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復讐者、その周りも悩んでいるようだ

リョウマがレイジとの面会をしている時


ケン・アウロナルとメグ・ミサカイは復興の手伝いをしている人達のために炊き出しの手伝いをしていた。


ケンは大鍋を、メグは他の炊き出しのおばあさん達が作ったおにぎりを持ちながら炊き出しの配る広場へと向かっていた。


「どんどんジュライドの街も復興しているな」


「えぇ、そうですね。ラフロシアさんも手伝っているのもありますけど、この街の人達のお仕事が速いのもありますね」


復興には時間がかかるとメグは感じていた。


それは彼女の故郷であるランドロセル王国での経験からそう懸念していた。ランドロセル王国は貴族制度、そして高い選民意識が王国全体に根付いていた国。


そのため、魔王国の統治に変わっても、しばらくの間、復興の手が回らないのが多かった。それは負けを認めない元貴族の領主の事もあるが、大きいのは民自体が復興の意識が全くなかった事だとランドロセル王国に住んでいたメグは感じていた。


新しい統治が始まっても、元ランドロセル王国の民は悲観的に現状を捕えていた。


どうせ生活は変わらない、上で全てが完結するといった負の感情があり、復興の進度が魔王国側にとって思うように進まないとリョウマが頭を悩ませていたが懐かしい。


そのため、ジュライドの民の高い復興意識は高いように感じた。

それは彼らが心から街を、共に住む住民、そして外から来る旅人や旅行者を迎え入れる心構えがある事からだとメグは思っていた。


「そうだな、凄いよ普通に…街が壊れていたらくじけてもしょうがないのに…そんな人達のためにも俺の料理を作らなきゃな!」


そういい、ケンは大鍋を上に掲げた。


「そういえば、その鍋の中身はなんなのですか?」


メグは女性の班の中に入り、料理を助けていていたので、大鍋の中身を知らない。


「魚と野菜をたっぷり煮込んだスープ…というよりもあら汁だな。働くにはまず体から。野菜と魚の栄養を全部とれるスープを作ってみた」


この世界では栄養の概念はまだ薄い。


野菜や肉のみを取っていると体に悪いという認識あるが、たんぱく質やビタミンなどの知識を持っているのは医者や国に仕えている人のみだ。


復興が速いと先程褒めていたが、それはつまり休んでいる時間を短くしているという事。

少しでも力になる食事を用意するのは料理人としての務めだとケンは考えていた。


「いいにおいがしますね…後で私に少し分けてください」


【大喰らい】のスキル保持者である彼女は食に飢えるようになってきた気がするとケンは思ったが、言葉ににはしなかった。


「いいよ、給仕用にまだ調理場に残してあるから、この炊き出しを終えたら俺らも飯にしようぜ」


「♪」


嬉しそうに(無表情ではあるが)メグはケンの返事を聞くと、少しだけ歩幅を広げてケンの先を歩く。


やれやれと思いながら、それに合わせる様にしてケンも歩幅を広げた。


そんな風に二人は歩いていくと目的の場所である広場へと着く。


そこには昼休憩の若い獣人達が列をなして、待っていた。


「おっしゃ!飯だ」

「あれは流狼祭で活躍していたケンって料理人じゃねぇか!」

「うっひょう!いいにおいのスープだぜ!」


列で並んでいた獣人達は運んできた人物がケンである事は先の流狼祭で活躍していたので知っている。

そして、獣人は鼻が利く事もあり、スープのいいにおいを嗅いで中身を知った。


「あんたたち!列を崩すんじゃないよ!復興支援って事でただで飯食べれるんだから!受け取る側もしっかりとマナーと有難い気持ちをわすれんじゃないわよ!」


炊き出しの現場をまとめているくまのおばさんが厳しく言う。

なんでも、ジュライドの兵士も恐れる給仕長なのだとか。


「こんにちはベアさん」


「やぁメグちゃんにケンさん。あんたたちは外から来たのに長々のお手伝いをさせてしまって申し訳ないね~」


熊のおばさん、改めベアは申し訳なさそうに言う。


「いえいえ!私達の方こそ、こんな事でしか力になれず、申し訳ないです」


「いえいえ、あなた達のお仲間のエルフさんや鬼姫さんがいるおかげで、かなり復興も進んでいるのよ。これなら来週にはもう元の街に戻れるわって建築の責任者が言っていたわ」


「そうなんですか、それは良かったです」


「そういや、肝心のあの黒髪の男はどうしたんだい?」


リョウマはこの街を守った功労者の一人としてその存在はジュライド全体に認知されていた。


「今朝、目覚めてまして、今日は体調を見守るために部屋で休んだり散歩していますよ。そういえばレオルドさんにお話があるそうで、お屋敷に向かうとも言っていました」


メグがリョウマの事を説明した。


「何!めざめたのかい?!なら、今日は料理に腕を振るわなきゃね!」


ベアさんはそういうて袖をまくり、やる気を上げた。


「ふふふ、リョウマさんは肉がけっこうお好きなので肉料理なんか嬉しいと思いますよ」


「おや、有難うメグ!さっそく献立を練ってみるわ」


そういい、他の給仕へと向かったベアさん。


「やっぱすげーなリョウマ」


「えぇ、この街を守ったんですから」


彼らは避難所に避難したため全容は人伝から聞いた。


リョウマ、レンコ、ラフロシアはそれぞれ方法は違えど、万を超える魔物を正面から攻撃をして、屠ったと。

リョウマに関して言えば、Ω級とかいう伝説級の魔物を相手したとレンコから聞いた。


その事を喜ぶ一方で、ケンの顔は優れなかった。


炊き出しのスープ配りながら、どこか元気のなくなったケンを見かねて、メグが声を掛ける。


「ケンさん、落ち込んでいると受け取る側が困りますよ」


「えっ?あっ、いやすまない!お疲れ様!これ魚と野菜の栄養満点スープです!!」


「有難うございます!」


若い獅子の様な獣人が嬉しそうにスープを貰って言った。


それをにこやかに見るケンだが、メグは続けて聞いた。


「ケンさん、もしかして今回力になれなかったのを気にしていますか?」


「あぁ、少しな」


そういい、ケンは黙ろうとするが、メグがまだ彼を見つめていた。


これでは受け渡しに集中できないと思い、口早に言う。


「お前らと会った時はそういう感情はなかったんだ、俺はまだこの世界に来たばっかでもあるし、何より俺はスキルも魔法もないからね」


確かにとメグは思う。


ケンを除く全員にスキルか魔法、もしくは両方を兼ね備えている。ケンにはそれを補う程の料理の腕前があるが…それでも今回のリョウマの功績と自分の功績を比べて落ち込んでしまっているのだろう。


頭では理解しても、心では…ってやつだ。


そして、そういう時に失言というのは生まれる。


「俺もスキル欲しいな…」


ただの軽い欲望…

あったらいいな、こんなものといった空気の様な願いだ。


しかし、その一言はメグは無視できなかった。


「…ケンさん、そういうのは簡単に言わない方がいいですよ」


「え?」


「…後でお話があります、まずはこの給仕を終わらせましょう」


「あぁ?…」


そういい、黙々とメグは笑顔で給仕を配る。


一方で、気になるように区切られたケンはぎこちない笑顔で給仕を配る。


そんな気持ちも知らずに、若い獣人達は嬉しそうに食事を食べていった。






「さて、帰りましょうか」

「あぁ」


給仕が終わり、ベアさんに挨拶をして、元の調理場へと戻ろうとする二人。


「で、さっきの一言の真意は聞けるのかな?」


「…」


ケンは開口一番で聞いた。


メグはあまり感情を表に出さないとリョウマやレンコから聞いている。

それは彼女の育った環境に問題があったからだと聞いているが、さっきの一言からは十分なまでの怒りを感じた。


「そうですね、どこから話せばいいのでしょうか…」


そういい、歩き始める二人。

連れ合うようにして歩く。


「まずは…スキルって先天的と後天的があるのはご存知ですか?」


「あぁ、そのほとんどが後天だって事もな」


ケンもリョウマから簡単にスキルの事は聞いている。


「では、先天と後天のスキル…どっちが有能だと感じますか」


「?」


どちらが有能?そもそも機能の差があるのかとケンは思った。


「ちょっと待って、先天と後天に違いは生まれた時にあるかないかの違いで、後天は育った環境からの本人の欲求から生まれるんじゃなかったか?」


リョウマが少し前に意気消沈したのも己のスキルが自分の心の闇から生まれたというのが原因だ。


「えぇ、そうです。でも、先天と後天の違いはそれだけではありません。明確に分けているのは()()()()が違うからです」


メグは悲しそうに言う。


「強さ?」


「はい、先天的と後天的スキル。この二つを比べた時、先天の方が強い力を授かる可能性があります」


「え?そうなの」


リョウマは後天的スキルだと聞いていたので、てっきり後天的スキルの方が強いとケンは思っていた。


「厳密に言えば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それは体質を変えるスキル。中にはそれを先天的スキルと呼ぶ者もいます。全ての先天的スキルの中の一部で、それが起こりうるのです。そして私も先天的スキルを授かりましたが…」


「けど…」


「そんな夢みたいなスキルは授かりませんでした」


そういい、前を向いたメグ。その眼は心無しか潤んで見えた。


「私はスキルを三つも持っています。その一つが【処理速度】っていうスキルが先天的スキルです。これは判断の処理を常人よりもかなり早くできるスキルだけど、先天的スキルの中では外れスキルとして言われて育ちました」


「そんなはずれだなんて!俺なんてスキルもないのに!」


「でも、スキル保持者、そして他の強いスキルを知っている人達には私の価値はスキルを持たない人よりも下でした」


ここまで話して疑問に思った事を聞く。


「…ずいぶんスキルに詳しいけど、メグって何者なんだ?てっきり前まで学生だったとリョウマ達から聞いてきたけど、そんな育った環境ってまるで貴族みたいじゃないか」


「…」


メグは言葉を選んだ。今から言う事は告白に近い心境だ。


「そうですね…一応私は元ランドロセル王国の村からの出身という事にしていますし、()()()()()()()()()()


そして相変わらず無表情だが、どこか呆れる様に言う。


「ただ正確にはランドロセル王国の…リョウマさんやラフロシアさんのような人の末裔っていうのが正しいのでしょうか」


その意味をケンはすぐに理解した。


「もしかして、今は無いっていうランドロセル王国にいた…」


ケンの言葉に続けてメグは言った。


「…ランドロセル王国も国、そして国家象徴もいました。国も無くなり、その称号もはく奪になったみたいですが…私はその元国家象徴の一族の末裔です。といっても外された身ですが」


最後の部分を笑顔で言うメグ。

普段、無表情の彼女が作った笑顔がどういう意味なのかケンには分からなかった。


「だから私はリョウマさんの元に向かったんです」


スキルが弱いという理由で貧村へと追いやった一族。


駒にするために学園へと送り、逆らえない環境へと置かれた。


さらには自分を捨てた家族が王国を亡くなったと同時に、どこから聞いたのかリョウマとの面識を理由に引き取ろうとあの手この手で迫ってきた。


なので、国家象徴のリョウマの庇護下に入る事で元の家族との関係を断ったのだ。


これはアマンダとリョウマしか知らない事だ。だからこそ、リョウマはメグを直属の部下として認めたのだ。


「ウイジャン・ミロス・ミサカイ…かつてのランドロセル王国の国家象徴にしてミサカイ家元当主。先の戦争で深手を負いましたが…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。あの男がいるからこそランドロセル王国は続いたとも言えます。あの男の先天的スキルは…並みの兵士では止まりません」


かすかに震えるメグ。


「ウイジャンは貴族の選民意識と同様にスキル保持者を特別視していました。そんな一族の元で生まれて数年過ごした私は、徹底して強いスキルを得るため厳しい訓練をさせられました」


後天的スキルを二つもあるメグ。

それはつまり、それだけ辛い鍛錬をしたとも言える。


ケンはただただメグの話を聞いていた。

どの様な言葉を掛ければいいのか、先程まで叱られると思っていただけに、この告白は驚きを隠せなかった。


上へと向き直り、空を見つめるメグ。


「そんな暮らしをしていたので、正直スキルの事を好きになれませんでした。でも、それを変えてくれたのはリョウマさんでした。彼もご自身のスキルが好きではありませんでしたので」


そして深呼吸をし、メグは続けた。


「なので、スキルが欲しいと思うのはかまいません。しかし、ケンさんのスキルが欲しいという考えは私達を見て感じてるのであれば、その考えは改めた方がいいです」


「あぁ…」


「それに…何より、私にはケンさんの力がうらやましいですよ」 


手に持った空の鍋を見つめる。


「スキルみたいな特別な力ではなく、人々を幸せに、喜びを与えたケンさんの料理の腕前はスキルの何倍も私は価値があると思います。なので、周りばかりではなく、自分の出来る事を見つめなおすのが一番いいですよ。間違いなく、ケンさんの力はこの先の旅でも必要になると思います」


そういい、メグの顔は微笑んでいた。

普段は無表情なのに、今日は感情が激しいとケンは思うも、彼女の言葉は心にすとんと入った。


「あぁ、軽はずみにほしいなんていって悪かった。そうだよな、リョウマもメグも大変な目に遭ってスキルを手に入れたのに、それをほしいなんていうなんて失礼な事を言った。ごめん!」


そういい、腰を90度に曲げて、謝るケン。


「!!いえ、こちらこそ厳しい事いってすみません!あと年下なのに生意気いってすみませんでした!!!」


そして、己の叱咤を恥ずかしく思ったのか、メグも腰を曲げてケンに謝った。


双方の顔を上げると、顔が目の前にあった。


「はははは!」

「ぷっふふふふ」


そんなコントみたいな関係に二人は笑った。


「そうだな、じゃあ謝らなくてお礼をいうよ!ありがと!料理を持って腕を上げていって皆を笑顔にするよ!メグもどんどん笑っていってくれ!」


「…笑顔は難しいですね…。でも、はい、分かりました。頑張ってみます。でも、私は結構食べるので調理のしすぎで筋肉痛には気をつけてくださいね」


「おう!!…いや、お手柔らかにお願いします」


「ふふふ」


そういい、二人は調理場に戻り、夕食の調理に取り掛かった。


その日の夕食はとても美味しく、また人々の顔を笑顔にした事は説明する必要があるまい。


ここまで読んで戴き、有難うございました。


ブクマ、感想、評価等いただけると大変励みになりますので、もし良かったら宜しくお願い致します!


東屋

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