復讐者、殺せない意思
戦いが終わり、時間は夜へと変わった。
空には星空が出て、人々は馬車で円をつくり、夕餉の準備をしていた。
リョウマ達は商団の人たちと夕食を共にしていた。
「いやー今回は助けて戴いて有難うございました。一団を代表してお礼を言わせていただきます」
深層熱土竜を倒した後、助けた…バランの国の商団の団長からお礼として食事をご馳走になっていた。
「ささやかですが、我々は食材をジュライドに届けている商団。今晩は我々のもてなしを是非戴いてください」
そういわれ、リョウマ達5人は商団のキャンプともに一緒する事になった。
ジュライドにいる衛兵団にこの事の連絡とその帰りにくるであろう壊れた馬車の分の荷馬車を持ってくるための彼らは個々で一晩を明かさなければいけない。
お礼はもちろん、ここでリョウマ達も一緒にいてくれれば、さらなる危険への防止策にもなると思ってだろうとリョウマは考える。
どうせあの後先に進んでもいつもと同じ野宿だったのでこの言葉に甘える事にしたのだ。
「しかし、Ω級の冒険者とは…それも魔王国の将軍であるリョウマ様とラフロシア様だったとは旅でどなたに会うかは分かったものではありませんね」
そういうと、焚火の向かい側にバランの商団の隊長であるニルクは笑う。
彼は商業の国 バランで中規模の商会の取締役を任されているようで、今回はヴォンロウドに食材を届けるために向かっていたみたいだ。
「こうして会えたのも何かの縁です。このお酒とかバランで新しく考案された葡萄酒でして…」
とこのように色々と勧めてくれる。
お礼です、お代は取りませんと言われるがこういうのはあんまり受け取れないので、最初の方だけを貰い、後は適当に断っていた。
(国家象徴が飲んだと書かれても困るしな…)
身分を証明するためにリョウマだけは国家象徴だといったが、少しまずかったかもしれない。
しかし、そんな心配をよそにリョウマの横ではレンコが一緒にお酒を嗜みながら話をする。
「聞かれないね」
自分たちの詳細を聞かれない事をいっているのだろう。
「多分、立場を察して深く聞かないのだと思うよ。まぁ慰安とも思われているかもしれないけど…」
そういいながら辺りをみる。
β級の魔物から生き延びられたからか周りは宴会ムードだった。
リョウマやラフ…それに彼らの強さを知っているレンコはあまり危機感を今回は持たなかった。
しかし他の者は違う。
β級は街を一つ破滅に陥れる存在だ。
そんな災厄に出会えば死を覚悟するのが普通だ。それから生き延びられたのは正に九死に一生を得た思いなのだろう。
50人ぐらいの商人や冒険者達は大いに飲み倒していた。
「追加の食糧は街に向かった者に頼んでいます」とニルクは言っていたので、それもここまで開放的な宴をしている理由のなのだろう。
けが人もいたが、この商団は人が良い人ばっかりなのだろう。
故に、問題が解決した後はこうして騒ぐ事を良しとしている。
中々に良いチームだとリョウマは思った。
「バランの商人か」
そこでふと昔の商人になったかつての仲間を思い出す。
お金を得たかった彼女はこの光景を見たらどう思うのか…
「リョウマ、どうかしたの?」
するとレンコがリョウマの顔を覗き込んでいる。
「あっ…いや別になんでもないよ」
リョウマは慌てて誤魔化す。
「しかし、良かったのですか討伐しなくて?」
そして奥の方をニルクは見る。
そこには深層熱土竜がまだつたに捕縛されながらいたのだった。
「ぎょー」
身動きが取れないためか悲しそうな鳴き声をだす。
戦った時の勇ましさは今はなく、どこか可哀そうだが可愛い印象に変わった。
「まぁΩ級の冒険者の捕縛を信用していただけれれば、それにあの魔物は誰も殺していませんからね」
辺りを見渡していたあの感じは初めて人間を見ているようにも取れた。
それに戦った後にラフロシアと少し話したのだが…
「おそらくこの魔物は何かから逃げてきた可能性がある」
「β級が逃げてきた?」
ラフロシアの発言に驚くリョウマ。
「あぁ…そもそも深層熱土竜はあまり戦闘を好まない。そのために普段は地中深くに住んでいる。」
確かにモグラが戦闘好きのイメージはないとリョウマは思っていた。
戦闘があまりに単調だった。
最初は火を噴き、それがだめなら地中に潜って攻撃。
順番が逆だ。
最初は地中から攻め、それがだめなら他の手段で出てくるべきだ。
「あせって逃げた結果、俺らのいるところに出てきたと?」
推測だけどねとラフロシアは言う。
「まぁヴォンロウドに向かった者に魔物使いも連れてくるように頼んだ。その後こいつをどうするかは決めよう。」
そういい、深層熱土竜は今もきつく縛られた状態でいる。
「ええ、勿論信用していますとも。なんなら私どもであの魔物を商売に出す事も考えていますよ」
先程の魔物使いが出たように魔物を使役して生活や戦う物はいる。その者を相手に商売する事を考えているのだろう。
「そうですね。その辺りはまた後で話しましょう」
リョウマはそういい、手元のお酒を一口飲む。
「う~い!リョウマ―レンコ―」
するとケンが酔っ払いながらじゃれてきた。
「お前…もう酔っぱらっているのかよ?」
「当たり前だろーパーティーは酔ってからが本番だろ~」
そういい、彼は持っていた瓶に口をつけてさらにお酒を煽る。
「俺は大人だからな…メグはお酒の匂いにやられて奥で寝ている」
メグは未成年というのもあるが、お酒に相当弱いみたいだ。
「ラフは?」
「ここにいるぞ?」
そういうとニルクのいた席にラフロシアが座っていた。
「ニルクさんは同僚ともに宴に参加しに行ったよ」
みると彼も宴と共に楽しくお酒を飲んでいる。
「ぷふぁー、商人というのはお酒に強いな」
みると上半身裸なのもいるが、本当にお酒に強いのか心配になる。
一方ラフロシアは平気そうだ。
(そういえばお酒好きだったな、こいつ)
彼女は趣味で緑茶を嗜むのでそればっかりのイメージだ。
「ん?」
見ると彼女の飲み物が緑色である事に気が付く。
「ラフ…それなに?」
「あぁこれか?ラガーに持参の抹茶をいれて抹茶ラガーにしたんだ」
すると、彼女は持っている木製のジョッキをリョウマに見せる。
「旨いのか?」
「飲むか?」
そういい、ジョッキを渡されるリョウマ。
そして一口飲む。
「なんか独特の味だな」
最初は抹茶だが、後からくるラガーの炭酸と味。
混ざっているというよりは二つの味を楽しむという感じだ。
そしてジョッキを彼女の方へと返すリョウマ。
ラフロシアは嬉しいだった。
「旨いだろう」
そしてそのままリョウマが口付けた一杯飲む。
「ふふふ、抹茶が口に付いている」
すると、そのままリョウマの口について抹茶を指でなぞり、レンコはそれをなめる。
「おい…」
「え?どうしたの?」
レンコはリョウマの戸惑いに驚いているようだ。
(あー酔っているなこれ…正常な判断ができないタイプか)
リョウマはレンコの様子をみて肩に寄せる。
「眠いだろ…とりあえずここで寝てな。」
「うん…」
そういうとうとうとしながらレンコはリョウマの肩に寄り添うように寝ていた。
するとレンコとは反対の方にひと肌を感じる。
「私もだ」
すると、ラフロシアが前の席からリョウマの隣にきた。
(え…ラフさんもそういうタイプで?)
酔っぱらって絡まれるのはあまり好きではない…いや男として女がそういう状態はある程度なら好きだが…後日会うの気まずいというのを心配している。
「で…どうだった?」
しかし、そういうわけではなかった。
彼女はこれから話す事に気を使って近くに寄ったようだ。
「あぁ、余裕に倒せたよ」
リョウマは気軽に答えようとした。
「で?本当のところは?」
少し気分を悪くさせてラフロシアが答える。
次誤魔化したら…と言外に言っているのを感じる。
「まぁ…そうだな…うん」
リョウマは言葉を選びながら慎重に答える。
「お察しの通り…やっぱり殺せなかったよ。」
「そうか…」
リョウマは今回の戦闘の結末に関して説明する。
本来、魔物は駆逐…すなわち殺す必要がある。
それはさらなる被害への抑止のためにこの世界では共通の認識としてある。
弱い魔物なら見逃す場合もあるが、α級は討伐出来る時に討伐するのが当たり前だろう。
しかし、リョウマは…【英雄】を使用して相手を殺した事は一度もない。
自分の手で命を断てないのだ。
リョウマが人を殺した事があるのは全て【復讐】の発動時のみ。
スフィアやエマの時もそうだ。
重さにより圧殺
人を操り殴殺
【復讐】を用いても、全て間接的に殺している。
直接、自分で手を下せないのだ。
それは殺しを許させない世界にいるからか、それとも彼の心が優しいからなのかは本人も分からない。
ただ最後の一撃を与える時に自然と力が緩むのだ。
「今回は色々と倒そうと思ったけど…やっぱ俺の中で何かが殺されていないと止めがさせないと思う」
「そうか、お前そういう所があるよな。報いというかなんというか」
ラフロシアがここでお酒に口を付けながら話をする。
「恩や報いは返す質だからね、俺」
「それに縛られ過ぎていないか?」
ラフロシアはリョウマの少しおかしい所に突っ込みをいれる。
色々された、しかし殺しまではされていない。
なので、正常な意識下では相手に報いは受けさせるが、命までは取らない。
やられたらやり返すをしっかりとリョウマは己の采配で守っていた。
【復讐】の発動時を除いては。
「…そうか、自分の中でされた事への報いはしっかり判断して、返した方が良いだろう。」
でなければ、【復讐】を嫌ったりはしない。あんな修羅のようなスキルはできるだけ使わない方がましだ。
「逆にされなければ何もしないのか?」
と言われてしまってリョウマは何もいえなかった。
「…考えた事もなかった。」
そういえば、これまでの人付き合いはうまく行っていたが…基本的に相手の好意や立場が多い。
レンコはリョウマの事を思っている。
アマンダも同じく
ルカルドやガモンはその気さくな性格から。
メグやラウラは先輩や上司としての親しみと自分の強さに目をつけてだ。
しかし…リョウマから構築した関係は今までにない。
「おまえ、そういうままだとみんな離れていくぞ、他人の好意に甘えている。これは先生からのアドバイスだ」
ぞっ…
リョウマはラフロシアに言われた一言に寒気を覚える。
「自分でどうするか決める自信を持てば、いくらか変わると思う…おそらくそれがお前の弱体化の原因だ」
自分が何をしたいかが分からないため…己に自信が持てていないという事をラフロシアは言いたいのだとリョウマは理解する。
「一応、敵情視察がこの旅の目的だけど…」
「恐らくだが…イグルシア帝国はまだ貴様を諦めていないぞ?」
「え?」
「最後にあった男がお前に興味を示したのだろう?なら又何かこの旅で仕掛けてくる可能性が高い…もしかしたら今回の件もイグルシア帝国からの刺客かもしれない?」
魔物でリョウマを殺そう…もしくはダメージを負わせて捕縛。
確かに足が辿れない良い作戦だ。
自分の人間性を見抜き、旅での危険性を警鐘するラフロシアに感心しながらも、リョウマはまだどのように変わるのか分からないでいた。
「ふふふ、可愛い、深く考えてもしょうがないわよ。それは自ずと見つければいい…まぁ元先生として言わせてもらうとだな…」
そしてまた酒を煽ってラフロシアは言う。
「己にとって大事なものを決めるんだ」
ラフロシアは微笑んで言う。
恋する女性は美しいいう。
ラフロシアはまるでそんな意中の男性に告白をしたかの様などこか清純さと醸し出すかのようにリョウマを諭す。
そんなラフロシアに心がうずくリョウマ。
そして、頭から彼女の助言が頭から離れないでいた。
その後はただただ普通に宴の時間が進み、夜が更けた。
夜が明け、朝日を浴びて、寝床からたくさんの二日酔いに見舞われた人々がいる中、リョウマの中ではずっと最後のラフロシアが言ってくれた一言が頭からはなれないのであった。
ここまで読んで戴き、有難うございました。
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東屋