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復讐者、本心を知る

「…前の世界の自分についてはどうなの?」


この時、リョウマはエスカルバンの件で被害に遭ったあの未亡人の事を思い出した。


あの未亡人と対面した時の気持ち。リョウマは痛く分かっていた。


なぜなら…


あのような家族の存在が自分にもあったのだから


そして、もう二度と会えないという事も彼女と一緒だ。


それは突然死んで別れたのも同然。


思えば、リョウマは普通の家庭で育った。


父は外資系の会社に勤めていた。

あんまり家にいなかったので、会話は少ししかいない。

しかし大事なことは背中で語ってくれた。


母は専業主婦だったが元々会社員をしていたので社交的だった。

色々と気をつかって育ててくれた。


そして学校が一緒の仲がいい女友達がいた。


いつか告白するだろうと思っていた。結局、異世界に来たので叶わずじまいだった。


果たして、恋は成就したのだろうか。


そんな幸せな思い出を思い出すと、心が痛くなった。


リョウマは自分が丘の上に立っている事を思い出す。


「…」


リョウマは国に貢献するという行動で無意識に前の世界の事を忘れようとしたのだ。


そのために他の感情を持つようになった。


みんなの幸せに対する喜びを


変わらない人々への怒りを


自分の身勝手さへの劣等感を


そう思う事で自分の本心を隠す事に長い時間を費やした。


そんな心を指摘され、リョウマは顔は下に向き、悔しく苦しい表情を出した。


「今までリョウマが言ったのは…リョウマ自身の本心だと思うけど、()()()()()()


レンコは強く言い切った。


「まだあなたはまだ逃げている。自分の本心を隠しているわ」


真っすぐな眼差しで見てくる。


「どうして王国で人を助けようと思ったの?どうして魔王国を発展しようと思ったの?その事をはっきりしないとあなたはずっとこのままずっと苦しみ続ける…自分の本心って思っている以上に分かるのは難しいのよ?私の経験から言わせると」


裏切った後に自分の本心に気づいた女性の説得力は違う。


少し強い風が丘に吹いた。


それにより、髪を整えるレンコ。


「…だから分かったのよ、あなたが私と一緒で本心を隠している…そして気づけていない事を」


「私は一度失ってから知ったわ、()()でどうにか自分を維持はできたけど…そんなのをリョウマには体験してほしくない。一度失うと取り戻すのは幸運でもない限りと取り返せない。そして…多分、その幸運はリョウマにはもう…」


恐らくその幸運は元の世界へと帰れる事。だが、それは不可能なのがアマンダとリョウマが出した結論だった。


勿論、引き続き捜索はしているが、そもそも違う空間、違う時間軸、違う異次元といった物を全て一致させなければいけない。


膨大な計算や知識量を人間で賄う事は不可能だった。


「だから考えたの、そうなる前にリョウマを助ける方法を…それはリョウマが私にした事だって」


?とリョウマの頭に浮かんだ。


それはひどく間抜けに見えたのだろう。


レンコは微笑んだ。


「ほら、あなたってホント勝手、自分がした事なんて気づいていないんだから」


そういうと、そっと彼女は言った。


「あなたは私を受け止めた。なら、今度は私が受け止める。あなたがどんな人で、どんなに自分を弱く思っていようと、私はあなたの元に必ず戻る」


道場で再会した時の会話。

レンコはそれを受け止めたと思ったのだろう。


一度離れた身としてはなれないとは言わない。代わりに必ず戻ると誓う。それがレンコがリョウマにしたいと思った事だ。


「…」


「受け止めるから受け止めさせて、リョウマ」


「…」


少し時間が流れた。


すると、リョウマは口を動かした。


「俺は」


ぽつぽつと、しかし先程よりも弱弱しくリョウマはつぶやいた。


「俺は…、おまえらが思う程の英雄でも何でもない…」


「元々、普通の家庭の普通の学生だ」


「集団を嫌ってたけど、引きこもりになる程意思も強くない。組織で目立つほど知識も容姿も整ってはいない。何より、心が強くない、ただ、自分の本心をさらけ出すのが怖くて、そして醜く縮こまるような臆病者でしかないんだ」


リョウマはそう言いながら前の世界の自分を思い出していた。


それはこの世界に来て初めての事だった。


「それで…この世界…リョウマにとってどう思う?」


レンコは質問を間に挟む。


「…俺は…この世界は嫌いだ」


苦々しく言う。


「うん」


「この世界で出会った皆が好きだ、だが好きであればある程…前の世界を忘れるためのような気がしてならないんだ」


顔を険しくして言い放つ。


「そう…俺を変えた…この世界が嫌いで仕方ない。それが無駄だと分かっている…でもどうしようもないんだ、心に湧いてくるんだ」


リョウマはレンコに抱き着いて言う。


「忘れるために色々した。魔王国の発展も王国の民の救済も全て…その思いを忘れるための行動だ…でも、それらが終わるといつも…いつも前の世界の風景が頭に流れ込んでくるんだ!」


自然と目頭に涙が溜まる。


「前の世界に帰りたい…帰ってみんなに会いたい…せめて、せめて一言言いたい。有難うって」


そんなリョウマにレンコが言う。


「そうよね家族に会いたいわよね…、それでリョウマは召喚されたこの世界を憎く思っているのかもしれない。それで自分の心が揺れ動くのに耐えられないのかもしれない」


知らない世界、集団、個人と交わりながら、変化する自分の心情。


変わるという事は必ずしも気持ちのいいものではない。


嫌気や苦手意識も心情の変化の最たる例の一つだ。


レンコはリョウマの吐露を聞いて、彼の中のその壁が今にも破壊されそうなのだと悟った。


「私もこの世界が嫌いよ。道場の一人娘として育てられてそう思う日もあった」


周りの女の子は綺麗に着飾っているのに、自分だけは違う。


その理由を理解はでき、納得はできても…正しいとは思えなかった。


「そんな生活を20と数年してあなたと出会って、話して、知った。その時に初めて思ったわ。この世界でよかったと」


彼女の壁をリョウマは壊してくれた。それは彼にとっては罪悪心だったのかもしれない。

だが、間違いなく彼女の救いとなった。


この世界に来て出会った多くに人や出来事を海、そしてその変化はその壁の中で暴れる波と例えるなら…それを抑える壁は彼の心だ。


そして、レンコはその壁を壊そうと行動に出た。


「だから知ってほしいの。あなたがここに来た事で生まれた関係もある事を忘れないでって」


歯を見せて、少しだけ震えながら涙を目に溜める。だが決して流さずに笑顔のままレンコは言う。


「あなたは一度裏切った私を許し、そして救ってくれた。それは他でもないあなたがしてくれた事よ…あなたがいなかったら私の心はここまで熱くはならなかった」


手を胸に当てて言うレンコ。


「王国もあなたが来なければあのままでいたわ、それを変えたのはあなた。」


「だから…今度は私の番、言わせてリョウマ…」


「…帰らないで」


最初は何をと分からないと言わんばかりにリョウマは思った。


帰らないで。


そのアマンダ達には言われていないその言葉。


帰るという言葉で彼は思いだす。



「あっ…あっ…」


つぅーとまた自然と涙が出てきた。


召喚の時にすら出なかった涙をなぜ今ここで出すのか。


だが、一度出たその涙はどんどんとあふれ出てくる。


「あ゛っ!あ゛…!」


そして顔も段々崩れ、体も屈むような体勢になる。


ぐしゃりと壁が壊れ、中にあった水がどんどんと広がっていく。


そして、その中には前の世界の思い出がどんどんこみ上げてくる。


それを思い出し、辛かった事、どうでも良かった事、楽しかった事と止まらず出てくる。


目の前にあるこの世界で自分が見つけた、助け、許した存在を見て彼はまた涙する。


その存在は自分がこの世界にいた印でもあり…そして…


前の世界とは違う事を示す、自分が作り上げた他にない唯一の存在だった。


そして今度こそ本当にわかった


…自分がなぜ弱くなったのか…


気づけばリョウマはレンコを抱いていた。


腰に巻かれた女性特有の細い腕を感じる。


リョウマは思う、自分はまだレオルドの診断でも完全には自覚していなかったのだ。


ずっと…ずっと逃げていたのだ。


診断結果に甘え、意義だとか悩みだかを建前に周りに弱さを見せたつもりでその原因を考えないでいた。


壁をつくり、そして心の奥底に沈めて、二度と表面に出ないようにしていた。


本当に思い出すと涙するその記憶と光景に。


出てくる前の世界の友達の顔、両親、妹といった人々の顔。


嫌なこともある、知り合いの調子に乗った先輩にいじめにあった事もあったなと思う。


だが、前の世界はそれなりに楽しかった。


そして思ってくれる幼馴染がいた。


「ミサ…」


しかし、そんな過去の遺産がどんどん壁が壊されて出てきた。


もう…今足を踏みしめている世界が前の世界とは違うという現実を。


彼の顔を赤く照らす。それは彼の泣き顔を隠すかのように


「あ゛~あ゛~ぅ!」


男の涙声がはっきりと響く。


レンコは黙りながら、胸を貸した。


泣くリョウマ。


しばらく二人はその場でお互いに支え合っていた。


それはリョウマが初めて…この世界で心から人を頼った時間だった。


「誰も悪くないんだ。分かっているんだ…そんな事は、アマンダが俺を呼んだのも…俺は嬉しかった…」


「うん、うん」


「だけど王国の件で、俺は帰りたくなったんだ、でも皆とも出会えて、俺は嬉しい…だけど前の世界に帰れなくても帰りたくなって…」


「そうね、家族がいるものね」


それは到底かなわない話だとレンコはアマンダから聞いた。


だからアマンダはレンコがリョウマに言った事を言えなかったのだろう。彼女程のリョウマを知る人物はいない。だが、だからといって知っている事がその者に全てを言える事はできない。


彼女と彼女のいる国の独断で彼は召喚されたのだ。王女としてそして彼を追い詰めてしまう点でもアマンダは絶対にしかなったのだろう。彼女の口から帰らないでというのは。


だからこそ、レンコはいったのだ。


一市民の彼女が、リョウマが一番()()()()()()()()()彼女が言える事に意味はあったのだと思う。


涙で顔を赤くさせたリョウマは言う。


「レンコ…この世界を嫌いと思っていた俺でもお前はついてきてくれるのか?」


心配そうに言うリョウマ。


「ついていかない方があなたとためになる時はついていかないわ」


くすっとレンコは笑っている。


「違いないな。だが勘弁してほしい、俺にはレンコが必要だ」


「うんうん、私だけじゃない。皆必要としているよ、だから隠さずに思った事を言おう…もう大丈夫?向き合える」


「あぁ…そうだな、これからが大変だな」


「…今、リョウマの中では罪悪感でいっぱいなのだと思う。メグとケンは出会って間もないからこのリョウマがこの世界を憎く思っていた事に対して心配はないし、付き合いが長いラフロシアさんは距離を置いているけど…それはおそらくあなたの本心を知らなかった事が原因だと思う。」


「許してくれるかな?」


「許すも何ももうあなたの居場所はここなの!また逃げている!後はあなたが認めるか認めないかだけよ!」


他人に判断を譲る。


確かにこれまで自分をしてきた事…無意識にしてきた事だ。


痛い所をつかれて、どきっとするリョウマ。


「…そうだな…まずはラフロシアを見つけなきゃな…」


俺の恩師で付き合いだけならアマンダと同じぐらいこの世界で時間を共にしている。


あれだけ自分の行動に嫌気が指していた。


魔王国を支えた事実


王国を滅ぼした事実


前の世界に帰りたいと思う事実


今の世界を憎んでいた事実。


これまでやった事は何も変わらない。


だが、それをどう思うかは変わる。


そして、その事に対して正しい認識をしなければ、人は変われない。


認識を改める事で人は変われる。


だが、それはどうしてできるか?


応援してくれる人がいればできる?


それもあるだろう。


だが、リョウマはそれともう一つ人が前に進むために必要なものを悟った。


「自分次第か…」


自分で自分を許し、そして認めなければ変われない。


他人のせいばかりにはできない。


自分だけでも正しく変われない。


アマンダの言った事を思い出される。あいつは人は変われるのよと言った。


「あいつ…」


もしかしたら彼女は気づいていたのかもしれない、だから答えまで言わなかったのだと思う。


周りはもうあなたを頼っているのだと…


自分が自分の事をどう思うと、周りが自分をどう思っているか気づく事で前に進める…そして信じてくれていた。


思えば、単純な話だ。


「長く待たせたな…そして、ここで生まれた関係か…」


その意味を知る事で曇りがかかっていた頭が晴れた。


「みんなと向き合おう…と思う」


それが一番の近道だ。


「まずはラフロシアからね…」


「そうだな…これまでは本当の意味で向き合っていなかった…」


過去を受け入れ、素直に謝ろう。


そしてまた彼らの…事をしっかりと見よう。


ふと、空を見上げるリョウマ。


そこには夕日が沈んだ事で早くも出てきた半月があった。


黄色に輝く半月は半分しかないのに魅力的に写っていた。


そして二人はそのまま手をつなぎながら、宿の方へと戻り、まずはラフロシアの元へと向かおうとしたのだった。


ここまで読んで戴き、有難うございました。


ブクマ、感想、評価等いただけると大変励みになりますので、もし良かったら宜しくお願い致します!


東屋

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