復讐者、何も変わらない日々が再び
第三章の開幕です。
ジリジリジリジリ!!!!!!…
金属音を大きく奏でながら起こしにかかるリョウマの目覚まし時計。
文句を感じ、毎回壊したくなるも、それでは起きれなくなるので日々愛用している銀色の時計。
眠い気持ちも吹き飛ぶその音で、リョウマの毎日は始まっていた。
「ふぁーー―…」
起きてすぐ朝は居間へと行き、妹が用意してくれた朝食を食べる。
朝は高校に上がってからは、妹が作ってくれるのでリョウマの朝は遅くなって助かった。
2歳年下で離れている妹は生意気な所があるが、可愛いやつで時たま甘えてくる。
だが漫画の様な事はなく、どうやら気にしている異性がいるようだ。
そしてまたまた漫画のような事はなく、俺は純粋にそれを応援している。
シスコンもブラコンもない普通の兄妹関係。
そして再び部屋に戻り、制服に着替えて家を出る。
リョウマの両親は共働きなので、会うのは基本的に学校から帰ってきた夕方だ。
それでも休日をしっかり作ってくれ、おそらく忙しいのだろうが家族サービスは勿論進路や相談事はしっかりとしてくれる。
良い親だ。
寝ぐせもとかして、玄関で革靴をはいて家を出る。
そして出た先には決まって彼女がいた…
「おはよう」
黒い髪の毛を綺麗になびかせながら、まるで風がなびいているかのように錯覚する。
彼女とは付き合っていた…一年程前から。
深くは考えていなかったが、このまま自分の人生はこの子と一緒にいると思っていた。
思っていた。
思っていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「…………………」
頭をぼーっとしながら天井のシミの数を数える。
そこで自分がどこにいるのか自覚する。
(そうだ、ジュライドに来て、そして俺は…)
ズキッ
頭ではなく、心が痛くなる。
そんな音など存在しない事は頭で分かっている。
しかし耳で聞こえなくとも体全体にのしかかるような明確な鈍い痛みがそこにある。
王国の一件からずっと抱えてきたこの気持ち。
リョウマはずっと考えないでいた。
決めつけないでいた。
誰のせいにもしないでいた。
結局、他人に(というのも失礼と思いつつ)言われるまでを無視しつづけていた。
自分が今まで心の中に溜めていた軋轢を。
「リョウマ、起きてる」
「あぁ、今起きていくよ」
スキルの権威で〝分析者”ことレオルドからリョウマの【復讐】について知る。
そしてそれが自ら望んで生まれたという事実を知る。
そんな気はうすうすしていた。
おそらくスキルを持っている人は皆そう思っているのではないだろうか。
自分が強く望んだ事で自分が得たスキルは存在するのだという事を。
「ふぅー」
ベッドから起き上がり、皆のいる居間にへと行く。
ラオハート家が用意したのもあって、スイートルームに泊まる事が出来た一行。
しかし、ここにいるのはレンコだけだった。
ケンとメグは出店の準備で忙しく、ラフはレオルドの一件以来リョウマと会ってすらいない。
「少しあなたと離れて暮らす、勿論ここを出る時は戻るわ」
そういい、今はどこにいるのやら。
最悪、念話をすれば位置は分かるので、ここは言葉に甘えた。
「はい、料理だよ…といってもホテルが用意してくれたのだけど…」
出迎えてくれたレンコは苦笑いしながらいう。
「美味しそうだ、冷めないうちに食べよう」
そういい、食べ始めるリョウマ。
会話は少なかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「さぁーいらっしゃいいらっしゃい!!」
「草原熊の丸焼きだぞ!一頭だけだから数に限りあるぜ!早いもん勝ちだ!」
「魔王国の最新スイーツよ!生地を薄く引き伸ばして何層にも仕立て上げたケーキよ!」
今日は久しぶりに街をぶらぶらと歩くことにした。
レオルドの件から数日が経ち、ジュライドの街は流浪祭で賑わっていた。
「美味しそうなものがいっぱいあるね」
「あぁ」
言葉少なくレンコとリョウマ歩く。
数日の引きこもりから気分転換に外へと歩きにきた。
ケンの出店もあるのでまずはそこに向かっていた。
しかし隣だって歩く二人にどこか距離があった。
リョウマは己の心を知られた罪悪感から
レンコはそれを理解しつつもほっとけない乙女心からどこか二人の距離は近くとも縮まずにいた。
「ケンのお店はこっち側で合っているか?」
なんでもケンのお店は大盛況で夜遅くに帰ってくるケンはとても疲れているが嬉しそうに真っすぐに寝床へと向かう。
「えぇ、場所もどんどんいい所に配置換えされているみたいです」
なんでも売り上げによってお店の配置換えが行われるみたいで、最終日にはより収集なお店が中心地に集まるようだ。それで一気に店舗ごとの競争心と売り上げを倍増しているみたいだ。
「レオルドさんって結構な戦略家だな」
「そうですね…」
今度はレンコが不機嫌になる。リョウマの今の落ち込みの原因を彼の名前を出した事で不満を感じているのだろう。些かリョウマに盲目な所があるレンコは少しレオルドを悪く思っている。
(違うんだよな、元々は俺のせいなのだし)
そしてしばらく歩くと、目当てのケンのお店に着いた。
「おぉ!!!リョウマにレンコ!いらっしゃい、ようやくひきこもりから脱却か」
「数日ぐらいいだろう、アホ」
お店は中規模の屋台でケンを含む3人の従業員で料理をしているみたいだ。
で、その料理はというと…
「たこやきか?」
綺麗に話しながらケンはどんどんとタコヤキを作っていた。
「あー、これが効率とか材料を考えたら俺が出せる最大の屋台飯だ!たこやきだけじゃなくて、サイコロステーキとかあんこや餅といったスイーツ風にも手を出した!」
「節操ないな」
餅やあんこは分かるがステーキは流石に独創的すぎるではないだろうか。
「お頭!ステーキ焼きあがりました」
鉢巻を着けてケンやリョウマよりも年上そうな男がケンをお頭と呼んで確認をする。
「よし、それを生地に入れろ!仕上げは俺がやる」
「了解っす!」
「リョウマ…俺の技を見てくれ…」
するといつになく真面目な顔でピックを構える。
「一子相伝…裏切り」
すると瞬く間に鉄板に合った生地が裏返り、綺麗な球体が鉄板の丸い穴からでてきた。
「おぉ!!!」
「なんだあれすげ!一気に全部裏返った」
「早くて見えなかったよ!」
それを見ていた子供たちが楽しそうに話す。
「お頭、今度はタコの方が焼きあがりそうで」
別の今度はひょろそうな男が別の鉄板で出来上がりそうなタコ焼きの仕上げを頼む
「よし!まかせろ!」
再びピックを構えて、手にはお皿代わりに葉っぱで創った入れ物を構えるケン。
「同じく一子相伝…踊る球体!!!」
「すげぇぇぇ!焼いた球がぽんぽんお皿に吸い寄せられように飛んでいく」
「面白-い!!それに美味しそう!!!」
「くいてーーーーー!」
この子供たちはサクラなのではという事を疑問に思いながらも、器用にタコ焼きを作るケンの美技に舌を巻くリョウマ。
「すごいノリノリですね、ケン」
ケンの働きぶりに驚くレンコ。
「あぁ、これならくたくたで帰ってくるのもうなずけるな」
屋台には邪魔にならない様に列ができており、それは盛況であるはずのこの通りにある他の店よりも軒並み長く並んでいる。
「はい、3点で15ガルロになります。お買い上げ有難うございました。また是非来てください」
受付には2人の女子が丁寧に…というか片方はメグだった。
「あっメグ!!」
レンコがメグに声を掛ける
気づいたのか笑顔を返すメグ。
「あいつ、売り子とかできたんだな」
あいかわらず無表情だが大丈夫か?お客さん怖がらないかな。
「最初は家族層やスイーツ目当ての女子から人気だったが、メグが売り子やってくれたおかげで男性客にも人気でな、キャラが立っているとかなんかで!おかげで老若男女に人気のやたいになったぜ!」
棚ぼたと言わんばかりに言うケン。
(そんなサブカル的文化がここでもあるのか?)
「まぁ盛況そうで何よりだよ!」
「おう!今は無理だが、今晩の飯はタコヤキだ!持ち帰るぜ!」
「きゅい!」
すると胸で隠れていたカツが出てくる。
美味しいぞと云っているのだろう。
「有難う!楽しみにしている、カツもメグも頑張って!」
「あぁ、俺の料理で落ち込みも吹き飛べ!」
「あぁ…」
落ち込んでいた事を思い出し、声が萎むリョウマ。
「あっと、すまん!まぁとりあえず街を回りなよ、デート楽しんで!」
言い過ぎたと思い、ケンは会話を断つ。
「そっそうね、じゃあケンまた後でね」
レンコもそういい、俺らはケンの店を後にした。
少し歩いた先でリョウマは再び声を出す。
「やっぱ気を使われているな」
「そうよ、事情を詳しくないケンでも心配する程落ち込んでいたんだから」
レンコが当たり前と言わんばかりに言う。
「…分からないんだ、だから困っている」
もう見過ごせない状況になった今、改めて自分の気持ちの整理をつけようと思っていたがどうにも漠然としないでいた。
自分はこの世界に何を求めているのか?
恨んでいたはずだった、確かな怒りがあったし、今もある。
でもこれまであった仲間の大事さも理解している。
復讐するとして何をこれ以上するのか
復讐しないとして何をこれ以上するのか
むしろそれを知った周りにどういう顔をすればいいのか。
直接的ではないにしろ、この世界の一部であり、出会ったこれまでの仲間を否定する事繋がるリョウマの復讐心の正体。
君たちと出会った代償が前の世界との断絶…どこかでそう思ってしまって仕方がない。
そうじゃないと否定し、出会った者の尊さを追求すればする程前の世界の人達が頭に思い浮かぶ。
それらはつい今朝に夢でてて来た人たちだった。
「ねぇ…せっかく中央に来たのだから銅像を見にいこ?」
するとレンコが聞いてきた。
「銅像?」
「そう、メ―ウェンさんが言っていた大狼の銅像だよ!」
そう言えばレオルドの執事で羊のメ―ウェンさんが言っていたなと思うリョウマ。
気晴らしになると思い、そして特に反対する理由もないので賛成するリョウマ。
「そうだな、いこうか」
そうして目的の所に向かうリョウマ。
まだ何も変わっていないが、その足取りは少しだけだが軽やかになっていた。
ここまで読んで戴き、有難うございました。
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東屋