レンコへの復讐
ランドロセル王国にある魔法学園が魔王軍の手に落ち、ランドロセル王国は魔王軍と国内のクーデターという状況になってしまっていた。
この状況を打開する策は腐りきってしまったランドロセル王国の政府には無く、すぐにランドロセル王国は地図の上から消えた。。
そんなニュースが世界中へと届けられる中、ランドロセル王国の外れの方にあるお屋敷に住むレンコはそばのゆりかごを揺らしながら、赤ん坊を見つめる。
「…」
レンコだけ、ケインからの恩恵を使用しなかった。金銭は受け取ったが、屋敷を改装する事しかせずにここ一年を過ごしていた。
いや、正確には少し違う。
「まさかな…おまえだけだよ、俺がいずれ来ることを予期したのは」
レンコの待ち人…リョウマが彼女のいる部屋へときた。
部屋の向こうには海が広がって見事な絶景だった。それにレンコの美貌も相まって実に幻想的な風景になっていた。
リョウマは惚れてしまった女を見ながら、そんな事を思う。
「えぇ…そんな気がしたのよ。商業の町がなくなった新聞を見て確信がいったわ、次に学園がなくなって…覚悟したわ。あなたと会う事をね」
レンコそういい、笑いながらリョウマを迎える。
「…どうしてお前は俺を裏切ったんだ?」
「言ったでしょ?道場の再興…そのためよ」
確かに、レンコの道場は改装され、立派になった。しかし、リョウマは知っている、彼女は新しく弟子を一人も作っていない。
「嘘をつくな」
「嘘じゃないわ。私はこの道場が好きなの…家族の数少ない絆だから」
ゆりかごからレンコは少し離れた。
「私…ずっと剣ばっかり振っていたから、選べなかったのよ…あなたとの絆か家族のと思い出か…」
姿勢を正座に直し、両手の平を床に重ね、頭をつけた
「リョウマ…いえ、リョウマ様…その節は本当に申し訳ありませんでした」
土下座だ。彼女は土下座をした。
「お前…」
リョウマはレンコが土下座をした事に驚いた。
この世界には土下座はない。
レンコはリョウマとの話から聞いて、覚えていたという事だ。
「本当に、本当に申し訳ない事をしたわ。私の事はどうしてもいい。辱めなら受けるし、殺すならじっくりにでも殺してください。覚悟はできています、なんでも受け入れます」
涙を堪えながら、恐怖に身を任せず、ただただ謝るレンコ。
「…」
リョウマはそのレンコの意思の強さに何も言えなかった。
スフィアやエマ、それに殺したケインも性格や野望は変わっていなかった。
自分の事を棚上げして、俺を殺した事を正当化しようとしていた。
レンコも彼らと同じところはある。道場を再建させるために俺を見殺した。それは事実であり、許せない事だし、許すつもりもない。
しかし、スフィア達にした復讐をするには、彼女の対応がこれまでと全く違った。
何より、自分の心が嫌だと言っている。
リョウマはレンコの側にあるゆりかごの中を覗く。
「レンコ…今のおまえはそいつがいるからか?」
そして土下座したレンコの横にあるゆりかごの中へと目を移す。
そこには黒髪の男の子がいた。
「…」
レンコは答えない。
大体、察しは着いているがリョウマはあえて聞いた。
「俺の子か?」
いや、リョウマは聞かざるをえなかった。
「…違う、お前たちといる時に少し遊んでな、その時にできた。」
下手な嘘だ。下手過ぎて…嘘と呼ぶにもお粗末だ。
それが本当か嘘かなど、リョウマには分かる。
(そもそもおまえ、身持ちが硬いのは俺が知っている事だろ)
それにだ…レンコは嘘をつく時に癖がある。それは変わっておらず、そのボケっぷりに苦笑してまうのもリョウマからすれば仕方ない事だった。
そしてリョウマは決めた。
「そうか、ならお前は生かす」
「なっ!」
レンコは自分を生かすと聞いて慌てる。次に言われる事を恐れたからだ。
そしてレンコの思った通りにリョウマはそのまま赤ん坊の方へと向かう
「やめて!私はどうなってもいいから!でも、せめてこの子だけは!私に復讐をして、その代わり…この子の面倒をあなたにみてほしいの。もう私が死んだら身寄りがないからリョウマ、お願い…頼む…」
レンコは赤子をかばうようにしてリョウマの前に立つ。
さながら、猛獣から子をかばうかのように、それは一種の美しさを表していた。
「…この子に罪はないわ、悪いのは私…レンコ・ヤギュウよ!お願い…お願いします!私を見逃すなら、この子の方を見逃して!私はなんでもするから!全てを受け入れるから!」
そして最後の言葉を聞いたリョウマはにやりと笑みを受かべる。
「今なんでもっていったな?全てを受け入れるといったな?」
そして、レンコを強く押して、退かす。
こうでもしなければ、彼女はどかない。
リョウマはゆりかごから赤ん坊を取り出し、抱えた。
突如、赤子は光りだした。
「あぁ!お願い、やめて…」
赤ん坊と殺すと思ったのだろう…レンコは涙声で懇願する。
そして、やがて光が収まる。
そこには無事な赤ん坊の姿があった。
「あぁうーー」
赤ん坊は真っすぐリョウマを見ている。
リョウマは笑って、赤子を見つめる。
「たくっ、こんな状況なのに落ち着いているとか誰似たのか?なぁ?」
リョウマは赤ん坊を抱きかかえてレンコに聞く…
「へぇ???」
レンコは今の状況に戸惑いを隠せなかった。
「なんだその顔、レンコ…美人が泣くぜ」
そんなレンコの心境を察してリョウマは説明する。
「俺のチート…【復讐】ってのがあるんだ…今まで隠していたけど、これはありとあらゆる復讐をするためのサポートをしてくれる万能スキルだ」
これでスフィアの時は金貨を出して焼き殺したし、エマの仲間を操って殴るエマを殺した。
「これまでのやつらは、俺を見捨てた後に得たものを粉々に砕いた上で絶望を感じながら死んでもらうのが最上の復讐と思ってな…それぞれに復讐してきた」
しかしとリョウマはレンコの顔を見て言う。
「でも、レンコにとってはそれが道場だったはず。そのためにプランも多く考えた。…本当に色々考えたんだぜ?道場の中で切腹とか道場の仲間にお前を(ピー)するとか…」
レンコはリョウマが楽しそうに己への復讐する話を聞きながら、あらためてリョウマを怒らせてはならないと思った。
「でも、お前はそれらを捨てて、最後の最後で俺を待った。最後に俺に謝罪をしようとした」
「正直、俺は自分の復讐心が分からなくなったよ。やられた」
現にリョウマの心は今も揺れている。
これまで自分がやった行い、そしてこれからどうすればいいのかを。
だけど…
「少なくとも…俺は今、お前と一緒にいたいと思った」
レンコを殺してしまえば、リョウマの復讐は完了する。完了するという事は…人として何か大事なものを失うのではないかと考えた。
エマを殺してから、リョウマの中では己の蛮行の意義が揺らいでいくのを感じた。
だからこそ、ここではレンコを殺さない事を決める。
「後、おめぇは嘘が下手なんだよ」
「…いやそれは」
レンコは正そうとするがリョウマに言われる。
「嘘下手だって…おめぇ」
リョウマがピシっという。
「…」
レンコはもう何も言えませんとばかりにプイっと向く。
「だから、お前には俺と一緒に生きて償ってもらう。だが甘く考えるな。それこそ、死んだ方がましという状況までおいこんでやる」
リョウマはレンコの顎をつかみ言う。
「…今、こいつに中の血縁からお前の情報を抜いた」
「えっ」
「意味わかるか?つまり、お前はこいつの母親ではなくなった、そのうえで命令する、こいつを俺のそばで立派に育てろ」
それが本当かどうかはレンコにはすぐに分かった。
「辛いだろうな、血がつながっていない子を精いっぱい育てる矛盾、そしてお前には復讐者である俺のそばで暮らしてもらう、その恐怖。はたして、お前はどのくらい持つかな?」
リョウマは嬉しそうに言う。
「//////」
この時、改めて、レンコはリョウマに惚れた。
元々、好きではあったが…許してくれたリョウマにレンコは惚れ直した。
リョウマは危うい青年だ。しかし、その危うさが同時に愛おしさへと変わった。
さらに…彼の言い分だが…例え、血のつながりなどなくとも、赤子を愛せるし、事実として腹の痛めて産んだ子だ。それを育ててられるなら母親としてこれ以上の喜びはない。
レンコは聞く。
「あなたはそれでいいの?」
レンコは遠慮気味に言う。
「…いいもなにも、俺は復讐者だ?」
リョウマはさらりという。
「これまで因縁があったお前ら三人は勿論……自分にも“復讐”はしっかりしなきゃな」
リョウマは初めて安堵した表情をレンコに見せた。それは過去の復讐に見せた高揚とした表情ではなく、ただ、これで終止符を打てたという気持ちからでた素直な気持ちなのだとレンコは感じた。
レンコは思う。
多分これは戒めなのだろう、気づけなかったリョウマにとっても、そして間違いを犯した私にとっても。
「だから、おまえは己の立場に泣け、後悔して、俺を恨め。俺もお前を許すつもりはない」
「ふふふ」
「なんで笑ってんだよ?」
「だって、復讐って言っているのに…私には幸せにしか感じないのよ」
「うるせ、少なからず…俺の…復讐の反省も混じっちまったんだよ」
復讐者は復讐を敢行し、その果てに自身の反省で終わらせた。
あまりの展開についレンコは微笑んでしまう。
自分の最愛の人の真面目さと狂気の紙一重さに。。
そしてレンコはリョウマに返事をする。
「分かったわ…あなたの復讐を受け入れる」
それが彼への愛で、レンコの執着だ。
「…やっぱ女って怖いな…じゃあレンコ、簡単に支度をしろ。魔王城が今の俺の家だ、すぐに引っ越すぞ…後、俺のことは昔のまま呼べばいい」
「…はい、リョウマ」
レンコはにこっとして身支度をする。
身支度をしている間、時折、レンコはリョウマと赤ん坊の様子を覗いた。
そこには復讐者が赤ん坊にデレデレとしながら和んでいたのだ。
「目はレンコにだな…残念…でも髪つやはどことなく俺だな」
「ふふふ」
レンコは逆を思ったのだが、見る人によって違うのだろうか?と思う。
レンコは自分が罰を受ける身である事を理解した上で再び笑う。
「お前も大変だぞーこれから!」
「あぅあーあー!」
高い高いをリョウマはしながら、赤ん坊とじゃれつく。
異世界で思いがけずに娘を設けたリョウマ。
ふと、リョウマはレンコに質問をする。
「そうだ。レンコ、この子の名前は?」
「実はまだつけていないの…リョウマがつけて…つけてほしいわ」
決めていた事をリョウマにいう。
「うーんそうか…いや…だめだ、一緒に考えるぞ。レンコ、これは命令だ」
「…では、そういうことでしたら…」
そこで初めて二人の共同作業が始まった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
これで復讐者による復讐…そして反省は終わった。
その後、復讐者は魔王と新しくできた仲間と共に様々な発展し、そして彼自身を含めた周囲の成長へと導くのだが…
それはまだこれからの話
終わりみたいですが、まだ続きます!
ここまで読んで戴き、有難うございました。
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東屋