復讐者、一つの答えを出す
第四章の開幕です。
ジュライドでの流狼との戦いが終わってから一週間が過ぎようとしていた。
一週間が時間が過ぎてジュライドの街では復興のための工事をジュライドの民達が行っているが、災害にあった人々の顔は明るい。
それもそのはず。後に万を超える数の魔物の襲撃から街が無事だった事を聞いたからだ。
無事に街を守れた、守られたジュライドの民と冒険者や衛兵達は共に喜び合った。
嬉しい出来事があれば人は笑顔になる。
そして、その笑顔は人の行動に現れた。
実は復興が思ったよりも早く進んでいるのだ。
人の行動が早ければ、口も多くなる。
そして、すぐに今回の魔物の襲撃の詳細も広まった。
ジュライドの民は今回の顛末をこう耳にした。
流狼がヘルモス山脈より登場し、敵である魔物達を屠ったと。
彼らの守護神である、流狼は魔物を倒すために光となって消えたと。
自分達が祀る守護神が自分らの街を守ったとジュライドの民は聞かされていた。
この話により、ジュライドの民はさらに復興へと意欲を増し、自分らの出来る事に精を出すのだった。
そんなジュライドでの陽が高く上った正午。
中央の公園にいるリョウマとレオルドは新しく建てられた流狼の墓を前にして佇んでいた。
リョウマは新しく建てられたそのお墓に思う。
(有難うな、流狼…そして安らかにここで眠ってくれ)
流狼と会えた事。
故郷を同じにし、憎しみを心に持った者同士。決して良い出会いではなかったが、この出会いからリョウマの心の中でのある答えが出た。
復讐はいくら敵にしても自らの心は晴れないのだと…そう決断する事ができた。
長い間、心の中で固まっていなかった答えがこの出会いにより定まった。
答えを得た事で、リョウマは心の中でただただ流狼へ感謝をしていた。
そして、横にいる人物にも忘れない。
「有難うな…レオルドさん、これであの狼もここで安らかに眠れるよ」
リョウマは隣に立つレオルドにお礼を言う。
レオルドには全てを話した。流狼が元々は敵としてこの街へと赴いた事。それもリョウマと同郷の狼だった事により、リョウマを殺さんと向かってきた事。
しかし、最後には改心をし、敵であるイグルシア帝国を倒そうと最後の力を振り絞ったのだと。
この事を聞いたレオルドは少しの情報操作をし、流狼の墓を新しく中央の公園に建てようと進言してくれたのだ。
「何、別に貴様がお礼をいう事はない」
そこには新しく石碑が置かれ、流狼がここに眠っている事が記されていた。
「確かに最初はこの街を襲うようにきたかもしれない。だが、最後に流狼は我らの街を守ろうと行動した。それに応えるのは長年、彼の者を祀っていた街の領主として当然だ」
複雑な気持ちも当然あるだろう。しかし、領主としてどう治めるべきか心得があった。何事も良い結末で終わる事が一番いいのだ。
辺りにはまだ建設音が鳴り響いてる。
「それにだ。お礼を言うのはこちらの方だ」
「え?」
「私は貴様に辛い現実を突きつけたのだ」
レオルドはリョウマの【復讐】がどう生まれたかを断定し、奇襲もしてきた。
「その判断に間違いがあったとは思わない。が、それで街を見逃す事もしょうがないとも思っていた。正直な…」
そして、レオルドはリョウマの方を向いて、丁寧に、頭を深く下げた。
「この街を助けてくれて有難う」
正直、攻撃してきた相手にお礼を言われる気恥ずかしにリョウマ耐えれなかった。
リョウマは顔を赤くし、話題を変えるために聞いてみた。
「街の復興は進んだのか?」
リョウマはここ一週間程、寝てしまっていた。
ジュライドの外で静かに寝てしまったあの時。
起きたら日付が大きく進んでいたのは一種のタイムスリップの感覚に陥った。
レンコやメグとケンに心配されたが、体調が落ち着いていた事から見守って貰っていたみたいだ。
ラフロシアはリョウマの様子を見て、スキルの過度の使い過ぎだと推測した。
なんでも、スキルが変質した時に魔力枯渇に似た症状で長い眠りについてしまうのだとか。
「あぁ、ラフロシアさんの種魔法で予定よりも倍近く作業が進んでいる。お祭りの影響で士気が高いのもあって、順調に復興は進んでいるよ」
レオルドは牙を見せながら、微笑んだ。
その事を聞いて、安堵するリョウマ。
「そうか、よかったよ」
「おまえさんは傷が癒えたら、旅を再開するのか?」
「あぁ、予定通りミカロジュの森に向かって、イグルシアに向かうよ」
「イグルシアか、あそこは情報が外に出にくい国だからな、深くは詮索せんがな」
色々事情を察されているのだろうか。レオルドはリョウマの目を見ずに前を再び向いて言う。
「そうなんですよね。そもそも前から思っていたのですけど、この世界の国同士の情報って少なくありませんか?」
リョウマはこれまで魔王国、ランドロセル王国、そしてジュライドの属しているヴォンロウドに赴いた事がある。しかし、ランドロセル王国の情報はあの国へと召喚されるまでは王政と民を強いている事以外は知らなかった。
「異世界で育った貴様には分からないかもしれないが、そもそも、国同士で仲がいいのはヴォンロウドと魔王国ぐらいだ。」
「そうなんですか?」
「あぁ、分からないかもしれないが、普通、国同士は自らの情報を口外しないのだ。国家象徴を置いているのも、要は牽制の目的が強い」
国家象徴
各国の象徴的存在である彼らは国に1人から数人までいる。
具体的な定義はないが、それぞれが強力なスキル、もしくは魔法を使役する特別な存在だという事だ。
魔王国ではリョウマが任されている三大将軍がその役割を担っている。
「なるほど、その国家象徴の情報が広く伝わる代わりに、国自体の情報を制限しているのですね」
「あぁ、そういう事だ。後、この世界では基本的に種族間で国が形勢されているからな。異種族同士ではそう簡単には心開けないというのが実情だ」
そういい、レオルドはため息をついた。
「その点では貴様の王は先進的な試みをしている。我々と友好なのもその一環なのだろう。」
そして、レオルドは魔王国現国王のアマンダを褒めた。
「確かに多民族国家って魔王国だけですね、そこに最初召喚されたので、てっきりそれが当たり前だと思っていました」
だからこそ、ランドロセル王国での差別を目の当たりにして、憤慨と絶望を感じた。しかし、それはランドロセル王国が特別という事だけではなく、魔王国が特別だったのだ。
「あぁ、だからこそ魔王国の変化はどの国も気を配っている。ヴォンロウドは友好として取り組んでいる一方でイグルシアは敵対という立場でいるようにな」
ここで今回の戦いの原因であるイグルシア帝国の話に移った。
「レオルドさんはどのくらい知っていますか?イグルシア帝国の事」
恥ずかしながら、リョウマはイグルシア帝国については東洋人の容姿という点、軍事国家だという事、そしてある人物の事しか知らない。
「私も全てを知っているわけではないが、イグルシア帝国には現在、八の師団が存在する。これを八蛇師団と呼ばれているそうだ。それぞれが万の兵で構成されているが、それよりも各師団の頂点に立つ団長達が相当の強者だと聞く。そしてその八蛇師団の第一師団にはかの“暴竜”の肩書を持つ男がいるのは…知っているようだな」
リョウマはそこで思い出した。
魔王国を立つ前に、ルカルドとの会話で出た男の名を。
「ラガーン・ドラゴヴルム…おそらく私の知る中で…現存する国家象徴の中でも最強の男だ」
「おそらく、イグルシアと事を構えるとなると、この男との戦闘は避けられないだろう。ただリョウマ、先走るなよ」
「今回の貴様らの任務は潜伏と調査なのだろう?」
「はい、そうです」
「確かにイグルシア帝国は貴様らに攻撃を出しているが、まだイグルシア帝国だと分かっていない。これで先に制裁を相手に与えた場合、他国の非難は魔王国にいくぞ」
「そんな…理不尽な!」
「言っただろう?他国は魔王国の動向に気を配っていると…それは裏返せばスキを狙っているともいえる」
「…」
「だからこそ、魔王国国王は潜伏と調査を命じたのだ、証拠を取り、大義名分を他国に見せつける事で初めて制裁を喰らわせられるのだ」
リョウマは愕然とした。自国の民を助けるために他国の事を気にしなければいけない事ではない。そこまで考えが回らなかった己の愚直さに呆れたのだ。
「冷静になったか?」
「あぁ、有難うレオルドさん、改めてあんたとここであってよかったと思うよ」
スキルの発生方法を知るためにこの人の元へ向かわなければ、おそらくだがリョウマはイグルシア帝国に宣戦布告をしていたかもしれない。それは勇者のようの武勇伝に長けた話かもしれないが、ただ周りを顧みずに身勝手な決断をしただけだ。
「何、それもそもそもはお前が自分のスキルと前向きに向き合うためにした事だろう。それは素晴らしい事だと私は思うよ、そして二度とその事を忘れてはいけない」
「あぁ、そうだな」
「まだ、この世界は憎いか?」
ここでレオルドは聞いた。
彼に真実を突きつけた彼だからこそ、最後にこれは聞かなければいけないと思っていた。
すぐに答えは彼の口から来た
「えぇ、憎いです、そしてそれ以上にここでまだやりたいと思う事ができました。なのでもうレオルドさんの心配する事は起こらないと思います」
自分のスキルが自分の弱さから生まれた事を知り、絶望したリョウマ。それが彼の身に現実に起こった以上、それは彼の心の中でなかった事にはできない。むしろ、どんどんと心の中では罪悪感で満たされてしまって行った。その葛藤が自身の弱体化に繋がっていたとも知らずに。
長い間の違和感や倦怠感はそれが原因だった。
しかし、このジュライドの一件でリョウマの周りに少なくともレンコとラフロシアがそんな自分を受け入れてくれた。
まだアマンダや魔王国に残っている人達には聞けていないが…それでも二人もこの世界で居場所になってくれる人がいるのは彼の心の中に平穏を生んだ。
そして、彼は選んだのだ。憎しみも喜びも、この世界で得た事を全てを認めると。
「さて、墓参りも済んだし、俺も仕事に戻らないといけない、君はどうするんだ?」
「俺は一旦部屋でやる事があるので…」
己のスキルと向き合う、本当の意味でこれからリョウマはそうする事をレオルドは知らない。
「そうか、君たちの出る日程が分かれば知らせてくれ、その前に是非一度食事でもしよう」
「有難うございます。その時は是非飲みましょう」
「おっ?いける口か?」
「嗜む程に、ただ仲間で弱い人もいるので…」
「無理強いはしない。酒が不味くなるからな」
そんな笑い話をしながら、二人はそれぞれの帰路へと着く。
ジュライドの街には男達の笑い声ととんかちの音が鳴り響いていた。
ここまで読んで戴き、有難うございました。
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東屋