復讐者、飲み過ぎには注意を
リョウマの心境まとめ
異世界に来てホームシックになるも、精神が中途半端に大人なリョウマは行動で誤魔化し、また周りにそれを隠し続けて生活する。しかし、そんな生活も異世界特有の多くの災難により心が疲れ、挙句の果てにスキルでそれが発現してしまう。再び自己嫌悪に陥るも、レンコにその事を指摘され、心の内を吐き出さす事で初めて己の誤魔化し続けた本心を理解し、この世界で前を向いて行こうとする…といった感じでございます。
数年前、まだリョウマが異世界へと訪れる数か月前
それは雨が降っている日だった。
魔王城の空は雨雲で覆われ、季節外れの大雨が大地を濡らしていた。
魔王城には多くの施設がある。
役人の執務室は部署ごとに配置されており、連絡も魔王城限定の仕える特殊な連絡網を用意し、わざわざ訪れる必要のある部署との連携も連携しやすくしている。
娯楽面も充実している。
リョウマの発案したビリヤード台やダーツがあれば、疲れを癒すために指圧師の教育を兼ねた無料のマッサージ施設と有料の仮眠室がある。
特にマッサージ施設は重宝され、多くのモノを短時間で疲れを癒し、そして仕事へと借り出している。
受けた者は気持ち良い半分、死の行軍へと戻る悲しい半分な複雑な気持ちで仕事場へと戻る。
尚、仕事を残した状態で寝ると雷魔法を喰らうそうだ。
他にも飲食施設も完備している。
魔王城の重役のみが使えるレストラン(魔王や将軍やその従者や秘書のため、彼らが街へ行くのは大騒ぎになるため)があり、ここの料理は人を惑わすと役人は噂する。
又、街の商店街程ではないが、軽食の買える売店、食堂や喫茶室がある。
私こと、ラフロシアはそんな城内の喫茶室の一つで雨が降る光景を見ながら休憩をしていた。
喫茶室は定価の安い飲み物を出す代わりにコンセプトの違う落ち着いた内装をしている。
ここは雨の日に訪れると一段といい雰囲気になるをコンセプトに作られた喫茶室。
焦げ茶色ログハウスのような内装が暖かさを醸し出しており、そんな中で飲む煎茶を味わいながら束の間の休息をしていた。
(そろそろ長く居候しているな、この魔王国とは)
いつから?と多くの役人は彼女に嘆かれるが私はこう答えている。
聞くな、食人植物の種を投げつけるぞ…と
しかし居候という言葉には偽りなく、彼女の生まれは魔王国の北にあるミカロジュ大森林。
「ミカロジュの森」と呼ばれている彼女の故郷は、長く他国と中立の立場をこの大陸で貫いてきた。
如何なる国が戦争をしても、その双方ともに技術的援助は送っても、戦力は送らないのを数百年続けていた。
大規模な転移陣がある事で課せられた地位。
そんな所の出身である私が魔王国…要は一国の象徴を務めているのは、考えてみれば矛盾している。
簡単な話だ。
ミカロジュの森は魔王国に己の立場を覆してでも果たさなくてはいけない恩があるのだ。
それは約数百年前、まだ魔王国が生まれる前の話。。
今でこそ、魔王国のように他種族が暮らせる国がちらほらと出来たが、当時はまだ種族同士での争いが大陸の各所で行われており、そんな中もエルフは中立を保っていた。
中立はいうなれば自立。
よその問題に口を出さない代わりに、我々の立場を犯すな。
そうやって暗に各国へ敬遠し、知らしめて生きてきたミカロジュの森のエルフ達。
しかし、彼らはそんな中ある災害によってその存在を脅かされた。
ミカロジュの森の伝承でその災害はて長く語り継がれている。
その災害は炎を吐き、大地を焦がす。
その災害は鋼鉄の鱗を持ち、あらゆる剣を通さない。
その災害は膨大な魔を操り、また魔を通さない。
その災害は生物でありながら、災害と長く語り継がれている。
その災害の名前は――――― 竜
種族間の争いに参加しなく、高見の見物をしていた孤高の存在は突如ミカロジュの森を攻めてきた。
何故襲ってきたのかは定かではない。
腹が減っていたのか、何かに怒っていたのか
とにかく、ミカロジュの森の民は竜によって滅ぼされかけた。
今ある森の半分を焼かれ、沢山の森の命が竜によって亡くなった。
そして最後の最後で逃げ場を失った時に其の者はきた。
その者は人だった。
その者と竜は三日三晩戦い、最後は竜が山脈の向こうへと退いたとされる。
その後、焼ける森に己の拳の風で火を消し去り、森を守ったそうだ。
そしてその森を救ってくれた恩人はその場で倒れ、わずかに残った住処へと招き、助けたそうだ。
懸命な救命のおかげのその者は目を覚まし、エルフは真っ先に聞いた。
なぜ助けてくれたのだと
長く中立を布いてきて、エルフの魔法力があれば止めれる争いある中、無視をしてきた。
そんな中、見ず知らずの人間は助けてくれた。
すると、その者はこう答えたそうだ。
「いつか俺は色んな種族の民が笑顔で暮らしていける国を創る。当然、中立の君たちも含まれている。だから助けた。」
あまりの言い分、だけど真っすぐとした志に多くのエルフは驚いた。
そして、その人間はミカロジュの森で仲間を募った。
それが彼に惚れた強者の女エルフだったそうだ。
その者は数年後に国を創り、魔王国と名を冠して治世を行う。
それからミカロジュの森はその世代で強いとされる者をその共に仲間になったエルフを見習って女性のエルフを派遣するようになった。
この采配には些か上の者の思惑もあるようだが、まぁここでは置いておこう。
そして長い時が流れ、今、ラフロシア・ステュアートは魔王国に身を置いている。
数百年で魔王国はとても豊かな国になった。
まだ完全には初代王の思惑である「一つで多くの民が笑顔で暮らしていける国」はまだまだ発展の途中だ。
ここ数年は争いごともなく、ラフロシアの知としての力を買われ、外交や政治にを任される事が多くなった。
しかし元々は強いエルフである彼女は少し思っていた。
(少し物足りないな…)
争いのような刺激を欲していたわけではない…なんというか人との交流の刺激をどこか欲していた。
目に通すのが書類や人と会っても腹の探り合い。
そんな毎日を憂いていたのを覚えている。
なぜ覚えているかというと、この後の出来事が印象深いせいだ。
雨音を楽しみながら、引き続き城内の喫茶室で黄昏ていると、そこに珍しい人が訪れた。
「ラフ、ご機嫌はいかが?」
深紅の長髪に褐色の肌をした令嬢のような女性。
現魔王国国王のアマンダ・レイフィールドその方だった。
「えぇ、まぁまぁよ」
にこりと微笑み、さっと自分の前を空いている席へと手を向ける。
そして、そのままアマンダは席へと座った。
喫茶室に常駐しているメイドが緊張して我々の方を向いている。
そして、お茶が出ていないのに気が付いて、急いで湯を沸かす。
他には喫茶室を利用している人はいない。
この喫茶室はアマンダとラフロシアがよく使うのを城で働く者は知っているため、失礼があってはいけないのであまり利用されない。
ラフロシアはさっさと要件をアマンダに聞いた。
「で、珍しく私がここにいる時にきたみたいだけど、何の要件?」
魔王国の将軍の一人でもある私だが、同時に食客でもあるため気軽に話しかける。
「実はある試みをしたいと思っているのだが意見を聞きたい」
すると、彼女は持っていた鞄から資料と宝石の様な物を出す。
「これだ」
そういうとアマンダは順に説明する。
「まずは宝石みたいな物はとある生物を呼ぶ石よ」
「へぇ…でこの資料は何?読んでも平気?」
「えぇ、いいわよ、説明が省けるわ」
古びた資料を壊さない様にもって中身を確認する。
その内容に驚愕する。
「!!…こんなの一体どこから?」
「そしてこれは王立図書館の禁書室にあったものよ」
アマンダの言葉を聞いて、耳を疑う。
「禁書室から?!」
魔王城の地下には王立の図書館があり、一般人にも申請さえすれば入れる。
ただ唯一、各国から集められた貴重な魔法の資料を集めてある禁書室だけは王立図書館特別司書長である人物の了承がなければ入れない。
魔王国国王でもだ。
「どうやって…」
ラフロシアも何度か了承を経ようとしたが、一度も許可が下りた事がない。
「特別司書長に閲覧の許可が降りたのよ」
「許可が降りたって…そんな…」
ここ数百年は降りていないと聞いていたが、これは一体どういう事だろうか。
そう思いつつも、言われた通りに資料に再び目を通すラフロシア。
「これは…召喚魔法の陣…でもかなり複雑ね」
そして、その中身を言い当てる。
その資料にはいくつかの魔法陣が載せられていた。
魔法にそもそも陣は必要なく、言葉にするか、または心の中で念じれば体内か体外の魔素が魔法へと変わり、発現する。
ただ、いくつか陣を描く必要がある魔法がある。
その一つが召喚魔法だ。
「複雑というか…分からないわ。これどこの生物を召喚するの?こんなの見た事がない」
召喚魔法は基本、生物を異界より呼び出す魔法だ。
発見されているので精霊界があり、そこと繋がる陣を将軍であるラフロシアは当然覚えている。
しかし、資料に書かれている陣はそれではなかった。
「ここであの石の話に戻るのだけど、あの石はある生物のみに使われる石。そして…」
勿体付けながら、しかしはっきりとアマンダはラフロシアに言う。
「…これは人間を呼べる陣よ」
その言葉を聞いた時、ラフロシアの背中には冷や汗が流れた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そのまま話は進んだ。
曰く、この陣で呼べる世界の人は科学や違う思想を持つ世界の人だと。
曰く、新しい文化や思想を取り入れるためにこの召喚魔法を使いたい。
曰く、それで来る者の教育係が必要。
曰く、その教育係に私を指名するという事。
しかし私はこう返した。
「…それで来る者は前の世界には帰れないのか?」
「…そもそもこの召喚魔法で呼ばれる者はその世界での死の定義を受けた直後の者だけだそうよ」
確かに資料に細かい所に抱えている。
この魔法で召喚されるのは魂。
そして、その魂が元々入っていた器…この場合では体をその世界の構築物質で創ると記されている。
「魂とはまた迷信深い事を」
「まぁ魂の確認はまだされていないけど、今この世界のある理論でその召喚魔法が可能なのはあなたなら分かるでしょ」
「そうですね…可能です」
「でも、私は残酷な事をするわ」
すると突然アマンダはそんな事を言った。
「残酷というのは?」
「前の世界で死んでいるとはいえ…この世界でこれから来る者が孤独だという事は変わりないわ」
そう言うと、二人の空気はどこか重くなる。
呼ぶ者としてこれから来る者がどういう心境か察する事ができる。
何も知らない世界。
文化も思想も…もしかしたら言葉も分からない。
そんな人がどのような感情で最初この世界で過ごすのか。
考えるのは容易だ
「だから、私も精いっぱい助けるわ。そして、そもそもただ貰っているばかりのつもりもないわ」
紅茶を片手にアマンダは言う。
「命を助けたという訳でないけど、その分これから命でこれから呼ぶ人には楽しい人生を過ごしてほしい。そのために王である私は側にいてあげたいと思っているわ」
どんな人が来るか分からない。それでもアマンダはそう言い切った。
まだ見ぬ人への王としての援助の約束。
この決意にラフロシアは止めるのをやめた。
(孤独か…)
「では、私もその者の孤独を守りましょう」
「え?」
「召喚魔法の確認もだけど、そっちのお願いが本命でしょ?」
そういいながら、ラフロシアは自分の出された飲み物…煎茶を戴く。
「あっ分かっていた?」
「長い付き合いだからなあなたとは」
彼女が魔王になってからの付き合いであるラフロシア。
そんな彼女がどう思っているかなどは推測できる。
「じゃあ、お願いするわ」
「分かった」
そういい、その場の話は終えた。
そしてそれが彼女と仲良く話した最後の記憶でもあった。
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時は戻り、リョウマのいるジュライドの町はずれのバー
そこはバーとはいいつつも、心落ちかせる音楽も上等なお酒も小綺麗な所はなく、冒険者や不良が蔓延っているような所だった。
ただ店の主人…基モボがそういっているのだ。
「同じのもう一杯!」
そこにただ一人のお客としている綺麗なエルフはマスターのモボにいう。
静かに飲んでいる割にはその飲んでいる量は尋常ではない。
(樽が2個も空いたぞ)
バーのマスターを務めている牛の獣人のモボは、そのエルフからは見えない位置で冷や汗を掻きながら思う。
「はい、ただいま」
このエルフが来てから数日。
売り上げはいつもよりいいが、そろそろ帰宅を願っているモボ。
この美人なエルフが来たのは本当に突然だった。
いつもは冒険者がいるこの時間だがその時の影響で今は静かだ。
「申し訳ないね…マスター」
すると、この数日で初めて女性のエルフが口を開いた。
「!…いえ、お金を支払っていますし」
追い出すのも怖いので、社交辞令を言う。
(いつもそのまま席で用意してあるソファで寝て、勝手に家のシャワーを浴びて…って色々と使われているな)
もはやバーテンダーの域を超える奉仕をしている事に気が付くモボ。
「実は嫌な事があってね、一人でお酒を飲みたいと思って、外れのここを利用させてもらっている」
そうでしょうねとモボは思った。
突然やってきて、嵐のようにいた冒険者達を店の外に追い出して、そして化け物のようにお酒をがばがば飲んでいれば誰もお近づきになりたくない。
「少しその事で話したくなったの。聞いてくれるか?」
断る事(断ってまた暴れられても怖い)もできないのでモボは聞く事にした。
「どうぞ、あっ洗い物があるのでそれもでよければ」
「いいわよ」
モボは恐れ多いながら、手にグラスを持って彼女の話を聞く。
「昔ね、一人の子供が私の住んでいる所に引っ越してきたの」
お酒で頬を赤くしたのか、ため息をつきながら話すラフロシア。
「…で、その子供には身寄りがなくて、さらにこの世界の常識がなかったの。だから、私は親代わりと思って色々と勉強を教えてきたの」
その時の事を思い出しているのか微笑みを交えて話し続ける。
「するとね、思いのほか吸収が速くてね…どんどんと先生の私よりは少し弱いけど、知恵も魔法も使えるようになったの…そして気が付けば男としても…」
今度の頬が赤いのはお酒が理由なのではない…とモボは察した。
「でもね…その子は私の知り合いと交際する事になったの、先生として嬉しさ半分、悔しさ半分だったわ…」
巣立たれたような気がして辛かったと彼女は語る。
「おかげでその友人とはしばらく口を聞いていないわ。仕事上の付き合いは一応話すけど」
そして少し顔をうつ向かせながら続ける。
「でも、その子の幸せを願うのは変わらなかったわ…だから影で見守る事に決めたの…引き続き先生としてね」
時々食事に誘ったり、人伝で近況を聞きまわった。
そもそもエルフの彼女では人間との結婚は難しい。
寿命がかなりかけ離れている二つの種族は中々結婚へと行きつかない。
「それから私は彼を見守り、応援する存在になるんだ、支えるんだって活きこんでいたの。そうする事で心の中で区切りをつけたの」
「そんな中で急な出来事でしばらく遠いところにその子はいってしまってね。でも彼なら大丈夫だと思っていたの」
ここでお酒をぐびっと飲む。
そうしなきゃ話せないと言わんばかりに。
「でもね…それは間違いだったの…その子はさっきいったように賢い、でも…まだ私よりも年若い子だという事に気づくのが遅かったの」
「私は好きだった人の悩みにも気づけなかった上、指導者としても気が付けなかったのよ…」
懺悔するようにラフロシアは言う。
「…遠い所にいっていたといったわよね?それが最近戻ってきて、一緒に旅をする事になったの。そこでまた色々教えれると思っていたんだけど…彼の苦悩をその旅で知ってしまったの」
すると、彼女の耳には届いていないが、誰かがバーに入ってくる。
ラフロシアは飲み過ぎたのか、それに気が付かない。
「初めて会った時はただの義務感からだった…でも段々と惹かれて行って、気づいたら見守っていたの…でもそれが自分の自己満足だと気が付いて、私は何のために側で見ていたのか…そう思った」
「長い間…一人で生きてきたから…私には分からないわ…」
友人ならある程度いるが…ここまで心を痛めるのは初めてのラフロシア
「ただ、心は痛いかな」
「なるほど…」
そういいながら、モボは考えた。
「余程、おねぇさんはその人の事を思っているんですね」
「…うん」
「私がいえるのはそれが先生とかその範囲を超えているという事ですよ」
「え?」
「後、お酒はほどほどにして、後ろにいる人にそれを言えばいいと思いますよ」
「……え?」
すっと後ろを向くラフロシア。
「…あぁ…えっと…迎えにきたよ?」
物静かなラフロシアは珍しく目を大きく見開いて、そして口を大きく開けた。
「うっ…うぁわぁぁぁぁぁぁー!!!!!!!!!」
少なくとも…大の大人である女性が恥ずかしさのあまり叫ぶ声が町はずれのバーで木霊したのだった。
ここまで読んで戴き、有難うございました。
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東屋