復讐者、日常へと戻る
第一章の開幕です。
まずは簡単に復讐を終えたリョウマ、そしてその周囲がどうなったかを述べよう。
まずはリョウマ。
復讐を終えたリョウマはその後、ランドロセル王国を正した功労者として魔王国にて表彰された。
その功績を評し、魔王国にて最大戦力の位、国家象徴である三大将軍の位を魔王・アマンダより承った。
三大将軍の内、三人目だけは長い間空いた席となっていた。
魔王城の者は勿論、リョウマが過ごした事のある城塞都市レイフィールドの民は喜んでリョウマを受け入れた。
当初、リョウマは異世界からきた自分が三大将軍の位を任される事に戸惑ったが、それも忙しい日々により忘れてしまった。
時間が経ち、ランドロセル王国が亡くなってから半年の月日が流れた。
段々と秋の季節に差し掛かった頃の魔王城にあるとある一室。
そこには壁一面に本棚が置かれており、たくさんの本が敷き詰めれていた。
中央には机があり、床とその机の上は資料で埋め尽くされていた。
資料の紙には犯罪発生数という物々しい事から、一般市民の平均食事数や遠方の村の食糧等多岐に渡る資料が書かれていた。
魔王国全土からくる資料にリョウマはとても手を焼いていた。
「後、何枚あるかな?メグー」
リョウマは近くに設置した机で同じく資料を確認している女子高生ぐらいの娘に声を掛ける。
「そうですね…」
彼女は学園にて殺したエマに虐められていたあの生徒だ。
メグ・ミサカイ
後日、そのお礼という事で先日リョウマに挨拶をしに来た。
彼女からもランドロセル王国についても聞いた。
あの後、ランドロセル王国は魔王国の領土と併合され、元ランドロセル王国の良識ある領主達を中心に回る事になった。
ランドロセル国王は処刑されたが、王族は一象徴という扱いになった。へたに殺すよりも生かして飼い殺しにする道をアマンダが提示したら喜んで受け入れたみたいだ。
ランドロセル王国に住んでいたリョウマは知っているが、王族にもまだ腐りきっていない若い世代が何人かいる事をリョウマは知ってた。
彼らが真の意味の再び活躍する事をリョウマは勝手に心から応援する。
王族が象徴になった事でランドロセル王国の貴族達も貴族のままだ。
王族と同じく象徴でかつ金銭の援助がこれまで以上に少なくなったが…今頃、身を粉にして働いているだろう。
一応、殺されない様に魔王国からも護衛は付けているが、まぁリョウマの考える事ではない。
そして、メグがいた学園は一時閉鎖を決定したそうだ。
新政府が発足したばかりだから、学園もすぐには再開できないようだ。
それには学園の教授達が貴族の手にかかっていたのが大きいのもある。今頃、悪事を働いた教授や生徒は牢獄行きだろう。
メグも一旦は村のある実家に帰ったが、お礼と仕事探しも兼ねてレイフィールドを訪れた。
その時、すでに書類の束に追われていたリョウマだが、せっかく遠路はるばる来た女子をやぶさかにはできないと軽くだが持て成した。
そこでメグがスキル持ちだという事を知る。
スキル
リョウマのいる異世界で意志ある生物が持つ特殊能力。
魔法と違い、個人の才能を可視化したものだと言われている。そのため魔力を使わないのも魔法との違う点だ。
そんなスキルをメグはスキルを三つも持っており、それも事務仕事向きであった。
「働かないか?この条件で?」
相場よりも高い条件でメグをスカウトするリョウマ。
彼女も快く了承をしてくれて、数日後から勤務をしてもらった。
あれから数か月経ったのだとリョウマは感慨深く思うも残りの書類を見て、リョウマは手を顔に当てる。
これでも彼女がいなければ…リョウマはきっと今頃は話す余裕すらなかった。
17歳という若さながらここまで事務活動ができるのは素晴らしいと思った。
「追加もあるかと思いますが…後100枚程です、リョウマ将軍」」
一枚に確認のために一分はかかるので、連続でやるなら100分程かかる計算。
「…その呼び方はやめてよメグ…呼び捨てでもいいから」
リョウマは立場上でメグの上司だが、どうも距離を感じるのでやめてほしいと思った。
ただ実際、リョウマの魔王国での立場は実質のNo.2だ。
三大将軍。
これはこの世界の国々の特徴である国家象徴に該当する位で、魔王国以外にもある制度だ。
国ごとに人数は違うが、その国を象徴する人物を掲げるための位だ。
魔王国でも他にもエルフ族から一人、獣人から一人と任命されている。
他種族の国家象徴を設けているのは魔王国だけで、それはこの国が先駆けて他種族国家を謡っているからだ。
そこら辺の話はまた今度にでもしよう。
「流石にリョウマ将軍の立場で呼び捨てにはできません」
メグはフンスと鼻息が彼女の可愛い鼻から聞こえるように言う。
「じゃあ、さん付けで…さん、はい」
「分かりました…リョウマさん」
「そうそう、そんな感じで…少し無表情だけど、まぁいいや。そもそも師匠のいう事は聞くように」
彼女はスキルを三つ持っている優良株だ。その使い方によっては戦力としても見込みがある。
なので、リョウマが自ら教えている。
いかがわしい意味はない。そもそも子持ちだ。
(籍は入れていないけど…)
今現在自分に降りかかっている問題は山積みだ。
思わずため息をつく。
「…30分だけ寝かせて…」
昼に最愛の娘であるヒカリの様子を見に行くことを決めて、しばしの休眠をとるリョウマ。
「分かりました、
そして、机のうつ伏せで寝に入ったリョウマ。
「Zzzzzz」
机に倒れながら寝る。
すると、来訪者が二人の仕事をしている部屋に訪れる。
「あら、寝ているの?」
軽いくせ毛の茶髪をミディアムにした髪型の女子がリョウマの仕事部屋に入る。
ラウラ・オードバル
彼女はエマの元友人で、エマを罠にはめたラウラだ。メグと同じくリョウマの秘書をこのラウラもしていた。
「追加の書類が来たので、持ってきたのだけど…」
ラウラに手には追加の資料があった。
寝ているリョウマを見て、どうしようかと悩むラウラ。
「とりあえず、ここに置いてください。後、ラウラさんもお時間あれば手伝ってくださいませんか?」
「いいよ、分かった」
しばらく、作業の音が空間に流れる。
この二人、元は同じ学園の生徒だ。
それぞれ違う経緯だが、リョウマに見出されたという点は同じだ。
しかし、その以前に学園にいた頃の立場が大きく違った。
Sクラスの貴族はメグのような平民を虐める立場だった。しかし、ラウラは虐めのこそ加担しなかったが、その行為を黙認していた。
ジェラルとエマとの事もあり、できるだけSランクの平民…メグとは距離を置いていたのだ。そのおかげで、魔王国が行った学園にいる貴族の処罰は受けずに済んだが…。
ラウラはリョウマを追って、自ら家を飛び出してレイフィールドに来たが、メグと再び会った時は飛び上がる程に驚いたものだ。
閑話休題
しかし、ラウラはいくら加担していなかったとはいえ、黙って見過ごしていたのも事実。
その虐めの当事者が目の前にいる状況でどうすればいいか、彼女は分からなかった。
とりあえず、一言言っておいた方がいいと思い、伝えたかった事を言うラウラ。
「メグさん…ごめんなさいね」
「何をです?」
メグが聞き返す。
顔を見ると本当に何のことか分からないという顔をしていた。
ラウラはそんな彼女を見て呆れた。
普通なら忘れないだろうと思う。
あれだけ苦しい現場だったのは見ていたラウラだからこそ知っている。
それにも関わらず、彼女は私を見ても、いやな顔を一つしない。
同じ職場の同僚として受け入れてくれている。
普通、学園の事を思い出し、拒絶反応でも起こしそうだものだが…
「あなたへの暴力を見過ごしていた事よ」
椅子から立ち上がり、腰を折って、しっかりと謝罪するラウラ。
メグには見えないものの、その表情は険しいものだった。
「もういいですよ。過去の事ですし、その人たちはみんなリョウマさんがやっつけましたから」
しかしメグはラウラの態度に恐縮し、苦笑いしながら許した。
「…何かしてほしい事があれば言ってくれれば力になるわ。償いという訳ではないけど、私に何かさせてほしいの」
ラウラは本当に反省しているようだ。メグにはそう感じた。
なので、メグはラウラに悩みを言う事にした。
「私、実は何も感じなかったのです」
「?」
「エマが死んだ時も、ジェラルが倒されたって聞いた時も」
「それだってあなたがやられていた訳ではなのですから…」
「あれだけ、いじめられたのに…ざまぁみろとかやったとかそういう気持ちが私の中でなかったのです。」
「!!!」
それを聞いて、ラウラは驚いた。
あれだけの事をされれば、その対象に怒り、もしくは殺意を覚えても仕方ない。
他にも否定の感情で対象を拒否するのも感情の一つだ。
復讐心や恨みは汚い物と思われがちだが、人間の動機の一つや物事の秤として重要な精神だ。
例えば、やり返したい、見返したいと言った衝動はこれに当たる。
問題はその後の行動であり、感情は別に悪ではないのだ。
「いじめられている時もそうだったんですけど、痛い以外の感情がでにくくなったんですよね」
メグは続ける。
「最初は泣く日もあったのに、段々それもなくなって…感情の出し方を忘れちゃったみたいで…なんででしょうかね?そんな機械みたいな事ってあるんですかね?はは」
はははと笑うメグ。 しかし、先程は気が付かなかったが、ラウラは彼女の目を見て言う。
彼女の目は笑っていなかったのだ。
表情を作っている。まさにそういうにふさわしい表情だった。
その眼には無とも呼べる程に冷静で期待のしていない眼だった。
「でも、あの学園が滅んだ日に、エマの後を追って裏門に向かったら、そこで笑顔で笑うリョウマさんに会ったの…」
表情の薄い顔でメグは言う。
「そこで思ったんです。なんでこの人はこんなに楽しそうなんだろうって…どうしてあんなに悲しそうなんだろうって」
「矛盾していませんか…それ?」
ラウラはそのリョウマの笑顔があの恐ろしい場面を生んだ事からだと思うと少し身震いした。
完璧に狂人のそれだ。
側で寝ているリョウマから少し距離を置いた。
「そう、ラウラ。矛盾しているのよ。リョウマさんは、気にならない?あなたは?」
ラウラは別に気にならないと正直思う、だが否定するのも難しいと感じたので、そのまま流す事にした。
メグもラウラの返事を聞かずに続けていう。
「最初はリョウマさんへのお礼のつもりでここまで挨拶にきたのですが、でも少しだけ…できるならあの人の近くに居たいとも思っていました。あの時のリョウマさんを理解すれば、あの人のそばなら、私の本当の意味での笑顔を取り戻そうだったから…」
つまりメグはあの時のリョウマを見たためにリョウマの元へと来たのだと言いたいのだろう。
ラウラは少しメグの将来を心配した。彼女がどういう生い立ちなのかは実はラウラも知らない。
ただの村人とエマから聞いていたが…
「そっそう…戻るといいね。笑顔」
ラウラが苦笑いをしながら答える。
少なからず、リョウマの元で何か学べると思ったのはラウラもそうだ。
しかし、メグの場合はむしろリョウマからという以前に普通とは何かを学ぶ必要があるのではと感じた。
「ねぇメグ、今度町に行って買い物でもしない?」
「買い物ですか?」
「そうそう、なんでも商人の町のある商人が多くのアイディアを残したまま死んだみたいで、それが今全商会に流れて発明ブームらしいのよ」
その商人の死は謎のままだが、その商人のためにそれらを世に出すには罪ではないだろう。
ラウラは言わないが、同じ年の子と一緒に遊ぶ事で彼女の手助けとなればと思った。
身近な幸せ…それが彼女に足りなかったものだと思ったから…
「いいですね。今度行きましょう」
「では、今度よ!約束!」
そういい、二人は作業の方に戻る。
しかし、先ほどの気まずい空気はどこかへ消えていった。
「Zzzzzzz」
そんな二人の話を聞きながら、リョウマはぐっすり寝るのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ヒカリ―!パパが来たぞー」
「あうぁー!」
仕事を終えたリョウマは魔王城を歩き、ヒカリがいる赤子室へと来た。
「お疲れ様です。リョウマ様」
「二人っきりの時はリョウマって呼べよ、レンコ」
「二人ではありません、ヒカリもいますよ」
ふふふとレンコは笑いながら言う。彼女は家政婦の姿で佇んでいた。
ヒカリの乳母として彼女は面倒を見ている。
元々冒険者なので、腕っぷしも強く、護衛としても申し分なかった。
リョウマはヒカリを抱っこして、あやしながらレンコに聞く。
「何か変わりはないか?」
「いえ、リョウマのおかげで、とてもよく過ごさせてもらっているわ」
「そうか、ならレンコにはもう少し厳しくしなければな…」
にっした表情でリョウマは言う。
「はい、リョウマの命令ならなんでも」
それにレンコも笑顔応じる。
おかしな関係だが、これもまた良い関係の築き方なのかもしれない。
まだ20代の二人だが、どことなく中年の夫婦のそれである。
「最近、作ったミルクの方も飲めるようなったのよ」
「そう!じゃあ次は離乳食だな、いやー早いな、子供の成長は…」
リョウマはヒカリの成長を嬉しそうに聞きながら、ヒカリによしよしとする。
「子供と言えば…孤児院の設立はうまくいきそうなのですか?」
レンコはリョウマに別の話題を振った。
「あぁ…はずれの方にある建物を再利用して設立する孤児院の件だけど、場所と人員はなんとかなるだが、院長となる人がまだ見当たらないんだよね」
レイフィールドは広く、それ故に子供の多い都市だ。孤児院を建てるのはうってつけなのだ。
王国が滅んだせいで、出てきた数々の問題。
その中の一つで浮浪児の救済が人族の問題で浮き彫りになっていたのもある。
「私が…」
レンコは自分がなれればと思い、言おうとする。
「レンコ、お前、忘れたわけではないだろうな?」
少し強めに言うリョウマ。
「…いえ、失言でした。申し訳ありません。」
側にいるという誓い。その事をレンコは忘れていない。
少ししゅんとするレンコ。
武士な雰囲気を醸し出す彼女だが子供は好きなようだ。
「だから、どこかで良い人がいたらいいんだけどなぁ…というか休みを利用して、町で良い人材を見つけられたらいいんだけど…」
「あら?魔王様から聞いていないのですか?」
「何を?」
「最近、みんな働きすぎだから、行政に関係している人は1日休むようにとお達しがさっききたのよ」
フランクに言うレンコ。
「何!」
リョウマは言われたことに驚く
「あなたが話したぶらっくきぎょう?の話を魔王様が恐怖しなさって、その対策で特例で休日を設けたみたいよ」
どうやら2週間の期間をかけて、交代制で集中的に休暇を設けたようだ。
(あーそういえば話したな…働きすぎで自殺とか…)
まぁそれはリョウマのいた世界でも一部の地域の出来事でしかないのだが…いや、思いたいと思っているリョウマだが…善政を重んじるアマンダには恐怖だったのだろう。
「よしっじゃあその日は…」
「ヒカリと出かけますよね?」
レンコがにこりと言う。
「ん?」
少し思っていた事と違う事を言うレンコに戸惑うリョウマ。
「折角の休みなのにヒカリが可哀そうじゃないですか?孤児院の人を探すのにもヒカリも一緒の方がいいですよ」
それにと、彼女は続ける。
「私も同行します。」
「えっいや、なんで?」
「だって…私に復讐をしているのでしょう?なら、ヒカリと行動する時、私も一緒にいないと。血は繋がっていないけど、腹を痛めて産んだ子と共に外を歩くなんていい復讐だと思いません?」
レンコは笑顔で、復讐を理由にお出かけを志願する。彼女も乗り気なようだ。
本当はリョウマとヒカリと一緒の時間を外で過ごしたいからというのはリョウマも気づいていたが、そういう理由で彼女をそばに置いているので反対はできなかった。
(むしろお前との時間を久しぶりに作ろうとも思っていたが…)
「分かった、じゃあ前の日は早めに寝かせて。」
「分かりました。周りにそのように使えておくわ」
こうして、リョウマはレンコとヒカリとのデートの約束をするのであった。
ここまで読んで戴き、有難うございました。
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東屋