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復讐者、天へと駆け上がっていく

リョウマは諭す様にして話を始めた。


リョウマは【復讐】の力を解放され、相手の記憶を見る事ができるようになった。


それは復讐する相手に的確な復讐をするために。


そして、その方法としてリョウマは説得を選んだ。


「お前の仲間達、ニホンオオカミを確かに人間がどんどん住んでいる所を奪ったけど…その前から疫病で苦しんでいたんだな」


流狼は静かにリョウマのいう事を聞いているように見える。

しかし、少しだけ、リョウマは歯切しりのような音を聞こえた。


「俺はスキルで、お前を理解するために表面の記憶を覗いた。悪いとは思わない、スキルを使った戦ったうちの一つだからな。だが、それでお前の怒りにも理解した」


流狼が強くリョウマを恨みの対象にした理由は本当の恨みの対象が自然そのものだったからだ。


様々な要因が重なり、姿を消してしまった動物、日本狼。


乱獲に疫病、科学の発展に都市部の増加で彼の動物は無くなってしまったのだ。


それはつまり進化の競争に負けたとも取れる。


その中で最後に残ってしまった流狼は、無念の心から最も生きるに値する激情に縋り付いてしまったのだ。


孤独に耐え抜こうとした結果なのだろう。最後に残ってしまったから、諭してくれる相手もいない。


自分の中で間違いと思いつつも、生きる目的を失わないために、感情のままに生きてきたのが目の前の魔物、流狼なんだ。


以来、ずっと固まった考えで過ごしてきて、ここまで強くなったのだろう。


「…あぁ、我が仲間は病にかかっていたのもいる。だが、それだけではない、人間にも殺されたのだ」


自らの正統性を表す流狼、だがこれまでと違い、どこか引っかかりを覚えている印象だ。

こうなるとリョウマの中の流狼の印象も変わる。

力で倒す存在ではなく、話で倒す存在へと


「我の怒りを理解したのなら、小僧、同じ世界からきた貴様は我の手で死んでもらう」


「それをいったら、人間も人間を殺すよ」


間髪いれずにリョウマは反論した。

そして、流狼は反論しない事を分かっていたリョウマは続けた。


「でも、少なくとも俺は別にその殺した人を嫌いはしても、人間という種族事体をどうこうするつもりはないよ」


あまりに抽象的すぎるのだ、流狼の復讐は。


抽象的すぎる復讐に暴力で解決しても彼が救われる事はない。


それをリョウマ自身が一番知っているし、この流狼は頭の内では理解している事がリョウマには分かった。ただ、落としどころに困っているのだ。彼の中で膨れあがった歴年の恨みが。


「流狼さ、どこか人間を復讐する事に縋り付いて、生きようとしてるだろ?


リョウマは確信へと迫った。


「少しだけ、疑問に思っていたよ。どうして流狼は今まで人間には何もしなかったかを」


そう、流狼は人間にこれまで何もしてこなかったのだ。

長い時間を生きていながら、なぜ復讐に燃えている狼がこれまで人間に何もしていないのか…


「勿論、俺がいる事もきっかけだし、俺を倒したい気持ちもあるとは思うけど…俺はお前の記憶を見て一つの確信を得たよ」


リョウマは人差し指を流狼に向けて言う。


「お前、【逆襲】の力で命を延ばしているな?」


何十年、もしかしたら何百年をこっちで生きていた流狼。

魔物の生態は謎の部分が多い。そして、Ω級の魔物は決まって長命が多い。


流狼が長くこの世界で生きているのはスキルでできているのだ。

そしてそれが今の流狼の状況に大きく関連している。


後天スキルは保持者の強い意志で生まれる。そして、その意思がスキルに直結している事が多い。

リョウマの【復讐】が正にそれだ。


【復讐】は復讐心からスキルの効果が発揮されたように、【逆襲】にも何かエネルギーになる物が直結していると踏んでいた。


(まさか、それが自身の命とは思わなかったが…)


それが、自分の命だと分かったのは流狼の記憶とこれまでの行動の矛盾から察する事ができた。


「スキルを得た時に決めた日本人を殺すというのはこの世界では不可能だ。だからスキルは俺みたいなやつが出てくるまで生きる事にシフトし、お前をこれまで生きてきた。そして、その存在が目の前に出てきたから、こうして戦いに出てきたのだろう?そしてそれに逆らうとお前は死ぬ」


スキルに支配されている流狼。

基、復讐に支配されている流狼


だから、理由付けをするために人間を滅ぼすとか言っていたのだ。

自分の行いが正しいと思わないと、己の蛮行を許せなかったのだ。


流狼はリョウマの話を聞いて、ゆっくりと口を開いた。


「で、それでこの戦いを止める理由になるのか?貴様の言うようだ。我は我の命を持って、あるいは生を持ってこのスキルは実行されている。だが、それはつまりこの戦いは止まらない事を貴様の手で言い切ったも同然ではないか」


確かに、流狼のいうように【逆襲】が流浪の命を握っている以上、それに背く事は流狼に死ねと言っているのと同じだ。


「ここで大人しく死ねというなら、我はすぐに無差別に人を襲うぞ」


「復讐や逆襲とか、怒りに感情を任せると人って本当に視野が狭くなるよな。あっお前は狼だけど」


するとリョウマは笑った。


「何が可笑しい?!」


牙を剥きだしに言う流狼。

当然だ、彼の中ではこの怒りは正しいと思っているのだから。

だからこそ、リョウマの一言に耳を傾けてしまった。


「いや、一つだけあるぜ、お前が生き残る方法が」



「何?ふざけるな、そんな手あるわけないだろう!」


口を開けて、威嚇をする流狼。


しかし、リョウマは全く恐れていない。


「簡単な話だ。それは俺と一緒に行動すればいい、で時々戦ったりすればいいだろ」


しばらく、沈黙の時間が流れた。


「は?貴様はふざけているのか?」


復讐したい相手の側で暮らす、それは復讐者にとって拷問に等しい行動だ。


「ふざけてなんかいないよ、大真面目、大真面目」


しかし、リョウマは呆気からんとした毅然で言う。


「そもそも殺す殺さないが間違っていると俺は思うぜ。殺してもね、その瞬間はすっきりするけどね…ずーっと心残りになるんだよ」


握りこぶしを作り、じっと見つめるリョウマ。


「よく復讐物とかあるけど、あれは読み物だからね。エンターテイメントだから。ある程度の復讐ややり返しはいいけど、殺すまで行くとね…終わりを迎えてしまって虚しい気持ちになるんだよ」


アニメでも漫画でもそうだ。


読み物でそのキャラクター達の復讐は終わっても尚、彼らの生は例え架空の世界でも存在している。


そして、復讐を終えた心はいつだって悲しくて虚しい。


「どんどん出てくるんだよ。あれで良かったのか。果たして、あいつの事情があったんじゃないのかって…多分、これを後悔っていうんだろうな」


復讐という生きがいを得たなら余計に復讐が終わった時、その心情はどん底に堕ちる。

それはリョウマ自身が体験したからこそ分かったのだ。


「だから、流狼。俺と旅をしようぜ!そして俺を理解して、それでもまだ戦いたいなら戦うよ!多分、それなら【逆襲】もお前を殺したりはしないと思うぞ、これまでお前を生かしたように!」


「…」


流狼は長く考え事をした。そして、言葉を発した。


「我はついさっきまでお前を殺そうとしていたのだぞ?現にぼろぼろにした。仲間にも手を掛けようとした」


(あー、そこらへんの記憶はないんだよね…仲間もみんな生きているし)


精神世界みたいな所に飛ばされていて、記憶どころか痛みを体験していないリョウマ。

仲間も生きている以上、殺すまではするのは可笑しいとリョウマは考えていた。


「まぁ、そこらへんは俺は許すよ。俺ら人間がお前たちニホンオオカミを乱獲したのは確かだし…てか、考えたんだけど、ここで番いを見つけようとは思わなかったのか?」


流狼の変化を察し、話題を変えた。


「番いだと!我にそんな事等…ごにょごにょ」


(あれ、こいつってもしかしてすげー奥手でなんじゃ…)


それ自分の中で自己完結して、行動を起こしてしまうのもうなづける。


リョウマは妙に納得してしまった。


(なんか親近感湧いたな)


リョウマも本来は奥手で人と交流するタイプではないのだ。


(あの子がいたおかげで、色々人間として進歩したけど)


もう会えないその女性を思い出すリョウマ。


すると、流狼は言った。


「…まだ生きていいのか?我は?もう復讐心で行動しなくていいのか?」


「いいんだよ!」


リョウマは流狼は肯定した。

多分、この一言が流狼にとって一番必要な事だとリョウマには感じた。


「もし自分の中で整理が付いたら…ここに戻ってお前の居場所にすればいいと思うよ。今回した事はそれで手打ちにすればいい。ずっーとこの街を守るために過ごすんだよ、俺との旅が終わればな」


流狼は先程みた自分の像を思い出していた。


「お前の事は否定しないよ。【逆襲】はもったままでいい、それは持っていて、ただ少し方向を変えろって話だ」


流狼は考えた。


この街の者と共に過ごす日々を。


流浪は考えた、


目の前の男を真に理解して、戦うのと、今戦うのどちらが自分の心で整理がつくかを。


すると、流狼の心はすっとした。


憑き物が落ちたみたいだった。


「…そうか、そうか…我はどこか考えすぎていたのかもしれないのか」


まだ正直にいえば、この選択が正しいのか分からない。


だが、心の中で臨んでしまった。それはスキル【逆襲】を得た時の様にすっと入った。


「うん、そうだな」


リョウマは腕を組んで胸を張って言う。


(この者は自分の復讐をした、その結果こういうのだ…それを見てから決めるのも悪くない)


流狼は考え、返事をした。


「…分かった、そうするよ」


「そうか、良かったよ」


リョウマは笑顔で流狼の返事を受け入れた。


「だが、忘れるなよ、人間。貴様を殺すに値したと思った場合は、即刻貴様を食い殺してやる」


「上等、その時は俺がこてんぱんにしてやる」


「返り討ちにしてくれるわ」


流狼は牙をむき出しにした。


しかし、これまでと違い、その顔には笑みを浮かべていた。


リョウマもそれにつられた笑い声を上げて笑った。


リョウマと流狼の戦いが終わったのだ。


お互いの復讐の糧をぶつけ、双方が理解して戦いを終わらせた。















その事で双方ともに気が緩んでしまった。


まだ敵がいた事に気が付けなかったのだ。


ドンッ


それは一瞬だった。


「えっ?」


何処からともなく、大剣が素早く流狼の首を切りつけたのだ。


「…くっ、がふっ」


切断こそされなかったが、致命傷には変わりない。

回復魔法を使っても、生きられるか分からない傷だ。


「流狼?!」


慌てて駆け寄る、リョウマ。


そして辺りを見て、言う。


「誰だぁ!!!!!!」


するとその斬撃を起こした相手はすぐに現れた。


「やぁ、初めましてだねリョウマ君。僕の名前はラルフ」


赤髪の女、レーナを携えてラルフという人物が姿を現したのだ。

リョウマはすぐにこの男がイグルシア帝国の者だと分かった。


「その狼のスキルに興味があって、君よりもまず彼の死体を取らせてもらうよ」


ラルフが流狼に近づくが、すると流狼に体は動いた。


「はぁはぁはぁ…どこかこうなるんじゃねぇかって思っていた」


すると、流狼は話し始めた。


首からは血がまだ流れ続けている。


「貴様らが私に打ち明けた情報から…この可能性は考えてい…た…死体からスキルを盗むという事をな」


「え?!」


リョウマは信じられない事を聞いた。

死体からスキルを盗み取る。それがどれだけ危険な行為か、すぐに分かった。


「くそ、この狼!よりによって他にやつがいる時に」


レーナが大声を上げて、流狼に怒りを露にする。


「本当は一撃で殺す筈だったんだけどね…ギリギリで致命傷で抑えたか…だが、もう貴様の命はないよ。首を切ったんだ、今生きているのが不思議なくらいにね」


そう言い、ラルフはさらに近づく。

しかし、リョウマはそれを見逃すはずがなかった。


「俺がいるぞ?!」


リョウマの顔からは怒りの表情で満ちていた。

これからの流狼との新たな冒険を潰えた目の前の敵に純粋な怒りを隠さずに拳を叩きつけようとする。


「残念、それは僕には届かない」


すると、手の平をリョウマへと向け、そして今度はリョウマが動いた。


「え?!!」


後ろへと飛ばされるリョウマ。


「くそっ!!」


(剣を出したり操ったり、俺を後ろに飛ばしたり、なんだあいつのスキルは?魔法か?)


「さて、いい所で終わって申し訳ないのだけど、流狼、君には死んでもらうよ。そしてスキルを戴こう」


流狼は真っすぐとラルフを見つける。

そして、リョウマの方を見て言う。


「済まないな…人間…いやリョウマといったか、貴様との旅は少しだけ楽しみだった…」


流狼は続けて言う。


「だがしかし、我は本来のまま、このスキルと共に朽ち果てよう。何…怖くはない。もうすぐ昔の仲間達に会えるのだから」


流狼は考えた。


(このスキルは日本人を倒すために私が産んだ。なら、この男に向けて、最高峰の一撃を…)


流狼はリョウマを向いて、口にどんどん自分の意思、そしてそれをエネルギーに変えて打つ準備をする。


(白髪の男、俺の死体を狙って近寄ったのが間違いだな。これで貴様も射程圏内だ!!!!)


そして、放つ直前にラルフの方を向く。


当然、近くにいるリョウマも無事には済まされないかもしれない。


だが、直撃ではない。それに流狼は確信していた。


(どうせ貴様ならなんとかするだろう。私の心を変えてくれたようにな)


流狼は最後の最後【逆襲】に勝てた。


(願わくば、この街で眠るれるよう、取り払ってくれ)


最後に気づかせてくれた流狼のこの世界での居場所。ここで終えれる流狼にとって安らぎ以外の何物でもなかった。


【さらばだ!】


≪狼流星の息吹≫


蒼い砲撃が流狼の口から放たれた。





ドン!!!!!!



「くっ!」


「きゃ!!!」


ラルフも、レーナも流狼のとっさの攻撃に驚いていた。


そして辺りが光で一杯になり、視界が失った。





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇






まだ辺りは光で満ちている中、同時に、流狼の体が光の粒になり、ある景色が見えた。


そこにはかつて共に住んでいた家族の狼たち。


彼らが駆け寄ってくる。


気が付けば、元のニホンオオカミの体だ。


そしてかつての森よりも広く豊かな土地で住んでいる仲間達がいた。


(あぁ、ようやく会えた)


そう思いながら、流狼の意識も天へと駆けあがっていった。


同時に、流狼の体が光の粒になり、空へと消えた。


そして異世界での流狼の生は終わったのだった

ここまで読んで戴き、有難うございました。


ブクマ、感想、評価等いただけると大変励みになりますので、もし良かったら宜しくお願い致します!


東屋

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