復讐者、馬車に乗る
楽しいお酒の時間が終わり、リョウマ達がジュライドの街を出る日になった。
見送りにはレオルドやメ―ウェンさんなどジュライドの顔役のみで見送る事になった。
「街の皆にはお前たちは旅立ったという。なんでも極秘の任務があるとかなんとかでな…まぁ任せておけ、皆お礼はあのパーティで済ませたからな」
「…そう言いますと逆にどういう任務か気にしますでしょうに…レオルド様はあまり隠し事は得意ではありませんので、私が問題のないように説明致します」
確かに思った事を率直に言うレオルドでは心配だ。
そこらへんは執事のメ―ウェンさんが手助けをこれまでしたのだろう。
「メ―ウェンさん、有難うございます。あなたの助言のおかげで、私やリョウマは少しですが、変わる事ができたと思います」
あの流狼の像のある公園でメ―ウェンさんに出会わなければ、そして助言を貰わなかったら、おそらく自分はリョウマに何もできなかったと感じるレンコ。
そう思い、お礼の言葉を言ったのだが…
「いえいえ、レンコ様やリョウマ様のおかげでこの街は守れたのですから、私などにお礼を言う必要がないのですよ…ただ、私はお二人を見てこう思ったのです」
メ―ウェンは目を閉じて祈る様に言う。
「若者を導くのも老いた者の務め。この老人は何かしたくなったです。ただそれだけですよ」
ほほほっと朗らかに笑うメ―ウェンさん。
その言葉に目頭に涙を浮かべるレンコ。
「有難うございます」
そういい、深くお辞儀をする。
そしてレンコはリョウマ達がすでに乗っている馬車へと向かった。
馬車は木箱が数個と乗客が座るために両端に長い椅子があるタイプのやつだった。
「なんの話をしていたの?」
ラフロシアが腕を組みながら乗ってきたレンコに聞く。
「内緒!」
「そういう趣味があるのならミカロジュに知り合いがたくさんいるから紹介するぞ?」
そういい、ラフロシアはメ―ウェンの方をちらりと見る。
「え?」
ラフロシアの言っている意味に少しばかりの時間が掛かり、やっと理解するレンコ。
「!!!! 違うわ!お礼を言っていたのよ!私にそういう趣味はないわ!」
「あら、そうなの?がまんしなくていいのよ?」
「うるさいです!ラフロシアさん!あの日からなんだか私の扱いひどくないですか?」
「そういうあなたも、だんだんと馴れ馴れしくなったわね。一度上下関係という物を見せた方がいいかしら?」
そんな風にケンカするレンコとラフロシア。
メグとケンは反対側の椅子で眺めていた。
「仲良くなったよなー二人とも」
「えぇ、そうですね。多分、今回の戦いで助け合ったからだと思いますよ」
仲が良くなった?ラフロシアとレンコを見て暖かい目で見るケンと無表情のメグ。
すると、リョウマが御者の席から中へとやってきた。
「あっ、リョウマ!どのくらいの旅程だって?」
ケンがリョウマにこれからの旅の日程を聞く。
「大体2週間だそうだ。10日目ぐらいになればミカロジュの森の関所に着く予定だ」
「無事にですが…これでイグルシアへの隠れ蓑になりますかね」
メグが心配そうに聞く。
「まず、間違いないと思うわ」
メグの心配そうな意見に対して、ラフロシアは答えた。
未だにレンコが後ろで騒いでいるが、無視する事にしたみたいだ。
「どうしてですか?」
メグが質問をした。
「それは…」
「リョウマ様、ラフロシア様!これから出発します!何か忘れ物等はありませんね?」
すると、この商団を任されているニルクが出発に確認のために伺ってきた。
「あぁ!大丈夫だ!出してくれ!」
そういい、ニルクは先頭の自分の馬車へと向かった。
「じゃあな、異世界人よ」
すると、後からレオルドが馬車を覗くようにして言う。
「あぁ、お世話になったな、レオルド」
「この街を守ってくれた恩は忘れない、そして貴様の旅が無事に終わる事を願う。またいつか再び会おう」
「あぁ、またいつか会おう」
そういい、自然と固く握手をする二人。
「今回は襲撃で優勝までは行けなかったけど、いい所まで行けて自信になった。これかrまも精進して旨い飯作ってやる!」
ケンがレオルドに話す。
「あぁ、君の料理はとても美味しかったよ!なんなら君だけでも是非うちに招きたいぐらいだ。そこのメンタル弱男よりもな」
「…あんた、ついさっき握手した相手によくそんな事言えんな」
「悔しかったら挽回してみろ、それも旅で探せ」
「どうやってだよ」
レオルドの言い分呆れていると、商団の先頭の方で鐘がなった。
出発の合図だろう。
レオルド達は少し離れて、馬車が発信できるようにした。
「ではリョウマ達よ!達者でな!!」
「皆さんお元気で!!」
そういい、レオルドやメ―ウェンを始めとする見送りに来てくれたジュライドの人達が手を仰いでいた。
「じゃあなー!」
それの強く手を振って答えるリョウマ。
大事な事に気づかせてくれたジュライドの街。
こうしてリョウマ達はジュライドでの旅の一ページを終えた。
◇
馬車が進んで数時間後、ケンは途中で中断されたあの質問を再び繰り返す。
「で、なんでバランの商団と一緒に行くのが得策なんだよ?メグの質問が無視られていたけど」
「いや…無視じゃないだろ…」
リョウマは思い出したかのようにして言う。
「俺の口で説明するなら…バランって国は商売の国ってのはいったよな?んで、そんなバランって国は多くの資源や流通を確保しながら各国に商団として向かっているんだ。それはあのイグルシアも変わらない」
「なるほど。もしバランの商団を襲ったら、バランがその国に対して資源を送らない可能性があるのか」
「その通り。イグルシア帝国は基本的に資源が豊富だけど、北の奥の方に国が位置しているから不足している資源…食料とかがあるからバランの商団にはちょっかいは掛けれないと思ったんだ」
「リョウマ、この作戦は案外に良いかもしれないわ」
そして話を聞いていたラフロシアもリョウマの考えた案に賛同した。
「実際、食料もそうだが…イグルシアは昔から医療や製薬は発達している。故に薬になる資源はバラン頼みなのだ」
「…イグルシアが医療で栄えているなんて私初めて聞きました」
メグが相変わらず感情の乏しい顔だが、驚いたように言う。
「あまり魔王国やランドロセル王国では知られていないけど、ミカロジュは中立を貫いているからいくらかイグルシアの話は流れてくるわ。なんでもあそこの皇族が人外の治癒の力を持って生まれるとからしいわ。そのために医療やその関連の研究がイグルシア帝国では凄まじいらしいわ」
「…という事は、その誘拐された民達はその研究で誘拐されたとか?」
ケンが魔王国で起きた誘拐事件の事の顛末からそう言及した。
「分からない…けどどの道、許される事ではないよ。誘拐なんて、それにヒカリも誘拐されかけたんだから」
レンコはリョウマとの絆であるヒカリがイグルシア帝国の息のかかった組織であるエスカルバンの一味に誘拐されかけた事を思い出し、思わずぎゅっと拳を握った。
一方リョウマはそれを聞いて怒りもそうだが、違う事も思い出した。
(…ヒカリの事、いつ話そう)
そう、ヒカリの事だ。
レンコはまだリョウマのスキル【復讐】でレンコとヒカリの遺伝的な繋がりにない事になっている。しかし、実際にはそうしなかったのだ。
まだ幾ばかりの復讐心があった再会時のリョウマなりの小さな復讐。
それが今の今まで引きずっていた。
(どこか二人のタイミングで話そう)
隠していた事に関して怒りもあるだろうとリョウマは思い、何よりもこれは彼ら二人の問題。
皆がいる前ではこの話はよそうと考えた。
「そうだね、レンコの言う通り、許せないわ」
「うん」
「はい」
ラフロシア、ケンとメグがレンコに同調する。
「ただ、我らの目的はあくまでイグルシア内部の情報収集。戦闘は二の次だ。ましてや復讐はやめてくれよ」
「当り前だ…ってこの中では俺が一番説得に掛けるけどな…」
はははっと笑うリョウマ。
すると、まわりがきょとんとしていた。レンコを除いて。
「あれ?どうしたの皆」
シーンとなってしまった場を気にしてリョウマはラフロシア達に聞く。
「いや、そのネタはタブーかと思ってな。ほら…なんかその話題振ると落ち込んでいたしお前」
確かにこれまでのリョウマなら彼の復讐の関する事を話すと落ち込んでいた。
その自覚が薄いリョウマだったが、今なら分かる。
そして、無性にその事実が恥ずかしく感じた。
「…まぁいい加減落ち込んでいられないって気づいたんだよ」
恥ずかしそうにして答えるリョウマ。
彼もいい歳だ。
落ち込んでいた事もそうだが、周りにどれだけ迷惑を掛けていたのか思うと情けなく感じた。
「そうか…」
しかし、リョウマの答えを聞いてラフロシアは嬉しそうだった。
「そうよね、リョウマは変わったんだよね」
唯一態度が変わらなかったレンコはほんわかと言う。
彼女はリョウマが精神的に成長した事はすでに把握していた。
周りに暖かい目で見られているリョウマは余計に恥ずかしく感じ、話題を変えた。
「…それでミカロジュに着いてからだけど、ラフロシアに任せるでいいかな?」
話題を急に振られたラフロシアは少し慌てた。
「え?…えぇそうね…魔王国の使者といえばイグルシアへの転移は使えるはずだわ。手紙もこのジュライド前の街で送っているから準備してもらえるはずよ」
「おぉ、そんな事をしていたのか…色々準備してくれてありがとラフ」
ジュライドでスキルの権威であるレオルドに会う事に意識を置きすぎて、その先のミカロジュの森に関してはラフロシアにまかせっきりだった。
「ラフロシアさんの国って事はエルフの国!!やっぱラフロシアさんみたいに綺麗な人ばっかりなのかな?!俺、実はめちゃめちゃ楽しみにしていたんだよね」
エルフはリョウマやケンの世界では美男美女の総じて決まっていた。
別に男の方に興味などない二人だが、美女の集まりであるエルフに心が躍るのは男としての性なのか…
「そうね、でもあんまり私みたいだと期待しない方がいいわよ」
ケンの楽しみそうな言い分に申し訳ないと思いながら、ラフロシアは注意点を口にした。
「ここに来てからまだ日が浅いケンは知らないと思うけど、そもそもこの世界の国は同種族での交流が基本よ。その中でもエルフは種族至上主義でね。人間に興味を示さないどころか差別をするエルフも少なくないわ」
「…ドSなエルフ…」
「やめろ、俺の清らかなイメージのエルフがただでさえ穢れる」
「だがそんなエルフもい…」
「やめろ、出なきゃ復讐するぞ?清らかな青年の想像を穢した事は十分に復讐に値する」
野郎二人が、軽く漫才を繰り広げている。
「二人ともふざけないでよ…じゃあ、何か問題が起きる可能性があるとラフさんは言いたいって事?」
「そういう可能性があるという事よ。一応、私の家の者を世話に就かせるつもりだからそういう問題は起きないとは思いたいけど、ジュライドの一件で身に染みて分かったけど、この度は何が起きるか分からないわ。それに転移をする時の魔力は私達が着いてから行うでしょうしね」
「それはそんなにかかるのですか?」
メグが質問した。転移するとリョウマ達は聞いていたが、具体的にどうやって転移するかは聞いていないのだ。
「いい質問だねメグ。ミカロジュの森の転移術だけじゃなくて、そもそも魔術で転移するには膨大な魔力が必要なの。そのためには魔力の多いエルフも数日掛けて魔力を転移石なる物に注がないといけないんだ」
「思い出すなー」
「つっ…」
リョウマはあの侯爵にやられた事を冗談めかして言う。
それにレンコは苦痛の表情をリョウマに向けた。
「そう身構えるな。冗談だよレンコ。それもあって今があるのだとジュライドでの事も含めて感じているよ。」
「そう…有難う」
リョウマの中ではもう消化できたみたいだが、レンコはまだのようだ。
やったやられた側の違いもあるのだろうが、このように冗談でいえるようになったのは大きな進歩だ。
「それは先にいった手紙で準備できないの?」
ケンが疑問に思った事を聞く。
「取り決めで、利用する当人達がミカロジュの森にいないと準備しない決まりなんだ」
「へぇー」
「…で、他に注意事項はある?ラフ」
「後は…ミカロジュの森の霊獣様についてかな?」
「えっ、また流狼みたいなのがいるのですか?」
メグがつい口説けた感じに反応して答える。
流狼の一件があり、もう魔物はこりごりだと感じているようだ。
「あんなのと一緒にするな…。ミカロジュの森には現存している霊獣様がいてね、確かにΩ級だとギルドの判定が出ているけどミカロジュの森が始まって以来、エルフと森に住む心優しき生物を守ってきた存在だわ。普段はエルフの集落の奥にある園にて過ごしているから転移石が貯まるまでの間に挨拶に行くのもありかもしれないわね。もしかしたらイグルシア帝国の事も何か知っているかもしれない」
「博識なのか?」
「なんでミカロジュの森を守っている存在がイグルシアについての?」
獣に聞く必要があるのかと聞くリョウマとレンコ。
「霊獣様は人間ともお話になるが、元は獣。獣、そして鳥ともお話が出来、世界の情勢を把握しているのだ。直接には人間の情勢には関わってこないが、時々エルフの大会議に意見を頂戴する時もある程だ。まぁ、ミカロジュの森が中立を保てる一つの由縁だ」
長らく転移術で中立を保っているエルフの国であるミカロジュの森。
転移術以外にも霊獣という存在が国にとって強い要素として備わっているみたいだ。
「なるほどね」
「これも各国の上層部以外は知らない事だからだわ、古いってつくけど」
「そうか、見た目が若そうに見えるラフロシアさんも…」
「捕縛草!」
「うーん!!!」
禁句を言おうとしたケンにラフロシアの植物魔法が発動される。
それを見て冷や汗を流すリョウマ。
「なるほどな、俺もいくつか聞きたい事があるから丁度いいかも」
丁度、ジュライドの新たな謎の存在であるレイジの事も聞こうと思ったリョウマ。
すると、そのレイジが霊獣の事を聞いて反応した。
(霊獣か…まだ生きていたのか)
「え?」
「どうしたの?」
「あっいや、この前話したやつがな」
簡単にレイジの存在は皆に話したが、皆…特に色々と知っているラフロシアもレイジの様な意思のあるスキルについては一切知らなかった。
(俺も会う時にはその場に立ち合おう)
(本当か?またどうして?)
(ふん、別に貴様に話す必要はない)
(なんだよ…)
考え込むようにしてレイジと話すリョウマ。
それを見てケンがリョウマに聞いてきた。
「リョウマ…例のスキルが君に話しかけているのか?」
「あぁ…なんでも質問したい事があるみたいだけど、答えてくんね」
「…私も長い間生きてきたが、意思を持つスキルなんて初めて聞いたわ」
「あぁ。でも、少なくともあのイグルシアからの男は何か知っているみたいけどな」
思い出されるのはラルフと名乗る男との邂逅。
「どんどん大きくなっていますね。街の誘拐事件が国規模の誘拐に変わり、そのための密偵だったのがこの世界の謎にかかわる新発見といった具合に」
メグが事がどんどん大きくなっている事に指摘した。
「そうですね…イグルシアの目的もはっきりとは分かっていませんですしね」
「何かスキルの事だという事は分かるけど、どうしてそんな事をするのかしら?」
レンコが疑問を口にする。
「強くなるためかな?」
一番シンプルな答えをメグが言う。
それは本人の育った経緯からそう答えが出た。
「うーん?」
メグの言った事にケンが悩ましそうにしていた。
そんなケンにリョウマが聞く。
「どうしたケン?」
「いや、メグの意見も分かるけど…じゃあどうしてイグルシアは力を求めているのかなと思って、貧しい国ってわけじゃないんだろ?」
「そうね…一例としてランドロセル王国は領土拡大やこの大陸の派遣争いのためとか言っていたな…そういえば」
「あっ、それは私も聞いた事あるわ」
「ただ…あの男と会って見て感じたのは…そんな浅い理由でそんな事をする思えない…イグルシアの皇族とやらがランドロセル王国の王族並みに愚かなのかもけど。そんな人も元に就いている男には見えなかったわね」
ラフロシアは戦闘で見かけたラルフを思い出す。
確かにそんな愚かな上司の元にいるようには思えなかった。
「…だけど、この問題は今考えても、答えは分からないね」
すると、丁度良いタイミングで警報の鐘が鳴った。
念話でニルクから盗賊が出たとの事だ。
「安全じゃないのかよ…」
「国に関わっていない、かつ馬鹿な盗賊団なら襲ってくる時もある」
「そんな賊なら私達が出なくても…」
「移動を早くするためにも…俺とメグでいくよ」
「分かったわ、でもどう行くのよ?」
「どうって、またあれやるんだよ」
「えっ?まさか」
「ひゅー熱いね」
「ねぇ!あなた最近私が年上だって事忘れていない?」
間髪言わずにお姫様だっこをされたレンコは言う。
「この方が早いからさ」
「からさーじゃないわよ!」
そんなレンコを無視して、リョウマは戦闘へと飛ぶために御者の席へと行く。
「じゃあ、行ってくる!」
「きゃ!!!」
そういい、前の馬車へと飛び移ったリョウマ達。
それを見た三人は…
「ますます仲良くなりましたね、あの二人」
「元からあんなのか?」
「…いや、仲こそ良かったけどよそよそしくもありました」
「そっか、なら良かったな」
「えぇ、私もそう思うわ」
ラフロシアはそういい、暖かい目で見ていた。
ただ、少しだけ彼女の心はざわついていた。
ここまで読んで戴き、有難うございました。
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東屋