復讐者、パーティーに出席
リョウマが目覚めた日の夜
ジュライドの街のレオルドの屋敷では復興とリョウマ達の活躍を祝してパーティが行われていた。
「この格好で行かないといけないの?」
女性用の控室でレンコが恥ずかしそうに言う。
今いるのはレオルドの屋敷の着替え室。
パーティ用のドレスを試着しているが…
「しょうがないでしょ?私達はドレスとかないから自然にジュライドのドレスを借りなきゃいけないのよ」
「でも…私だけなんか可笑しくないか?へそ出てるし」
レンコは元々肌をあんまり露出しない恰好を好んできている。
和服とかがそうだ。
しかし、ジュライドの服装はどこか…ワイルドだった。
「うー、ラフロシアもメグもおかしくないのに!」
赤面でいうレンコ。
「私は魔法で作ったからな」
「無難なのをベアおばさん見繕っていただきました」
ラフロシアは黄緑色のロングドレス
メグは白と黒の無難な色遣いのフィット&フレアータイプのドレス
そして、レンコは胸を見せつけるミニドレスだった。
足の長いレンコには余計にミニさが醸し出される。
しかも色は赤だ。
「私は体型が小さいのであんまり気にしませんでしたけど…」
「レンコって女性にしては身長高いからね…お馬鹿さん」
「和服にさせて!、それか露出の少ないやつ!」
「あらあら、いいねー。赤は獣人の好きな色だから人気が高いのよ」
着替えを手伝ってくれるレオルドの屋敷のメイドが言う。
「お気持ちだけで!他のにします!ラフロシアさん!和服風のドレスをお願いします!」
「えー、でもリョウマも喜ぶのに…」
ふっと笑いながら言う。
「他にも男性の目があるでしょ!それに今回は私達がある意味主役なのだし」
そう、今回のパーティーは今回の災害を無事に脱したのもあるが、国外から来たリョウマ達のお礼も兼ねてのパーティだ。
「はいはい、じゃあこれで」
そういい、雫模様の和服のようなドレスを作る。
「着替えてくる!」
そういい、隣の着替え室へと行くレンコ。
「なんか、元気ですね…さっきまで警備で疲れているはずなのに」
レンコは警備面で復興の間は巡回に参加していた。
「元気にもなるわよ。最愛の人が無事に意識が戻ったばかりなんだから」
軽くため息をつくラフロシア。
そう、これが開かれるのもリョウマの意識が戻ったからだ。
パーティの準備はできていたが、「主役がいなきゃ意味ないだろ」とレオルドの意見で延期になっていた。
そして、目覚めたのは今朝にこうしてパーティが行われるという事だ。
本当は別の日にしようとも言っていたのだけど、リョウマ達は早くミカロジュに向かいたいと思っていたので、このままでリョウマがこの日にやる事を決めたのだ。
「そういえば、ベアおばさんもラフロシアさんのおかげで復興が進んでいるって言っていましたよ」
「へぇ、給仕長のよね?このパーティで顔見かけたら挨拶をしておくわ」
そんな風に雑談をしていると、レンコが帰ってきた。
「どうかしら?」
「似合っているわ」
「はい!さっきのも良かったですけど、こちらの方がレンコさんらしいです」
「ありがと、メグにラフロシアさん」
今度は笑顔で言うレンコ。
すると、ラフロシアが恥ずかしそうに聞く。
「その、ここでいうのもなんだけど…」
「呼び方変えない?、ラフでいいわよ」
「「え?」」
メグとレンコは二人で驚いた顔をする。
「ここまで旅して、さん付けもあれだし」
確かにレンコはメグを呼び捨てだが、ラフロシアはさん付けだ。
メグは二人ともさん付けだが…
距離を感じていたのだろう。
それもアマンダの指示でラフロシアに注意しておくように言われていたレンコだが、そんな事を知る由もないラフロシア。
「それもそうですね。でも国家象徴を呼び捨てにするのは…」
メグが考え込むようにして言う。
「では、ラフさんで手を打ちませんか?」
「ラフさん…まぁ最初よりは」
「決まりです!ではラフさん…」
「何?」
「意外と胸ありますよね…」
「え?」
すると、わしわしと手を前に出すレンコ。
メグはここはレンコの味方をした方がいいと直感で感じて、レンコサイドで無表情で同じポーズをする。
「おい!お前らってメグ!ずるいぞ!私は国家象徴なのだろ?私を助けろ!あぁーーー!」
その後、ラフロシアはレンコとメグに遊ばれたのだった。
◇
「うわーすげー」
すでにパーティー会場にいるリョウマ達はドリンクを片手に休んでいた。
先程まで多くの人が二人に話かけていた。
そもそも二人が先に来たのは、今回の貢献者であるリョウマと流狼祭の料理人で上位(途中で災害が起きたため優勝者なし)に挨拶をしにくる人達を先に減らしておこうというものだ。
国家象徴のリョウマは勿論、ケンも先の活躍でジュライドに住むものにとって繋がりがほしいと思われる人物になった。
「初めてか?こういうの?」
少し疲れ気味のケンに声を掛けるリョウマ。
「こっちでは初めてだな…前の世界では時々あったけど…ほら象の獣人のスーツ姿とかもう絵本の世界じゃないか。リョウマは慣れているのか?」
「まぁ、俺はもうここ数年住んでるし、国家象徴だからこういうパーティーは割かし多いかな。この旅でまさか参加するとは思わなかったけど」
「ふーんで、これからはどうするよ?」
「そうだな、今の所、明後日にはここを旅立つよ」
「そうか、じゃあ今のうちに魚とか食べておこ」
ジュライドはあくまでも通過点。これからが彼らの旅の本番だ。
少しの間談笑していると何者かかがリョウマ達の元に向かってきた。
「あのー、リョウマさん」
「あれ、あなたは?」
見覚えのある男が現れた。
「ニルクです。ジュライドの向かう時に助けていただきました」
「お久しぶりですね」
「おぉ!ニルクさん、今回の食糧の優先的に回してくれて有難う!」
このニルクはケンの流狼祭の食糧を斡旋してくれた商人だ。
「いえいえ、元々助けて戴いた恩もありますし、恩を返すのは商人として当たり前ですよ。それと少しお話を伺ってもいいですか?」
「ええ、いいですよ」
すると、ニルクは話を進めた。
「実は私達はミカロジュの森という所に向かうのですよ。もしよければこの先は一緒に同行していただけませんか?勿論、食べ物や寝処はこちらで用意致します!」
「なぜそうだと?」
「いえ、簡単に考えたのです。ラフロシア様がいるという事はミカロジュの森にてどちらかへと転移したいのではないかと」
「そこで相談なのですが、一緒にミカロジュの森へと向かいませんか?我々の冒険者を雇う必要もなくなりますし、リョウマ様の生活も保障しますよ」
「…そうですね、では一緒に向かいましょう」
「おぉ!では出発は明後日ですがいいですか?」
「えぇ大丈夫ですよ。念話で詳細は教えてください」
「はい、では」
そういうと、ニルクは席を外した。
間髪入れずにケンが聞いてきた。
「おいおい、いいのか?」
早めに向かうと話した矢先に、ニルクとの旅の同行だ。
疑問に持つのは当然だ。
「あぁ、イグルシアに俺らが5人組だとばれているから、ニルクさんの一団に混ざっていくのは正解だと思うよ」
今回の件で、気が付いたが、ちゃんとイグルシア側も何かの対策をしてくる。
恐らく、ミカロジュの森にも何か仕掛けているかもしれないし、その道中に何かしてくるかもしれない。
ニルクの商団との同行はその対策だ。
「あぁ、なるほど」
「後、イグルシア帝国も中立国のバランを敵には回したくないと思うし…さてさて、そろそろレンコ達も来ないかな…」
「いや、お前が興味あるのレンコだけだろ。やっぱ気になるのか?」
「おい、他の二人に失礼だよ…まぁあいつ、あんまりこういうの好きじゃないからな。だからあんまり見た事ないんだよ、それ故に楽しみではある」
手を顎に当てて、決めて言うリョウマ。
すると、扉が開いた。
そこからメグとレンコ、そしてラフロシアが出てきた。
「おぉ」
思わず、レンコの方を見た。
和服のようなドレスは恐らくラフロシアに出したのだろう。
露出は少ないが、スタイルがいいレンコは綺麗に着こなしていた。
きょろきょろとレンコは周りを見て、リョウマを見つけると真っすぐ向かってきた。
「リョウマ!」
「レンコ、なんていうか似合っているな」
「有難う…って何か恥ずかしいわね…普段あっているだけにこんな格好すると」
そういうと、ドレスの裾を恥ずかしそうに触りながら言う。
良い感じの雰囲気を出しているが、そこをラフロシアが間に入る。
「リョウマ、先に露払いは済ませてくれたか?」
レンコは少し不満に思いながらも、話を聞く事にした。
「あぁ、でも多分ラフロシアにはたくさん来るぞ?」
同じ国家象徴のラフロシアにはリョウマと同等の数の参列者達が来るだろう。
「はぁ、私はただお酒をたくさん飲みたいのにな」
「やめろ、お前はお酒はコップ1杯だ」
「なんでよ、いいじゃん」
「つぶれて俺がおんぶするのが眼に見ているし、人の目もあるからやめて」
「おんぶ、リョウマがおんぶ…」
側で妄想をするレンコ。そしてケンがそれを注意した。
「レンコちゃん?リョウマはそれをやめてっていっているんだよ?あれメグは?」
「メグはご飯を食べに行ったわ」
「なんだなんだ楽しそうにしてんじゃないか!!」
リョウマ達の騒がしい様子に釣られて、大声で向かってきたのはレオルドだった。
「飲んでるかぁ!」
すでにある程度のお酒が入っているのだろう。
少しだけあったクールさも今はただの陽気なお兄さんだ。
「てか、レオルドさん!あんた主催者だろ!酔っていいのかよ」
「あぁ?!俺が主催者なんだからどう飲もうと勝手だろ!ここ俺の家だし」
「いや、確かにそうだけど」
「主役は君たちなんだ、じゃんじゃん食って飲んでくれ!!」
すると、たまたまリョウマの視界に入ったのはメグだ。
メグがすごい勢いで料理を口にして、空になったお皿を丁寧に積み上げている。
(見なかった事にしよう)
「酒もあるぞ!」
そういい、テーブルの上にお酒の瓶が並ばれた。
それにラフロシアが足早に向かって言った。
「あっラフ!」
リョウマは抑えようとしたがレオルドに肩を絡まれていけないでいた。
「レンコ!ラフロシアの面倒見てくれ!まじでそんなに飲ませるなよ!」
「うん!分かった…そんなにって?!」
「そんなってにはそんなだ!」
そういい、レオルドに引っ張れて行くリョウマ。
「はっはっは!やっぱお前のとこはかわいい子が多いな」
「なんなんですか?お昼に会ったばかりじゃないですか」
「酒を酌み交わそうって話したじゃないか?」
「…忘れていました」
「たくっ、そういう事は忘れるのに、復讐心や憎む心は忘れないのな」
「…今それ言いますか」
「もう克服したんじゃないのか?」
「えぇ、しましたけど、だからと言って後悔していない訳ではありませんからね」
「そうだな…じゃあまた一つ診療してやろう」
そういい、お酒をテーブルに置いてレオルドは言った。
「その後悔…元に戻ってやり直したいと思うか?」
「それは…」
ランドロセル王国ので一件。
特に思い出されるのはあの二人だ。
エマ・ラマール
かつてのリョウマのパーティーの回復術師
スフィア・ウィンゴールド
かつてのリョウマのパーティーの盗賊
あの二人とはやり直したい
しかし、あの二人とやり直せるのかは想像できない。
彼女らも性格に難があった。だが、今なら改心させる事ができるのではという気持ちもあれば、諦めのような感情もある。
そもそもあの二人を殺したのは他でもない自分だ。
「いや、無理ですよ。だって、もうその人達はこの世にはいませんから」
リョウマは淡々と言い切った。
自分がこの手で殺した二人。
この世界は前の世界よりも殺人は横行しているし、罪に問われない場合が多い。
そんな世界の価値観だからレオルドは特に何も言わないが、リョウマにとって自身が口にした事は大きい事だった。
(自分が殺した相手をこう言い切れる日が来るとは…)
前なら言葉には絶対しなかったリョウマ。
それは言葉にする事で認めるのが怖かったのだと今なら思う。
だんだんと変わりつつあるリョウマはこの変化に納得し、受け入れた。
そんな風に数秒の間黄昏ていると、再びレオルドから言われる。
「自分の中で納得しているなら結構だ。お前はもう大丈夫だよ」
ぐびっと片手のお酒を飲んで言うレオルド。
「やり直せるならやり直したい、戻りたいとかいうやつは現実が見えていなさすぎる。見えてないために、一言で答えを済ませてしまうんだ。自分の口で無理だという事、そしてなぜ無理か言う事に意味は俺はあると思う。それはつまり現実が見えているという事だからな。見えていない奴よりも数倍良い」
厳しい意見だが、故にリョウマは彼の言い分を理解できた。
「まぁ…そうですね」
少し勢いに押されたリョウマは委縮をする。
その態度に気を使ったのか、レオルドは追加で口にする。
「…ただ、納得故に苦しいのもある。その時は周りを見ろ、リョウマ。それが今回君が学んだ事だろ?」
今度は勢いよく片手でお酒の瓶をつかみ言うレオルド。
「はい、色々と有難うございました」
自然とお礼を口にしてしまった。
リョウマは心のそこからこの街でレオルドに会えてよかったと思った。
彼に出会わなければ、自分の事を見つめなおさなかった可能性もある。
「いいって事よ。そういや、タコヤキとやらはどうした?」
「あっ忘れました」
素で忘れていた。
レイジ(憤怒の番人?)との面会のせいで忘れていたのだ。
しかし、そんな事をレオルドは知らない。
「ほう?分かっているな?」
「え?」
その後、レオルドに、そして何故か便乗してきたケンとラフロシアにどんどん飲まされて二日酔いになったのはまた別の話だ。
リョウマは少しレオルドとの出会いを後悔した。
パーティーが飲み会になったリョウマは感じる。
(なんか、酒癖悪いやつ周りに多くない?)
そして、少し周りの評価を変えたのだった
ここまで読んで戴き有難うございます。
引き続き、作品の方を宜しくお願い致します。
東屋