復讐者、ようやく獣の街に到着
「復讐は終わった、じゃあ次はどうする?」
ミカロジュの森へと向かう前にアマンダに言われた事。
自分の復讐が終わった事を諭されて気が付いた。
「自分にとって大事なものを決めるんだ」
昨日の晩にラフロシアに言われた事。
人が前へと進むためにこの世界に来てから過去の自分に足りなかった物を突き付けられた。
それが何なのか具体的にはリョウマも理解できていなかった。
前の世界ではそんな事を考えた事もなかった。
普通に高校まで通った。
そこまでは何の苦労もなく、ただただ日々を過ごしていた。
人並みに友人関係を、勉学を、趣味を満喫していた。
そこに当然、意味や考え等を見いださず、約十数年を過ごした。
そしてそれが当たり前なのも知っている。
周りを見ても、そんな事を深く考える人はいなかった。
ガリ勉なやつ、恋愛に忙しいやつ、友情をはぐくんでいるやつ、馬鹿なやつ
どこにでもいるような周りと共に育ち、そしてそれを普通と受け入れて育った。
そんな自分がこの世界では前の世界とは違うモノを得てしまった。
それが何なのかはリョウマは答えが分かっても、言葉にできなかった。
【英雄】のスキルを得て、【復讐】のスキルを得て、他の人よりも特別な何かを得ても、リョウマはまだ前に進めないでいた。
(…)
朝日が地平線上から出て、リョウマの意識は覚醒する。
寝床の馬車の外からは早めに起きた商人の足音が聞こえる。
しばらくすれば、ジュライドから救援の馬車が来て、そのまま出発する流れになっていた。
そして、今日の夕方前にはジュライドの街にに着く予定だ。
起きたばかりだが、今リョウマの頭はどこか冴えていた。
そして無言で周りを見る。
男女別で寝たので、周りには昨日の晩にケンが仲良くなった商人達がいびきを掻きながら寝ていた。
何人か二日酔いでかうなされていた。
そんな場を見てしまったためか、リョウマは考えるのをやめた。
それはいつものように、何の解決にもならない事を知っているのに。
そのままリョウマは寝ている周りの男達を起こす作業へと向かうのだった。
◇
「ふぁ~頭が痛い…」
昨日の晩に魔王国組の中で一番飲んでいたケンは頭を抱えながら馬に乗っていた。
ニルクがお礼の一つとして馬をくれたので、今は魔王組全員に馬がある。
そして魔王国組で小さな一団をニルクの商団と共に向かう。
「飲みすぎですよ」
メグが年上のケンに注意をする。
「いや…この世界でも商人ってのはがばがば飲むんだね…前の世界を少し思い出したよ」
「そうなんですか?」
高校生の時に異世界に召喚されたリョウマは前の世界の大人事情に少しだけ興味を持った。
「あぁ、もう飲めなきゃ生きていけない世界だよ。見習いで色々な料理屋で働いて和風の居酒屋にいた時は混沌としていた。」
と、当時の事を思い出したのか吐き気が感じたケンは馬を少し話して草原へと行く。
「で…その結果あの魔物と仲良くなったのですか?」
そういって後ろを向いたケンの肩に乗っている魔物を指さすレンコ。
そこには焦げ茶のまるでコミックのようなタッチの生命体がいた。
その顔はモグラのような三角形を表していた。
もう分かっていると思うが…昨日のβ級魔物の深層熱土竜だ。
「大丈夫なんですか?」
メグが心配そうに聞く。
「魔物を使役する時に使う隷従の魔法は掛けてた。それに今朝掛けた時点であの魔物はケンに懐いていたから問題はないと思うが…不気味ではあるな…私もβ級の魔物を使役する料理人など初めて見た」
ラフロシアも珍しい体験をしたとばかりに言う。
「なんか酔った勢いで近づいて、べらべら話していたら懐かれていたらしいですね。ジュライドの人に渡される時にラフロシアさんの魔法の時以上に抵抗したのだとか…」
「てかその話だとあの魔物は人語も理解しているのだな…元々深層熱土竜はは不明な点が多い、なんせ普段は地下深くで過ごしているからな」
レンコがの不思議そうに言う。
ちなみに小さくなっているのは深層熱土竜…名前はカツ(ケンが命名)が主人の命令を聞いて、カツ自身が縮小の魔法を使った結果だ。
なんとも賢いペットだ。
「ぎゅー」
するとリョウマにカツを見ると他所を向かれた。
「多分、リョウマにやられた事を意識しているのかと…」
メグがカツの気持ちを代弁する。
討伐してきた相手を素直には受け入れないのだろう。
「…まぁスキルの無いケンに身を守る術ができたと喜ぶべきなのかなこれは…」
リョウマは事態と前向きに捉えた。
「うん…どうした?」
事態を引き起こした本人は吐き気から回復して戻ってきた。
そして肩いるカツがきゅんと鳴いた。
(モグラってキュンって鳴くの?)
まぁ厳密にはモグラとは別の種類のモグラなので…と頭の中で自己完結するリョウマ。
昨日の戦闘とは変わって、呑気にリョウマ達はジュライドの街へと向かっていたのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
丘の上を超えて時点で目的の街は見えてきた。
白を基調として家が多く並んでいる事は遠くから見ても分かっており、どこかスパニッシュスタイルの建築を連想させられた。
木々もヴァンロウドに入ってからはどこかヤシの木に似た草木が増えてきたように感じる。
そして、一行は無事にジュライドの門を超えて、街の中に入った。
「うぉー!!!!」
リョウマは久々に心が躍る感覚を覚えた。
それもそのはず…
「獣人がいっぱいだ~!」
珍しく声を上げて感動を露にする。
「しかも人っぽいのからそうじゃないのと色々いるな…」
普通はどっちかじゃないかとリョウマは思った。
「ん?どうした?リョウマ、珍しくはしゃいでいるな」
「いや前の世界のこういう文化を好む集団に属していたからその血が少し湧いたんだ。」
そういって照れずに話す。
「へー、リョウマはオタクだったんだ…よく分からんが、あの人の顔の猫耳女は俺も可愛いと思うぞ!」
ケンは料理オタクだが、別ジャンルのオタクではなかったらしい。それ以外は飲みが好きないいお兄さんだ。
「きゅんきゅん…」
肩に乗るカツは不満そうにしていた。
するとニルクさんがやってきた。
「いやリョウマさん、ラフロシアさんそして皆様…ここまで有難うございました。改めて昨晩に関してお礼を申し上げます。」
ニルクが腰を低くしてお礼を言ってくる。
「ちなみに宿は取られていますか?もしなければ我々の方で手配致しますが…」
「いや、ここに知り合いが住んでいるのでそちらに厄介になろうと思っている。わざわざお気遣いありがとうございます。」
「そうでしたか、では流浪祭の食材の件や出店の件は承りましたので、お祭りの朝になりましたら当商店までお越しください。それまでには用意しておきます」
「おう!ありがとなニルクさん!」
ケンがニルクに元気にお礼を言う。
そしてその後ニルクの商団は彼の務める商店の倉庫へと向かうという事で道を分かれた。
「では、行くか」
そしてラフロシアが先に歩く。
「ちょっと待って…てっきり宿を取ると思っていたんだけど、知り合いがいたの?」
メグが聞いていないとばかりに聞いてくる。
「私も聞いていないのだけど…」
レンコもメグと同じことを聞きたいようだ。
「あぁ、そういえば言い忘れていた…」
「なんだ言っていなかったのか」
ラフロシアがリョウマに飽きれる。
「で、どこに向かうんだ?」
ケンが再び確認をする。
「俺らの同僚の兄弟の家さ」
ラフロシアはリョウマのその言い合いに珍しく微笑んで答える。
「…そうね、合ってるわ」
「あなた達の同僚って…それって…」
レンコが察しがついたのか少し驚く感じに言葉を漏らす。
「あの人…兄弟いたのですね…まぁおそらく次男か末っ子ですね」
メグは変な推察をしている。
「?」
唯一面識が無いケンは分からない顔をする。
「じゃあ向かうとしますか」
そしてそのままジュライドの街を進むのであった。
◇
かりかりかりかりかりかり
かりかりかりかりかりかり
かりかりかりかりかりかり
とんっ
かりかりかりかりかりかり
かりかりかりかりかりかり
かりかりかりかりかりかり
とんっ
ジュライドで一番立派な建物で獅子の鬣をした男が机にしがみついて資料を物色していた。
筆と音とハンコを押す音が部屋中に響き渡る。
男はここ最近の街総出でやるお祭りの準備で徹夜が続いていた。
すると部屋に部下の使用人がやってきた。
「町長!ご親族のお客様が無事に到着しました」
資料に目を向けたまま、耳を立たせる。
「…お客さん?知らないな…帰しておけ」
そういうと、男はそのまま仕事に取り掛かる。
「えっしかし…」
今お越しになった人の説明をしようと口を挟もうとするが…
ピキッ
すると空間が少しだけ委縮する。
そして片目だけ見えるその顔で使用人を睨みつけて再び男は言う。
「帰せと俺は言ったんだ」
使用人は若く、目の前の男に恐怖を感じた。
「はい…」
何の権力もない男はただただ従うしかないのだった…
ここまで読んで戴き、有難うございました。
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東屋