まぁ、良い、カーナーク。後ろに控えていなさい」
「しかし…」
「くどいぞ…貴様の私への忠誠は分かるが、いささか度が過ぎておる。私がいいと言えば、それに従ってくれ」
少し語尾をきつめにしていうバロン。
「うっ…はい、分かりました」
バロンに諭されたカーナークは一歩後ろへと下がった。
「さて…【復讐】を持つ者よ…名は確かリョウマといったか?」
リョウマは気づいた。バロンの声が耳から聞こえる事に。
人語を念話ではなく、言語で話す魔物にリョウマは初めて出会った。
驚きながらも、しっかりと自己紹介をする。
「はい、魔王国の国家象徴を務めています、リョウマ・フジタと申します」
「して、君の中にはあいつはいるのかね?」
「はい、私はレイジと名をつけて呼んでいます」
「なんと…スキルに名前を?」
意外だったのか、バロンは驚いた表情を見せた。
「はい…スキルと言えど、意思があるので対等に呼ぼうと思って名を付けたのですが…レイジは未だに私を人間呼ばわりです」
リョウマは呆れながら言う。それが面白かったのか、バロンは笑った。
「ははははっ、スキルに名をか!それはご主人様もしなかった!しかし、そうか君を人間と呼んでいるのか!どうやら本当に【復讐】のスキル、それも憤怒の番人を宿しているようだ。ふむ…レイジと呼ばれているのか…はははは!」
(こいつ…めっちゃ笑いやがって…笑うな、泣きむししが!)
レイジが愚痴をこぼす。
「えーと…笑うなと言っています。泣きむしし(獅子)がと言っていますね…」
「はははっ懐かしい!その名は!今となってはそう私を呼ぶものはいなくなった…間違いない、貴様はスキル【復讐】を持っているな」
笑いながら喜んでいるバロンを見たカーナークは驚いていた。普段は神々しく、そして物静かな霊獣様がまるで古い友と出会い、大はしゃぎしているのだから仕方もない。
「バロン様がこんなに笑われている…」
そういうと、次の瞬間、バロンの体に異変が起きた。
「げほげほっ!!」
大きくむせたバロンの息は、少し距離を置いて前にいたリョウマに届いた。
そして、リョウマの後ろに控えていたカーナークは急いでバロンの側へと駆けた。
「バロン様!今すぐに回復魔法を!」
そういい、回復魔法をかけるカーナーク。
しばらくして、安静になったのか、息遣いも元に戻った。
「有難う、カーナーク。いや…すまぬな、リョウマよ…見苦しい所を見せてしまった。」
「いえいえ…あの何かのご病気ですか?」
「いや、単に老いだ…もう先は長くないだろう、実は君がしばらく牢屋にいてもらったのも体調がすぐれないからでな…申し訳ない」
「いえいえ、あの先に確認をしたいのですが、俺らはもう罪に問われていないという事でいいのですね?」
また体調が悪化し、容疑を掛けられたままでは話が進まない。
先に自分たちは無実なのだとバロンから証明してもらわないといけない。
「あぁ、その事だな…君たちは無実だ。もし、スキル【復讐】を持っているのなら、私を殺そうとするはずがないからのう」
(よしっ!言質はとれた)
「だろ?」
言質を取り、カーナークの方へとしたり顔を向けるリョウマ。
カーナークは不満そうに鼻をふんっと言わせて、そっぽを向いた。
(子供かこの人は…)
エルフでラフロシアと面識があるという事はリョウマよりも年上なのだろうカーナークだが、これまでの行動といい、あまり頭がいいように思えなかった。
バロンへの忠誠心は理解できるが…容疑者を問答無用で突然殴るといい、思った事は曲げなれない性格なのかもしれない。
(まぁいいや…怒ってもしょうがない…それよりも今は…)
すると、リョウマが質問をしようとした瞬間にカーナークが被せてきた。
「納得いきません!どうしてですかバロン様!こいつは魔導国の者!十分に暗殺の可能性はあります!」
バロンはカーナークを見て言った。
「この者のスキルには意思があり、そいつは私の古い友人でもある。現にニューアリアでした知れ渡っていない私の名前もいい当てた。これはラフロシアにも伝えておらんかったろう?古い友人の友人もまた私の友人だ。なぜ私を殺す必要がある?」
「ですが…御身の名前もどこかで知った可能性もあります!それにスキルが意思を持つなど聞いた事がありません!」
バロンの説明だけでは納得がいかないのか、カーナークは再度リョウマへと疑いの目を向ける。
「当然じゃ…この世に万とあるスキルでも意思があるスキルは全部で七つしかないからのう」
「バロンさん、その七つの事はもうレイジから聞いた。だけど、あなたの大切な仲間だったラッシュについては部分的にしか教えてもらっていない…そいつについて教えてほしい…断るとは言わないよな?」
カーナークの言い分に付き合っていられないので、強引に自分の質問へと移した。
言外に、あなたは私達に濡れ衣を着せませたよね?と伝える。
そのリョウマの質問にバロンはある見当をつけた。
「ふむ、どうやら憤怒の番人…レイジはまだご主人様に説明していないのか?」
「えぇ、大まかにしか…俺が聞いたのは七つのスキル、段階、そしてそのラッシュっていう前の宿主が【復讐】を発現した状況と妹さんの事しか聞いていない。俺が気になるのはやつがその後どんな人だったのかだ…そうすれば段階のヒントにもなるかもしれないからな」
リョウマは前の宿主について知りたいと考えていたが、レイジは口を閉ざしているのでバロンに聞こうと考えていた。
情報を経て、スキルの段階やレイジに認めさせるヒント得ようと画策したのだ。
「ふむ…ではまず私が説明するよりも適任がおるぞ」
「えっ?どなたですか?」
バロンはかつてのラッシュの仲間だったと聞く。しかし、それよりも説明できる適任者がいるだと…とリョウマは怪しんだ。
「貴様…ラッシュというのはラッシュ・アデルバートの事か?」
すると、意外な所から声がかかった。
カーナークだった。
「えっ、お前…知っているのか?」
カーナークに嫌悪感を持つリョウマはため口で聞く。
「貴様、私への態度といい、口が過ぎるぞ!」
リョウマはうるさいと思いながらも、カーナークが次にいった言葉に驚いた。
そこからは驚きの連続だった。
「それにかの勇者様を呼び捨てにするな!」
「え?」
リョウマはカーナークの言った事に耳を疑う。
「ラッシュ・アデルバード、かつてこのミカロジュの森を守った勇者にして…」
そして、少し息を整えて、カーナークは言い切った。
「かの魔王国の初代王である方だぞ?!どうして魔王国から来たお前がそれを知らない?!」
「え?」
初耳の情報を聞いたリョウマは、すぐにその情報を脳内で処理する事ができなかった。
「え?」
再度、驚きの声を上げるリョウマは実に滑稽だった。
ここまで読んで戴き、有難うございました。
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東屋