復讐者、簡単に終わる事の方が一番難しい
ジュライドの南門にいるレオルドは頭を抱えていた。
「あのやろう!!!!…なんて技を繰り出しているんだ、街を破壊する気か?!」
野外に用意された椅子に座り、頭を抱える様にしてうなる。
つい先程、リョウマの攻撃で放った空気のかたまりの威力を注意したばかりだ。
実際もうすでに起きた事なので、注意しようがあまり意味がないと分かっていても、士気に関わる程の威力を放った人を領主として無視はできない。
しかし、文句は言っても、南門を担当するレオルドはリョウマの攻撃の影響を良い意味で受けていた。
「レオルドさん、東門も開戦したようですね」
「あぁ、さっきレンコさんから念話が届いた」
自ずと南門も開戦する。
しかし、それに慌てている兵士はここにはいない。
この南門は、長年ジュライドの守護を任されてきたベテランの兵士が多いからだ。
レオルドの横にいる猿の獣人の指揮官もそうだ。
「鬼姫の名は伊達ではありませんでしたっと言っていましたよ」
指揮官は指揮官同士で連絡を取り合うようにしている。
北門に配置した指揮官から聞いたのだろうとレオルドには分かった。
国家象徴の二人の影に隠れていたレンコ・ヤギュウ。
しかし、博識なレオルドは彼女の力を決して見誤らなかった。
だからこそ、門の一つを任せられると確信していた。
「最近では噂を聞かなかったが、鬼姫も健在だな…まぁ【鑑定】である程度の実力は見破っていたから当然と言えば当然の実力だがな」
「えぇ、あちらに配備させた指揮官も、もうそれは興奮気味に彼女の戦いぶりを報告していましたよ」
猿の獣人のレオルドの部下であり、指揮官は呆れながら言う。
「さて、我々も、一撃を噛ましますか」
目の前に来た魔物の軍勢を見ながら、レオルドは言う。
レオルドは前線には立つが、果敢には攻めないつもりでいた。
その代わりに、今できる最高の一撃を噛ますつもりでいた。
自らが総大将だと自負しているのもあるが、それ以外にもある。
まずは、今回の大元が見えないこの魔物の軍勢の襲来。
いつ、新たな敵が出てきてもいいように、自分は後ろにいる事が構えている事がこの戦いにおいて重要だと知っているからだ。
それに、彼の街の兵たちは決して弱くはない。
「期待しているぞ!みんな!」
周りの兵たちに声を掛けるレオルド。
「当り前だ!領主さん!」
「俺ら、あんたのだしたトレーニングを毎日やってんだ!オーク如きに遅れは取らないぜ!」
「大将はどんと構えてくださいよ!」
彼らは衛兵で、その中でも長年レオルドと共にジュライドの街を守ってきた衛兵だ。
練度は他の門の兵士よりも高く、士気も高い。
「冒険者のみなも頼む!これに勝てたらジュライドの名産である地酒を浴びる程飲んでいいぞ!」
しっかり冒険者達にも飴を見せる。
「「「「「「おぉぉぉおぉぉぉ」」」」」」」
そして、南門の軍の列を割る様にレオルドは前へと出て、自分も第一撃の準備をする。
「さてっ…俺はスマートにやるとするか」
レオルドが今からする事は正に味方が周囲にいて初めて成立する技だった。
【鑑定】のスキル保持者として、目の前の相手にのみ集中し、倒す事を意識する。
そんなレオルドが得意とするのは毒魔法だ。
空中に紫色の線をどんどん出現させる。
それらを次に得意な土魔法と混合する。
自分の魔力で生成した毒の針、そしてそれをコーティングするように周囲の土で強固にする。
その数、どんどん増える。
十、百、千、五千と増えていって、最終的にはおよそ1万本の針が出来る。
≪怠惰で愚かなで醜い散弾≫
筒などはない。
全てがレオルドの意識下においているためだ。
汗がレオルドの体から止まらずに出る。
「おぉお!あれがレオルドさんの毒魔法!」
「すげー!あんな数の針を生むなんて」
「でも、狙えるのか?」
「何いっているんだ!あの人のスキル知らねぇのか若いもんが!!」
1万本を生成するのは生半可の集中力と魔力保有量で出来る事ではない。
しかし、それよりもこの技には大事な物がある。
スキルの存在だ。
「はっ!!!!!」
そうして、レオルドはその毒針達を魔物の軍勢へと放った。
1万本作ったのだ。
スパパパパパパパパパ
スパパパパパパパパ
何かが刺さったような気がする魔物達。
しかし、彼らは別になんとも思わなかった。
すごい量の針には驚いたが、その威力が大したことがなかったために、足早にジュライドの南門へと走っていく。
それが致命的な間違いだと気づかずに。
「ふぅうー、とりあえずこんなもんか」
一仕事を終えて、深呼吸をするレオルド。
レオルドの今回作った毒は即死レベルの毒ではない。
そもそも、毒魔法では即死レベルの毒は作れないのだ。
そういうには自然でできた毒物ができる事で、魔法の毒魔法は精々即効性のある毒で体調を崩すのがやっとだ。それもすぐに治ってしまう。
なので、魔法の中では人気がない。
しかし、彼は毒魔法と自らのスキル【鑑定】を組み合わせる事で、自らの戦法を構築した。
まずは【鑑定】。
【鑑定】で魔物のどの体の部分が最も価値が高いかが分かる。
これはほとんどの場合で致命的な傷を負ってはいけない箇所だ。
そこを狙い、打ち込む事で、毒魔法の威力の弱さを補っているのだ。
【鑑定】のスキルで、その個所を見破り次第、ホーミングする事が出来る。
時間がかかるために、個人の戦闘では使えないが、軍での戦闘ならこれ程立派な攻撃はない。
つまり、今≪苦しみの散弾≫を撃ち込まれた魔物達は自ずと戦闘不能になる。
そうとは知らずに、走る事でより毒の周りを早めている魔物達。
最初は足の速いウルフ達から症状が出た。
急な吐き気で思わず動きが止まる。
続いてゴブリン、種猿といった人型の魔物が症状が出る。
「ギ!」
「キキ!!!」
どたどたと倒れる。
これまた強く、脂肪の厚いオークには効き目が弱いが、十分な成果だった。
膨大な魔力を出したレオルドは倒れそうになるが、もう一仕事をする。
後ろの軍の方を向き、レオルドは叫んだ。
「今、魔王国からのきた国家象徴達がそれぞれの場所で優勢に事を進めている」
「だが、ここは俺らの街、俺らの土地だ!俺らが持て成す筈のやつらばっかりにいいかっこさせるな!!!」
「「「「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」」」」」」」」
「戦え!敵は俺の毒で弱らせた!ジュライドを守るため!蹂躙せよ!!!!!」
「「「「「「「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」」」」」」」」」」」
そういい、すぐ後ろにいたジュライドの軍がどんどん攻めていく。
こんな無茶も周りに味方と同レベルの強者が他に3人もいるからできる事だ。
とぼとぼと後ろに下がるレオルド。
椅子に座り、息を整える。
「はぁー、疲れた…」
魔力をたくさん使った時に出る倦怠感と戦いながら、休むレオルド。
「お疲れ様です、レオルド様、これで大分兵たちは楽に討伐できるかと…」
「あぁ…、ほんとそうしてくれると助かるよ」
このまま何もなければと思うが、油断はできないと思うレオルド。
必ず、何かの目的があってこのような無茶な攻撃をしているのだとレオルドは考えていた。
「はい…何!?それは本当か?」
すると、部下の指揮官にどこからか念話が届いたみたいだ。
「分かった、今報告する。レオルドさん!」
すると、別の指揮官が緊急な顔持ちでレオルドに報告する。
「どうした?何かあったか?」
「先程、西門の指揮官から連絡が来たのですが…」
まさか大元があらわれたのか?
あそこには国家象徴のラフロシア様がいる。
リョウマと彼女自身の希望で西門だけ兵の数を手薄にしている。
しかし、それが悪い方に回ってしまったのだろうか?
「どうした?!まさか防衛線が突破されたか?」
「いえ…たった今全滅が確認されました」
「はぁ!!!!!!!!!!!!!」
それはあまりにも驚きの知らせだった。
西門の魔物の軍勢、その数は約8000程だと聞いていた。
そいつらがここの門で開戦をしている間に、全滅していたのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ジュライドの西門。
そこを攻めようとしていた魔物の軍勢達はいなくなっていた。
いや、正確にはまだいるが、その全ては捕縛されていた。
その全てを遠くにいた彼らは見ていた。
「あんなのずるいだろ!!!!!」
黄色の仮面の男は遠くでその様子を見ていた。
仮面をつけているはずなのに、望遠鏡で覗いているそんなシュールな光景に突っ込みを入れたいレーナだったが、今は西門の光景にただ圧倒されている。
彼女達は、遠く離れた丘の上からその様子を見ていた。
「国家象徴の中でも最強の名高いラフロシア・ステュアート…我々はリョウマの存在を気にしなければいけないですが、彼女の実力にも注意しなきゃね…」
レーナは冷静に彼女の力を分析した。
「でも、個人の力は凄まじいけど、街での戦闘には向かないわね…恐らくだけど、今回はあれ以上の成果はあげられないでしょうね」
そういい、荷物をまとめるレーナ。
「あれ、どこへ?」
黄色の仮面の男はそういう。
「決まっているでしょう?クラウマン、当初の予定通り、あいつを止めるには私達三人戦うしかないわ。でなきゃ、狼さんもリョウマとの戦闘に集中ができないでしょ?」
クラウマンと呼ばれた黄色の仮面の男はレーナの指示を聞く。
「うわぁ…確かにそうだな、あれは狼ちゃんじゃあ相性が悪いしね。じゃあ白ちゃんを起こしに行くよ」
そういい、白の仮面の者が休んでいるテントに近づくが、白の仮面はすぐに出てきた。
「話は聞いていた?これからあの国家象徴を抑えに行くわ、まぁ倒す必要はないわ、しばらく抑えるだけでいいわ。ちょうど彼女の後ろにいい駒がいるみたいだし」
そう言い、赤い靄を出すレーナ。
「いくわよ、クラウマンはあの流狼を指示出しておいて、今なら彼とやれると」
「了解!」
「……」
そして、赤い靄の中にへと入る。
誰もいなくなった残されたキャンプ場はすぐに用意された着火剤で燃えた。
辺りには燃えカス以外に何も残らなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ジュライドの西門
ラフロシア・ステュアートがした事は至って単純だった。
彼女は種魔法の使い手。
その種の中には一時的に人型になれる植物の種もある。
≪吸血鬼の蔓≫という植物の種がある。
魔物の魔力に反応して、歩く事のできる植物だ。
今回はそれは8000程出したのだ。
後は簡単だ。
そいつらを前進させて、魔物達にとりつく、するとあっという間に魔物達は干からびた。
「うわぁ…」
「えげつない」
「これが国家象徴…。桁…格…すべてが違うな」
あれだけの魔法を繰り出したはずなのに、ラフロシアは平然としているのも味方であるはずの軍が騒然としている理由だ。
「こんなものでどうですか?指揮官?」
ラフロシアは横にいる指揮官に聞く。
「えぇ、十分です…これなら他の方にもあの種魔法を強いればよかったのでは?」
あれだけの威力なら全域を守る事ができるのではと指揮官は考えていた。
「私がヴォンロウドのものならそうするが、あいにく私の所属は魔王国だ。それに私の生徒の修行も兼ねているのでな、そこまではする気はない」
そういい、微笑みで返された。
「勿体ないですね」
「まぁ、大丈夫だろう、私ほどではないが、他の門に配置された私の仲間は十分に強い。反対側はもう魔物の軍勢は半壊していると聞いたぞ」
「はっ、確かにそう連絡がきました」
「じゃあ、我々も…そうだな、北と南それぞれに分けて向かいましょうか…」
そう言った瞬間に、ラフロシアは西門の城壁を見る。
「いかがされました?あれ?あんな所に人が?」
指揮官も釣られて見る。
そこには三人程、城壁の上で見る様にして佇んでいた。
赤い髪の女、そして白と黄色の仮面の者が二人。
赤い髪の女を見て、ラフロシアはルカルドから聞いていた事を思い出す。
「あいつか、イグルシアか」
「どうもー!魔王国三大将軍が一人にして、国家象徴のラフロシア・ステュアート!そしてそのお仲間達」
男性にしては高い声をで、白い仮面の男は話す。
「この魔物の軍勢はお前たちの仕業か?」
「はい、少々野暮な目的がありまして、そのためにこうして姿を現した次第です」
そういい、白い仮面の男は懐から何かを出す。
それをそのまま見逃す程ラフロシアは優しくない。
≪突貫草≫
瞬時に、ミサイルのような植物を繰り出すラフロシア。
そして、真っすぐ男の方へと行く。
「おや?」
ドゴーン!!!!!
強烈な爆発音が響く。
「やったか?」
爆発した≪突貫草≫で煙が発生し、まだ敵の様子がうかがえない。
しかし、今の威力はβ級の冒険者でも抑えるのは難しい。
そう思い、倒したと思ったが、その思いは叶わなかった。
「ふぅーあぶない、あぶない、白ちゃん、度々有難うね」
横にいた白い仮面の者が黄色い仮面と赤い髪の女を守るようにして立っていた。
「何をした?あの爆発から身を守れるなんて」
イグルシア帝国にそんな強者がいるなんて聞いた事もない。
同じく、この薄気味悪い黄色い仮面の男も。
彼は今の刹那に武器を出していた。
「これが私の武器ですよ」
そうして見せてきたのは、笛だった。
「では、一曲どうぞ」
♪~
そういい、優しい音色の曲が聞こえた。
そしてその音色を聞いてすぐに変化が現れたのは味方の兵士だった。
突然襲ってきたのだ。
「うわっ!」
「なんだこいつ、いきなり剣を振りかざして」
「ぎゃぁぁぁ!切られた!」
「同士討ちはやめろ!どうした!」
見ると、兵が次々に同士討ちを始めた。
「くっ!催眠系のスキルか魔法を持っているのか」
そういい、また魔法で3人を攻撃するが、どうにもあの白い仮面が防いでします。
「仕方ない、捕縛する!」
そういい、新たな魔法を繰り出すラフロシア。
≪蜘蛛の巣の御守≫
そういい、次々に催眠をさせられた兵を捕縛する。
しかし、これには弱点もある。
クラウマンは警戒心の強くなったラフロシアから種魔法の弱点を見つけた。
(ふふふ、種魔法は使い切りの魔法…使用する魔力一つ一つが違う魔力で植物を生成する)
(だけど、今は永続的にあの蜘蛛の巣みたいな捕縛装置で味方を抑えなければいけない、そしてそれは他の種魔法が使えない事を指す)
奥の手があるのかもしれないが、彼女の攻撃力を大きく削ぐ事ができたと思うクラウマン。
現に、彼女は味方を押さえつけるので定一杯だ。
(攻撃をしてもいいのですが、この人は国家象徴、油断はできませんね)
なので、次々に催眠を施す。
ラフロシアが他の戦場へと向かわないために。
「めんどくさいわね…」
倒す事は難しくないが、見ると過半数は催眠にかかっている。
この人数を手加減して相手にするのはラフロシアでも苦労する。
「これでなんとかなりそうね」
レーナはそういい、安堵する。
「じゃあ、私はとっとと迎えに行くわ」
そういい、レーナは再び赤い靄へと潜る。
向かう先はヘルバス山脈。
リョウマ達が流狼を目の当たりにするのはもうすぐだった。
ここまで読んで戴き、有難うございました。
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東屋




